イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

僕の心のヤバイやつ:第6話『僕は溶かした 』感想

 手のひらの中のチョコレートのように、溶けて流れて濡れて溢れる思いの色。
 山田がマジでグイグイ来る、僕ヤバアニメ第6話である。
 パンパンの自意識からはみ出した、京ちゃん生来の優しさが無自覚に彼が好きな女の子を惹きつけている事実に、全く気づかない純粋。
 ラブコメ王道鈍感主人公の立ち居振る舞いを交えつつ、山田を好きになったから広がっていく京ちゃんの世界が書かれる。
 女子のそれとは比べ物にならないほどイカ臭い、足立くんとの男の恋バナ。
 そういうモンを共有できるから嫌な場所だったはずの学校は楽しくなってきてるし、それは山田が連れてきてくれた出会いだ。
 恋という怪物と出会うことで、京ちゃんの世界と、世界の中にいる京ちゃんは豊かに、力強く広がっていく。
 やっぱ中学ニ年生等身大の成長譚でもある所が、俺は好きだ。

 

 

 

 

画像は”僕の心のヤバいやつ”第6話から引用

 山田の涙を目の当たりにして、京ちゃんは慰めに紅茶を手渡す。
 第1話では主人公の特権だった、前髪が邪魔をする一人称の視線が山田を中心に展開されて、差し出された優しさに燃え上がる頬が描かれる。
 山田が京ちゃんのどこを好きになったのか、アニメは結構明確な補助線を引き続けていたけれども、『泣いてる自分に優しくしてくれるから、好きになった』と明瞭に、主観的に描いたこのやり取りは、その最たるものだと思う。
 心と心が触れ合う至近距離で、京ちゃんは山田杏奈の外側だけに溺れず一番柔らかで大事にしたい所を適切に取り扱う。
 山田でめっちゃシコリはするけども、便利なポルノとして扱わない/扱えない思慮深さこそが、同じく焦がれてしかし近づけない足立くんと、京ちゃんの差だということは、この後描かれる所。

 ここから図体だけデカい臆病シャイガールの猛烈アタックが加速していくが、邪気眼ぶってるくせに自己評価が低い京ちゃんは、それを真っ直ぐ受け止められない。
 『僕はヤバい奴なんだ』と思い込むことで自分を守っているナイーブな少年にとって、憧れた女の子はとても素敵だからこそ、自分みたいなヤバキモ人間相手にするわけがない。
 そうやって自分にブレーキをかけることで、これ以上傷つくのを賢く避けようとする計算は、体の奥から湧き上がる恋情と優しさでもって、簡単に崩れていく。
 誰かが泣いてたら、なんかしたい。
 そういうちっぽけで純粋な気持ちが、大人びた防衛策を越えて勝手に動くところが、京ちゃんの厄介さでありチャームポイントである。
 ここにこそズギュンと来ている山田杏奈の姿は、内心の吐露はなくとも描写の中、かなり鮮烈に切り抜かれていく。

 

 

 

画像は”僕の心のヤバいやつ”第6話から引用

 ブツクサ文句たれつつも、学校行くのが楽しそうな愛弟をお姉は嬉しそうにからかう。
 ホンマお姉のブラコン……で片付けるには、あまりに等身大の家族としてマジ色々難しい弟の行く末を心配し、じっと見つめているからこその軽口は心に染み入る。
 いろいろ面倒くせー青春迷宮に迷い込みつつ、京ちゃんが持ち前のピュアさを失わず山田と出会えるとこまで進めたのは、市川家というアジールがデカい仕事し過ぎありがたすぎ。
 ここで育まれたものが、山田杏奈の心臓をグサグサ射抜いたわけだしねぇ……。

 んでまぁ、その山田杏奈がマジでグイグイ来るわけよ!
 『市川京太郎……お前が座ってる場所が青春特等席だと、思う存分思い知りな!』と言わんばかりの、黄金色の図書館。
 そこに至る前に、気になる少年との距離を無防備にズケズケ踏み越え、時におっぱいふれあいアクシデントも起こり、横から見てりゃ京ちゃんの青春は爽やかアオハル色だ!!
 しかしまぁ、一回痛い目見て過剰防衛気味になってる鈍感少年は、その接近の特別さに気づかない。
 偶然で、特別なものなどなにもないのだと自分に言い聞かせることで、致命的な勇み足を避けようと頑張る。

 京ちゃんの過剰なモノローグは、他人の感情や窮状にセンサーが高い彼がなぜ、山田杏奈のアプローチを真っ向受け止めれないのか、その内実を分厚く語っていく。
 優しさに気づかないわけではなく、それが自分に向けられ自分が生み出したのだという確信に、なかなか向き合えない。
 強く優しく正しく……つまりは京ちゃんが信じる形で”大人”になるには、市川京太郎という人間はあまりに力不足なのだと、自分を見限り……しかし諦めきれない。
 何しろ、自分はどこまでいっても自分なのだから。

