イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

もういっぽん!:第10話『勝つ以外ある? 』感想

 まだまだ続く青西の金鷲旗、団体戦の真骨頂を描く第10話である。
 波に乗る主人公が才能覚醒させて超無双……とはならないのがこのお話で、勝ったり負けたり繰り返しながらみんなで前に進んでいく足取りに、”部活”としての手応えがしっかり宿る。
 あくまで勝つために泥臭く相手にしがみつく早苗、老練な経験値を生かして強敵に挑む姫野、殿としての責務を見事に果たす永遠。
 青西の頭脳・南雲、なんだかんだ二人抜いてる未知も合わせて、博多南とはまた違った面白さがしっかり描かれていました。
 全員で挑むに相応しい強敵であり、青春を柔道に捧げた一人でもあるメグさんが説得力ある強さでもって、超えるべき壁として堂々立ちふさがってくれたのが、エピソードに確かな手応えを与えてくれました。

 

 

 

画像は”もういっぽん!”第10話から引用

 つーわけで前回の勢いのまま主人公補正ぶん回すかと思われていた未知を、キッチリ止める強敵・堂本。
 挑む早苗は相変わらずの緊張しいだが、自分なりに出来ることを必死に繰り出し、勝つために寝技に引き込んでいく。
 未知が眩く体現する『柔能く剛を制す』に勇気づけられての奮戦だが、その勇姿を未知もしっかり見つめていて、親友の本気をちゃんと解ってあげている所が、一方通行でなくていい。
 未知は他人を感動させる才能に溢れていて、勝っても負けても心を揺さぶる柔道が出来る人なんだが、同時に他人の生き様に感動できる才能ももっていて、そういう柔らかく溌剌とした所が、出会う女を狂わせていくのだと思う。

 崩れ気味の巴投げを起点に展開する寝技は、早苗の努力が柔道着から染み出すように泥臭く、荒い。
 結果として強敵のスタミナを削り中堅の勝利に貢献した試合運びだが、あくまで狙いは勝ちであり、スタミナ削りは結果でしかない所が良い。
 早苗が未知に抱くのと同じ質量で、彼女は柔道を愛していて、だから自分なり勝てる手立てを探して地味で痛くて臭い寝技に活路を求め、ここ一番で頼った。
 皆、勝ちたい。
 だから泣くし、その涙を受け取った”先輩”も勝つために自分の勝負に進んでいく。
 ギャルの背中が、誰よりも大きく見える瞬間である。

 

 

 

画像は”もういっぽん!”第10話から引用

 本気だからこその悔しさに溺れるより、”先輩”の試合が教えてくれるものを見届けろと、夏目先生が指導する所が好きである。
 対戦相手も含めて他人をしっかり見て、そこにたち現れてくるものを自分に引き受けることで、人はもっと強くなれる。
 目を開けて世界を受け入れる視野の広さと、自分に飛び込んできた体験を素直に受け止める大事さを、キャラの魅力、強さの土台として描き続けているのは、このお話のとても好きな所だ。
 なにかに感動できる心こそが、自分を前に進めるエンジンなんだなぁ……。

 そんな視線に報いるべく、姫野は自分に出せるものを全て絞り出し、仲間が預けてくれたもの全てを活かして、必死に勝ちに行く。
 開幕の奇襲で雰囲気を掴みに行く手練、格上相手に時に賢しく立ち回って機を待つ落ち着き、どれも”三年”の試合運びで大変良い。
 対するメグちゃんも高校最後の試合、後輩を背負っての負けられぬ勝負に気合十分。
 様々な手管で仕掛けてくる姫野に対し、一歩も動じず体格を活かし、それに溺れず対応してくる彼女が相手であることで、姫野先輩の輝きも強くなっていく。
 ライバルも彼女たちなりに人生かけて柔道やってて、その結果生まれる輝きが確かにあることを、大事に試合を作ってくれるのが、僕には嬉しい。

 かくして一進一退の大勝負、南雲が事前に調べていた巻き込み技を一歩早く切って落とし、見事な一本勝ちで勝負が決まる。
 大金星を自分の手柄と驕らずに、皆で勝ち取った合わせ一本なのだと抱きしめる”先輩”の姿は、やはりとびきり眩しい。
 ここで姫野先輩自身の努力を、忘れず思い出させてあげる夏目先生も凄く良くて、こういう人がいるから汗ダラダラの練習にも耐え、絆を育み実力を付けた結果の勝利を、納得して受け止められる。
 青西の最終兵器として分厚い因縁もなく途中参加した姫野先輩が、どんな気持ちと強さで柔道しているのか、それが周囲にどんな影響を及ぼすのか、納得できる試合を描いてきた。
 汗まみれの大勝負をど真ん中から書き切る姿勢と合わせて、メインテーマに定めたものを大事に削り出して話を作ってくれるのは、やっぱありがたいわな。

 

 

画像は”もういっぽん!”第10話から引用

 そして最後は永遠が天才の天才たる所以を見せつけて、華麗な一本勝ち。
 早苗が寝技への繋ぎとして使うしかなかった巴投げでキッチリ取ってる描写は、彼女が諦めるしかなかった『立ち技に必要なセンス』をもっているからこそ、永遠がエースなのだという説得力があった。
 ここら辺凡人が地べた這いずり回って届かないところを、ひょいと天才が飛び越えて残酷な描写でもあるのだが、しかしそんなことで”柔道”の意味は決まらず、むしろだからこそ肩を並べて試合ができる価値が見えもする。
 色んなやつがいるからこそ、色んな闘い方、勝ち方、負け方があって、全部ひっくるめて”みんな”で戦う。
 そういう勝ち抜き戦の醍醐味が、最後までしっかり書かれた回だった。

 これは対手である錦山も同じで、博多南とは違って過去のドラマは回想されない描かれ方ながら、彼女たちなりに全霊を勝負に賭し、”みんな”で闘っているのだという実感が濃かった。
 やっぱメグちゃんの堂々たる戦いぶり、不敵な強さの奥から滲む思いの描き方が良くて、立ちはだかる壁を尊敬できるように、好きになれるように描くことで群像劇は魅力的になるなぁ、と思わされる。
 青西には体格に恵まれた選手がいないので、そういう強みを最大限活かしてくるメグちゃんの柔道には、新鮮なかっこよさがあったのも良かったね。

 勝っても負けても、それはもっと強くなるための途中。
 次に待ち構えるのは全国トップクラスの強豪、立川学園。
 異次元の強さに少女たちがどう齧りついて、そこから何を学ぶのか。
 次回も大変楽しみです。