イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

私の百合はお仕事です!:第8話『どなたに投票いたしましょう?』感想

 花咲く地獄は今日も全開!
 メガネとギャルの感情爆裂が止まらない、虚実愛憎の境界線上を流れるアリア、わたゆりアニメ第8話である。
 果乃子がとにかくキモいッ! 素晴らしいッ!!
 前半散々ギクシャクしていたのがジャブでしかない、我欲と愛着にねっとり塗れたズルい女の粘着質に、唯一気づく頼れる先輩。
 明るい職場を守るべく、恋愛という劇薬絶対制止の覚悟を決める純加であるが、ではどんな傷と痛みが彼女を、頑なな暴走に追い込んでいるのか。
 何もかも、キレイな見た目で収まってないのは既に作品が示した通り。
 わたゆりアニメ第2ランドは、暗く湿った場所へと深く……もっと深く潜り込んでいくわけよ!

 

 外面全く作らねースパルタン生き様を、コンカフェ稼業のお芝居でなんとか包んで生き延びている、愛して憎んだ幼馴染の今。
 それを『なんか嬉しい』と思える所までかわいい外面モンスターは自分を押し進め、明るく拓けた場所に進みだそうとしている。
 『それじゃ困るんだよ……』てのが果乃子の執着であり、陽芽が嘘まみれのスーパーエゴ、性格極悪でその性根込みで愛しているのが自分だけな状況にとどまってくれないと、果乃子の独占欲……陽芽が隣りにいてくれることで意味を持つアイデンティティは果たされない。
 がっちり自己愛と食い込んでいるくせに、健気な奉仕を軽い嫉妬混じりに差し出しているだけと自己像を美化できる認知の歪みが、前半は”主人公の親友A”みてーなツラしてた女にはある。
 ここら辺の自己防衛、愛されたくて嘘つきな自分をまず認めた上で、その意識が暴走して美月を傷つけた過去を振り返り反省し、愛され願望をコミカルに制御できつつある陽芽と真逆で、『やっぱ自己愛の湿度は人それぞれだな!』って感じ。

 純加はこういう歪で身勝手な情感を、『正しくないから』と高みからサッパリ断罪して止めようとしている……わけでもない。
 伊藤静ボイスが圧倒的強キャラ力を放つ、他人の人生捻じ曲げまくりマシーンこと五影堂先生にでっけぇ傷を負わされて、とにもかくにも”恋愛”なるものが職場に持ち込まれれば、即座に毒ガスが発生してみんな死ぬ! という危機意識。
 それが、純加を激ヤバ女の防波堤へと変貌させていく。
 その過剰な反発は志半ばにねじ切られた恋心への、愛が反転したからこその苛烈さであって、正しくなさでいえば実は、果乃子とどっちもどっちだったりする。

 同じ穴のムジナ、同病相憐れむ、歪んだままでハマる私たち。
 そんな過去と現在と未来が、一皮剥けば腐臭漂う激ヤバコンカフェには役者を代えて、幾重にも重なっていく。
 表面上の役柄を突き破って、話の進行とともにキャラクターに秘められた獣が顔を出してくる様子は、作り物の同性愛……その漂白された気配を売り物にしている”お仕事”を触媒にして、よりエグいコクを作品に付与していく。
 ピカピカ眩しくキレイな外面の奥にあるわかり易さと、そこに深く繋がりつつ真逆な本性は、ブルーメ選挙に湧く営業中のリーベでも、源氏名外して素顔であるくバックヤードでも、複雑な乱反射を見せている。

 

 

 

 

画像は”私の百合はお仕事です!”第8話より引用

 この複雑怪奇な対峙を描く画面作りが、今回は絶妙で精妙だった。
 職場恋愛へのトラウマから、持ち前の目の良さと優しさから周囲を夜句見れる純加は、当人が気づいてもいない陽芽への果乃子の恋心に接近し、冷たく切り離して終わらせようとする。
 その歩みは見た目ほど清廉潔白でも安全無敵でもなく、暗い闇に閉ざされて相手の顔を見ない距離から始まって、段々と光に満ちて相手に近い場所へ、お仕事で着るリーベの制服から、素顔を晒した私用の制服へと着替えながら変質していく。
 果乃子の素顔が見えたように思えて、ファーストフード店で間近に確認してみれば。あまりに歪な……『バキの決戦直前シーンかよッ!』と思うくらいぐにゃ~~っと歪んだ重力を宿す。
 その時、純加の視界には果乃子が入っていて、果乃子から親切な職場仲間は消えている。
 ただただ、『私を特別にしてくれる、特別なあなた』との狭い関係性に閉じこもり、何もかもを壊してその残骸で己を満たすエゴイズムは、他人の存在を世界から消すのだ。

