イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

【推しの子】:第1話と第2話感想

 ヤングジャンプの核弾頭、芸能界の光と闇に憧れと殺意で切り込む転生ステージサスペンス、満を持してのアニメ化である。
 初回から90分ぶっ通しで序章を走り切る特別体制、アイの死を隠しきって最後に殴りつけるショッキングな引きの強さと、心地よく初見視聴者を騙すインパクト、映画レベルの質の高さでもって、力強く振り絞ったバットを狙い通りにぶち当て、大反響を勝ち取った。
 主題歌”アイドル”のYoutube再生数、一週間で二千万だもんな……作中描かれている華やかな大成功を、メタ領域で作品自体が追いかけ追い越し、実現していく面白さが期せず生まれてもいる。
 全ての起点となるアイを一話で消費しきり、強烈に印象付けて裏切る手腕は”喰霊零”を思い出すが、あれもう15年前なのマジで!!?

 さておき。
 僕は原作も既に読んでいて(意外かね。俺も意外だよ)、若い人向けの油っこくエグみの強い作風に時折当てられつつも、複数ジャンルを貪欲に盛り込み話として成立させてる技芸の高さと、露悪な語り口から時折滲む必死な物語の血の色が好みだ。
 転生主人公の奮戦記であり、芸能界のショッキングな側面を燃料にするイエローペーパー・フィクションであり、芸事に青春を賭ける人たちのジュブナイルであり、残酷にぶち壊れた家族の再生/再破壊劇であり、ドス黒い知性派復讐譚でもある。
 いろんな面白さを一つの箱にギュギュッとまとめ、相互に結びあって生まれるネットワークが更に楽しさを加速させ、一度の視聴体験で脳みその色んな場所が刺激される事で生まれる、濃厚な酩酊感。
 これでぶん殴られるのに、初回90分はかなりいい手だったのかなと思う。

 スキャンダラスで露悪的な、芸能界の裏側暴露で温度を上げているので疲れる部分もあるが、そうやってドス黒い部分を描いた上で『それでも』と続ける手際が巧いお話でもあるので、比較的爽やかに食えている。
 まぁ作中最大の呪いであり、物語を牽引する一番のミステリでもあるアイの死は、飲み下すにはどうにも重たすぎる質感でしっかりとアニメ化され、アクアと同じく視聴者にも、いい感じに深い傷を刻めたと思う。
 あの地獄めいたヒキをアニメがどう着陸させて、ぶっきらぼうに屈折した高校生のアクアを書くか確かめたくて感想を二話まで待ったが、五反田監督&そのママンとの愉快な関係性含めて、とても良い感じに描けていたと思う。
 妹大事が過ぎて夢は潰すは暗躍するわ、何かとドス黒いアクア周辺に、ママンとのオモシロ漫才でちゃんと笑える描写があったのは、緩急のバランスが良かった。

 

 お話の方は一話でニ回も人が殺され、転生するわ復讐を誓うわ、なかなかにジェットコースターな走り出しである。
 転生者な上に推しで母親なアイをぶっ殺され、すっかり歪みきったアクアくんを主役に、復讐の手段として芸能界にしがみつく知性派と、母ゆずりの華やぎと純真なあこがれを抱えて、スターへの階段を駆け上がっていくルビィ。
 アイという大きすぎる星から分かたれた双子が、影と光を織り交ぜながら極めて生臭い『仕事としての芸能』にザブザブ分け入り、怜悧な打算と金勘定、グツグツ煮立った感情を抱えて、さてはて何処に行くのやら。
 その一歩目となる第1話は、ぶつくさ文句言いつつも妹のこと大事すぎて、復讐鬼じゃない部分でも十分頭おかしい高校生、星野愛久愛海の良い自己紹介になっていた。

 第1話濃厚に焼き付いたアイの生き様が豊かに告げるように、このお話は嘘まみれの憧れと、偽りの奥に燃えている真実にまつわる物語だ。
 誰もが自分を狂わせてくれる嘘を求め、それを完璧に……我が子への身勝手で計算高い愛を抱きしめたがゆえに完璧以上に体現して、完璧だったからこそ狂信者に殺された女神。
 本気で紡ぐ嘘しか誰かへの愛を形にできなかったアイが手に入れた家庭が、父親不在で世間には秘密、ベイビーたちは二人共前世の記憶持ちの偽赤ん坊という、嘘まみれの夢だったのは、それがガタガタに崩れてみるとなかなか皮肉である。
 星野家という暖かな夢が凶刃にぶち壊され、それでもたしかに残ったものがあまりに美しいから、ルビーちゃんは感情豊かに泣きじゃくりつつアイドルを目指し、アクアは復讐の道具として芸能界にしがみつく。
 役者としての天分を、母の優れた血を引き継がなかったと自虐しつつも、最後に囁かれた役者を諦めきれず、血みどろの夢がくすぶり続けている。

 小児がん患者として早逝したルビー=さりなちゃんが、摩耗させずに憧れを残せた青春期を、雨宮先生は既に終えてしまっていて、精神年齢にはすっかりおじさん……通り越して老人だ。
 しかし二度目の生には一度目には果たし得なかった神籤な出会い、輝く青春、道具と割り切れない芸事の魔力が強く宿っていて、青年の器に老成した復讐者を乗っけている嘘つきは、まるで本物の家族のように妹を思い、彼なりの夢を走る。
 何もかもが嘘で、復讐だけが本当でならなければならないのだと自分を縛り付けつつ、目の前にライブで展開されていく自分だけの人生劇場の主役として、思う存分芸に溺れ、嘘を体現したい欲が、メリメリと湧き上がる。
 地下アイドルが事務所でチクる『芸能界の夢と実情』とは、またちょっと違った画角でもって、明暗入り交じる主役の人生を舞台に、嘘と真実が踊りだしている。

