イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

シュガーアップル・フェアリーテイル:第15話『誰かのための砂糖菓子』感想

 傾いた老舗工房を立て直すべく、アンちゃん親方の苦闘は続く!
 中間管理職特有の難しさを描く、シュガーアップル・フェアリーテイル第15話である。
 今まで相手取ってきた話の通じねぇ砂糖菓子怪人共とは違い、因習に頭凝り固まってるけども悪い人じゃないグレンさんと、彼を慕うがゆえに的確な一歩を踏み出せないぼんくら四人組。
 間に挟まれ苦労しつつも、アンちゃんは細腕に引き受けた”仕事”を投げ捨てることなく奮戦していく。
 ここら辺の手応えは自分が何者かであることを証明するべくあがいていた、一期の修行時代とはまた違った味わいであり、物語全体が一つ新しいステージに上った感覚がある。
 自分の感性を砂糖菓子に投影する段階から、工房としての哲学も歩んできた歴史もてんで違う存在に、どうにか情熱を解ってもらって共に働く管理者としての苦労に、フォーカスが映ってきた感じだ。
 シャルとの絆は既にMAXまでグツグツ煮込まれているので、こっち方面に乗り越えるべき課題が用意されているのは、無理くり恋愛を煮込んでいる感じが薄くていいな、と思う。
 とはいえまぁ、ジャンル類型的には幸せな恋が形になってしまえばそこでハッピーエンドなわけで、これから先も色んな波風が二人に押し寄せては来るのだろうけどね。

 

 なまじっか老舗だからこそ、先祖代々の蓄積を金科玉条に祭り上げてしまって動けないグレンさんと、彼に恩や憧れがあるからこそその旧弊を正せない身内たち。
 日本中の仕事場にあふれてそうな、生っぽい課題を突きつけられたアンちゃんは、級に降って湧いた外様だからこその大鉈を振るって、仕事のやり方を変えていく。
 これが今まで勝負していたゴミクズの巣窟だったら、足引っ張り村の住人達が陰湿な嫌がらせを連打してきて上手く転がっていかないんだろうけど、ペイジ工房は親方も職人も結構話が通じる相手で、妖精の扱いもキッチン直してやるくらいフェアだ。
 この風通しに乗っかってアンちゃんは、職人頭として全責任を背負って選品出展という大勝負に打って出ることになる。
 『テメーがチーフに任命したくせに、クソみて~な外野扱いしてやるべきことさせねぇって、クズカスにもほどがあんじゃねぇの?』というアンちゃんの指摘を、『言われてみりゃそのとおりだな……』と受け入れられるあたり、やっぱグレンさんはこの世界では希少な脳髄しとる。
 課された条件も一見厳しいようで、結果さえ出せば工房は再浮上、アンちゃんはお手柄立てて身内の仲間入り。
 復活なったペイジ工房のお墨付きで、男尊女卑な業界を渡っていけるチャンスでもあるわけで、なかなかやりがいのある仕事だ。

 

 

 

 

画像は”シュガーアップル・フェアリーテイル”第15話より引用

 両腕組みにキリッ顔立ち、部下たちの仕事ぶりを確かめるアンちゃん親方と、その視線に答える腕前の個性派達……がモンタージュされるのはよーく分かんだけど、その合間に涙に暮れるブリジットさん挟まるの、マジで面白かった。
 やっぱ幸運(あるいは主人公補正)に助けられつつ夢の職場でバリバリやれてるアンちゃんと、老舗の娘だからこそ夢を途中で砕かれたブリジットさんは、鏡合わせの双子として描かれている感じがする。
 自分で砂糖を精錬して手ずからこねてた時代から、遠くで仕事ぶりを睨みつけながら全体像を考える立場に移った現状が、ここの描写には良く宿っていて良かった。
 ただ自分が素敵な砂糖菓子作っていればどうにかなるわけじゃない、責任も権限も大きな立場になったからこその難しさに向き合う時、飄々と無責任に見えたエリオットの助け舟が結構効いていて、ブリジットさんと合わせて見え方が変わってくるのも面白い。
 恋と夢にドタバタ奮戦していたアンちゃんが、ちょっと落ち着いたポジションから自分のなすべき仕事を多角的に見つめている姿は、成長を強く感じられて良いね、やっぱ。
 仕事を通じて人間的に成長する中で、シャルとの関わり合いもまた変化していくだろうし、恋と仕事が連動しながら転がっていくのは、ダダ甘ロマンス一本槍とはちょっと違った味付けだ。

