イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

ひろがるスカイ!プリキュア:第9話『勇気の翼、 飛べキュアウィング!!』感想

 心の翼が力となる時、新たな英雄神話が地上に降り立つ。
 第三の戦士キュアウィングが、強く優しく誇り高く羽を広げるひろプリ第9話である。
 前後編でゆったり時間を取ったことで、スカイとプリズム(と参謀役のあげは姐さん)が悪戦苦闘する中、なんの力も持たないはずの怪鳥と赤子がお互いのために戦う意味を、しっかりと掘り下げることが出来ました。
 何度踏みにじられても理由なく湧き上がる強さと優しさを信じて、エルちゃんに手を伸ばすツバサくん。
 まだまともに言葉も喋れねぇのに、大事な人を守るために小さな体で駆けつけるエルちゃん。
 そんな二人の必死の戦いをしっかり書いた結果、キュアスカイが軽やかに空を飛ぶ心地よさ、力強さもググっと真に迫り、見ているものの心を動かすエピソードとなりました。
 こういう常人ゆえの苦労が濃く書かれればこそ、ツバサくんの夢が形になった瞬間暑い涙を流すソラ・ハレワタールの”仁”が分厚く感じられるんだよな……。

 

 つーわけでツバサくんとエルちゃんが、空飛ぶ円盤に捕まったり戦ったりする回ですが。
 序盤の鳥玉コロコロとか、行動理念は悪辣だけどコミカルさを忘れないカバトンとか、話が重くなりすぎない笑いを随所に盛り込んで、その軽やかさが逆にエピソードの芯を際立たせる構成が、とても良かった。
 力なきものがそれでも届かぬ場所へ手を伸ばし、打算なき献身で大事なものを守ろうとするお話は、シリアスにしようと思えばいくらでも重たくなったと思います。
 その真摯さを茶化すわけではなく、過剰な重たさを抜くようにさり気なく、しっかり面白くお話を編んでいく軽やかさが、このアニメの特色なのかな、と思えた。
 ここでカバドンが覆いのない邪悪さブン回すと、マジで怖い話だったろうしな……。 一見笑いどころなツバサくんのコロコロダッシュも、戦う力がない彼が鉄火場に駆けつけるだけで傷だらけという、戦いのリアルをひっそり描く画材になっていたりして。
 話の細かい部分を丁寧に繕う姿勢が、独特の味わいを生んでいるひろプリらしく、ヒロイックに決めない所の描き方がかなり面白かったと思います。

 今回に限らずだけども、ぶっちゃけ話の進みがゆっくり目な今作、敵さんの事情もさっぱり分かんねーまま序盤が成立しているのは、憎たらしい敵役でありながら奇妙な可愛げも有する、カバドンの役者ぶりが大きいと思う。
 今回もツバサくんとエルちゃんが掲げる弱者のヒロイズムを踏みつけ、バナナの皮を投げつけ、さんざん愚弄することで価値を上げていく、見事なヘイトアーツをぶん回していた。
 アイツあらゆる事を『俺は強い/お前は弱い』の二分法で片付けるんだけど、今回は『俺は主役/お前は脇役』っていうもう一つのイヤーな軸が顔を出してきて、その二つが癒着した結果『強いやつだけが主役になれる/弱いやつは脇役になるしかない』という、大変生々しい価値観が立ち現れていた。

 ツバサくんを『お前は弱い、何も出来ない』と嘲笑し、それを意にも介さず小さな翼でエルちゃんをかばう姿に、倫理的な優劣は既に現れているわけだが。
 カバトンが囚われている価値判断の檻では、ツバサくんやエルちゃんの『弱い強さ』は意味を持ちえない。
 弱さへの愚弄は多分カバトンが一番言われたくないものであり、ツバサくん自身プニバードの高望みとして心の傷になっていた痛みだが、かつて自分を守るために空に身を投げた父と同じく、打算を飛び越えて身を乗り出す思いに突き動かされているツバサくんには、それはもう刺さらない。
 カバトンが(まだ過去や内面が描写されていないので、何故かはわからないけども)縛られ足を止めてしまっている場所から、エルちゃんを背中にかばうカバトンや、ソラたちを助けたかったエルちゃんはその小さな体を前に進めて、乗り越えている。
(つーか自分を幾度も負かせたプリキュアに本腰入れて向き合ってんのも、『強いやつだから主役』ていう価値観ゆえの行動なんだろうな……悪辣で、悲しいヤツだよ)

