イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

シュガーアップル・フェアリーテイル:第18話『幽霊なんかこわくない』感想

 幽霊城の闇に潜んでいたのは、遠い約束に縛られた麗しき忠臣。
 新聖祭に向けて厄介事が降り掛かったり、キモ妖精がキモな本性を顕にしてきたり、色々エンジンかかってきたシュガーアップル・フェアリーテイル第18話である。

 ついに顔が見えたノアくんの問題、麗しい邪悪を隠そうともしないグラディス、オンボロ城特有のアクシデントで暗礁に乗り上げたお仕事。
 3つの課題が混ざり合うことなく加速している感じの展開だが、こっからどう混ざり合っていくのかなかなか楽しみである。
 ノアくんを縛っている過去が、ハーバート様から下賜された砂糖菓子に紐づいているので、ここらへんでまとめて解決していくのかな~って感じではあるが、まだまだ先は見えない。
 グラディスは飼い主であるブリジットさん繋がりでペイジ工房と、貴石妖精の謎めいた過去でシャルと繋がっているので、アンちゃん親方が果たすべきミッションが山あり谷ありで転がっていく中、厄介ごとの中心として暴れてくれそうだ。
 そのために必要な胡散臭さヤバさキモさはいい具合に演出できていて、後々激ヤバ悪逆妖精としての顔を見せても『あー、やっぱりなぁ……』と納得できる下地は、丁寧に作られてる印象。
 こういう前フリなく、イケメンがイカれた素顔を顕にされても『よっしゃ来た待ってました!』とはならんからなぁ……。
 おれは取り澄ました仮面を引っ剥がして人間の地金が見える場面が好きなので、銀砂糖が台無しになった時のエリオットの態度は、かなり興奮したな……もっとむき出しになれ!!

 

 

 

画像は”シュガーアップル・フェアリーテイル”第18話より引用

 個人的な嗜癖はさておき、今回は妖精たちの顔に特に気合が入っており、グラディスのヤバさ,ノアくんの健気と衰弱、シャルの押し殺した激情が良く作画されていた。
 元々グラディスはよくねー輩であることをあんま隠してないキャラなのだが、真正の舞台が整っていよいよ本格始動という感じで、いい塩梅にキモかった。
 シャルとアンちゃんの関係はある意味落ち着いちゃってる感じもあるので、髪の毛クンクン野郎を横からツッコむことで庇護欲と嫉妬心を煽り、状況を進展させる燃料としても大事なキャラだわな。
 アンちゃんに対して不適切距離で接してキモいだけでなく、シャルが心の奥底に秘めた文字通りの聖堂に、土足で踏み入って煽ってくる足取りも小憎らしい。
 ブリジットさんの飼い犬に甘んじて何を狙っているのか、まだまだ奥の見えないキャラであるけども、他人が大事にしたいものを尊重できないイヤーな奴だってのは十分以上に伝わって、なかなか良い造形をしている。
 そういう相手だからこそ図星を突かれて、めっちゃピキッた珍しい表情をシャルも見せるわけだ。

 グラディスが何もかも大事にできない男であるのに対し、ノアくんは大事だったものを抱え込みすぎて餓死寸前の忠犬であり、可哀想だからこそ可愛い。
 妖精にものんびりさんからお調子者、可憐な乙女にクールガイまで色々いるけども、ここで人間が忘れ去ってしまった(忘却されるよう、政治的焼却を積極的に行った)幸福に全てを捧げて、どこにも進み出せない忠義者が出てくるのは良い。
 羽パクられて使役されてる連中も入れば、羽が戻ってなお人間に力を貸すものもいる。
 真っ直ぐすぎて苛烈ですらあるシャルの詰問にノアくんが応じたのは、力ある束縛ではなく自由意志での約束でもって、幽霊城最後の家令として愚直に人生を費やしている、自分と似たものを感じ取ったからだろう。
 被差別階級として搾取されているが、妖精には心があり人との繋がりを生める。
 そういう”人間”を奴隷にすること前提で回っている世界は歪で、どうやら旧き血筋らしい貴石の妖精たちも色々、思うところはあるのだろう。
 ここら辺、『世の中こんなモン!』とやさぐれていた所にアンちゃん汁がすっと染み込んだシャルと、キモい態度でなんか企んでるグラディスが今後どうなるか、気になるポイントでもある。

 

 