 純加がどんな傷故に果乃子の危うさに気づき、近づき、飲み込まれていくのか。
 回想で仄めかされつつダイレクトには描かれないこの局面、窓に降りたブラインドは果乃子との断絶を示すと同時に、窓鏡に反射されない素顔をまだ純加が隠している現状を強調する。
 楽しい職場のため、みんなの未来のため。
 白々しく正しい外面の奥に、今果乃子が晒しているキモく切ない本音と同じものを秘めているからこそ、陽芽が気づかない熱情に目を向け、わざわざ怪物に身を寄せて親身に、凶暴に立ち向かっても行く。
 カーテンに秘匿された純加の過去や本心は、『他人の視線に敏感で、それに合わせて賢く立ち回れる陽芽が、間近にヌッと潜む湿った情愛には何故気づけないのか?』というミステリの逆位相でもある。
 彼女だけが受信できる信号が果乃子からは放たれていて、それが職場と自分をもう一度ぶっ飛ばすと感じていればこそ、問題解決の主役は純加に移り、陽芽ちゃんはカワイイだけのやかましいモブみてーな立ち位置に、一旦引っ込むことにもなったのだ。

 恋愛……とひとくくりにするにはあまりに醜悪で、複雑で、毒気と芳醇を同時に宿している果乃子の内臓。
 純加はそれをおぞましく危うい火種だと遠ざけつつ、果乃子が背負い内側にまくりこむものに……間宮果乃子であり雨宮果乃子でもある女に、確かに惹かれていく。
 そこには最初の対話の時世界を満たしていた冷たく暗い客観ではなく、暖かで眩い主観が、身を乗り出して相手の顔を見る(見てしまう)性分があって、それが怪物の牙が届く所に、”面倒見のいい先輩”を引っ張り出していく。
 陽芽と美月の接近を阻止し、嘘っぱちのお仕事ですら愛が奪われていくことに耐えられない、弱く脆く凶暴な純情。
 美麗なるグロテスクが、知花純加をもう一度、とても危うい場所へと引っ張り出していく。

 

 暴かれてみれば闇は常に目立つもので、果乃子はヤバいキモさがガンガン前に立ってはいるけども、クソヤバ我欲人間の本性知っても間近に寄り添い、”友達”してくれた事実は別に消えたわけではない。
 たった一人のあなただけを求める理由が、その特別さが自分を特別にしてくれる邪悪なメイクアップ意識だけでなく、ただただあなたが特別だからという、純粋なトートロジーにも支えられているのは、まぁまぁ本当のことだ。
 キレイな夢とどす黒い泥を切り分けられないのが、人間なる者のなかなか難しいところで、我欲と純情の入り混じった複雑な怪物(キメラ)をこそ、華やかな外装の奥、皆が秘めている。
 その裏腹にガンッがん切り込み、臭気プンプンの生肉をどっさり取り出してくれる所に、やっぱこのお話の……もしかすっと百合というジャンルの面白さを、僕は感じている。

 それにしたって果乃子キメーし、作中唯一『テメーキメェんだよ!』と指摘してくれるギャル先輩に期待と信頼が向かうのも、また無理なからぬところだけども。
 こうして体重預けた片足がとんでもない地雷に乗ってて、過去と真実がブッパされるといい塩梅にぶっ飛ぶのも、またこのお話の楽しいところだ。
 『外面怪人なのがちびっ子お姫様と生真面目不機嫌だけだと思ったかッ!』という、前半の展開をテコに使った裏切りの気持ちよさもあり、ギャルとメガネの思いが揺れる第二部、大変いい感じに加速している。
 この百合色のジャングルで生き残れるのは、獣を秘めた女だけ……。
 アニメが純加先輩の抱え込む怪物をどう表現してくるか、こっから先も大変楽しみです。