イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

スキップとローファー:第7話『パタパタ モテモテ』感想

 試験も終わり夏休み直前!
 浮かれる心はどんな未来に繋がっていくのか、スキローアニメ第7話である。
 前回鮮烈に浮き彫りにされた美津未ちゃんの思いが空回りしたり、変化していく環境の中でなにかいいもの見つけたり、出会えた昨日が今日を生み出し、今選んだものが未来に繋がっていくその途中を描く回でした。
 色んな人がいて、色んなことが起こる人生に途中なんてものはなく、その舞台に早くなんて人もいない物語。
 出会った人の意外な一面を新たに発見……てのもまた驕った物言いで、知らなかった、気づかなかっただけで常にそこに在ったものに正対した時何をするのか、実はあらゆる瞬間問われている。
 そうして出した答えが誰かに届いて、新しい難問に向き合っていくヒントにもなっていく足取りを、できる限り陽気なスキップで送る。
 今週も、青春群像劇は爽やか元気でした。

 

 

 

画像は”スキップとローファー”第7話から引用

 つーわけで7月、試験も終わり生徒会の顔ぶれも変わっていく中で、生真面目にしか生きれない女の夢が小さく敗れる。
 第4話で美津未と出会ったことで少しは余裕を手に入れたものの、高峰先輩のピーキーな生き方はそう簡単に全部が変わるわけではなく、元サッカー部の人気者と競り合うことになれば、伝わりにくい彼女の良さは勝てない。
 学習計画も自分の弱点も、なんもかんもノートに残して、一個ずつ克服していく無骨な正しさは、テキトーに会長職をかっさらった……ように思える風上くんの軽やかさとは真逆だ。
 それでも『あなたから学ばせてもらう』と真っ直ぐ、濁りなく相手を見つめられる所まで、兼近先輩の優しい恥晒しや、美津未ちゃんの先輩LOVEで持ち上げてもらうエピソードである。

 コミカルで優しい調子にまとまっているけども、例えば第4話で美津未ちゃんと出会っていなかったら、あるいは今回兼近先輩が”コムラ”を見せてくれなかったら、生真面目な努力を信じて突き進み、それが望む結果に繋がらなかった今回の傷は、結構深く高峰先輩に突き刺さっていたと思う。
 世間が俯瞰で見下ろせば『小さくありがちな青春の失敗』になろうものが、当人にとってはとても大きくままならないもので、それがより良く受け止められる下地を整えてくれるから、このお話の主役は凄い……つうのは、ここまでもやってきた所。
 バスに乗り遅れる恐怖に急き立てられていた少女が、一緒に星の海を歩いてくれる三白眼の黒猫に出会えたことで、どれだけ今までになかった……そして今までの自分を生かす柔らかな強さを、手に入れられたのか。
 高峰先輩のオモロイテンション乱高下は、そういう奇跡が背景にある。

 

 知らなかった一面を知っていく歩みは、自己との対話だけでなく、他人との触れ合いにおいても大事だ。
 ここまで『強引でイヤな先輩』でしかなかった兼近先輩は、自分が高峰先輩を傷つけてしまったことを美津未ちゃんに教えてもらって、芽吹かぬ滑稽な努力がどれだけ眩しいか、笑ってもらおうと”コムラ”を上映する。
 あまりに本気で走るので見落とすものもたくさんあるけど、見据えた未来に一直線、劇作家を目指し全力疾走する生き方にはエネルギーが満ちていて、それは高峰先輩にもしっかり伝わる。
 それは志摩くんに強引なアプローチを掛けた時にだって確かにあって、というかそういうエネルギーこそが兼近先輩をグイグイ前に進めていて、長所と短所は奇妙に背中合わせだ。
 それは生真面目すぎるがゆえに良さが伝わらず、夢の会長職をかっさらわられた高嶺先輩も、そんな彼女の正しさに共鳴している美津未ちゃんも同じだろう。

