イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

アンデッドガール・マーダーファルス:第3話『不死と鬼』感想

 首だけの名探偵の視線が、秘された真実をえぐり出す。
 欧州舞台の奇怪な推理物語、情報収集と整理の第3話である。
 お話がカタルシスに飛び込む前準備というか、鴉夜が持ってる目の付け所、情報の吐き出し方を描写して、謎めいた事件をズバッと解決するだけの資質を視聴者に見せておく回だった。
 基本しゃべくり倒し情報を引き出し並べる回になるので、あんま大きな動きはないけども、そこはバロックな画作りでカバーして退屈させない。
 ここら辺は同じ畠山監督の”かぐや様は告らせたい”とか”昭和元禄落語心中”とかでも強かった部分で、異様に捻れたヴィジュアルで常時見てる側を殴りつけることで、あくびする余裕を奪う戦法なんだと思う。
 奇想天外な絵面がボコボコ湧いて出るのは、このお話の作風にもしっかりあっていて、そこらへんの馴染み方を味わう回でもある。

 

 

 

画像は”アンデッドガール・マーダーファルス”第3話より引用

 津軽が食い散らかす人間向きの食事とは、一線を画す赤いスープ。
 血吸鬼にとっては当たり前の昼夜逆転は、仕える者にとっては結構な負担で、しかし怪物の王者たる自負と偏見はそういう人間の苦労を視界に入れれない。
 そういう異形の傲慢を別レベルで突き詰めた存在が鴉夜ならば、彼女が食事自体を取らないのは納得であり、津軽がヘラヘラ笑いながら半ば天然、半ば芝居で作っている俗な雰囲気の隣に立つことで、鴉夜の超俗はより際立ってくる。
 黒沢ともよの芝居も大変いい感じで、鴉夜の声は素敵な楽器のようにスルスルと耳を撫でて、長広舌もむしろ心地良い。
 話す内容と語り口で相手を圧倒する、舌戦活劇の側面も持つ探偵物語において、茶化し役含めた語り部の可愛げは大事だなぁ、と思う。

 お話の舞台は常に真夜中なので、オレンジベースの蝋燭の灯りが常時灯り続けている。
 それはアリバイを聞き出し、疑いを向け、反応を嗅ぎつけ、視線で貫く不確かなマインドゲーム全体を照らしていて、どうにも落ち着かない色合いだ。
 誰もが何かを隠していて、それを暴く探偵側も性格の捻くれた人外ばかりで、頼るべきものが何もない。
 そんな不安定な空気が最後、首だけ探偵と戯けた保持役が決着を宣言した時、スーッと冷えて青く落ち着く。
 ここのライティングコントロールは、闇に生きる怪物たちの話だからこそ鮮明な印象を与え、とてもゴシックミステリらしい演出だと思った。
 真相に至るヒントを集めつつ、それがどういう意味を持つかは未だ保留されている情報収集フェイズが終わる合図として、この理性の冷光は大変良い。
 それをくだらない身体消失ジョークばかりほざいて、何にも真面目なふうには見えない連中が引っ張ってくるのが、生真面目と不真面目が転倒して成立してる、ファルスの仕草だろう。

 

 

 

 

画像は”アンデッドガール・マーダーファルス”第3話より引用

 表層のトンチキ加減に比して、食卓での会話は真実の観測装置としての鴉夜の鋭さを、とても面白い画角から照射する。
 見据える相手すら自分では決めれない、津軽の手で角度を切り替えてもらわなければ相手も睨めない鴉夜にとって、眼光と舌鋒……それで切り刻んだ事実を咀嚼して真実を結晶化させる頭脳だけが、彼女の武器だ。
 首から下を使って何かを表現することが出来る常人……腕やら体やらが喋りすぎてにぎやかな津軽や、ストイックな自制心で直立し続けるゴダール卿に比べて、鴉夜はそういう印象を文字通り切り捨てて、純粋な観察と推理だけを卓上に乗せ続ける。
 これが推理の装置としての探偵の機能を上手く可視化していて、その視線が虚偽を暴き立て、あるいは『私は知っているぞ』という圧力をかけることで犯人の勇み足を促し、状況をクライマックスへ導く権能を強く顕にする。
 客観で見れば鳥籠に囚われ、身じろぎも他人任せな鴉夜は不自由な囚われ人だが、探偵の一人称にカメラを移した時、檻に入っているのは嘘と疑念まみれの容疑者の方だ。

 同時に鴉夜にはただの機械にはありえない茶目っ気と優しさを持っている。
 いかにも怪しい執事をその眼球に捉える時の怜悧と、幼い吸血鬼に尖すぎる真実をあえて向けず、正面対峙しない(させない)まま証言を取る柔らかさは、眼に挿した紅が印象的な生首の中で、矛盾せず融和している。
 機械めいて正確で冷酷な真実探求と、チャーミングな余裕を宿したユーモアの境界……吸血鬼たちが過剰に装備した旧世代の儀礼主義を飛び越え、無作法に撹乱しながら殻の奥にあるものを暴いていく姿勢は、ただ鳥籠使い一座が現状を撹乱するトリックスターだから身にまとうわけではなく、胴体盗まれて死にたいほどに落ち込みつつ、軽口を止めれない彼女たちの生粋でもあろう。
 人間の生き死に含めた何もかもを笑い飛ばしつつ、しかしそこに宿る大事な重たさは踏みつけないよう、軽やかに踏まれるステップ。
 探偵・輪堂鴉夜が己の生業をどう扱い、そこに絡みついてくる社会や因習や感情をどう睨みつけているのか、良くわかる回だった。
 怪物を駆逐して成立した現代に、なおたなびく中世の残滓に同じ怪物として向き合う存在が、こういうカーニヴァル的な態度を崩さないのは、見ていてとても気持ちがいい。
 繊細に知的に調整された嘲弄こそが、玉座にあぐらをかいている旧い存在を揺るがしうるのだ。

 

 というわけで、輪堂鴉夜の探偵仕草をたっぷり味わえるエピソードでした。
 ぶっちゃけ提示された情報集めて何らか真相にたどり着けているかというと、俺ァバカなんでさっぱり分からん! ガハハハハ!! って感じではあるんだけども、なんもかんも舐め腐った語り口でスルリと真実に近づいていく不届き者の足取り見てるだけで、妙に気持ちがいい。
 長喋りをどう捌くかはミステリアニメとして結構大事な所なので、その手際が確認できたのは良かったなー。
 とっても好きな書き方です。
 あと静句さんから津軽への好感度が底突き破ってマイナスで、揺るがぬ忠義ヅラから鋭い罵倒が飛び出してくるの、鴉夜様LOVEの強さを感じられて最高。
 今後もギス付いた仲良し三人組が、怪奇な事件を制圧していく様子を楽しく見届けたいものです。
 次回も楽しみ!