イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

シュガーアップル・フェアリーテイル:第19話『猫の手も借りたい』感想

 思わぬ窮地を脱するために、ぶっ倒すぞえかつての師匠ッ!
 ひょんなことから銀砂糖子爵とのタイマンバトルへと流れ込む、アンちゃん親方のお仕事奮戦記、第19話である。
 派閥の綱引きなんぞも考えつつ、コネ総動員して難局を突破し、部下に現場任せて色々駆けずり回っている姿は、品評会終えた後のアンちゃんだなー、って感じが強くした。
 同時に高いレベルで一職人として、ノアに今必要な砂糖菓子は何か、自身のアートはどんな形であるべきかを探る回でもあって、悩める芸術家の奮闘としても見応えがある。
 僕はこのお話が、銀砂糖菓子という食品であり製品でありアートでもあるテーマを、それに相応しい気合の入り方で幾度も書いてる所が好きなので、いつものようにシャルに助けられながらアンちゃんが、自分が目指すべきテーマに悩んで掴み取る様子を書いてくれたのは嬉しかった。
 アンちゃんは生粋の反逆児な所が魅力なので、『王家がなんぼのもんじゃ! 今作るべきものは目の前にあるんじゃ!』と、表舞台から滅却された紋章を復活させる決意固める処、パンクで良かった。
 自分が何者かであると証明するために、必死にもがいていた時代からちょっとステージを変えた彼女の現在地を示すのに、ヒューは存在感ある良い壁役だと思うしね。
 しっかりお膳立てした上で、次回の決戦でどんな砂糖菓子が作られるのか、楽しみになるエピソードでした。

 

 

 

画像は”シュガーアップル・フェアリーテイル”第19話より引用

 元々絵画的な構図と色彩がバチッとキマって、妖精譚としての力強さと美麗が印象的なアニメではあるのだが、色々駆けずり回って折衝する今回、特に良い絵作りが多かったと思う。
 掌引き裂くハードな実作業を部下に任せつつ、状況打破のために駆けずり回って突破口を探す姿は、品評会とペイジ工房での奮戦を経て、アンちゃんが管理職になったことを良く教えてくれた。
 ここで部下が今までどおりのクズカスだと濁りも出てくるが、ペイジ工房のイケメンたちはツラだけでなく魂も良く仕上がっていたので、余計なノイズが少なくありがたい。
 弱々しく泣きかけた職人頭に、自身涙を拭って発破をかけ、肩を並べて一緒に戦うエリオットの姿とか、危機を前にナンパ野郎が本気になってきた感じあって凄く良かった。

 ここらへんはブリジットさんも同じで、力になりたいのに認められない無念が着飾った淑女ぶりに良く滲み、なかなか良い湿り気を漂わせていた。
 これをキモ蔵オブジイヤー受賞確定なグラディスに絡め取られちゃうと、なかなかと味悪いので、とっととヒューとの砂糖菓子バトル&ノア救済を突破して、ブリジットさん攻略編へ突き進んでいってほしい。
 ……つー気持ちもあるけど、凄腕キャットを味方に引き入れる権利を得るべく、最強の銀砂糖師に勝てない戦い挑む展開は素直に熱く、ぶつかりあう瞬間が楽しみだ。
 まだまだ彼の高みにたどり着いてはいないけど、微かな灯火を抱えて譲れぬもののために戦いに挑むアンちゃんの現在地が、階段越しの挑戦状によく刻み込まれていて、こういうキメの強さが好きなアニメだ。
 ヒューが子爵特権を最大活用して、ガチで勝ちに行くべく禁書閲覧して『ノアの砂糖菓子』作りにいってるのと、それでもフェアな勝負をするべくアンちゃんにも最高の銀砂糖分けてるの、気持ちのいい戦いできそうなワクワクを高めてくれてよかった。
 今まで最悪ゴミ人間との、足引っ張りバトルばっかりやってきたからなぁ……(しみじみ)
 つーか単純な技量勝負ならほぼ勝ち確なのに、優しさと絆が勝負を分けるだろう『ノアの砂糖菓子』で挑んできたあたり、ヒューは相当アンちゃん買ってんだね。

