イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

僕の心のヤバイやつ:第4話『僕は心の病』感想

 雛鳥のごとく新芽のごとく、すくすくヘンテコな方向に育っていく思春期たちの記録。
 僕ヤバアニメ第4話である。

 前回山田の涙をベッドの下で盗み見して、胸の奥のヤバいやつに”恋”と名付けた京ちゃんは、山田に引きずられる形で光が強く当たる場所に引っ張り出されていく。
 何しろ惚れた相手は存在の引力が強い人なので、周囲には引き寄せられた人が多くいて、山田を見つめることは色んな人の顔を、そこに反射する自分含めて見つめることだ。
 山田杏奈という特別な女性への、特別な思いを芯に据えつつ、脇役と片付けるには切実に思春期を生きている若者たちの肖像が、色々見れるのがこのお話の良いところである。

 

 

画像は”僕の心のヤバいやつ”第4話から引用

 というわけで京ちゃんは、几帳面にフルーチェ作ったりして山田との距離を詰めつつ、彼女を傷つけてしまった金生谷さんと、それを見つめる吉田さんとの関係を、じっとり見つめることになる。
 山田と三人の女友だちが織りなす、ふわふわ暖かく幸せな(だけに思える)”萌え四コマ”を窃視し消費するだけの京ちゃんは、山田との距離が近づくにつれ女の……というか人間のもっている複雑で生臭い摩擦熱に、観察者兼当事者として近づいていく。
 気弱で優しい京ちゃんのセンサーが、苦手だと思う女たちのギスギス。
 そこには前回山田が涙を流した、子供っぽさへの切なさとはまた違った、しかし根っこの部分は似通った成長の難しさが、長く尾を引いている。

 金生谷さんだって願ってイヤな子になりたいわけではなく、自分が傷つけてしまった人に素直に謝りたいし、知らず距離ができてしまった古い友だちとも仲良くしたい。
 でも、気づけばそれが難しくなってしまっている。
 一体何が自分の足を止めるのか、通りすがりの脇役に思える金生谷さんの内側にある”ヤバいやつ”は、京ちゃんや山田に芽生えつつあるそれと、よく似ている。
 同時に怪物は個別の顔をもっていて、金生谷さんがモジモジ身悶えして、周囲にお膳立てしてもらってようやく進み出せる気まずさを、幼さを残す山田は全く意識していない。
 進み出せば簡単なのだけども、進み出せないから難しいものに縛られた時、それを解いてちょっと気分がいい明日に進み出すきっかけは、どこにあるのか。
 ”萌え四コマ”めいたチャーミングな仲直りを間近で見て、ただその尊さを窃盗するだけの立場だったら絶対言われないお礼を、吉田さんに告げられる中で、京ちゃんは人生の結構難しくややこしい部分の取扱説明書を、知らず学び取っている。

 ここで山田がドラマの真ん中には立たず、ただただ好き勝手菓子食って美しくて存在感があるだけの壁になってるのが、僕は結構好きだ。
 このお話は京ちゃんと山田が出会って触れ合い変わっていく、そのうねりを真ん中に据えている。
 ラブコメなんだからそれは当然なんだけども、世界は二人だけで出来ているわけではないし、だからこそ二人の関係は特別に深まっても行く。
 ジリジリグイグイと、主人公とヒロインの距離が縮まっていく中でその人間関係に巻き込まれて、当事者として余計なおせっかいをしたり、苦手だと思ってたギスギスの奥にあるものを体験する中で。
 山田杏奈以外の、山田杏奈に関わりその世界を構築する存在が、京ちゃんとも触れ合って、お互いに変化を手渡ししていく。
 そうすることで京ちゃんは、気づけば仲良くなっている男子として山田の友達にも存在を認められ、あるいはよく知らなかった好きな人の友達が、どんな人なのかを知っていく。
 そういう豊かな乱反射の中で、京ちゃんは胸の奥に巣食う怪物に名前を付け、その表情を見知っていくのだ。

 

 

画像は”僕の心のヤバいやつ”第4話から引用

 そういう不思議な引力、最大の発生源はもちろん山田杏奈で、臆病で保守的な京ちゃんが見知らぬ自分にヤバく突っ込んでいく時、必ず彼女が側に在る。
 影の中から見守るばかりだったはずの、常に輝きに包まれたクラスの上位種。
 自分とは縁遠いはずだった山田は気づけば気さくに話しかけ、一緒にお菓子を食べ、悪くてヤバいことにためらわず踏み込む、共犯者的立ち位置にいる。
 常識的で理性的(なので、山田の奇行にツッコミも入れれる)京ちゃんが、思わず踏む赤信号。
 中学生らしい考えすぎな思い込み、思わず踏んでしまうブレーキの真ん中に『山田杏奈が不幸になる』があるのが、とても京ちゃんらしい。

 京ちゃんが山田の危なっかしい部分を補うブレーキ役なら、山田は京ちゃんの背中を押す青春のアクセルで、その一言でもって京ちゃんは青信号に進み出す。
 思えば第1話、ナンパイに突撃ブッかました時もひっそり信号機が描かれていたわけで、ここら辺のメタファーは話数を飛び越え活用されている感じだ。
 こうして新しいなにかに出会う触媒として、お互いを好ましく迎い入れていく関係性は、一方的に見つめたり盗んだりするのではなく、相互に影響されあう開かれたものだ。

