イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

プレイレポート 23/07/25 愛と有刺鉄線

 今日今さっき、新システム”愛と有刺鉄線”を遊ばせてもらったのでプレイレポートを書きます。

 

 システム:愛と有刺鉄線

 織川さん:ジャン=クロード・ルフェーブル:21才男性 鍛冶屋の息子としてごくごく平凡に育ち、戦場に送り込まれた青年。生真面目な性格であり、厳しい戦いの中でも希望を繋ぐ。

 千本松さん:ヘンリエッタ・バロー:17才女性 裁縫工場で働くごくごく平凡な少女。戦地へ向かった恋人を思いながら、銃後の日々を健気に、希望を捨てずに生きている可憐な乙女。

 GTさん:パトリシア・フィッツ・ジャム:25才女性 軍のお偉いさんの娘として生まれ、自由奔放才気頻発に生きている”新しい女”。同じ階層のよしみで押し付けられた、とある兵士との文通が彼女の運命を変えていく。

 コバヤシ:アルトゥール・アルジャントゥイユ:25才男性 貴族の次男坊として放蕩の限りを尽くしていたが、その義務を果たすべく戦場に放り込まれた文学青年。詩の存在を許さない戦場の生々しさに、気圧され絶望していく。

 

 という感じの面々で、塹壕の上を砲弾飛び交う第一次世界大戦に引き裂かれた男女のドラマを遊んできました。
 大変楽しかったです。
 初めましてなこのシステム、大変独特かつ画期的なメカニズムで動いておりまして、夏から始まりもう一度の夏まで、5つの季節をフェイズとして進んでいくことになります。
 各プレイヤーはカードを引き、それに対応したテーマの手紙を想い人へと贈ることでゲームは進行していきます。
 リアルタイムで5~7分、時間制限がある中で実際の文面を仕上げ、スートに翻弄されながら展開していく運命と意思を手紙に刻みながら、戦場の一年間を濃厚に追体験していくシステムとなっております。
 データなし、事前の相談を極力絞ることでリアルタイムで物語が紡がれ、キャラクターとプレイヤーが強く共鳴するようにシステムが仕上げられていて、大変分厚い物語体験を得ることが出来ました。
 やっぱ自分で文章を打つってのが凄く特別かつ的確な体験装置で、カードによって理不尽かつ運命的に襲いかかる展開にかじりついて、自分なり咀嚼して文言をひねり出す行為が、大変面白かったです。

 手紙を書く行為はPLとしてのロールプレイであると同時に、シナリオライターとして展開を実地で創造する行為でもあって、普通のTRPGだと明確に分けられている境界線が、とてもいいバランスで入り混じっていることで生まれる新鮮な感覚が、凄く良かった。
 手紙と伏せたトランプという、二重に限定的なツールをゲーム体験の中に盛り込むことで、その濃度を上げ心地よい不自由で上手くプレイを制限していくという、シンプルながら良く考えられたシステムが魅力的です。
 想い人の文面、引いたスートを事前に確認できないまま、自分に襲いかかる運命を手紙に綴るしか無い一方通行な……しかし確かに受け取られることを願い、明かされた文面が強く呼応もする構造は、人間の強い思いを残酷に飲み込んでいく戦場という舞台とのシンクロ率を、ググッと高めてもくれます。
 このままならなさは『戦争をしている』というゲームのテーマにもしっかり食い込んでいて、どれだけ望んでも未来が約束されていない、極めて理不尽でリアルで悲劇的な……だからこそ人間的で英雄的にもなりうる舞台を、しっかり見据えたデザインだと感じました。
 凄く強い没入感を生み出す作りなんですが、手紙を書く、スートを確認する、他人の手紙を読むというゲーム的な手続きが上手いことゲーム体験との客観的距離を作ってもいて、過剰すぎるダメージを参加者が受けにくいよう作られてもいましたね。

 

 というわけで、大変楽しいセッションでした。
 同卓した方、ありがとうございました。
 以下に実際のプレイで僕が送った手紙を、そのまんま記載しておきます。
 こういう形で、プレイレポートを非常に残しやすいのは今っぽいデザインだなー、と思いました。

 