 偶然のめぐり合わせで、兼近先輩の心意気を間近に見つめた志摩くんの中で、彼はどんな存在になったのだろうか?
 チャラい横取り野郎に思える風上先輩に、真っ向向き合うことを決めた視線は、自称・人の上に立つべき男の何を見つけるのだろう?
 小さな出会いと発見を繰り返す中で、なかなか変わらない自分らしさを厄介に乗りこなし振り回されながら、新しく見つけたり、出会い直したりするモノ全てが、子ども達を確かに変えていく。

 それは清く正しくはなりきれなかった癖強少年たちが、あるいは正しすぎるがゆえに歪な少女たちが、『これで良いんだ』と今につながる過去に縛られていたり、『こういう人なんだ』と何も知らぬまま思い込む世界の狭さと、とても近い所にある変化だ。
 変わっていける喜ばしさは、いつだって変われないままならなさの隣りにある。
 濁りなく眩しい光に救われつつ、どうしてもそうはなれない自分に歯噛みしたり、変わったようでいて存在の真芯にたどり着いてはいなかったり、そういう複雑な歩みもまだまだ、みんなの前には広がっている。
 だからこそこの微笑ましい一歩には大きな意味があるし、意味を持つように美津未ちゃん達は自分たちの物語を、毎日毎日積み上げていく。
 そうやって、他人という本に何が書いてあるか覗き込んでみたり、自分の一部を差し出してみたりするのは、良いことだな。
 そう思える、チャーミングなエピソードだった。

 

 

 

画像は”スキップとローファー”第7話から引用

 Aパートでは高嶺先輩の伴走者だった美津未ちゃんは、そういう解らなさを解っていく(あるいは、解らないまま走ったり解らないことが解ったりする)物語の主役として、志摩くんと複雑なダンスを踊ることになる。
 前回とても鮮烈に描かれた、恋心以外のなにものでもない輝き。
 それはある種の暴力性を宿してしまうコミュニケーションでもあり、優れた顔面が引き寄せる数多の矢印を上手く乗りこなして、自分の核心に相手を入れない立ち回りが志摩聡介は上手い。
 上手いということを、恋心を自覚した美津未ちゃんは改めて理解していくことになる。

 自分を解ってもらったり、他人を解ろうとする努力を内心、無駄なあがきだと諦めている志摩くんは、そういう乾いた心境を優しさと笑顔でくるんで、周囲に棘を出さない、傷つけられない距離感を維持している。
 これが成熟ゆえなのか未熟のせいなのか、現状ではなかなか見えないのがお話の面白いところだ。
 志摩くんにはミステリーが多く、これがピカピカイケメンにちょうどいい感じの陰影を付けて更に魅力を上げている。
 その一端がズズいとおモデル様の顔面で飛び出してきて、手を引っ掴んで知らない場所に突っ走っていくのが、今回のお話とも言える。

 Aパートが幸福に成功したコミュニケーション、その先にあるより豊かな明日を描いたのに対し、Bパートは見えきらない心と人間、それと結びついた過去が突きつけてくる、分からなさのお話だ。
 それは世界をシンプルに切り分けることを許してくれず、時に矛盾する物語がどう結びついているのか、自分や他人を誠実に読むことを要求してくる。
 美津未ちゃんが微笑ましくも眩しく、友達と恋人の間で身悶えする奥には、今は見えていない巨大な影が過去に埋まっていたり、爽やかイケメンの未来を縛る重たい問題が横たわっている……かもしれない。
 同時に美津未ちゃんと楽しく過ごし、夏には二人きり動物園に行くだろう志摩くんの”今”が、なんもかんも嘘っぱちだというわけでもないだろう。
 美津未ちゃんに見えない、見えようとしない場所にたくさんの謎があっても、今見えているもの、彼女の光が照らしたものがかき消えてしまうわけでは、勿論ない。
 それでも分からないからこそ悩むし、間違えるだろうし、分かろうともするのだ。