 パピコの端っこを手渡すトンチキ山田仕草を、京ちゃんは共犯の証拠として山田に手渡し返して、どんどん山田杏奈っぽくなっていく。
 山田が京ちゃんとのふれあいを深める中で、市川京太郎っぽくなっていくのか。
 意識して彼女の主観を画面に映さない、陰気ボーイのパンパン自意識アニメはダイレクトな答えを(例えば山田のモノローグなので)描かない。
 それは複雑怪奇な暗号として京ちゃんの目の前に提示され、考え過ぎと鈍感の間でブレブレ揺れながら、適正距離を探っていく……とても思春期っぽい足取りを生む。
 好きな人のことも自分のこともよく分からないけども、目の前に差し出されているサインをどう読解し、どう振る舞うべきか。
 恋と青春の引力に惹かれて進みだしてしまった以上、京ちゃんはテンパりながらも何かをしなきゃいけないし、小さいながら必ず、何かを選ぶ。
 この選択が二人の関係と京ちゃん自身を、ちょっとずつ変えていく。
 青信号は、いつでも市川京太郎の前に開かれているのだ。

 

画像は”僕の心のヤバいやつ”第4話から引用

 『完璧』をシンエイ動画の筆で絵にし田村ゆかりの声帯を乗せれば、このような形になるのか。
 遂に登場を果たしたお姉のベストマッチ加減に、田無三丁目の方向をおもわずおろがむわけであるが、家族と一緒の所を見られる気恥ずかしさを超えて、京ちゃんは私服の山田とモジモジ触れ合う。
 山田の欲しい物に先回りして、それを素直に差し出せず『真似っ子』と指摘される足踏みに見えて、山田は京ちゃんが自分の引力圏に近づいている事実に喜び、自身の魂をそのそばに寄せてもいく。
 それもまたどこか気恥ずかしく、笑顔でごまかし通り過ぎながら、京ちゃんは山田杏奈の実在を嗅ぐ。
 めちゃくちゃいい匂いがしたのは、無論山田杏奈が体現する”美”の現れであるけども、京ちゃん自身が心の病なのだと誤診する心の震えが、同じ匂いを宿しているからではないか。
 恋として明確な輪郭を手に入れはしない、不定形で未熟な心理を甘酸っぱく堪能しつつ、そんな事を思う。

 自意識パンパンの青春戦士として、京ちゃんは山田がどう振る舞っているか、客観で把握し切ることは出来ない。
 彼の死角で何が起きているのか、観測する特権は視聴者にこそあって、そういう立場で感じ取れるのは、山田杏奈もまた市川京太郎の引力圏に強く深く、引きずられている事実だ。
 豪胆で無遠慮にガツガツお菓子食うかと思えば、近づきたいと願う気持ちを恥じらい遠ざけて、その身動ぎはつまり、恋以外のなにものでもない。
 そんな甘やかを自覚できないからこそ、彼らは青春の当事者として己と相手の一挙手一投足に惑い、考え過ぎ、考えたらずに思わず踏み出していく。
 このもどかしさを胸いっぱい吸い込んで、甘酸っぱく楽しむヒントが思いの外繊細に、ド下ネタとトンチキたっぷりの青春コメディに埋め込まれているのが、このお話の特色であろう。

 

 

 

画像は”僕の心のヤバいやつ”第4話から引用

 詭弁を弄し前に立ち、山田を守ったお礼として分け与えられる、『子どもだなぁ~』の言葉と、なにかの手応え。
 京ちゃんの小柄、山田との体格差を強調するカットが今回多くてマジ素晴らしかったけども、京ちゃんは山田杏奈の大人っぽさにも惹かれている。
 多分ベラベラ色々喋って自分を守ってくれた京ちゃんこそ、山田は大人に思えてまた一つ惹かれて、しかしそんな気持ちは京ちゃんには見えない。
 見えないながら、名付けられないながら、しかし確かに二人で共有するものがあって、それが積み重なってどこか、より眩しい場所へと二人は進み出ていくのだろう。

 握りしめた拳は、あのベッドの下で見つけた”ヤバいやつ”が高鳴る心臓の奥、確かに息をしていることを教え直す。
 光の奔流の中で名前呼びを許され、それを上ずった声で『あんま変わってないけどな!』と受け止める、裏腹で素直じゃない態度。
 そういうシャイでチャーミングな一歩一歩が、何を京ちゃんに積み上げていくのか。
 ゆっくり描いてくれるエピソードでした。
 一秒一秒、京ちゃんの人格と世界に山田杏奈が突き刺さっていく様子を丁寧に積み上げることで、それが一方通行で終わらず様々に、少年の世界を豊かにしていく様子も描かれる。
 やっぱ僕は中学ニ年生が生きてる時間と場所を、じっくりスケッチしてくれる話として、このお話が好きなんだろう。

 それが行き着く先を、このアニメはどう描いていくのか。
 あんま派手な波風が立たないからこそ、その足取りをしっかり教えてくれる味わいもあって、大変良かったです。
 次回はどんな眩さが積み重なるのか、大変楽しみです。