イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

ひろがるスカイ!プリキュア:第28話『あげはのアゲアゲファッションショー』感想

 強くて優しいみんなのお姉さんが、時に妹であり時に歯を食いしばりながら戦っていう姿に切り込む、ひろプリ第28話である。
 あげはさん個別回として、ファッションという文化に向き合う話としてとても切れ味が良く、食べごたえのあるエピソードだった。
 あげはさんは既に自分の夢を選んだ成人プリキュアとして、子どもたちを守り導く頼れる存在として、その弱さや辛さにあんまりフォーカスされない印象もあったけど、今回親の離婚によって姉たちと離れ離れになりつつ、自分らしい生き方に必死にかじりついて、皆が笑える世界を掴み取っている生き方が、別角度から照射されたように思う。
 大人とされている存在にも辛さはもちろんあるし、守られるべき子どもより人生経験値が多いからといって、無敵の存在でもない。
 武人を名乗りつつ他人の平穏平気で踏みにじってるミノトンを、ファッション文化と保育士の強さが交じるステージの向こうに置いたことで、『ガタガタ抜かしつつ、やっぱこいつロクでもねぇな……』感がしっかり出たのも良かった。

 『両親が離れて暮らすことになって、名字が変わった』という、ニチアサフィルターをかけて描かれた、プリキュアにおける離婚。
 子どもたちの襟首を避け得ぬ運命で掴んで振り回すような、大きすぎるイベントを話しの真ん中にもってこれたのは、あげはさんが成人だからかな、とも思う。
 親元を離れ、自分の意志で何を学び何になるかを決め、すでに名声を得ている姉たちも尊敬してしまうような職業倫理と真っ直ぐな意地を、しっかり兼ね備えた大人。
 『親は親、自分たちは自分たち』と切り分けられる所まで、姉妹が身の丈を伸ばしていたからこそ、そこまで悲壮感なくナイーブな問題を触れた感じがある。
 子どもらのなかでも一番感じやすいましろさんが、姉妹が抱えている問題の複雑さを感じ取って、でもそんなの気にすることじゃないよ! と、あげはさんがほっぺムニムニしているのも、タフで明るく良かったです。

 そういう大人びて前向きな態度は、能天気に浮かれて生きてるから生まれるものではなく、年相応に辛く苦しいことも体験した上でなお、前を向くことを選んだから生まれるもので。
 ファッションとか児童保育だとか、暴力で他人の頭下げさせることしか価値だと思えないミノトンが、うわっついた夾雑物だと切り捨てているものに価値を見出したからこそ、姉妹はモデルやデザイナーや保育士を生業として選んでいる。
 そこに宿っている強さというものを、暴力の比べ合いでしか他人を評価できないミノトンは認識できないし、だから求める戦い引き寄せるために他人が楽しんでいる場をぶっ壊し、見ず知らずの人間殺しかけて気にもとめない。
 ここらへん、下劣と蔑んでいたカバトンとなーんも変わんない共感不全で、『人間測る物差しが一個しかないの、マジでやべぇな……』ってなった。
 ここら辺、自分がファッション門外漢であることを自覚しつつ、その生き様に尊敬できるところを見つけて積極的に受け入れてるソラちゃんと真逆で、なんだかんだ主役のシャドウとして敵を書く筆致はひろプリ、結構確かだなとも思った。

 

 今回はプリキュアでは時々顔を出す、ファッションの力を描く回でもあった。
 すっかり自我と美意識が育ってきたエルちゃんは、一見ワガママなこだわりでもって自分の身を粧うものを選り好みするようになったが、あげはさんはそのこだわりを成長の証と、前向きに捉える。
 それは名字が変わってなお敬愛する姉たちが、ファッション業界に身を置けばこその親しみだろうし、自身ギャルとして心アゲアゲな装いに気を配っている生き方から、生まれる態度だと思う。
 ファッションやメイクを人生の本質に関わらない皮相だと切り捨てる、マッチョな価値観から距離をおいて、魂をエンパワメントしてくれる人生の戦化粧として肯定する姿勢の裏には、『そうしたほうが女児ウケいいし、メイクやファッションを商う面目も立つ』という、生臭い事情もあるだろう。
 そこら辺加味した上で、それでも”装い”が持っている可能性や生み出しうるパワーは本当のことであり、あげはさんを通じてそこに言及できたのは、とても良いことだと感じた。
 良いことは何億回いい直しても良いことなので、同じテーマを別のプリキュアでやってくれるの好きなんだよなー俺。

 あんだけ自信満々我道邁進だったエルちゃんが、知らない大勢の人の前に出たら怖くなっちゃってブルブル震えだすの、児童のふるまいとしては自然なことだし、そこで身を乗り出して思わずフォローしにいったあげはさんの魂は、既に一端の保育士だと思う。
 ああいう状況で抱きしめてもらえないと、人前に出たりファッションに関わることがエルちゃんにとってとてもネガティブな印象で染まりかねなかったので、子どもの可能性を潰さず広げる意味でも、とても大事なことを成し遂げていた。
 ファッションショーには場違いな保育士乱入のアクシデントを、ドレスアップして素敵なイベントに変える姉たちの機転も、世の中と自分たちをより楽しくしていこうという心意気、職業意識の現れが生んだアドリブで素晴らしかった。
 急に降って湧いた肉親ではあるのだが、しっかり尊敬できる魅力的な人たちとして早乙女姉妹を書けていたのは、とても良かったと思う。

 

 というわけで普段の暮らしではなかなか見えてこない、あげはさんの大事な一面をしっかりと掘り下げるエピソードでした。
 虹ヶ丘邸の共同生活だと、どうしても『頼れるお姉さん』という役割に固定されがちな彼女だけども、生きてんだから当然色んなことがあって、色んな顔を持っている。
 だからこそ今のあげはさんになって、必死に笑顔を作って前を向いているんだと、彼女のプライドを大事にしてくれる話運び、大変良かったです。
 俺はこういう感じで、別角度からキャラを削り出して立体感と公平さを補強してくれる個別エピソードが、いっとう好き。

 次回は夏らしくホラー回のようですが、ソラ・ハレワタールの新たな顔は見れるのか。
 楽しみですね!