イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

シュガーアップル・フェアリーテイル:第16話『最初の銀砂糖』感想

 若き職人頭が仲間と生み出した雪景色は、業界を変える触媒足りうるのか。
 アンちゃんお頭とペイジ工房の頑張りは、はたして結果を出せるのか。
 ついに選品に挑む、シュガーアップル・フェアリーテイル第16話である。
 一期怒涛のラストから続いた流れが、ひとまず落ち着くエピソードとなったが、さんざん淀んだ職人世界の空気嗅いできたお話なので、部下と力を合わせ時代を変えうる逸品を作り上げて、堂々”仕事”を果たす結末は新鮮な味わいだった。
 今までが異常だったのかペイジ工房が特別なのか、器のちいせぇ足引っ張り村の住人共と切り結んできたお話が、ソリ合わないところはあっても話が通じ、旧弊に足を取られつつも変えていける手応えで進んでいって、謎の乱入者はありつつ大過なく良い所に納まるのは、新章最初の決着としてなかなかいい感じだと思う。
 エリオット語る『最初の銀砂糖』に象徴され期待されている、変化の触媒としてのアンちゃんの特別性。
 それが奴隷制と権力志向に染まったろくでもない世界とか、所々人材はいつつも全体として腐ってる業界とかに、何らか大きな変化をもたらしていくのか……それとも手の届く範囲でのコンパクトな変化に収めていくのか。
 シャルを取り返しつつまだまだ続く、ペイジ工房での”仕事”を見守りたくなる展開で、とても良かったと思います。
 やっぱ『やってもやらなくても、どちらでも良い』という自由に辿り着きつつ、自分の意志で『やる』を選ぶ場面があると、お話に心地よい風と力強さを感じれて良いな。

 

 

 

画像は”シュガーアップル・フェアリーテイル”第16話より引用

 というわけで、要所要所のキマった画作りが熱血コンテストを引き締めてくれる回である。
 大作を完成させてなお、アンちゃんがペイジ工房に感じている疎外感をシルエットで描いたり、過去を共有するっぽい謎の凶賊とシャルがどれだけ断絶しているか、地面に刻まれた轍で示したり、こういう抽象度の高い演出が上手いの、甘くなりがちなお仕事ロマンスにいい塩梅の童話性を足してて、とても好きだ。
 アンちゃん親方は職人それぞれの個性が生き、具体的なモチベーションを抱ける題材を上手くまとめ上げて、雪と光という抽象で勝負に出る。
 他の工房が伝説に依拠した、とても具象的で教会に媚びた題材を選んだのに対し、ペイジ工房はとても個人的で抽象的で……そこにとどまらない普遍性と美を宿した傑作を形にする。
 二つの工房が提出した自分たちの技芸と具体的モチーフに足を止めて、感動が薄く古臭い銀砂糖細工より、光を通じたアクティブな変化があり、より広範に教義が象徴するものを描ける題材を、ペイジ工房は結果として形にしていく。
 そこにはより良く、自分たちらしくあろうとする意思があり、教会が本来取りまとめるべき祈りが、もっと素朴で根源的な形で込められている。
 裁定者が事前に用意していた答えを上回り、業界が現状到達できる高みを超えた新しい発想を、アンちゃんと部下たちは見事に形にしたのだ。

 しかしベールを取った直後の反応は当惑であり、光と反応してより輝きを増す特質は、作ったアンちゃんにも認識されていない。
 それを教えたのは死闘を終えて愛する人の晴れ姿を見守るシャルの到来であり、開かれた扉から差し込む光だ。
 新進気鋭のアーティストたるアン・ハルフォードが、世界を震撼させる作品にたどり着くきっかけは、これまでも今回も彼女の美しい妖精である。
 守護騎士であり謎めいた宿命でもあるシャルが、アンちゃんにインスピレーションを与えるミューズでもある構図はなかなか独特で、芸術家を主役にしたこの話特有だなーと思ったりもする。
 アンちゃんが優れた作品をモノにすることは、彼女の社会的成功、自己実現とその承認に繋がっているわけで、そのきっかけをシャルが与えることで、恋だけに収まらない存在感や相互作用が可視化されてくるのは、黒髪ヒロインのとても良い活かし方だろう。

 

