イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

江戸前エルフ:第3話『新米巫女と継承の儀』感想

 凡俗だったり神聖だったり、月島住まう生き神様の多角形な魅力をじっくり削り出す当代東京神霊絵巻、二話構成な第3話である。
 端正でチャーミングな作画力、実写めいたリアリティを上手くファンタジーに包む演出力に支えられ、すっかりエルダと小糸の東京暮らしを楽しく見守る姿勢が整ってきた所で、二人の八方破れな仲良し日常とか、背筋を伸ばした神事とか、色んな顔を見せに来る。
 視聴者の欲しい物をしっかり把握したサービスに、心地よくノセられてしまう構成で大変良かった。

 根本的に駄エルフなんだけども、思いの外オタクとして守備範囲が広かったり、現代感覚と紐づけて大江戸知識をサラッと教えてくれたり、ときおり神様らしい表情をしたり、エルダの魅力は多彩だ。
 そういう奥行きが見ている側をさらに引き込み、ずーっとエルダと一緒にいて幸せに暮らしている小糸が、彼女に静かに惹かれている理由にも共感が強くなる。
 二人の暮らしを通して描かれる景色も、可愛らしい現代の放埒とか、生き神様の御行に表情を変えるビル街とか、400年産土を見守ってきたモノの表情とか、また多彩で魅力的だ。
 色んな表情をして、色んな面白さがあって、色んな奴らがいるから面白い。
 そういう多彩な魅力を自然な語り口で、力むことなく心から笑わせつつ、しっかり伝える回だったと思う。
 良いアニメ化してくれてるなぁホント……ありがたい限りよ。

 

 

画像は”江戸前エルフ”第3話より引用

 というわけでAパートは、巫女と神様が堕落の限りを尽くす!
 ホント二人の日常をさらっとスケッチした力の抜け方で、それが作り物じゃない素を、ずっと繰り返す小さな幸せをそのまんま見せてくれてる感じがあって、大変良い。
 小言は言いつつ、小糸はエルダのことが相当好きで、一緒にいると楽しくて、いろんなことでワイワイ騒ぎ時に悪乗りし、素晴らしい時間を共有していく。
 この手触りがマジうまそうなお取り寄せグルメの乱舞と共に、じんわり見てる側のハラを刺激してくる感覚が、作品独特の魅力だ。
 ゴリゴリ押し付けてくるわけではなく、ジワーッと体感し共感できる高さでもって、作品の良さを提示してくれる塩梅、非常に丁度いい。
 バリバリに気合い入り続けてるアニメとしての質が、悪目立ちすることなくこういう姿勢を支えているのも、凄い精妙な作り方だと感じるわな。

 Aパートは気の置けない友達としての二人を描くエピソードで、まー大変に仲がいい。
 勢い任せの悪ノリすら楽しく共有できてしまう二人の放課後を、どっしり追いかける中で、エルダがどんな神様だから好きになるか、理由がしっかり手渡されてくる。
 エルダは不老であっても不変ではなくて、変わっていく世界を俗に受け入れ、自分が楽しいと思えるものへ積極的に手を伸ばす。
 奥座敷に基本引きこもってはいるが、スイーツにガラス瓶に食玩に、人間が生み出した色んなモノを当事者として愛し、距離を作らない。
 同時にうつろう時の流れから自由な永生者でもあるので、ヒトが忘れてしまう昔の思い出、確かにそこにあった意味や価値も、実際に体験したかけがえない記憶として、実感を込めて手渡せる。
 エルダがオタクとして横幅広く色んなモノにマニア気質なの、『人間のやること成すこと、祝いで覚えてくれてるのだなぁ……』という手触りがあって、めっちゃ俗なのにカミに必要な聖性が、ほのかに香って好きだ。

 お江戸知識を開陳するときも、上から知識を授けてやるというヤダ味がなく、フツーに楽しい会話の一話題として、現代の感覚に必ず紐づけて伝えてくれる。
 笑ってタメになる教養エンタメとしての側面もあるこのお話、豆知識の出し方はすごく大事だと思うが、退屈にならんよう毎回工夫した演出も良く生きて、大変いい具合だ。
 昨日のことのように江戸の思い出を語るエルダの時間間隔は、確かに定命の小糸とは異なっている。
 でもその一瞬の重なり合いを毎回大事にしてるから、エルダは過去のすべてをしっかり覚えていて、大事にもしてくれる。
 人間と同じにはなり得ないけど、だからこそヒトが取りこぼしてしまう大事なものをずっと守り続けてくれる、だらけて優しい隣の神様。
 それが普段どういうふうに生きて、彼女の巫女と一緒に笑っているかを、夕暮れの暴食パーティーは良く教えてくれる。
 小柚子ちゃんに説教食らうオチまで含めてとってもチャーミングで、人間らしい手触りがあり、でもその奥に神様と暮らす特別な実感が宿る。
 とても”大江戸エルフ”らしい、優れた短編でした。

 

 

 

