イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

BIRDIE WING -Golf Girls' Story-:第25話『蘇る約束』感想

 トンチキ青春ゴルフストーリーも、遂にフィナーレ!
 振り切ったと思っていた過去が牙を剥き、手負いの獣たちが勝利のためにひたむきに走る。
 虹色の弾丸が、未来への翼が切り開く約束の果てに、月は出ているのか!
 全英オープンの結末と、その先に続いていく未来を描き切る、バディゴル最終回である。
 最後まで勢いと緻密さでゴリゴリ押し込んでくれて、大変良かったです!!

 

 つー訳で葵がぶっ倒れイヴの過去が暴露され、最後の最後までピンチとトンチキたっぷり、一瞬先も読み切れないドラマティックが元気である。
 やや……ていうか決着の預け方含めメチャクチャに強引であるけども、そのパワーに任せた力押しで気持ちよく、この最終話まで押し流してもらった僕らもいるわけで。
 話の幕が閉じるまで、自分たちのスタイルを緩めることなく徹底的にやり切ってくれたのは、僕としてはとても嬉しかった。

 無茶な熱さで道理を引っ込める、パワー勝負のやり方は同時に結構繊細でもあって、女が女を想う柔らかで激しい気持ちは、葵が棄権することでより強くなっていく。
 ユーハさんが想定よりもハードな難敵で、獅子を手負いにする危うさを一人理解してたり、精密機械にしっかり熱を入れてライバルの追い上げに立ち向かおうとしたり、最後の壁に相応しい格があったのも良かった。
 ダーティな過去の暴露は……終わったはずのネタが蒸し返された水差し感と、でもしっかりケジメ付けたほうが収まり良さそう(”ゴルフ”に失礼じゃなさそう)な感じと、『そんなに”そして数年……”やりたかったのかッ!』感と、色々混じって面白い味わいである。
 まぁやりたいよね……運命に翻弄された宿命のライバルだもんね……。

 葵がぶっ倒れたときからライバルの機体(クラブは機体ではない)に乗り込み、宿敵にナビゲートされながら最終決戦に挑む展開は期待していたので、そこにズバッと入れてくれたのは嬉しい。
 『完結しない物語ほど、魅力的なものはない』とは、とあるフィギュアスケーターの言葉だけども、葵をライバルではなく相棒として挑む最終決戦にしたのは、永遠に飛び続ける虹色の弾丸の行方を、僕らに預けてくれる書き方なんだと思う。
 葵を隣に置きつつ、実際のスコアを追いかけるユーハではなく未完に終わった葵と戦い続けるイヴの純情は、この物語を最初から最後まで駆動させてきたものに、嘘のない表現だったと思う。
 勝ち気なビッグマウスで対戦相手を飲み込みつつ、葵に対してだけは純情であり続けているのがイヴの良い所なので、最後の最後に最大の爆弾を投げ込んで、『コイツ……どんだけ天鷲葵が好きなんだよ!』と思わせてくれたのは、大変良かった。
 そういうイヴが、俺も好きだったからね……。

 イチナと雨音を横にのける形にもなったけども、特に終盤の海外修行編でそれぞれに強くクローズアップしたのもあって、蔑ろにした感じがなかったのも良い。
 間に1年の休憩をはさみつつ、2クール待ち望んだ二人の運命が描かれるタイミングながら、イヴと葵で終わって欲しいと、見ている側もやはり思う。
 そうやって見ているものを惹き込む情念描写に、山盛りのトンチキを真顔でぶち込み高速で展開させるスタイルだけが、ぶち抜いて見せれる景色。
 最後の強敵、ユーハ・ハミライルの”格”にも後押しされて、作品が到達できる一番高い場所には、しっかりたどり着けたと思う。
 あんだけ実力も品格もあるユーハさんを、あえて眼中に入れないイヴの不遜と純愛が、葵への特別さを最後の最後燃えさせてもいて、とても良かった。

 

 たかがスポーツで人が死ぬ、古式ゆかしいスポ根物語を新たに描きおなした、梶原一騎ルネサンス的側面も、思い返せばあったように感じるこの作品。
 ゴルフに、運命の勝負に全てを掛けて燃え尽きさせるルートもあったとは思うが、作り手は葵の病に治療法を見つけ、イヴに三年の禊を終わらせ、少女たちが大人になれる道を、自分たちの軌跡として選んだ。
 何しろ大変なことが多かった主役が、結局作中では決着を付けれないまま終わるのだから、これから先いくらでも競い合い、愛し合う未来が待っている決着は、実りが多くて嬉しい。
 葵がラストパットを打てなかった時点で、自分の命と才能を担保にイヴに勝つ道が塞がれた時点で、時に運命に邪魔されながらもしぶとく、笑いながら明日を追いかけていく未来は決まっていたのだろう。
 そのほうが嬉しいし、このお話、葵とイヴらしい決着であるようにも思う。

