イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

君は放課後インソムニア:第3話『一つ星さん うお座 フォーマル ハウト』感想

 猫と写真と星星と!
 寝不足なってる場合じゃない、素敵なものに出会い続ける石川青春ストーリー、変人先輩登場の第3話である。

 うーーん……俺、このアニメ好きだな。(唐突な告白)
 展開に大きな波風はなく作風は地味だが、それゆえどっしり場面を作って感慨をこっちに余さず届けてくれる、落ち着いた筆致が性に合う。
 丸ちゃん達が一緒にいることで小さく人生が良くなっていく実感が、上品なコミカルさを交えて刻み込まれていく感覚が好きだし、楽しいと思えることに出会った青年たちの瑞々しい喜びが、周囲に確かな波紋を拡げていく手応えも良い。
 静かに、豊かに、満たされていく。
 そんな視聴者の感覚は、眠れぬ日々の苦しみから二人で抜け出していく丸ちゃんと伊咲ちゃんの実感と重なって、『コイツラが幸せになってくれると良いな……』と、作中流れる日々を楽しみに見つめる意識を高めてくれる。
 血圧上げて声高に騒ぐ感じの楽しみ方ではないけども、間近においてしっかり見つめ、物語の息吹を聞き届けるような付き合い方を、さしてくれるアニメだ。

 

 

 

画像は”君は放課後インソムニア”第3話より引用

 というわけでAパート、青少年の生きづらさを見守る場所だけ用意して具体的な支援は他人に丸投げした顧問に導かれ、丸ちゃん達は田んぼの中を進むのであった。
 やっぱ、このアニメの眉毛が好きだな……クッキリしててかわいい。
 個人的なフェティシズムはさておいて、焦りのない筆致の中登場人物たちが今生まれつつある関係をどう喜び、新たに繋げているかが丁寧に描かれて、大変良かった。
 丸ちゃんと伊咲ちゃんが凄く仲良くなってて、お互いの幸せをニコニコしながら見守り、肩を並べて青春を歩いている様子も濃厚に描かれるわけだが。
 それが二人だけで収まらず、彼らを取り巻く人々にも波及している様子も丁寧に切り取られていて、そこが良かった。
 誰かが苦しみをちょっとずつ抜け出して、自分なりの”楽しい”や”嬉しい”を見つける旅は、小さく縮こまって終わらず豊かに広がってほしい。
 そういう願いを、物語がしっかり受け止めてくれてる感じがある。

 

 僕は丸ちゃんと受川くんが仲良くしている描写がすごく好きで、天文部という新しい幸せに土足で踏み込みはしないけども、一人苦しみを知る古馴染みが朗らかにその歩みに寄り添ってくれる男。
 彼が画面に置かれることで、お話が爽やかに広がってくれてる感じがありがたい。
 今後部として実績を求めていく中で、生徒会活動に勤しむ親友が色々助け舟を出してくれもするだろう。
 楽しみだな……。

 そして話の主軸である丸ちゃんと伊咲ちゃんの触れ合いは、それがどんだけ瑞々しい喜びを生んでいるのか、共にど田舎を歩き星を見上げ目を輝かせる様子をたっぷり積み上げて、分厚く描かれていく。
 電車に乗って田んぼに迷い、出会って新たな楽しさに出会う一日をすごーく丁寧に摘んでいて、その一筆一筆がとても良かった。
 特に田園迷路の描き方はちょっとバロックな実写的画角あり、石川の産土を爽やかに感じられる仕上がりで、紀行アニメとしても独特の味わいがある。
 なにより部活の仲間として、同じ苦しみを抱える同志として、迷いつつも一緒に進んでいるニコイチ感がバツバツに元気で、大変良かった。

 そんな若人を星と写真に導く、ヘンテコな先輩であるけども……これもまた良い。
 ぶっきらぼうで奇矯な第一印象が、写真術へのマニアックな導き、温かいパスタの一皿でどっしりほぐれていって、初対面の相手を信頼するようになる。
 丸ちゃん達が白丸先輩から受ける印象が、そのまんまこっちに伝わってくるシンクロ率高い話運びが、大変良かった。
 若者が自分の差し出した技術や知識で感動し、心震わせるその波動が自分の体温も熱くする。
 青春ど真ん中から少し外れた、導き手の心もまた瑞々しく震えているのだと、立場を変えつつ同じモノを描く筆がノッている。
 こういう心の動きをしっかり伝えてくれると、キャラクターが動いていく行く先に納得感も強くて、物語を首ヒネリつつ噛み砕いていく苦労が少なくすむため、見ていて楽でもあるしね。

 

 

