イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

蒼穹のファフナー THE BEYOND:第3話『運命の器』感想

 目覚めた先に待っていたのは、見知らぬ故郷と残酷な現実。
 体だけデカく育った転生ショタをかつての主役たちが激詰め!
 どっちの気持ちも解るからなお辛い、絶滅戦争の中の生活を描くファフナーBEYOND第3話である。

 真壁司令の良くわかる現状説明などもあり、完全に噛み砕けないながらも状況をソウシと一緒に把握してきた感じではあるが、だからといって幼く揺れる彼の気持ちが落ち着くわけでもなく、虚無との出会いが破滅を導く。
 眼の前で家族だと思っていた存在と故郷だと思っていた幻影をぶっ壊されたのは紛れもない事実で、一騎がその怒りを自分に誘導しようと険しく振る舞ってる事もあって、ソウシは突きつけられた真実よりも、慣れ親しんだ嘘を大事にしたがっている。
 ”ファフナー”の過酷すぎる旅に付き従った視聴者としては、『解ってくれよ……』といいたくもなるが、大事にされていることを解らない、解かろうとしないソウシの思いもまた当然の反応で、でも厳しすぎる世界にはそれを大事にする余裕がない。
 かつての柔らかさをしかめた顔に押し込めて、ずーっとゴルゴってる真矢もかつては、甘やかな愛に包まれて瑞々しい心を護られてきた子どもであった。
 どんだけ人として生きていくことが難しい世界であっても、だからこそ文化や優しさを必死に守ろうとしてきた人たちの新たな故郷に、大人になってしまった人たちの頑な厳しさがそびえ立って、その峻厳が寂しい。
 一騎が黒くて怖いコートを着ていたのは、いなくなってしまった皆城総士への喪なのであり、ことさら非人間的な冷たさをソウシに押し付けるのは、かつての親友の生まれ変わりを厳しい真実を知ってなお、人として生きれる強さを育む試練として、己を立てるためなのだろう。
 でもさぁ……真矢ちゃんもそうだけど、わざわざ頑張って怖い顔しないと優しく笑ってしまいそうな人たちだからこそ、硬い殻で厳しさを装っているのが見え見えで、それは彼らをこの年まで育んでくれた人たちがかつて、やってくれたことでもあってさ……。
 ソウシが想定以上に可愛いベビちゃんだった嬉しさと、過酷な時の流れが少年たちをどう変えたかが同時に刺さって、なかなか複雑な……『あ、いまファフナー食ってるな』って気持ちになる回でした。
 厳しすぎる現実の中でも靭やかに笑おうとする命がけの優しさと、その祈りが時に何も動かし得ない切なさが両立しているのは、メチャクチャこのお話らしい。

 

 というわけで赤い月が睥睨する世界の中でも、ふるさとの風は美しい。
 函館モチーフの景色は龍宮島と違っていて、しかし人の営みが生み出す朗らかな空気に満ちてもいて、苛烈なEXODUSの果てがただただ哀しいばかりじゃなかったんだなと、辛さのあまり脱落した僕に教えてくれた。
 でもまー、こら龍宮島は沈んでんな間違いなく……それでも帰郷を諦めない人たちの奮戦記なんだから、やっぱ出エジプト記の匂いは濃いね。
 そういう場所に引っ張り出されたソウシは、本気の憎悪とそれでも減る腹を抱え、美羽ちゃんの純情アプローチに耳まで真っ赤になっておった。
 俺はファフナーがどシリアスな皆殺し戦争と真っ向相撲を取りつつ、萌え力高めに可愛くキャラを書いてくれるところが大好きなので、飯食ったりラブコメ始めたりするソウシがめちゃカワなの良かったなー。
 皆城くんに守られる側だった美羽ちゃんが、少し背の低いお姉ちゃんとしてソウシの孤立に寄り添って、反発ばかりの彼を気にかけて優しくしてくれているの、メチャクチャ染みる。
 子どもが新しく生まれない世界なので、転生して0歳から人生やり直しているソウシの同年代ってのは全然いなくて、奇跡の子どもである美羽ちゃんが唯一、同じ目線で彼と接することが出来るのは、ありふれた恋の芽生えがどんだけ特別なのか、噛みしめるといい味出る作りでグッドだ。

