イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

江戸前エルフ:第8話『彼女とエルフの事情』感想

 北陸金沢より金色の弾丸来たる!
 能登麻美子のお声も麗しい永世カケグルイと、愛すればこそ反抗期なインフルエンサーコンビを迎えて送る、江戸前エルフ第8話である。
 大阪の褐色ちんちくりんとはまた違ったアクの強さで、お姉ちゃんぶってるくせにヒキ生き神より更にダメダメなハイラと、ぶっきらぼうな態度に狂える熱を秘めたいすずのコンビが、大変楽しく暴れてくれた。
 散々ドッタンバッタンやらかした後に、しんみりとエルフと向き合う難しさを巫女同志共有して、小糸の靭やかな包容力が鮮烈に眩しい〆方……に、おまけでSSR寸志をねじ込んで一笑い爽やかに終わっていく構成は、このお話の魅力がたっぷり詰まっている。
 いつもの月島にじっくりコトコト関係と感情を煮込んでいくお話もいいが、遠い街からお騒がせ共がやってくる話も、異物との化学反応で巫女とエルフがどう繋がっているかより鮮明に見えて、しみじみと良い。
 色んなお話が全部楽しいのは、作品としての”徳”であろうか。
 『客が来る、客を迎える』という事象の意味や価値を、ほっこり楽しい手応えとともにしっかり削り出したのは、神道がベースにあるお話として存外結構大事なことで、こういう形で扱っているテーマの核に近い場所へ、自分らしい手付きで触れられるのは強いわな。

 

 

 

画像は”江戸前エルフ”第8話より引用

 つーわけで前半は姉を名乗るヤバ生き神が、良いテンションで月島を騒がしていく。
 背伸びしたブランド物に憧れを詰め込む小糸にとって、朱傘に梔子の装束を着こなし、シュッと涼やかなハイラはたいそう輝いて見えるわけだが、膝つき合わせて話してみりゃァギャンブル狂いのヤバ女、姉ぶる資格もありゃしねぇ。
 そんな相手でも奇縁は奇縁つうわけで、話は深まり氏神様の意外な顔も良く見える。
 小糸が背伸びしたがりなのも、幼い雪の日あまりに美しい女(ひと)に行きあってしまった結果であって、他人を評価する軸が無自覚的にエルダ色に染め上げられてる所、本当に好きだな……。
 後に明かされるようにいすずも相当なハイラキチであり、『巫女様はみんな、一度はエルフに恋をするんだよ……』と言わんばかりの因縁と感情が絢爛豪華綾錦、それぞれの街それぞれの暮らしにひっそり紐づいているのは面白い。

 とにかくハイラがダメダメなので、ぐうたらヒキエルフが普段の三倍立派に思える。
 姉を名乗る異常者を相手に慣れない説経節などもがなるけども、結局長く続いた間柄というのはなかなか覆せないもので、すっと懐に入り込む姉ぶりに、永世者は満更でもなく拗ねて見せる。
 このエルダのかんばせを、じーっと小糸が見ている所が本当に良いな、と思う。
 自分の知らない色んなエルダをその目で見届けて、もっと一緒に好きになっていくことが彼女の、心からの喜びなんだなー、って感じがする。
 自分が相手のすべてを知っていると自惚れることなく、毎日違う表情に驚きつつ喜んで、新しい幸せを彼女の神様と作っていけるのは、とても豊かな生き方だ。
 そこにほんのり、ただ清潔で正しいだけではない湿った潜熱が在るのが、なお良い。

 

 

 

 