画像は”江戸前エルフ”第3話より引用

 繰り返す日々を幸せに切り取ったAパートから、特別な儀式を描くBパートへと物語は続く。
 ここは美術の力を信じた作りで、電灯を落とししめ縄を張り、神と巫女が歩む神域にふさわしい荘厳さを宿したビル街が、めちゃくちゃ良かった。
 近年再開発の手が伸び、人気観光地としてのみならず高級ウォーターフロントとしても新たな変貌を遂げている、古くて新しい街・月島。
 高層ビルのソリッドな質感と、土地に刻まれた伝統が静謐に滲む神事の光景が、自然と同居している不思議な面白さ。
 『観光地に住んでいる人たち』を主役にすることで、外から覗き見る特別な場所であり、日常を過ごす身内の領分でもある月島二つの顔を、鮮烈に際立たせてくるこのアニメが、もう一つ舞台の魅力を削り出してきた。
 伝統と革新、過去と未来。
 相反しているように普段は思っているものが、実は互いに隣り合い混ざりあって一つなのだと解らされる瞬間に僕は猛烈な快楽を覚えるのだが、そういう心地よい酩酊が、エルダと小糸が月島を征く景色には宿っていた。

 Aパートでさんざん緩んだ顔してたエルダも、晴れの神事に顔を引き締め、持ち前の顔面力を発揮する。
 焦ることなく、作中を流れていく時間をカメラが追いかけ、視聴者が追体験する形式はこれまでと同じだが、今回はなかなかクローズアップされなかった神としてのエルダ、儀礼を継いで高耳毘売命を祀ってきた厳かな空気に、僕らは招き入れられる。
 二人してさんざん野放図、バクバク食い倒し緩んだ表情を見ていればこそ、このピリッと引き締まった空気は良く効いて、見ているこちらも思わず引き込まれていく。

 ……ってのを前フリにして、『神事の正体は、夜鳴きそば食べたいと駄々こねるエルフを甘やかすイベントでした!』とギャフン空気を抜き、最後におふくろの話を持ち出してしんみりと〆る。
 聖俗のあわいを高速で反復横とびし、連続する緊張と弛緩を心地よく味合わせる中で、亡き母の思い出を今も覚えて、語って、教えてくれるかけがえない家族という、エルダもう一つの顔が浮かび上がってくる。
 エルダは400年過ごす中で、百万の氏子が生まれ落ち、無事に育ち、親となり子を生んで死んでいく営みを、この慈母の表情で見守り続けてきた。
 花のJKやっとる小糸もヒトの定めに流され、いつか儚くなっていくのだろうけども、欲望に満ちて楽しい令和の風景の中彼女が何を喜び、何を食べたか、エルダはけして衰えることなく覚え続けてくれるだろう。
 そうして、ヒトの条理から外れたカミが身近に、一緒にラーメンすすれるくらい間近にいてくれることの麗しさを、小糸と一緒に僕らも目撃する。
 その一瞬の衝撃は、特別な感慨でだらけた日常に確かに突き刺さって、小糸はエルダをもっと好きになる。
 こういう表情をしっかり描いてくる所が、やっぱ良いんですわ。

 

 大江戸ウンチク、穏やかで幸福な日常物語、駄目エルフ観察日記。
 いろんな魅力があるこのお話、『カミなる存在が実在し、隣りにいた時ヒトはどう過ごすのか?』という、アミニズム・パンクSFとしての顔もあると思う。
 継承の儀の正体は、明かされてみれば大変に俗っぽいわけだが、それは高耳神社が土地に根ざして祀ってきた御神体が、ヒトと同じものを共食する、地べたに足をつけている神様だからこそだ。
 土地に根ざした岩や樹を、磐座や神木として身近に尊び、祭りにおいては捧げ物を共に食してきた日本古式の信仰。
 生活に常に根ざしてきたソレが”エルフ”という最新鋭の外装をまとい、俗っぽい交流含めて間近に触れ合うことが可能になった時、信仰はどういう形を取るのか。
 身構えず、時に騒がしく、時にしんみりと真情のある描き方で、小糸がダメダメな彼女の神様を見つめる視線を、色んな角度から切り取る筆致は、立体的にそんな問い掛けを形にしてくれる。

 カミの祀り方がいかなるモノであるべきか、それは宗派流儀、個人の考えと信条によって様々であるべきだが、産土に根付いた氏をその根本とする神道において、カミとはこんなふうに身近で人間的で、だからダメな部分もあって、でもカミであるが故に人間の業を離れた超俗の聖性も宿す、不思議な隣人だったのではないか。
 そんな事も考えられる、月島の美しい夜でした。
 エルフが神様やってるのが出オチの背景設計で終わらず、『現代の月島で、生き神様が信仰されている』っていう空想に骨肉が付くよう、かなり考えて上で描写してくれてるのが俺は好きだな、やっぱ。

 普段あまり表には出ないけども、小糸の魂に深く突き刺さってる不在なる母。
 その重たさも全部ひっくるめて、大事に抱きしめてくれるエルダはやっぱ、伊達や酔狂でエルフではなく、神様でもない。
 そういうシリアスな手応えをちゃんと描けばこそ、駄エルフのダメダメ現代生活も楽しさを増すわけでね……キャラと物語の多彩な表情が、お互い響き合って魅力を増しているのは、大変いいことだと思います。

 

 

 

画像は”江戸前エルフ”第3話より引用

 そこに新たな魅力を足すべく!
 大阪からの来訪者、褐色ちびっこ釘宮エルフ東京に猛襲!!!
 『おいおいおい手加減してくれよ、盛りすぎだろありがたい……』と、思わずおろがむ新キャラも顔見世し、次回の江戸前エルフも大変楽しみであります。
 三話使って主役サイドの魅力、舞台となる街の多彩な顔をしっかり固めてから、異なる土地の異なるエルフを持ってきて更に奥行き出してくるの、マジ良い構成だな……。
 ヨルデ様の魅力をアニメは、どう引き出してくれるのか。
 既にぶっ飛ばされてる準備は、バッチリ万端だぜ!!