イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

幻日のヨハネ -SUNSHINE in the MIRROR-:第5話『まおうのひみつ』感想

 意地っ張りで臆病な少女の自分探し探検記、第5話は可愛い魔王を城から出すぞ! なお話。
 『全ての因縁と関係性をブッちぎって生誕した異世界ヌマヅ……ヨハマリが強くて何が悪い!』とばかりに、力強く勇者候補生と人見知り魔王が青春へと駆け出していくエピソードでした。
 スーパーテンションイカレ女として淡島で猛り狂っていた、異界の小原茉莉とは真逆の手弱女っぷりなマリちゃんだけども、『幼年期に果南&ダイヤに出会わないままお姫様続けてたら、ああいう性格だったかもな……』という鏡合わせもあり、なかなか美味しい味付けだ。
 ここまで4話、デケー犬と素敵な仲間に手を引かれることで、ヨハネが何を学んで何処から自分を引っ張り出したか、マリちゃんを鏡にすることで見えるエピソードでもあり、大変良かった。
 ハナマルちゃんに手を引かれて運命のステージにたどり着いた、第1話を逆さ写しにするようにもうひとりの自分に素敵な歌を届けようとして、邪悪な呪いに思い出を穢される展開も、当事者性があってグッド。
 『許せねぇよクソ呪い……思い出と地元と可愛い魔王のために、アタシは運命に挑む!』となるお膳立てが整ってきて、青春迷子の大冒険もそろそろ新たなフェイズに移行すんのかな~って感じだ。
 ……主役が戦うべき大きな課題が明確化され、自分の問題として真正面から受け取るまで話の半分使うの、考えてみると結構ヘンテコな話運びね。
 俺はそのじっくりコトコト、ヨハネのやらわかな気持ちを煮込んでいく筆が好きなんだけども。

 

 

 

 

画像は”幻日のヨハネ -SUNSHINE in the MIRROR-”第5話より引用

 というわけで便利屋ヨハネの一日は、呪いの影響で調子の悪くなった二槽式洗濯機にトルチョック制裁ぶちかます所から始まる。
 ……やっぱ変だよこのファンタジー・スピンオフ!
 異世界と言い切るには我々の知る沼津に似すぎていて、しかし沼津というには面白いことが多すぎる故郷にヨハネも馴染んできたが、ずーっと淡島に籠もっていたマリちゃんはそうも行かない。
 なまじっか異能の耳を持つ分、悪い想像ばかりが広がって城の外に出れないのは、それでも街の人を助けようとダイヤさんにお手紙出してる優しさと裏腹なのかもしれない。
 この魔王の素性をよく知るアワシマの海産幽霊たちが、ふわふわかわいい動きしながらどうにか、主人が幸せになって欲しいと働きかけている姿が健気で、大変良い。
 ウミウシくんが押しくら饅頭してたりふわふわ追いかけっこしてたり、マリちゃんメインになるとそういうモノが良く見れるのはありがたいね。

 そんなアプローチにほだされて顔を見に行ったものの、心の壁を超えられずすごすご街に戻ってきたヨハネの悩みを、ここまでの物語で顔見知りになった人たちがほぐしていく。
 次回チカとどういう絡み方するか次第だけど、出戻りヨハネ、ワーシマー島の魔王マリと、ヌマヅをホームタウンだと思いきれない”よそ者”が解決するべき課題≒解決できる特権を抱えている。
 ヌマヅっ子たちは既に答えと天職を見つけていて、悩める彼女たちの手助けをすることで物語内部に立ち位置を得る……てのが、このお話の基本構造っぽい。
 顔中ペンキで汚して、新しく知り合った友達と一緒に作ったブランコが、ヨハネが悩みを共有できる居場所になっているのは、そういう構造がとてもわかり易い。
 誰かに手を引かれて進みだした場所で、出会い見つけた新しい輝き。
 カナンとヨウに気持ちを打ち明ける時、ライラプスが近くに寄ってこないのも印象的だ。
 ヨハネが自分以外の相手と対話し、交流を広げて可能性を形に行けるチャンスには、臨席しても同席しないスタイルよなー。