 赤い鋼斬糸使いとの激闘も気合が入っていて、久々のバトルアニメ要素を補給できて楽しかったけども。
 シャルの過去は仄めかされつつ深く掘られてない地雷原なんで、アンちゃんの職人としての成長、シャルとの恋路が結構順当に先に進んできてるこの後、ゴリゴリ扱っていくのかなー、と思う。
 『新しい仕事場、色々あるけど夢いっぱい!』みたいな話運びしておいて、いきなる謎の襲撃者から頭部出血させられるってのが、まぁこの話ではある。
 血なまぐさいバトル要素は、シャルがアンちゃんを見守り発想の揺りかごになるだけの黒髪ヒロインで終わらず、優れた技量と重たい過去を持つ戦士でもあることを思い出せるので、また触って欲しいネタですね。
 いやまぁ、このお話の暴力要素ってロマンスのツマにするには結構本格派なので、暴れたら洒落になんない被害が出そうでもあるけど、同時にその荒波乗り越えて前に進んでいく力強さが、作品の魅力でもあるからな。

 さんざん辛い目にあったので、ペイジ工房の人たちが話が通じアンちゃんを損減してくれる、この世界では貴重な『普通の人』のまんま話転がっていってくれるのは、嬉しくありがたくもある。
 選品終わってもここで働くことを選んだので、結果を出しシャルを取り戻してよりよい関係を作っていける見通しも、前向きに開けているしね。
 今回工房全体で意思疎通しながら新しいことに挑み、それぞれ責任と矜持を持ち合って結果を出せたのは、古びたしきたりに縛り付けられていた組織が、生まれ変わっていくいいチャンスだと思う。
 これを期待して、アンちゃんをシャル解放で釣ったエリオットが相当な曲者……って話なんだが、軽薄な笑顔の裏側は今後削り出していくネタかなー。
 今回あえて距離遠い場所に立って、銀砂糖細工作りにも負傷欠場だったのは、ブリジットさんの問題解決と合わせてあえての”ヒキ”な感じあるもんね。

 

 

 

 

画像は”シュガーアップル・フェアリーテイル”第16話より引用

 というわけで”仕事”も完遂したし、羽も帰ってきて堂々勝利のラブロマンスだッ!
 やっぱときめきシーンを毎回大変眩しく仕上げて、ロマンティックな絵の力、演出と仕草の強さでボコボコにぶん殴ってくる作りが、最高気持ちいい。
 一期の品評会がシャルに『勝たせてもらった』形になったツケを、アンちゃんお頭奮戦記でキッチリカタ付けての抱擁なので、感慨もひとしおである。
 職人としての成長の証明として、メチャクチャロマンティックなKISSが描かれるの、理屈としては別次元なんだが見てる側の感情としては納得感があって、ここの垣根を超える熱量がお話にあるのは、大変偉い。

 ブリジットさんに命じられての口づけと抱擁が、あんなに義務的で冷たく暗いものとして描かれたことが、ようやく羽を取り戻してもらい、心からの祝福を光の中で果たす中で際立つ。
 ここに来てなお唇へのキスを遺しているのが、甘酸っぱい焦らしの巧さであるな……。
 『いやもー完全に仕上がってんだろ! 幸せな暮らしをして終わりだよ終わり!』って温度感だけども、乗り越えるべき壁頑張ってくれたブリジットさんは、まーったく自意識からも世界の鎖からも開放されてないからなぁ……。
 シャルと二人だけで幸せになっていく道は自分の意志で蹴ったわけで、ペイジ工房に残って働く中で、自分とどこか似て大違いな悪役令嬢の、内面にも切り込んでいって欲しい。
 ここら辺の踏み込みが、多分エリオットの性根を覗き込む足取りと重なって展開されんだよな、一応二人は許嫁だし。

 それにしたって圧倒的な光の描き方で、工房が栄誉を勝ち取った作品が雪……の反射を通じて、光を可視化するモノだったのと合わせて、作品の芯が一つ見えた感じもある。
 病身の恩人を強く思う心で、バラバラだった工房は一つにまとまり、非効率的な”俺たちのやり方”を乗り越えることが出来た。
 そこにはシャルとアンちゃんを包んでいる慕情の光と、根本で通じ合う人間性の眩さが宿っている。
 血生臭かったり闇が深かったり、色々やばいネタもどんどこ出てくるお話だが、厳しい試練はそういう眩さをより強く照らし、嘘のない語り口で描くための画材なんだと思う。
 そいつが大暴れする治安の悪さも、また作品独特の魅力だしね。
 この美しき到達点から、物語は何処へ進んでいくのか。
 次回以降の新章も、とても楽しみです!