 記憶を失い、ゴルフが情熱のない”仕事”になっていた人間が、運命のライバルと出会い、その楽しさに目覚めていく。
 たった一人、いつだって湿気った心を燃え上がらせてくれる面影を追いかけ、間近に笑い合いながら、終わらない未来を撃ち抜いていく。
 髪を切ったイヴはとてもゴルフが楽しそうで、葵を唯一絶対のたった一人と追いかけつつ、イチナをはじめとした大事な人たちの手も取って、とても豊かな場所へと進み出せた。
 勝ちへの飢えと満たされた喜びはどちらかが正しいのではなく、ゴルフという競技を、より楽しむための比翼の翼。
 葵とともに、葵を相手に、見事戦いぬいたこの最終決戦は、イヴが葵っぽく、葵がイヴっぽくお互いを染めていった歩みを、W主人公を真ん中に据えた物語を、完成させる最後のピースにもなった。
 荒くれた主人公が親世代のしがらみ、身体の限界に翻弄されつつも、自分だけの答えをしっかり掴み取る成長譚としても芯が太かったのは、青年主人公の物語としてかなり大事なところであった。
 世間一般に望ましい成熟は葵もイヴも果たさず、性格極悪の厄介女のままガンガン自由になって、ガンガン強く優しく愛しくなっていくのが、独自の魅力だったなぁ。

 

 というわけでBIRDIE WING -Golf Girls' Story-、無事完結いたしました!
 最悪の治安で展開するトンチキ闇ゴルフから始まり、キャピキャピ弾む青春ガールズストーリー、それをひっくり返す赤い因縁と世界修行、最後の最後で一気に遅い抱える病魔と過去!
 ジェットコースターのように乱高下する物語に、楽しく翻弄させてもらう一年間となりました。
 ただ勢いが良くぶっ飛んでいるだけではなくて、癖が強いながら芯のある主役のぶつかり合いを軸に、魅力的なライバルを時に鎧袖一触、時に長いスパンでいいキャラに育て上げて、群像劇的趣……っていうには、主役無双が過ぎますが、全員好きになれるお話にしてくれたのはとても良かったです。
 脚本得意の意地と生き様のぶつかり合いを、熱く燃えさせつつ宿命の決戦に向けて上手く見ているものを焦らし、繋がったと思えば離れ、たどり着いたと思えば試練が襲い、安心する暇のない展開はサービス満点、とても良かったです。

 キャラクターの扱いにしろゴルフという競技との向き合い方にしろ、八方破れのやりたい放題に見えて根っこに生真面目さがあり、『この人間はこういう魅力があるんだ!』『この競技はこういう面白さがあるんだ!』と、思いの外真っ直ぐなメッセージをメチャクチャヘンテコな角度から、強くぶっ込んでくるアニメでした。
 後半話が加熱するに従って、ショット自体は虹色にインフレしていくんだけども、難コースに揺るがぬ強敵と、競い合い方はむしろゴルフの本道に戻っていくのが、なかなか独自の味わいで面白かった。
 イヴと葵の強い魅力を着火剤にして、『ここまで燃えさせるゴルフというものは、結構良いものだな……』と見ている側に思わせれていたのは、なんだかんだ偉いなぁと思います。

 暗黒街のダーティーな味付け、複雑に絡み合う因縁と感情、爽やか学園物語の味わいまで。
 色んな要素をゴリッゴリ積み上げ、惜しげもなくぶん回して使い切るテンポと圧力の高い展開でしたが、各部それぞれに独自の善さがあり、忘れられないオモシロ人間共が必ずいて、色んな面白さが的確に躍動していたように思います。
 こんだけ書き方を高速で切り替えつつ、主軸をハッキリさせて毎回面白く作るのってメチャクチャにテクニカルなはずなんだけど、こういう上手さを勢いに覆い隠して、楽しい馬鹿騒ぎをやり切ってくれたの、本当に尊敬します。
 磨き上げた巧さをあくまで楽しさのブースターと割り切って、ぶっ飛んだ発想にブレーキ駆けずに突っ走り切るのって、やっぱ凄いことだよ。

 そんな創作物としての魅力も強くありつつ、何より主役二人がとても好きになれるお話で、イヴと葵が生きてゴルフをする事を最後まで大事に、お話を作ってくれました。
 『俺たちは……俺達が作ったこの素敵な子達が、とても好きなんだ!』って、作品全部が吠えてくれるアニメはやっぱり、奇跡のようにありがたい。
 そういうアニメの根本的な魅力を大事に、豊かなお話を最後まで見届けることが出来て、とても良かったです。
 ありがとう、お疲れ様でした!
 本当に楽しかったですッ!!!!


・追記 定番をどう古びさせず、今このために生まれたかのように活かしきれるかは、マジで腕が出るところだと思う。