 妖精ルビィちゃんも沼津だったらうゆうゆ言いながら後ろに引っ込んでいるところを、前に出て自分の言いたいこと、言うべきだと思ったことを堂々告げてくる生き方になっている。
 彼女が示した、人と違うことを過剰に恐れず他人と自分を信頼するやり方は、ヨハネがヌマヅに戻ってきてから学んだ美徳だ。
 自分が思い願う理想に程遠く、他人は自分が願うほど自分を見てくれない事実を都会で学んで逃げ帰ってきたヨハネは、そうやって心にできた分厚いかたぶさを引っ剥がされて、他人も自分も思いの外悪くない現実を学んだ。
 ブランコに揺られながら友達の話を聞く中で、ヨハネは遠く隔たっているはずの他人が結構自分と同じことを考えていて、手を伸ばせば繋がれた体験を反芻している。
 他人との差異と共通点を震えながら見つめて、恐る恐る手を伸ばす(伸ばしてもらう)お話をどっしり積み上げてきたので、ここで自分中心の体験がマリにも転写出来るのではないかと、想像力の使い道を一歩前に出す転換が気持ちいい。
 

 

 

 

画像は”幻日のヨハネ -SUNSHINE in the MIRROR-”第5話より引用

 つーわけで行くぞ二度目の魔王攻略戦!
 遠くで聞いていても実感はない、むしろ自分には届かないものだと疎ましくすら思う。
 ヨハネが街で手に入れた発見は、マリちゃんにとっては怖くて羨ましい星だ。
 これを唯一手渡し出来る特別さを、ダイヤさんに太鼓判推してもらってデリバリーしに来たヨハネは、目の前にいるマリにこそ自分が見つけたものを受け取って欲しいと、相手の顔をまっすぐ見て思いを伝えに行く。
 魔王様が長年こじらせた臆病と自己愛を、どうにか広い場所に繋げてあげたいペラピーの気持ちをその手で受け取る仕草は、物語が始まった時のヨハネにはなかったものだ。
 誰かを思い、誰かに思われる。
 ペラッペラな成功や承認で自分を覆えば、何か特別な存在になれると思い込んで果たせなかった少女は、ひどく単純で幼く、人間の柔らかい所に直結した繋がりこそが、悪くない何かを唯一生み出すのだと、身をもって学んでいる。
 だから、鏡合わせによく似た貴方にも、それを知ってほしい。
 受け取って欲しい。

 それが勝手な押しつけなのかもしれないと、一歩身を引いてマリの心が動くタイミングを待てる成熟も、ヨハネがここまでの物語で手に入れたものだ。
 自分自身他者との差異、それをほじくり返す視線/妄想に苦しんできただけに、ヨハネはマリちゃんの震えが理由ない甘えではなく、切実な痛みと恐怖を宿してなかなか乗り越えられないモノだと解っている。
 自分がそれを越えかけている今、ライラプスや友達がどんだけ辛抱強く臆病な自分を信じ、見守り、手助けしてくれたかも。
 だから今度は自分が、外に出たい気持ちと内に籠もって自分を守りたい心の間で震えている、マリちゃんに隣り合う立場になろうとしているのだ。
 そんなヨハネの想いが通じて、マリちゃんが友達の背中を追って街に行く展開は、物語を通じてヨハネがどんな風に変わってきたのか分かりやすくて、とても良かった。
 それはマリちゃんが本当の願いに素直になる道であり、友達が差し出してくれた手を裏切らない自分であるための、誠実で真摯な道なのだ。
 そこに新たに……そしてもう一度進み出す歩みが、傍から見るほど簡単ではないことは、ここまでのお話が丁寧に編み上げてきたとおりである。

 

 

 

画像は”幻日のヨハネ -SUNSHINE in the MIRROR-”第5話より引用

 かくして憧れの街にくり出してはみたものの、積み重なったコンプレックスが視界を塞ぎ、他人の声は自分を嘲っているように感じてしまう。
 現実なるもののあるがままが、怯えているほどには悪いものじゃないと気づくためには結構な知恵と勇気が入り用で、それを輸血してくれる誰かの存在が踏み出すためには不可欠なのだと、マリちゃんが自分を隠す/守る影の濃さは良く語っている。
 自分一人ではたどり着けない場所に、色んな人が手を引いてくれた経験に後押しされて、ヨハネはマリちゃんに魔法をかける。
 こんだけ分かりやすく劇的に、ネガティブな内面を可視化した舞台が出てくるの、メチャクチャ”ラブライブ!”のアニメって感じがするな……。
 橋の下の薄暗い場所に踏み入って、『世界はそんなに悪くないよ』と告げて一緒に踏み出す特権は、やっぱりヨハネ一人にあるのだ。
 9人の群像劇として話し転がしていた沼津時代と、フォーカスのかけ方が明確に変わっているのは、八年越しの外伝らしい語り口よね。

