イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

シュガーアップル・フェアリーテイル:第9話『ラドクリフ工房』感想

 素敵な恋と甘いお菓子に騙されるな……渡るファンタジーは鬼ばかり! な、最悪世界の職人家業、シュガーアップル・フェアリーテイル第9話である。
 一年ぶり品評会のために王都を訪れてみれば、クズみてーな事情に巻き込まれて既に敗色濃厚。
 健気に勝負に挑むアンちゃんの前に新たなイケメンがッ……! という新章開幕であるが、派閥闘争に嫉妬に女性差別と、この作品らしい生っぽい地獄絵図が十重二十重、主役を取り巻いてる状況からスタートなのは流石である。
 NEWイケメンのキースくんは正々堂々哀しみも知ってるいい人っぽいが、二度目にしてラストチャンスな品評会、いったいどんな方向に転がっていくやら……。
 シャルの無自覚女殺しに、ぽっぽと発熱しまくってるアンちゃんはかわいいけども、その甘さに全く浸ることが出来ないのが、このアニメらしくて良いなと思う。

 

 

 

画像は”シュガーアップル・フェアリーテイル”第9話より引用

 つーわけで一年のラブラブ旅を終え王都に戻ってきたら、クソどもが大事な情報握り潰してた結果マジやばい状況に追い込まれてるアンちゃんだ!
 公平さに欠けるラドクリフ派はなかなか最悪であるが、派閥に属さない一匹狼なアンちゃんが、フリーでやっていくだけの人脈を備えていない結果……とも言えるか。
 親切なキャットさんがギリギリで助け舟出してくれたからリングには上がれるけども、腕一本で運命を切り開いていけるキレイな世界ではけしてないので、そこら辺の政治力も意識して確保していくか、持ち前の人間力で縁を作っていくか。
 アンちゃんのキャラ性からいえば後者なんだろうけど、そうやって危機を乗り越えて掴み取った実力者との縁故が、クズ共の嫉妬を煽る燃料になっちゃってるのは如何ともし難い。
 砂糖細工とロマンス、とっても綺麗なものを扱っている割に生臭い危機の作り方が、独自の手触りを生んでて面白いわな。

 今回はややバロックなアングルやカメラワークが散見され、全体的にいい意味で落ち着かない印象を与える画面作りだったと思う。
 砂糖林檎の不作は天災だけども、それを乗り越える施策に不平等と理不尽がまかり通ってるのは陰鬱な人災であり、待ち受けるカタチのない悪意を縁取るのに良い演出だったように思う。
 不安定に揺れる画作りと、それに負けない決意を示すアンちゃんの握りこぶし。
 すっかり絆が深まったシャルトの愛をそこに添えて、果たして乙女の純情は危機を乗り越えうるか?
 なかなかいい感じの、新章スタートである。

 

 

 

画像は”シュガーアップル・フェアリーテイル”第9話より引用

 クレイジー公爵に牙を抜かれたジョナスを横にどけても、クズは雨後の筍のようにラドクリフ派の畑からニョキニョキ生えてきて、キースの助けがなけりゃ終わってたな!
 ラドクリフ派のイヤーな受付、派閥意識と性差別のダブル役満ヤバ人間で、こういう連中がゾロゾロ出てくる治安の悪さが、作品の味であろう。
 場が荒れれば荒れるほど、荒波から守ってくれるシャルの特別さも、イカれたこだわりで”仕事”をやり抜くアンちゃんの精神力も際立つしな……。
 声をかけられてはときめき、抱きしめられては燃え上がるロマンスの甘さを、ここらへんの苦味でバランス取ってる感じもあるわな。

 まー辛気臭く湿っぽい妨害が多い話なので、シャルが自覚なくぶん回すロマンス棒でアンちゃんがメコメコにされる時ぐらいしか心が休まるときがないよッ!
 ……とはいいつつ、この戦闘妖精ひっそり刃を顕現させて、受付会場に血の絨毯を敷きかけてたりもしたがな。
 そんな喧嘩っ早く皮肉屋なシャルも、海辺の城の事件を経てアンちゃんを大事に思う気持ちに素直になってきた感じがあり、二人の距離感がジリジリ変化している描写もまた面白い。
 まぁまだまだ髪が長いの短いの、おぼこい悩みに身悶えする段階ではあるのだが、この品評会が彼らの関係を大きく変える、一大イベントになる……感じかな?
 アニメの残り話数も多くはないし、どのくらいの温度感と充実度で話をまとめてくるかも、気になるタイミングだわね。

 

 

 

画像は”シュガーアップル・フェアリーテイル”第9話より引用

 母の思い出、家の鎖。
 かなり突っ込んだところを共有しつつ、キースは扉越し少し遠い所に自分を置いて、アンちゃんから心を隠すように自分を位置づける。
 早朝の冷えた色彩も上手く、何もかもが希望の色には染まってくれない現状を語っていて、なかなかサスペンスフルなヒキである。
 キース自身は好青年であるし、砂糖がし職人である親との関係に悩みつつ真摯に頑張る様子には、アンちゃんと通じ合うものがある。
 ここまで描かれた男キャラが、クセつよながら優しいおじさんか、無自覚恋泥棒か、透明な殺意で飢えた狼をけしかけてくるクズか、愛に呪われた狂人だったので、結構新鮮な感触だな、フツーのいい人……。

 扉の向こうに隠したライバル心と、少女を取り巻く黒い謀略……というほど明瞭な形を持たない、不定形に濁った悪意。
 登場話数でそこら辺シャルにゲロってくるあたり、キースは腹に抱え込んだものの少ない、好敵手たりうるキャラなんだと思う。
 それにしたって小娘の快進撃で全世界敵に回るほど、砂糖菓子職人業界腐り果ててるとは思っていなかったので、こっちも新鮮な衝撃である。
 ここら辺は危機感を高めて勝負の温度を上げていくための展開だと思うけど、腕と根性で結果出したと受け取る連中が、媚売って不当に価値を奪ったと思い込むクズを遥かに下回ってるの、人間集団としてかなり末期だと思う。
 ……一年前の真相がまだ知れ渡らず残響してるところを見ると、ジョナスがきっちりケジメされてたら風向きもまた違っていた感じはあるな。
 あのゴミが自発的に世界と自分を変えれる気配がないので、やっぱ暴力か公権にキツめのブチ込んでもらわないと……。

 アンちゃんの苦境はある意味自分で招いたもので、『妖精は奴隷』という最悪なコモンセンスを気にもせず、友に笑い働き大事に暮らす浮世離れは、社会に彼女の居場所を用意しない。
 それでも”正しい”行いを押し通すだけの実力と奇跡を、形にできるから主人公なんだろうけども、待ち構える壁は少女が思うよりも遥かに高く、生臭い。
 形がないからこそ根絶やしには出来ず、ベタベタへばりつく嫉妬と悪評。
 陰鬱な影が見え隠れする王都で、二度目の品評会はどこへ転がっていくのか。
 甘やかなロマンスの行方とともに、次回も大変楽しみです。