 

 (一応)大人が赤ん坊に生まれ変わったアクアが知性と不才と復讐の主役であるのに対し、幼いまま死んだルビーは憧れと未熟と才能を武器に、芸事の表街道に駆け上がっていく。(ここら辺の棲み分けを、高校の学科で見せてるのは好きだ。)
 ルビーちゃんが表舞台での晴れやかな輝きを求めるのは、志半ばに終わった母の遺志を自分が体現する健気な子どもと、病に苦しんだ前世をかすかに照らしてくれた星に、二度目のチャンスで手を伸ばす転生者との、歪な合金だ。
 転生者としてのメンタリティは既に終わった一回目と、最悪な地獄があってもまだ続く二度目がそれぞれ絡み合って、他人に開かせない多重の嘘と、そこからにじみ出るシンプルな真実を、重層的に受け止めている。
 ルビーちゃんが折れない夢で家族を説得し、憧れに向かって疾走するのは彼女自身の夢であり、殺された母のポジティブな復讐戦であり、若くして手折られた前世のリベンジマッチでもある。
 その歩みは、陰気で理屈臭い兄貴の足取りとは真逆……に見えて、誘蛾灯のようにまばゆく輝く芸事の光に、アクアもまた囚われていくことになる。
 ステージが持つ引力の強さが、アイを殺してなお衰えず二人を捉えている感じは、色んなジャンルの芸能の舞台裏を生臭く掘り下げ、それ故生まれるリアリティでもって、演じて客を喜ばせる仕事のルポタージュとしての面白さを、作品に宿しもする。

 ルビーと対になる青い宝石なら、同じコランダムサファイアのはずで、でも雨宮先生の新しい名前はアクアマリンだ。
 情熱と自由を司るルビーちゃんの思いが、過保護過ぎる兄貴の防壁を突破して夢への扉を開いた第一話、薄暗い編集室でシコシコ映像に向き合い、他人ハメてまで身内を守るアクアに、誠実と慈愛を意味する宝石がふさわしくないことは良くわかる。
 アクアマリンは母なる海の石であり、荒々しい航海に進み出す守護を宿し、聡明で冷静沈着な頭脳を象徴する。
 小賢しい計算をぶん回しても、追いつけない才能がひしめく芸能界に、アクアはどうにかしがみつかなければいけない。
 転生と復讐で捻くれつつも、未だ奇妙な優しさを残して、でも自分の中の愛に素直に生きるには、受け取った呪いが大きすぎる。
 そういう青年の冷徹な芸能復讐譚、非才ながらも業界にしがみつく悪戦苦闘と、母の眩い炎を引き継いだ妹が才能を開花させ、大きな星になっていくサクセスストーリーの併存。
 そこもまた、この作品の魅力だろう。

 

 第1話、後々ひっくり返す前提で知能化児童と限界子守のオモシロ漫才で笑いを取り、アイの死を経て壱護社長は失踪、ミヤコさんは血の繋がらない親として、忘れ形見を抱えながら業界にしがみついている。
 孤児だったアイの”父”だった社長が”娘”とともに消えることで、アクアとルビーに押し付けられた嘘の家族が、否応なく強い結びつきで本物になっていくのも、入り交じる虚実の一つだ。
 転生者としての真実を知らなくても、最初は脅されて演じていた偽の母親でも、ミヤコさんはアイを失った傷を抱えつつ現場で踏ん張り、二人の親として、事務所の社長として責任を果たし続ける。
 この人が安全弁を担当してくれるから、アクアのドス黒い復讐劇も、ルビーちゃんの危なっかしい芸能成り上がりも、華やかな稼業のイヤーな部分を当てこすってくる筆も、なんとかギリギリ綱渡りしているかな、と思う。
 激ヤバ神がかりで脅され、イケメンとの再婚という夢を砕かれ、コミックリリーフだった彼女がこういう位置に化けたのも、初見の印象を逆手に取って突き刺してくる、語り口の巧さ……かなぁ。

 第2話はルビーちゃんが燃やす情熱が、アクアの暗く冷たい計算を上回り、芸能界の現実を知るミヤコさんの心配を振りちぎって、芸能科への門を拓いた。
 心配性な兄貴は素知らぬ顔で妹を守るために、二度目の高校生活に漕ぎ出していく。
 全ては既に知っている出来事で、大事なのは推しの復讐しかない。
 そう言い聞かせるアクアの前には、押し殺しても湧き上がる舞台への憧れと、いま新たに出会い直す日々の神籤な息吹が確かに迫ってくる。
 それは何もかも嘘っぱちなはずの人生で、確かに本物だと思える熱を宿して転がる、儚く美しい夢だ。

 屈折しきった青年は、一体何を本当として選ぶべきなのか。
 アイ殺害にまつわる秘密を追いかける芸能界ミステリが、一番大きな謎として据えているのは実はそんな謎であって、そのセカンド・ジュブナイルとしての手触りがやっぱ好きだなと思える、いいスタートでした。
 二話で確認できたOP/ED映像がマジでバリバリに仕上がっていて、『これで勝負スっぞ!』という旗印として、十全な気合に溢れていたのは、大変にグッドだ。
 作中随一のヒロイン力を誇るかなちゃんとの再会も果たし、捻くれきって華麗なる二度目の青春、どう踊りだすか。
 次回も、大変楽しみです。