イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

江戸前エルフ:第7話『街の匂いは』感想

 今日も今日とて月島に漂う香りは沈丁花、不老不滅の生き神が見守る産土麗しく、隅田の水面に夕日がきらめく。
 江戸前エルフ、第7話である。
 出来た妹小柚子を真ん中に据えたAパート、福引騒動に地元の高耳信仰がじんわり滲むBパート。
 どちらも大変良い仕上がりで、今週もしみじみと良かった……。
 この穏やかな喉越しとコク、毎週極めてありがたい……(佃の方をおろがむ)

 

 

画像は”江戸前エルフ”第7話より引用

 というわけでAパートは、”いい子”である小柚子の周到なわがままを描いていく。
 やっぱエルダが無根拠にドヤ顔しているのを見ると、メチャクチャ肌が潤うな……一生なんの後ろ盾もないお調子に乗ってて欲しい。
 宿題を偽造して大義名分を立てなければ、姉に甘えられない小柚子の気質は、彼女が良くできた妹だからこそ生まれる、優しい鎖だ。
 その窮屈さを時折解いて、自分から姉に甘えられる時間を作れる気楽さ、受け止めてもらえると思える間柄も姉妹にはしっかりあって、あんまり普通の転がり方はしない(なにしろ、生き神様が間近にいる神職だし)けども、小金井姉妹はたいへん麗しく、互いを思いやっている。
 その絆を少し遠くから見つめる時、エルダは普段のおどけた色合いを引っ込め、シャボン玉を一人夕景に浮かべる。
 やっぱ撮影めちゃくちゃ良いな……光の表現力が強いので、勝負どころでしっかりエモーショナルな情景を差し込んで、バッチリキメれるのは強い。

 何しろ”宿題”なので、歴史の実見者たるエルダは今回グダグダ甘えん坊な顔よりも、優しい古老としての表情が濃い。
 江戸と令和をつなぐ遊びの知識を、共に戯れながら楽しく分け与え、しかし同じ場所には立っていない。
 あまりに美しく空に踊って、いつか儚く弾けていくシャボン玉が何を反射しているのか、日常コメディの隙間に抜け目なく、永世者の哀しみを刻み込んできた作風が豊かに描いてくる。

 それでもエルダが姉妹二人を見守って、一緒に笑ってくれるからこそこの夕焼けは美しく、それでも今一緒にいる意味を常に祝いでいるから、いつかシャボン玉が爆ぜる時よりも、その美しさを愛でることが出来る。
 そういう手応えをしっかり、肩の力が抜けたホッコリエピソードに滲ませれる所が、優れたバランス感覚といえよう。
 永遠と一瞬の狭間に瞬く情景を、子どもと大人の間でアンバランスに、しかし幸福に揺れている小柚子のエピソードに入れ込むことで、神様も人間も結構めんどうな釣り合いを頑張って取っていて、だからこそ隣り合って生きているのだ……という実感も生まれる。
 こういう分厚さにしみじみ、しかし気楽に自然に到れるのが、語り口の豊かさだなと感じる。

 

 

画像は”江戸前エルフ”第7話より引用

 そしてBパートはレア物金蛙につられて、引きこもりな生き神様が自分の領域を巫女と共に歩くお話。
 エルダがいることで、月島に根付いた信仰がどのように変化しているのかをジワリと描いてくれていて、民俗SFとしての味わいが濃いエピソードだと思う。
 何しろ400年間、間近に見つめ両手を合わせられる永遠不変なので、そらー地域教育に根付いた形で花も捧げるし、そこかしこにひっそり氏子が見守ってるわけよ。
 月島の方々は大変にわきまえた信仰の持ち主で、生き神様を望まぬ神輿に乗せて政治の表舞台に担ぎ出したり、観光の起爆剤として祭り上げたり、俗化した信仰がやりそうなヤバ行為とは見事、一線を引いている。
 地縁と血縁に深く結びつき、ひっそり積み上げられていく毎日に寄り添い見守ってくれる身近なカミとして、エルダは大変に愛され、敬われている。

 銭が欲しかったり、他人の上に立ちたかったり。
 人間の俗欲につきあわされ大変になるのがカミの定めだったりもするが、沈丁花の芳香に産土神の息吹を感じ取り、カミに見守られた土地に住まう氏子として身近な信仰を守る人たちは、己の荒御魂を良く制御している。
 その気風も、俗物ながら優しく人々を見守り、その文化を愛するぐうたらエルフのおかげかな、などと思う。

 

 そこかしこに沈丁花の鉢がある月島は、エルダという生き神がいればこそ僕らの知る”そこ”とは違う景色になっている。
 そういう豊かな仮想の描き方は、正しくファンタジーの芳香をまとっていて、自分が生み出した物語が豊かに、面白く現実を書き換えていく爽快感を、このエピソードからは感じることが出来た。
 現実の月島の輪郭線を、精妙になぞって産土の匂いをアニメに宿そうと頑張っている作品だからこそ、その物語独自の空想が”そこ”に漏れ出した瞬間の気持ちよさは、より際立つよなー。

 あとアレっすね、エルダと小糸が一生イチャイチャしててすげー良かったっすね。
 ほんっとにエルダがバブバブ小糸に甘えて、『しょうがないなぁ~』言いながら一緒に素敵な場所に繰り出して、心底楽しそうに過ごしている姿を見ていると……嬉しいッ!
 愉快な同居人として小糸と一緒に笑ってくれるエルダがいきいき楽しそうだからこそ、時折永世者の視線で子ども達の笑顔を遠く見守るエルダとか、土の香る信仰に包まれてる神様としてのエルダとか、多角的に良さが染みてくるのよなー。
 神様にも人間にも、それらが息づく土地にだって、多彩な顔と歴史がある。
 その豊かな面白さを、肩肘張らずしっかり伝えてくれる、とてもいいお話だなと思います。

 

 つーわけで佃島ニ景、大変良かったです。
 元々デカいイベントが起きない話の、なおさら穏やかな風景を二つ、ひょいとピックアップしたようなエピソードなんだけども、その力まぬ軽やかさ、確かに宿る食い応え、どちらもやっぱり凄く良い。
 こうして紡がれていく日々の先……いやさ、日々それ自体に宿る輝きは、まだまだたくさん描かれていきます。
 次回も楽しみです。