 しかし心の優越が必ずしも力の優越とならないのが現実の難しさで、力なきプニバードはボッコボコにノサれ(る描写が、コミカルに柔らかくなってるのは面白い)、身の程を思い知らされる。
 地上に打ち捨てられるツバサくんの前では気丈に涙を見せず、一人きりになった途端泣きじゃくるエルちゃんと、その泣き声に心動かさず封じるカバトンの小憎らしさが、『弱い強さ』と『強い弱さ』を同時に描いてもいた。
 エルちゃんはほんとに強く賢く優しい赤子で、まだ文字も解らねぇのに誰かを助けたいという心を自然に湧き上がらせ、それに従って危機に飛び込み、必死に戦っていた。
 尊敬に値する赤ん坊である。

 (まぁ言うたかて、赤ん坊は無力で何も出来ないのが当たり前で”役に立つ”ことに勝ちを求めると、色々世知辛い感じにもなるが。
 フィクションの登場人物である以上期待される役割というものがあり、何も出来ねぇくせにビービー泣きじゃくるリアル赤子には好感が集まりにくい、何らか役に立ったり価値ある意思を示して欲しいつうニーズに、しっかり答えた結果の描写でもある。
 同時にその弱さ、至らなさもちゃんと書かれていて、これを背負って戦うことがエルちゃんのナイト、キュアウィングのヒロイズムでもある。
 個人的な視聴史から話をもってくると、変身の役には立たねぇ勝手に生きて気ままに暮らしてるだけのくるるんが、”プリキュア”にいてくれたことはかなりデカいな、などと思う。
 今後もエルちゃんが賢く大人側の価値観を飲み込んでくれる”いい子”であると同時に、彼女なりの世界観でビービー泣きわめいたり、腹が減ったり勝手に生きてる描写も、大事に描いてくれると嬉しいなと思う)

 

 共に征かねばテコでも動かぬと、ツバサくんと共に生き延びる道を強く求めるエルちゃんにぶら下がって、飛べない鳥は必死に逃げた。
 しかし二人では逃げ切れぬと悟った時、ツバサくんはその手を離して幼子を守ろうとする。
 この自己犠牲のヒロイズムが、彼の命を救い新たな夢に出会わせてくれた、彼の父親そっくりな所が、大変心を揺さぶる。
 ツバサくんが空に己を投げ出す決断は、エルちゃんが自分のために泣いてくれる優しさと強さに支えられ、後押しされ、祈りを力に変えるプリキュアの魔法を受け取って、新たな戦士を生み出していく。
 それは新しく人間界で出会った人たちと同じくらい、彼を生まれ故郷で育んでくれた人たちから受け取ったものに、支えられた奇跡だ。
 タイトルに”ひろがる”とあるのは、まったく伊達ではない。

 そうして手に入れた”ひろがる”力は、ツバサくんの夢を叶えエルちゃんの危機を救い、街を守りスカイとプリズムの力にもなっていく。
 怪鳥人間と魔法の赤子、力はなく勇気と気高さに満ち溢れた二人で必死に戦った今回、変身可能なツバサくんだけが戦うのではなく、彼の手を引き勇気を支えたエルちゃんもまた、彼女なりの戦いに必死に向き合っていた。
 その時、特別な運命に選ばれた赤ん坊は赤ん坊らしく、ビービー泣いていた。
 飛べない鳥は自分が死ぬと解りつつ、それでも震える手を離した。
 スカイとプリズムを話の中心から遠ざけることで、力が正しさを保証するのではなく、正しくあろうと必死に己を奮い立たせる心こそが、力になっていくのだと、泥臭くも爽やかに描けていたと思う。
 そういう当たり前の人が持つ特別な奇跡は、超常の戦士へ返信できる”プリキュア”がとても普遍的な存在なのだと上手く語っていた。

 ツバサくんが力を掴む時、自分の命が尽きる可能性をしっかり想像しているのが、骨太な描写だった。
 無論あんなガキが死ぬの死なねぇのの覚悟をする哀しさもあるのだが、カバトンがブン回す暴力はシビアかつリアルで、立ちはだかるならそれもまた必要なのだろう。
 その上で、そういう理不尽には負けてやれないと決意を固め、嘲笑ではなく微笑みと涙をこそ心に刻んで、戦い抜く思いが翼になっていく。
 ソラちゃんが思い出のヒーローを瞼に刻んで、英雄になるべく己を鍛えたように。
 そんな彼女に守られたましろが、共に戦う決意を胸にキュアプリズムとなったように。
 特別な誰かへの強い思いが、心に焼き付いた原風景が、無力な人間を英雄に変えていく。
 そんな一瞬を眩く、美しく描く物語には、燃え盛る熱気と爽やかな風がしっかり宿るのだ。