 魔王様って御大層な看板掲げつつ、マリちゃんが生まれたての子鹿のようにプルプル震えながら人間関係一年生を頑張っているもんだから、唯一すがれるヨハネの特別さもより際立つ。
 ここで導く側になれるのは、ヌマヅ帰ってきてから人徳分厚い連中に助けられ『世界はそんなに悪くないよ』と思えたからだし、その前に尊大な羞恥心と臆病な自尊心に散々苦しんだからでもある。
 影の中で悶えた経験は、同じ立場に立つ友達のことを解ってあげれる力にも、時に変わりうるのだ。
 目を開けてあるがままの世界を見つめてみると、自分を苛む怪物なんて何処にもいなくて、思いの外眩しいのだ。

 そしてそういう事を教えてくれた女の子は、魔王様の特別になっちまうでしょうよ! って話でもあって。
 お手紙交換から感じ取ったマリちゃんの善良さを信じ、町内広報で住人に知らしめてただろうダイヤさんのお膳立てとかもあるけども、心を開かない限りそういう事実は、怯えている子どもの目には入らない。
 あるがまま素直であることは時に何より難しく、誰かが助けてくれなきゃ暗い妄想の中に一生閉じこもっているわけで、壁をぶち壊しつつも優しく手を握り、特別な魔法をかけてくれる相手はとにかく得難い。
 そういうレアな相手に恵まれてここまで来たヨハネが、マリちゃんにとってのスペシャルになっていくのは、見ていて嬉しいことである。
 あとウミウシくんとルビィちゃんがお友達になってニコニコ笑ってるの、『可愛い×可愛い=無敵』過ぎて最高。

 

 

 

画像は”幻日のヨハネ -SUNSHINE in the MIRROR-”第5話より引用

 マリちゃんに魔法をかけれる特別な自分になった証に、第1話でハナマルが導いてくれた原点へとヨハネが進んでいくのも、また良い。
 あの時マルちゃんが久々に帰郷した幼馴染を信じて、今の自分になれた理由を手渡し返そうと思ってくれたから、このお話は始まった。
 過去のヨハネ→ハマナル→現在のヨハネ→マリ→……と、夢を信じ友を愛する気持ちは力強く連鎖していって、誰かが未来に進み出す手助けになる。
 手を引き助けられる立場にいた人が、ずっと暗い場所でうずくまっているだけではなく、自分と同じ辛さに苦しむ誰かを助けれる存在になれるのだと、二度目のステージ来訪は語っている。

 ……のだが、ヌマヅを覆う暗雲をはらさないと、友だちの前で歌も歌えやしねーのよ!
 ずーっと自分が特別になりうる自信がなかったヨハネが、マリちゃんを影から出して勇者の資質を示したこのタイミングで、思い出のステージが暗黒雷鳴破にぶっ壊される展開……俺は凄く良いと思う。
 ずーっと『なんとかしたいな……』と思いつつ、どっか遠いところにあったヌマヅ存亡の危機が、最高の友情儀礼を披露するタイミングで思い出と未来ぶっ潰してきたことで、ヨハネ当人の問題になってきた。
 『マリちゃんとの友情の証として、ありふれた奇跡を引き寄せれる強い自分になった証明として、ここは新曲ぶっカマして気持ちよくなるところだろッ!』という無念……これからの戦いにぶつけろ!!
 切り株ステージがヨハネ個人としてとても大事な場所だと、素直に認められるようになってる事含めて、思い出の舞台を取り戻す私的な戦いが、ヌマヅ全体を救い真実その住人になる公的な足取りとも、重なってきた感じよね。
 明確に『道に迷い傷ついた少女が、周囲の助けを借りて大人になっていくお話』つう構造を持っているこのアニメにおいて、ヨハネが個人を超えた公的領域にアクセスしていくのは結構大事で、ヌマヅ全体のピンとこない問題を、自分に引き寄せて考える足がかりは重要だ。

 だからこそ……最高のタイミングでステージは潰すッ!!!
 悔しかったら世界を救ってみるがいい!!
 誰がやってんだか知らないが、ヌマヅに迫る危機を演出している人は腕がいいと思います。

 

 というわけで、臆病魔王の手を引いて、勇者が小さな奇跡を起こす回でした。
 俺たちの知らないヨハマリが凄い強度でブン回っているが、こうなり得た可能性はAqours時代から秘めていたわけで、新たなる新世界で果敢に挑んでくれるのは、新鮮な味わいでありがたい。
 ヨハネがここまでの物語で得た発見を手渡されて、あるがままの自分と世界に目を開いたマリちゃんが、今度は誰かを助ける姿を見たいなぁ……などと思いつつ。
 次回は運命の九人、最後の一人にフォーカスが当たる話っぽく、ヌマヅにもヨハリコの花は咲くものか、大変楽しみです!