画像は”江戸前エルフ”第8話より引用

 ハイラを追いかけて長耳神社にたどり着いたいすずを、巫女の後ろに隠れて警戒するエルダが、レア菓子でひょいひょい釣られて前に出てくるところも、現金でカワイイ。
 エルダの俗欲もハイラのギャンブル狂も、生き神様を高御座に遠ざけて崇敬するのではなく、共に同じ場所で行きていく隣人としての親しみやすさとして、チャーミングに扱えているお話である。
 笑いの作り方に濁りがなく、結構ヤバい部分もシャレですむよう綺麗にアクを取ってあるのが、こういう魅せ方を可能にしているように思う。
 カミと崇め立てられつつもヒトと隣り合い、一緒にバーベキュー食って疑似姉妹イチャコラを見せつけたりするエルフたちには、時の流れを乗りこなす逞しさが宿る。

 しかしどんだけ人間臭くても、彼女たちは永生者だ。
 流れ行く時が自分たちを引き裂く定めは、ずっと変わらない関係に戯れる長耳の姉妹を見るほど、巫女の胸に重く突き刺さっていく。
 小糸といすずが同い年の友達らしく、あこがれから友情へと感情の色合いを代えながらお互いを語り合う場面は、凄く良かった。
 大事な友だちであっても高麗ちゃんとは共有できないものを、あまりに永く生きる美しい存在に幼い時出会ってしまった二人は互いにもっていて、じつはいつでも胸の奥疼いているその痛みが、二人を近づけていく。
 ぶっきらぼうインフルエンサーの内心を間近に感じて、むしろ小糸のほうがちょっとお姉さんっぽく、行き場のないいすずの気持ちを引き出し、受け止めてあげる様子は、エルだとハイラとはまた違った”姉妹”の匂いがある。

 いつか別れていく定めならば、最初から愛さない方がいい。
 そんな思いが胸をよぎるのも、美しい異種に惹かれるのと同じように皆同じで、それでも小糸は同じ時を彼女の神様と、笑って過ごすのが正しいと言い切る。
 スカイツリーで見せた表情を思えば、堂々言い切れない複雑さは当然小糸の中にもあるのだが、自分に言い聞かせるように呟いた強い言葉には、湧き上がる黒雲に飲み込まれないための祈りが、確かに混じっている。
 その静かな決意がいすずに届いて、巫女と神様の、永生者と定命の難しい距離感に少し、ヒントをくれる。

 ダイレクトにいすずとハイラの関係が改善するのではなく、あくまで同じ難しさを共有する巫女たちの縁が結ばれ絆が紡がれ、小さいけどかけがえのない手助けが二人を繋いで、いすずを前に進めてくれる所が、少女の意思を尊重してて良い。
 妹の顔を久々に見に、あとお馬さんにたっぷり幣を奉納するために東京を訪れたハイラは、巫女を伴って金沢に帰っていく。
 そこでは月島で営まれるような毎日が積み重なって、重たい定めを微笑んで跳ね除けられる強さが、錦のように豊かに、静かに編まれていく。
 旅が何もかもを解決してくれるわけではないけど、新たな出会いがよりよい場所に自分を連れて行く助けになることも、普段とは違う場所だからこそ古く懐かしいものの意味を思い出すこともある。
 そうやって手に入れたものをお土産に持ち帰って、いすずはちょっとだけ勇気を出し、彼女の胸の中にある難しさに自分なりの答えを出していく。
 その御礼が最愛のあの人、飛び切りの笑顔を刻み込んだお手製ブロマイドなのは、チャーミングで収まりの良い、小さな旅の終わりだった。

 

 というわけで、新キャラを触媒に主役たちの意外な魅力、新しい関係、揺るがず大事なものを削り出していく回でした。
 とっても良かったです。
 既に『こういう所が好き』ってのが固まっている人の根っこに、しっかり新たな登場人物の魅力を食い込ませて、お互いの地金が良く見えるよう、楽しく明るく話を転がす。
 テンポの良い笑いとしみじみした情感のバランスも良く、お話の強さと良さがギュギュッと濃縮されたエピソードでした。

 客人は微笑みながら故郷へ帰り、月島で日々は続く。
 たとえ宿命がその平穏を揺るがすとしても、その輝きは眩くも温かい。
 巫女とエルフの物語はまだまだ続く。
 次回も楽しみですね。