画像は”シュガーアップル・フェアリーテイル”第18話より引用

 シャルとグラディスの対峙は寒色の光に包まれた冷たい場所で、お互い心を隠し過去顔を向けた形で展開している。
 アンちゃんがノアを思って灯火を握り、思いやりの籠もった砂糖菓子を差し出す時、周囲は夜の帳に包まれながら、蝋燭の暖かな光に照らされている。
 ノアをとっ捕まえる時、アンちゃんが蝋燭を照らしていた事を思い出していても、シャルに欠けている温もりや優しさ、定命の儚い存在だからこそ見いだせる暖かさは、アンちゃんこそが手渡すものなのだろう。
 それは他人を疑わず時に無防備に、平等に優しく接する態度から生まれていて、シャルはその無垢が大事で……失われないかと恐ろしい。
 ここら辺、かつて語った運命の相手を守りきれなかった過去と繋がってるぽくて、まだまだ掘りきれない影が濃いなーと思ったりもするが。
 どうあれグラディスが的確に見抜いたように、シャルにとってアンちゃんは表面上の態度と裏腹に世界で一番大事な存在で、愛おしく唇を寄せる彼だけの砂糖菓子だ。

 暖かな灯火に照らされながらのキスは、瞳のうるみ唇の湿り気、ともに大変気合の入った表現でとても良かった。
 シャルが救われ呪われた麗しの少女が、可食性の美しさを宿して”美味しそう”に描かれているのは、銀砂糖細工という可食性の芸術を扱うお話である以上、とても大事なことだと思う。
 こういう事されて跳ね除けないあたり、もうアンちゃんとシャルの真実はすっかり定まっているのだけども、それに素直に身を預けてHappy ever after……するには色々足りないもの、掘り下げなきゃいけないものがまだある。
 悲しき忠犬ノアの鎖をほどき、砂糖菓子が生み出す奇跡をもって新たな光に進み出せるミッションも、二人が残念なく抱き合うために必要な課題なのだろう。
 『どーでも良いからとっととくっつけ!』って気持ちも、こんだけのロマンティックを叩きつけられると胸に湧き上がるけどね……オメーシャル、こういう唇の使い方しておいてなーに永遠の守護者ッツラしとるんだオイ!!!

 

 

 

 

画像は”シュガーアップル・フェアリーテイル”第18話より引用

 平和/闘争、未来/過去、愛/喪失という対比を、暖色と寒色に塗り分けるトーン・コントロールは回想シーンでも健在で、アンちゃんが夢現に見届けるノアとハーバート様の過去は、これから彼女が進んでいく未来……あるいは今身を置いている現在と似通った色合いをしている。
 世間の謬見に毒されず、ノアを大事に扱ってくれた思い出があればこそ、主は彼を戦場に連れて行かなかったし、負け戦の後荒れ果てるだろう城に縛り付けたくはなかった。
 しかしその愛が重い鎖となって、最後の砂糖菓子を口に運ばなければ失われた思い出を投げ捨てなくてもいいのだと、ノアを縛りその魂を保つ最後の砦にもなっている。
 もはや儚く成り果てたハーバート様が、夢現にアンちゃんにノア救済を依頼するの、かなりふわ~とした展開なんだけども同時に大変ファンタジーっぽくて、好みの話運びだった。
 これに先んじて、アンちゃんの砂糖菓子に何がなしうるのか、何をするべきなのかシャルが思い出させているのも、これまでの描写を踏まえた感じで良かったな。
 どんなときだって、シャルはアンちゃんのミューズなのだ。
 あとアレだね、フィラックス公領の事件では『妖精はすでに死んでいる/内乱はすんでの所で制止される』って構造だったのが、今回は『妖精は助けれるかもしれない/内乱はすでに城を滅ぼしている』って構図に逆転してんのね。

 そういう過去の因縁、個人的な課題とは別の所で、唐突な雨が大仕事をぶち壊しにしかかっとるー!
 これ設備ちゃんとした場所で仕事してたら起き得ないアクシデントなわけで、勢力を減じた老舗工房を教会がどう扱ってるか、透けて見える事故だよなー……。
 ペイジ工房に入ってからこっち、今まで暴れてきたクソゴミカス人間との軋轢が鳴りを潜めているので、こういう突発的な試練で盛り上がりを作る形になるのはまぁまぁ解る。
 あんまり順当に成功に向かって突っ走ると、ワクワク感が薄れるしなッ!
 エリオットがガチギレ気味なの、常時ヘラヘラ安全圏に身を置いていた男が今回の仕事には超本気だったこと、そうさせるだけの働きをアンちゃんがしっかり果たしていたことが見れて、とても良かった。
 なかなか洒落にならない状況ではあるが、仕事場の空気と職人の腕前は今までで最高なわけで、どうにか乗り越え糧にして行ってほしいわね。

 

 という感じの、古城奮戦記第二回でした。
 この降って湧いたド修羅場が、ノアやらグラディスやらブリジットさんやら、他のネタとどう結びついて、状況をかき回し変化させていくか。
 なかなかいい感じに話が動いてきた感じがあります。
 グラディスのうさんくささ、ノアくんの健気さも良く描けていて、この状況が彼らの魅力をどう引き出してくれるのか、先が楽しみになる展開が出来ているのは大変グッド。
 シャルがその白皙の奥に隠してる因縁とか感情とかも、いい塩梅に発火しだしているので、こっからクライマックスに向けてどうグツグツ言わせてくるのか。
 次回もとっても楽しみです。