 

 ここら辺の拗れた難しさを、無意識の天才で(無意識ゆえに)越えていってしまえる強さが美津未ちゃんをこのお話の、主役にしているわけだが。
 そんな一点の曇もないまばゆさでは、描ききれない複雑さを掘り下げていく仕事が、ミカちゃんには任されている感じもある。
 他人に見られる自分、他人に見せても良い自分を年代平均よりも強めに抱え込み、分厚く作った防壁を切り崩してくれる誰かを、ヒネた態度の奥に求めている。
 志摩くんと二人きり、最高のタイミングで実質デートに誘えるラッキーに選ばれなかった彼女が、行きあってしまった暗い陰りと、それを知りつつ知らず、眩く照らすかけがえない友情。
 志摩くんよりも内面と情報の開示が進んでいる分、ミカちゃんの複雑な明暗は見ている側に分かりやすく、なんともいえない魅力的な奥行きが深く宿る。

 ズカズカと人生強者の面持ちで、学園に不法侵入してきた梨々華ちゃんがいなければ、イノセントな主役を包む白と負け犬が抱え込む黒、分かりやすいモノトーンでお話はまとまっていたかもしれない。
 しかし思わぬ第三者が乱入してくることで、美津未ちゃんとミカちゃんは奇妙な同盟に結び合わされていくし、そもそも二人の間にはただ暗い感情だけがあるわけではない。
 当然、友達。
 スクールカーストなり恋愛関係なり、美津未ちゃんが見えない/見てない壁を見てしまうから踏み出せない距離を、石川県産の純情爆弾はするりと飛び越えて、その手を握ってくる。
 その温もりがかけがえない優しさで、傷つき捻じれた自分を救ってくれている実感があるから、ミカちゃんは人生と自分の心のどす黒い部分に、落ちずにすんでいる。
 『闇ふけーwww』の一言でそういう複雑な明暗を、人間一人が抱え込んだ物語の難しさを消費するのではなく、人間が色々に抱えている難しさと面白さに目を向けさせる、優秀な楔。
 江頭ミカには、そういう魅力があると思う。

 

 美津未ちゃんを世界を彩り、他人におすそ分けされる眩しい光は、高校に入り人間関係の複雑さ、厄介さにネジ曲がりつつも、未だ幼さを残す……残したいとどこかで願っている子どもたちに、喜ばしい変化をもたらす。
 同時にその真っ直ぐさが取りこぼしているものが必ずあって、彼女の死角になるものにこそ、何より大事なものがあるのかもしれない。
 志摩くんの秘された過去から飛び出してきた、迫力満点のバリイケ美少女はそういう新たな画角を、物語に付け加える契機となるのか。

 期末テストと夏休みをつなぐ、青春の中二階のようなエピソードに見えて、結構大事なターニングポイントになる回……だったのかな。
 このお話が自分の作り上げた世界、そこに生きる人達を見据える視線は凄く情緒に満ちて冷静でもあって、普通には読めない人間という書物をお互いどのくらい読もうとして、読んで、自分の物語に書き加えていくのか……群像劇の複雑な相互作用を、凄く精妙に管理している感じもある。
 それを成立させているのは、主役と視聴者への情報開示の巧みさだと思うので、ここら辺を掘り進めて優男が張り巡らせた笑顔の防壁、その硬さと深奥の影を、上手く見せてほしいなと感じます。

 無垢であるがゆえに『解らない』が特性になる美津未ちゃんが、楽しいを武器に世界を新たに削り出したり、知らないを知っていく青春の足取り。
 好きになったから知ろうとする手探りが、一体どんな喜びと痛みを掘り出していくのか……主人公と観客の足取りを、ピッタリと重ねていく。
 そういうミステリの楽しさも精妙なお話、いよいよ夏本番です。
 次回も楽しみですね。