・アルトゥール・アルジャントゥイユからの、五つの手紙

手紙 夏 (スペード:負傷や死)
 初めてキミに贈る手紙が、戦場ではなく病院からであることに大きな羞恥を感じている。
 騎士の末裔として雄々しく戦うことは、あの妖怪爺から幾度も告げられており脳髄に焼き付いていたものだが、実際に銃弾が己を貫いてみて感じたのはまず熱、そして痛みと暗転であり、軍記物に勇ましい勇者の負傷なるものは遥か遠くの出来事だった。
 ここでは人間は英雄の如くではなく、わらの犬のように撃ち抜かれ、死んでいく。
 農家の息子も貴族の徒弟も、吠えたける機関銃は一切の区別なく打ち砕き、私は幸運にして死を間際にしてその抱擁から逃れた。
 それが幸運であったのか不幸であったのかは、兵役が私を戦地に連れ戻した時に解るのだろう。
 後送される程の重傷ではなく、死を感じぬほどの無傷でもなく、私は宙ぶらりんなまま眠っている。
 眠りは死の兄弟に思える。

 平等-エガリテ-。
 敬愛すべき我らがフランス第二の理念は、非常に残酷な形でこの戦地において健在であり……私は高揚よりも恐怖を、正直感じている。
 うだるような熱さの中、ベッドの上でこの文章を綴りながら、いつかあの泥濘の中に戻る日を悪夢に見る。
 私を貫いた弾丸は、ペンダントにしてあなたに届けるよう家令に告げてある。
 血と硝煙、泥濘の中の死を嗅ぐことをいとうのならば、どうか捨てて欲しい。
 数多の男たちが、そんな風に泥の中に愛の無いままに今投げ捨てられている。
 平等な絶望、平等な痛み、平等な死。
 フランスに祝福あれ。


手紙 秋 (スペード:負傷や死、二度引いたのでここで死亡)
 昨日始めて人を殺した。
 もはや感慨はなく、ただ撃ち抜かれた左脇腹が微かに傷んだ。
 それを聖痕と思えるだけのロマンティシズムは、もはや私にはない。
 現代的な、あまりに現代的な狂気だけが総身に満ちている。
 戦場における平等は死ぬ側だけではなく、殺す側にも常に溢れており、黒い狂気が影となって視界を塞いでいくのを感じる。
 屍肉を食らって太ったネズミたちが、走り回る音があの劇場のオーケストラよりも強く鳴り響いていて、むしろ心地よい。

 昨日幾度目か、愛すべき友ジャン=バティストが死んだ。
 食べ残って泥の中を転がったパンを拾おうとして、うっかり塹壕の上に頭を上げた一瞬の出来事だった。
 良いやつであったし、彼の思い出を綴るだけでこの手紙も尽きてしまうけども、そういう男から死んでいくのがここの常らしい。
 私は放蕩者の軟弱野郎で良かったと思う。
 家の望むような英雄的人物であったのならば、このルールにしたがって死んでいただろうから。
 死ぬ、身罷る、神の身元へと登る。
 君と隣り合いながら弄した文学的言辞は、この戦場に満ちている死のリアリティの前で、あまりにも虚しい。
 ここには酒がなく、喧騒がなく、女がなく、シャンパンの泡がない。
 ここには詞がない。

 私が愛したものは遥か彼方に消え去って、泥と砲弾だけが延々と積み重なっている。
 それに押しつぶされて終わるのも、多分そう遠くはないのだろう。
 君は私の栄光をたたえてくれた。
 あの手紙をずっと持っている。
 それだけが、私を英雄にしてくれる。
 愛を込めて、戦場より。


 (アルジャントゥイユ軍曹は撤退する味方の殿を勇壮に努め、数多の戦友の命を救って銃弾に斃れました。
  その栄誉をたたえ、祖国フランスは勲章を授与します。)

 

手紙 冬 (クラブ:恐怖)
 (戦場にて偶然発見され、遺族に返還された手記より)
 冬の気配が濃い。
 パリでは髭を整えたダンディー達が、強い酒で暖を取りながら平和な夢を見ている頃合いなのだろうか。
 私もその幻の中に立っていたのかと思うと、もはや幾年過ぎ去ったかのように感じられる。
 実際は五ヶ月と六日、未練がましくも指折り着任の日から数え続けている。
 誕生日ケーキに乗っかった蝋燭のように、それを数えれば何かが起きるわけでもないのに。
 逃げる私の背中を死神はいつでも追いかけてくる。
 ……そういうロマンティックな擬人化を跳ね飛ばすくらいに、あっけなく死んでいく仲間たちの実存が胸に染みて寒い。
 それは空想ではない。
 流れ出る血をどうにかせき止めようとして、ねじ込んだ拳の上を血しぶきが通り過ぎていくあの熱と奔流を知ってしまうと、詩想は遠ざかっていく。