 (『史上初の、男性レギュラープリキュア』というキャチコピーに放送前、色々身構える反応もあったと思うが、今回描かれたのは『ツバサが心の底から正しい力を求め、キュアウイングとなる』という、個人的な物語であった。
 鳥から人間へ、異世界のお客から地上で戦う一人の人間へと変化する物語を背負うことで、女の子の専売特許だったプリキュアが男の子に門戸を拓くねじれに、ややクッションをかけた……と言えるか。
 本来的に性という属性はなんらか支配的なものではなく、あくまで個人が何を望み何になっていくかという、変化と尊厳にまつわる物語を透明に描くための筆致でもあろう。
 その上で、無性の英雄としてプリキュアになっていく道と同じく、女性の特質としてのプリキュアに憧れ、そこに近づくべく変身アイテムを持つ男性がいつか登場しても、それは良いことだなと思う。
 そこに踏み込むことで生まれる難しさも山ほどあるとは思うが、そういう未踏地に堂々誇り高く、新たな一歩を刻むのも”プリキュア”だろうし。
 ツバサくんは性にまつわる”変身”に焦点を持たないキャラクターであったが、そうではない者も世界にはいるのだし、彼が開いた門戸からより多彩で自在な描き方が、様々広がってくれたら嬉しい。
 ともあれ、キュアウィングの”変身”は今回のような形で描かれ、それはツバサくんの物語として、新たなプリキュアのお話として、とても素晴らしかったのは間違いない)

 

 先輩戦士として、三人目の覚醒に見せ場を譲った形のスカイとプリズム、そしてあげは姐さんであるが、彼女たちなり必死に届かぬものに手を届かせようと、不退転の決意で邪悪と向き合っていたので、株は全然落ちなかった。
 プリズムの飛び道具がスカイが天に届くための足場になってるの、戦いの道具としてだけ力を使うのではなく、あくまで誰かを守り理不尽に抗うための武器として戦ってる感じがあって、大変良かった。
 それは”ふたり”だからこそ出来る闘い方で、ここまでのお話を活かした、彼女たちの”今”の描き方だろう。
 なんの力も持たないはずなのに、当たり前に鉄火場に身を乗り出し参謀役を務める(そして自分の策が至らぬと、反省する謙虚さもある)あげは姐さんの描き方も、また良かった。

 前回エルちゃんの独り立ちに涙を流した描写もそうだけど、ソラ・ハレワタールという少女が他人の泥まみれの努力、夢の成就を自分に引き寄せて受け止め、心から喜べる人なのだと描いたのは、大変良かった。
 ゆったりした語り口の中で、主役サイドを横幅広く絡み濃く描いているのはこのお話の良いところだと思うけど、あの描写一つでソラちゃんの”人間”がズバッと入る。
 あげは姐さんを闘争の傍観者ではなく当事者に巻き込むことで、『はよう見せてくれや……揚羽蝶(バタフライ)の羽化を!』と、約束された覚醒を待ちわびる気持ち高めてるところとかも、大変良い。

 あとまー敵さんの名前が解ったり、カバトンとの契約関係が見えてきたり、対手の描写もちょっと深まった。
 カバトン自身が見返りで悪事しているから、ツバサくんの行いにも理由なり利益があるのだろうと勘ぐる所、『人間は自分を包囲しているものしか認知できない』つう世知辛さが滲んで、すこし悲しかったね……。
 味方異世界が無限に広がる空の世界なんで、敵対異世界は暗い地下世界という構図なんかな?
 組織レベルのデカい話を持ち込まず、カバトンの悪役力一本で序盤を支えているのは”あえて”だと思うので、味方サイドの座組が形を整えた後で、しっかり敵の姿を確かめさせて欲しいもんだ。
 おそらく末端だろうカバトンがこのパワー信者っぷりなので、本丸は相当修羅のロジックに染まったヤバ集団なんじゃないかと期待しているが、さてどうなるか。
 今後が楽しみである。

 

 という感じの、大変素晴らしい英雄誕生秘話でした。
 俺はエルちゃんが好きだから、あの子があの子なり大事な人を守りたくて、泣きてぇのを必死に堪えて手を伸ばしたり、それでもやっぱ怖くて泣いちゃったりしてたのに、メチャクチャ心が動いた。
 そういう健気さに打算なく身を乗り出し、奇跡を引き寄せ自由の翼を手に入れたキュアウィング。
 彼の気高い優しさが、一体物語をどこに連れて行くのか。
 来週も大変楽しみです。