 

画像は”君は放課後インソムニア”第3話より引用

 そんな出会いの後のBパート、丸ちゃんは写真展への挑戦や地域を巻き込んだ天体観測イベントと、部長としての仕事の準備に忙しく走り回る。
 一見ズボラで無責任に見える倉敷先生が、丸ちゃんの人生に責任持って並走し、いいタイミングでアドバイスを届けたり問いかけたりしているのが、とても良い距離感だと思う。
 彼女が保証してくれた居場所を、降って湧いた部長の責任を、守るために丸ちゃんはガムシャラに頑張って、それ自体がもはや楽しい。
 夢中になれる何かを見つけて、それを誰かと一緒に共有する嬉しさが、常時画面に満ちているのは嬉しい。

 ひねくれているように見えて真っ直ぐなのが、このお話の主役の良い所で。
 丸ちゃんは自分がどんな場所に今立っているかも、それがどれだけ得難い経験なのかもしっかり自覚して、言葉にして部活仲間に届ける。
 部長の頼もしく喜ばしい一言を受けて、伊咲ちゃんもニッコニコなのが、しみじみと良いよな……仲良しだねぇ……。
 前回堂々一人責任を引き受け、伊咲ちゃんを庇おうとした態度にも現れてるけど、丸ちゃんは屈折の奥にメチャクチャ率直なものを秘めていて、伊咲ちゃんと出会い部を始めたことでその生来の良さが、再び蘇ってる感じがある。
 主役が眠らせてきた人品が、美しく楽しい日々の中でふつふつと再び湧き上がってくる熱気が、穏やかな筆致で確かに切り取られていることが、作品に独特の味わいを生んでいると思う。

 

 

 

画像は”君は放課後インソムニア”第3話より引用

 この筆使いは白丸先輩の夜を描く場面でも共通で、鳥居に祈りパンケーキ作り送信に身悶えする一挙手一投足が、彼女の実在感、信頼感を高めていく。
 写真撮影のために使わせてもらってる神域に、しっかり礼を尽くす場面が描かれていることで、『あ……この人好きかも……』と思えるのは、丸ちゃんが倉敷先生に向き合った時感じたのと同じ手応えで、こういうのが多いからこのアニメ好きだ。
 後輩関係なく白丸先輩は夜を歩くこと、星を撮ることが好きで、あまりに自由な猫ちゃんに邪魔されたり、夏の夜気をスパイスにパンケーキに舌鼓打ったり、その過程も堪能している。
 そういう一歩一歩を、彼女を取り巻く石川の情景に美しく焼き付けながら、ゆったり積み重ねていけるのはこのお話、独特の強みだろう。

 後輩と顔つき合わせてる時は見せない、油断したチャーミングがドサッと襲いかかってくるのも大変ありがたく、白丸先輩はまこと可愛らしかった。
 深夜二時、はたして高校生にLINE送って良いものか悩みつつも、愛猫に指を押されて送り出した写真が、若人の感動を呼び覚ます。
 そうして、身につけた技術と星海への愛情が確かに伝わって、褒められ憧れる嬉しさに身悶えする。
 丸ちゃんが部長頑張る歩み、頑張らせてもらえる繋がりが、どういう波紋を他人に投げかけているかも、丁寧に教えてくれる。
 この響き合いが良いよな……出会いと変化のお話って感じがする。
 あと猫の描写に気合が入ってて、気ままで自由で甘えん坊な夜の先達がどういう足取りで生きてるのか、たっぷり描いてくれるのも最高。

 

 という感じの、九曜高校天文部夏の一日でした。
 目標を定め、師に出会い、共に喜ぶ。
 あんま面白いことのない世界を、それでも人間が進んでいける普遍的な理由を、カメラとか星とか猫とか、素敵なものを描く中特別な手応えで、ゆったり織り上げてくれるエピソードでした。
 丸ちゃんを中心に、そういう日々がどういう喜びを生み出し、誰に広がっていくかも丁寧に追いかけてくれて、その実感が凄く良い。
 丸ちゃんマジ可愛いので、めっちゃ素直に幸せになってほしいと思えるんよな……。

 写真という軸が一本足されたことで、天文部が対外的に何をしていくのか、それに勤しむことでどういう実りがあるのか、お話に奥行きが足された感じもあるし。
 丸ちゃんのカメラが親父からの贈り物で、今後掘り下げていくとよりディープな陰影をお話につけてくれそうなアイテムなのも、大変いい感じだ。

 良き方向に転がりだした今と、確かに繋がる過去……そして未来。
 星を追いかける青春は、まだまだ続いていきます。
 次回も楽しみですね!