 写実主義者ならばそこにこそ人の営みが在るのだと胸を晴れるところなのだろうけど、何もかもが打ち砕かれていく中でそれを信じることは出来ない。
 積み重なる平等な死を前に、何を歌えば良いのだろうか。
 こだまは返らない。
 多分、私は明日死ぬのだろう。
 信仰に熱心であるのならば、この緞帳のように重たく黒い不安を神が打ち払ってくれるのだと、信じられたのだろうか。
 今この瞬間ほど、神を捨てた近代人であることを呪ったことはないが、アブサンが見せる即物的な夢に溺れてきたのは私だ。
 ツケは己で払うしかない。
 貴族のボンボンも、兵士も農民も、誰もが。


手紙 春 (クラブ:恐怖)
 (手記の続き)
 思い出したように、小春日和の風が頬を撫でて……とても寒い。
 阿片チンキに耽溺した者たちが震えながら呟いていた寒さと、私を今支配している寒さは多分通底している。
 心の底に穴が空いていて、麻薬もアルコールも性交も、あらゆる悪徳がそこを通り抜けて虚無の中に蓄積していく。
 その虚しさを最も感じ取ることが出来るのは、塹壕に掘られた死の聖堂の只中なのだろう。
 しかしここに、苦痛を紛らわす快楽はない。
 何もない。

 君に触れておけば良かったと、その華奢な肋骨と乳房に溺れておけば良かったと、今更ながら後悔している。
 何故私は、君を夜の中に攫って褥に噛みちぎらなかったのだろう?
 パリの夜では鳴らした種馬、野放図な性獣、20世紀のカサノヴァと評判だったのに。
 貞節が枷になったわけもなく、私はただ臆病だったのだ。
 本当の恋が胸の中に燃えていることに。

 その残り火で、なんとか夜を照らす。
 虚無を照らす。
 助けて欲しい、愛するパティよ。
 そう、伝えればよかった。

 未だ間に合うのだろうか?
 私に、愛に時間は残っているのだろうか?
 黒い影に削られた私の魂が、最後に見せた黄金の地金に誰の名前が刻まれているのか、伝える暇が無いことを、一番恐れている。
 せめて、この一言だけでも伝えられたのならばありがたいが、死はたいへんフランス的で、平等に斟酌をしない。
 だからせめて祈ろう。
 最悪の放蕩者にも、神は一瞬ウィンクをしてくれると思いたい。


手紙 再び夏(ハート:愛)
 (手記の最後)
 ジャン=バティストが死んだ。
 凡庸でつまらない田舎者であり、銃弾飛び交う地獄の中で背中を預けられる、本物の男だった。
 故郷に遺した恋人のために死ねないと、我々を平等に襲う黒い影にあらがい、死臭に耐えかねたて吐き出したパンをもう一度飲み下して、生きようとする男だった。
 その野放図な生命力を導きとして、私はなんとか命を繋いでいた。
 我が家を支配する時代遅れの怪物が告げる、『英雄であれ』という呪いにうんざりしながら、心のどこかでそんな幻想を抱いていた私の、幼い夢。
 砕け散ったそのロマンティシズムに傷つけられながら、死を求めながら、死ねないと、死なないのだと、己に言い聞かせる最後の欠片。
 それは身分を超えた戦友への敬愛であり……私が皮肉げに睨みつけていた、フランス的に平等な死に抵抗できる武器だ。

 もう一つ、私を死と絶望、何もかもを飲み込む虚無からすくい上げる何かがあるのだとしたら、そこにはパトルシア・フィッツ・ジャムの名が刻まれている。
 たとえ私が明日死ぬとしても、胸の中嵐に耐えて伸びるその若い芽は折れていない。
 恋の果実は未だくすまぬ黄金の色のまま、まぶたの奥、一瞬だけあの時通った視線を追いかけ直している。
 私は英雄のようにではなく、恋人の名を叫びながら死ねるのだろうか。
 我がジャン=バティストのように?
 この戦いは数多の人間の精神を砕き、故国の魂を蔑した。
 フランスは死んだと、戦いが終わった後誰かが訳知り顔で言うのだろう。
 だが、愛はそこに在る。
 明日泥の中で息絶えるとしても、私はあの人を愛している。
 愛したまま死ぬのだ。
 それは誰にも奪えない。

 愛は永遠である。
 それだけが、最後に残った私の詞だ。
 届いて欲しい。
 あなたへと。
 (鮮血に染まって読めない)