 

 

 

 

画像は”シュガーアップル・フェアリーテイル”第15話より引用

 まぁ言うたかて、風光明媚なペイジ工房の秋の中シャルとアンちゃんの絆はもうバキバキに仕上がっとるんやけどなガハハ!!
 『やっぱこのアニメの、水彩調の美術最高に好きだなぁ……』などと実感しつつ、現状こっちはなかなかいい感じに落ち着いている。
 落ち着いていないのは職場の環境で、愛ゆえに呪われた人たちを銀砂糖の魔法でどう救っていくのか、みんなのリーダーとして、一人のアーティストとしての悩みは尽きない。
 ミスリル・リッド・ポッドの何気ない言葉をヒントに、愛着の鎖を解いて素直な気持ちを開放していくための触媒として、銀砂糖菓子の価値を再発見していくのは、職人としてのアンちゃんにフォーカスしたいい流れだと思う。
 こうして自分が作り出すものの意味をもう一度見つけ出すことで、バラバラな職人たちに共通する『グレンさんのために』という祈りを引っ張り上げ、それを職人頭として伝えまとめていく”仕事”にはずみがついていくのも、手応えのある描写だ。

 美しい砂糖細工に思いを委ね、不自由で不確かな気持ちに形を与えていく。
 フィラックス公爵領でもかつての思いを蘇らせた奇跡の菓子は、にくい恋敵のはずなのに自分と似通った部分ばかりが今や目立つブリジットの、閉ざされた心にも寄り添えるのか。
 病身に老舗の重責を背負い、身動き取れなくなっているグレンさんと娘を和解させる手助けは可能なのか。
 アンちゃん親方の悪戦苦闘を通じて、ペイジ工房で解決するべき問題が形になってきた感じがある。
 エリオットが感じ取りつつ、自分には解決不可能だと諦めてしまっている(だからこそ、外部からの改革要因としてアンちゃんを釣った)わだかまりが、最高の砂糖菓子を作ることで……そのために心通わせ力を合わせることで、解決できるのか。
 なかなか面白い構図になってきた。

 あとむっつりオーランドくんが、幼馴染で同志だったはずのブリジットさんのために超絶かわいいネコちゃん作ってきたの、失礼ながら爆笑してしまった。
 アンちゃんが彼女の今を”震える小鳥”と捉えたように、自由だった過去を共有する彼にとっては”闊達な猫”であり、ブリジットさん自身が見落としている自分の影が、職人が心を込めて仕上げる砂糖細工には反射している。
 そうやって誰かから差し出されるものを全部拒んでしまう頑なさは、片っ端から望みを絶たれ、すがった妖精にも拒絶され、なーんも信じれるものがない現状から生まれている。
 大勝負に勝てる最高の砂糖菓子を作って、シャルを取り戻し工房を立て直す社会的成功と同時並走して、そういう個人の痛みと孤独にどう、アンちゃんの”仕事”が寄り添うのかも、描かれていくだろう。
 それはアンちゃんが職人頭まで自分を押し上げ得た幸運に、微笑まれなかったもう一人の自分を通じて、自分の仕事や夢や未来のことを考えていく助けにもなると思う。
 そういう方向に話が転がってくれるのを望んでいたので、今回アンちゃんがブリジットさんの孤独をノックして、手作りのプレゼント差し出してくれたのはとても良かった。
 『最悪恋敵をコテンパンにして、スカッと異世界!』つうのは、もう意にもたれる年頃なのよアタシも……。

 

 

 というわけで、アンちゃん親方のチャーミングな奮戦記でした。
 飢えた野犬をけしかけられたり、キチった貴族に剣付きつけられたり、嫉妬に狂ったクズに足引っ張られたり。
 色んな経験を経てタフになった少女が、自分の”仕事”を成し遂げるために何をするべきなのか、情熱と賢さのあるエピソードでした。
 ペイジ工房が順風満帆とはいえない厄介さと、何もかも最悪で終わらない確かな強みが同居してて、お話が転がっていくのに面白い場所なのだと理解る回でもあったかな?
 そんな新しい居場所で、工房一丸となって挑む大勝負の行方は。
 次回も大変楽しみです。