 『オメーの故郷がぶっ壊れる音だよッ!』と、一騎が最悪魔王ッ面頑張ってた偽龍宮島大破壊だけども、そこに住んでいたフェストゥム(あるいはその虚無に共感できる人間)がニ年間の嘘を通じて、人間の感情を学んだのは嘘ではなさそうだ。
 二年前は完全戦闘マシーンっぽかったセレノアやレガートが、偽りながら家族としてソウシや島の歴史に愛着を持っている様子が、バトルの隙間からしっかり滲んでいた。
 そういう誠を間近に感じたから、ソウシはそれが奪われた今がとても辛くて、一騎が突きつけた真実をなかなか認められないのだろう。
 故郷が沈んで宿敵がそのナリ盗んで家族ごっこ、人間ごっこに励んでいるおぞましさは、アルヴィスクルーにとっちゃ当然の反応なんだけど、でもその模倣が人の営み、人であることの意味をフェストゥムに教えた意味は結構デカい気がする。
 対話と和平の礎になりそうなこの体験は、あまりにも長く殺し合いを続けている旧い世代にとっては乗り越えがたいもので、人間とフェストゥム2つの家族を持ち、両方の立場に立てるソウシだけが、架け橋になれる断絶なのかもしれない。
 ……美羽ちゃんのエスペラント能力を考えると、それはソウシ一人の旅ではなく、同年代の友達も一緒に悩み揺らぎながら走っていく旅になるのか。
 学園コメディなら人死にも出ず幸福に迷える、児童に当たり前で大切な発育過程なんだろうけども、何しろこの世界人間の当たり前を全部すりつぶして戦い続けているからな!

 

 『人間はこういうモノ、フェストゥムはこういうモノ』と思い込むことで、なんとか存在を支えている儚く優しい戦士たちが皆駆け抜けた、荒野の青春物語。
 その新たな主役としてソウシと美羽ちゃんがいる……って話であり、同時に生きている限りあらゆる人の物語は続いている。
 七孔噴血してでも仲間を守った剣司が、第五次蒼穹作戦の反動デカすぎてジークフリードシステムの制御を譲るしかなかったり、真壁司令が杖ついて歩いてたり、大人に見える人たちにだって時の流れは押し寄せて、色んなものが変わってきている。
 それはかつて荒れ狂っていた気持ちを落ち着ける器を、試練の中で作り上げたからこそ歩ける道で、ソウシも今まさに、そういう旅を始めていくのだろう。
 ニヒトに乗った瞬間『ウォアアアー! 全部壊す!!』ってなったのは、変性意識の影響だとは思うんだが、同時に彼をまだ支配している嘘への愛着が、真実だからこそ暴れるわけで。
 それをただただ嘘っぱちだと殴りつけても、故郷も家族も奪われたガキンチョが納得するわけ無いでしょ! ……って話なんだが、そこに寄り添う仕事は仲間に任せて、一騎と真矢ちゃんはめちゃくちゃ厳しい”大人”を演じようと頑張っているのが、寂しくもあり頼もしくもあり。
 ソウシが持ち込んだ『フェストゥムが人になりうる可能性』は、自分の心身と仲間の命を削りながら戦い続け大人になった二人にとっては、追うべき理想と解りつつ飲み込みにくい、その実現しなさを思い知らされている危うい夢なのかもしれない。
 だからこそ蘇った希望が奇跡を掴みうるのか、自分たちが試金石になって強く当たっている感じもするなぁ……。
 ふたりとも皆城くんがすごく好きで、まぶたの奥にずっと思い出が焼き付いているからこそ、その運命を引き継ぎつつ別の個人でもあるソウシとの向き合い方が、なかなか難しいのだろう。
 ここら辺を全部ヒョイッと乗り越えて、同じ年頃の友達としてぴっとり寄り添える美羽ちゃんのポジション、マジ強いな……。

 『甘っちょろい優しさで事実を回避したところで、絶望の未来は覆らなかろーが!』というのは海神島の生き神様も、同じ考えみたいで。
 ルヴィ・カーマ様、エミリーちゃんの転生体マジ!!!?
 同じ転生者でも図体だけデカいショタ(大好物)なソウシとは違って、超越者らしい落ち着きとロリババァ知性に満ちあふれておるけども、あえてニヒトにソウシを載せた彼女の決断が、どういう結果をもたらすのか。
 ソウシの幼い暴走は頭ごなしに否定するべきじゃなくて、そうやって周り巻き込んで身じろぎしなきゃ収まらない、夢と真実の間にある成長痛を上手く発散して、受け止めてやらないといけないモノだろう。
 どんだけ憎悪に凝り固まっても、失われた幻に支配されているようでも、腹は減るし優しく寄り添ってもらえると嬉しい。
 そういう人間が当たり前に生きている証の一つとして、ニヒト大暴れはあるわけで……しかしガキのおもちゃにするには、あんまりにヤベー機体でもあるしな……。

 

 子どもが振り上げた拳をその身で受け止めてあげれる大人の強さを、少年たちは戦場で育み得たのか。
 そこらへんも問われそうな展開で、何が見れるか大変楽しみです。
 第1話からキッツい闘争ばかりが描かれて、第2話で描かれた平穏は窃盗された嘘っぱちで、ようやくゆるふわ日常アニメの顔してくれたと思ったら、その中心がウォアアアー! するというね……。
 この乱高下もまた人間の証明であるなら、作品が持つ多彩な魅力を噛み締めていくのが、見る側にとっては大事かな、と思う。
 山積みの絶望の中かすかな希望を掴み取る、作品のポテンシャルを信じきれずに視聴を一回諦めてしまった身としては、なおさら脳髄に焼き付けるべき態度であろう。
 次回も楽しみです。