 

 

 

 

 

画像は”シュガーアップル・フェアリーテイル”第19話より引用

 そんな勝負に勝てる……というか、ノアの孤独と忠誠を受け止めるに足りる砂糖菓子を作るために、アーティスト、アン・ハルフォードは大いに悩む。
 素敵な奇跡を形にするまでの、着想探しに結構時間を使って、ただただキレイなものだけを追い求めていない分厚さを描いてくれるのは、このアニメのとても良いところだと思う。
 芸術家としての悩みを突破する時、そこには必ずシャルがいて、彼の真摯な一言が突破口になっていく。
 美しき黒曜石の化身とのロマンスを、新たな可能性に挑む若きアーティストのミューズと重ね合わせることで、双方の価値をあげながら描いていくのは好きな筆致だ。
 アンちゃんが責任持って果たすべき”仕事”と、若々しいときめきが歩調を合わせて進んでいくことで、複数ジャンルにまたがってる作風が良い絡み合い方する……って構造ね。

 なので一人で顔のない肖像画を見てる時は答えが見えず、シャルと相談しながら出口を探ると、見えなかった答えが見えてくる。
 前回圧倒的な気合で描かれた口づけと同じくらい、アンちゃんが美の緒を掴み取った時の目の変化、ようやく見つけた”答え”へと伸ばされる手が、しっかり描かれていたの、個人的にとても良かった。
 主と死に別れた忠犬が、人間には嗅ぎ分けられぬ残り香に縛られて見つめ続ける、顔のない肖像画
 その裏に隠されていたものを見つけられたのは、妖精にとっての砂糖菓子の意味を知るシャルの一言と、砂糖菓子職人であること、そんな自分がノアに作れるモノにしっかり悩んできた、アンちゃん自身の姿勢のたまものだ。
 答えが見えず迷っている時間が長いからこそ、それが自分が選んだ職業と表現……それを受け取る誰かに生真面目だからこそ、自分が今作るべきものを見つけた時の喜び、運命的な衝撃は大きい。
 そういう特別な一瞬を、しっかりアニメに出来ていた場面だと思う。

 アンちゃんはフィラックス公の心を掴んだときから、国家権力なんぼのもんじゃいガールなんで、この紋章を見つけちゃった以上はどんな火種になろうが、ノアのためにそれを刻んだ菓子を作ると思う。
 クソみたいな奴隷制度とか、因習とマチズモに支配された業界とか、デカくて揺るがない大きなものに中指おっ立てる話でもあるので、こういう展開は大歓迎だ。
 このパンク魂が、傷ついた人の心に向き合う優しさ故に燃え盛っているのが、アンちゃん特有のヒロイズムで良い。
 シャルもこういうお侠な所に惚れ込んだと思うので、騎士としての誓いを立てて愛しい人の戦いを全力バックアップしてるの、静かながら確かな愛の描写で最高だった。
 やっぱ二人の絆、色んな試練にボッ叩かれた結果かなり分厚く鍛えられたな~。

 

 というわけで、運命の砂糖菓子バトルへの滑走路を整える回でした。
 ヒューの貫禄が分厚いので、気高くも優しきタイマン勝負への機体が高まるのすごくいいし、結果がどうあれ可哀想なノアの傷は最高の砂糖菓子で癒えそうだし、前向きに続きを待てる。
 その後に炸裂しそうなグラディスのキモ爆弾も、ブリジットさんと絡めていい具合にグツグツ言ってるしな。
 恋と仕事の両輪で突っ走ってきたファンタジー職人物語ですが、19話分の蓄積が少女と彼女の騎士をどう変えたのか、確認できる決戦を見届けられそうです。
 次回もとっても楽しみですね!