 そんな彼が、『楽しくない』と思うことで斜に構えて距離を作っていた、学校という場所。
 そこが今『楽しい』のだと、変わっていく自分をようやく認めた所でAパートは終わる。
 それは黄金の風の中で微笑む美しい少女がいてくれるからだし、山田杏奈と触れ合う中で変わっていく自分を見つけ、あるいはもう失われたと思っていた自分を取り戻せるからだ。
 そうして変化していく自分が、新しい出会いを引き寄せ飛び込んでいくからだ。

 

 

 

画像は”僕の心のヤバいやつ”第6話から引用

 そんな変化の一人と、階段座って激シコトーク!!
 陰キャ少年の喜ばしい変革のはずなんだが、果てしなくイカ臭く生々しい

所がまぁ、このアニメの良さだと思う。
 牽制混じりに市川との距離を詰め、山田LOVE勢として中を深めていく足立くんは、相手の気持を上手く考えられない中学ニ年生のスタンダードをぶん回すことで、逆説的に京ちゃんの特別さ……山田に選ばれる理由を浮き彫りにする。
 『好きな子ではシコれない』というお仕着せの純情論ではなく、ガッシュガッシュにしごき倒してなお相手を尊重する、市川京太郎オリジナルの向き合い方があってこそ、山田は図書室へ……足立くんがいない場所へと足を運ぶ。


 結局最後は、人間力
 この残酷な真実に気づけないからこそ中学生なのだが、しかし足立くんもチャーミングな笑顔をする一人の人間だと、市川も間近に座って気づいていく。
 おどおど不審な対応をしつつも、それは学校が楽しいと思える大切な理由の一つであって、校外学習からの流れを考えれば、それもまた、山田杏奈とのふれあいが連れてきてくれたものだ。
 善い恋はそのお相手一人に視線を強く集めつつ、気づけば自分と世界を広くしてくれる。
 そうしてがっぽり空いた京ちゃんの世界に、奇妙で下世話な友情がスルリと舞い込んできたのは、見守る側にとっても嬉しいことだ。

 

 

 

画像は”僕の心のヤバいやつ”第6話から引用

 そんな変化を生み出してくれた黄金色の楽園が、終わってしまうかもしれない小さな一大事。
 飲食禁止令の前、京ちゃんは『殺人大百科』に隠して山田から借りた激甘少女漫画を読み、いざ勝負の一瞬、それを山田杏奈の罪を隠す偽装として叩きつける。
 ヤバいやつであり続けることで教室で孤立し、自分を守る生存戦略にとって、『殺人大百科』は他の連中とは違う自己像を担保する、危険で特別な壁だ。

 そして、壁でしかない。
 泣いてる女の子に思わず紅茶を差し出し、ナンパイに困っていたら自転車ぶっこむ子が、『殺人大百科』に描かれている血を至近距離、実際受け取ってみてどう感じたか。
 それは保健室のベッド下、山田杏奈の血と涙を窃視した時に既に示されている。
 山田が泣くのが嫌で、つまりは山田が好きで、その気持をどこに持っていったものか理解らぬまま、山田杏奈のために動き続ける。
 そうすることで、自分だけの壁であると選んだものは大事な誰かの夢を、彼女と自分の関係を守る盾へと、役割を増やしていく。

 

 思いもよらぬ大胆アプローチに、京ちゃんは黄金時代の終わりを感じて世界は紫の闇に染まる。
 しかし山田の高鳴った体温は手のひらのチョコレートを溶かし、ぬらぬらとその身体を濡らす。
 京ちゃんが罪悪感と疑念に駆られ、『好きな子でシコり倒してる俺、ヤバいのかな……』と悩む激浪と同じものが、京ちゃんに触られた山田杏奈にも湧き上がっているのだ。
 性欲は、男子の専売特許じゃねぇ。
 ひっそりと暗喩を用いて、そこに一発殴りかかってくる作風……俺は好きよ。

 全てが闇に沈むのだと、勝手に思い込んだ京ちゃんの壁を平然と乗り越えて、山田は図書室に来てお菓子を変わらずもしゃらもしゃら。
 黄金の季節は、まだまだ続いていく。
 むしろ山田こそがめっちゃグイグイ来てる現状を、いろいろあって小さくなってる市川少年を横から切り取る構図は雄弁に語っているが、京ちゃんは自分のことが一番良く分からない。
 自分がしていることの特別さも、それが真っ直ぐ大事な人の心臓を射抜いていることも、純情に無自覚だ。
 ここら辺のピュアさが、俺と山田を更に狂わせていくわけで、無自覚鈍感なのが強みになっているのは、市川京太郎……罪な男よ。

 

 というわけで、山田杏奈の前のめりがどんっどん分かりやすくなっていく回でした。
 京ちゃん気づいて気づかないで……この内圧パンッパンの恋情に!
 そういう気持ちで、ハラハラやきもき見守れるラブコメ、大変ありがたいです。
 やっぱボーイが可愛らしいラブコメは良いなぁ……。

 呪われるべき最悪だったはずの学校は結構楽しい場所になり、友達も増えていく。
 小さく、しかし確かに変化していく市川京太郎くんの生活を追いつつ、物語は続いていきます。
 次回も楽しみです。