イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

Lv1魔王とワンルーム勇者:第8話『決別』感想

 奇跡の救世主様も今は昔、平和な時代に杉樽人間兵器たちの哀愁を追いかける、Lv1魔王アニメ第8話である。
 魔導庁へのテロが起爆剤となり、世論が王国 VS 共和国の全面戦争に傾く中、勇者パーティーで唯一権力と寝れたフレッドがあまりに不器用に、仲間たちを守ろうとする回だった。
 青雲の志そのままに、世界を乱す魔王をぶっ殺してさえ入ればよかった青春時代は遠くに過ぎて、お互いの立場は変わった……というか、のっぴきならない正面衝突まであと半歩だ。
 それでもかつての仲間を愛し信じ、なんとか最悪の事態だけは避けたいと必死にあがきつつ、しがらみと成熟が思いを素直に伝える邪魔になる。
 ツンデレ……で片付けるには少し苦い、『ボクらの冒険』が終わってしまった後を生きている優秀な男の姿にいい塩梅のユーモアが絡んで、大変良かった。
 今更ながら、結構ストレートに凸凹人間どもの人生やり直し物語なんだな、このお話。

 

 つーわけでゼニアがリムを見捨てられずに拾ってきて、状況がどんどんややこしくなる中で昔なじみと顔を突き合わせての直接対話、物別れに終わったようでいて何かが伝わたようで、しかし上手く噛み合いもしない。
 マックスはフィジカルも知性も全盛期からそこまで錆びていない感じなんだが、10年分自分にも世間にも裏切られてきた反動で、見えているものに素直になるのが難しい感じだった。
 同じく不器用に、権力を傘にきた威迫という形でしかダチに道を示せないフレッドの提案を飲んでしまえば、今度はレオを裏切ることになる。
 テロリスト疑惑を晴らすために王国の権力に膝曲げれば、自分の目で確かめた共和国の真実に嘘をつくことにもなる。
 ここで青臭い正義を全面に出すのではなく、キレながら戯ける薄汚れた大人の仕草でもって、なんもかんもダイナシにぶち壊すことしか出来ないのが、今のマックスである。
 ここら辺、魔王様が死んで無邪気に若返ったのに反して、勇者たちは生き残ってなお続く人生という物語の中、嫌な感じに年輪重ねちゃった感じが出てて凄く良い。

 つーか今の魔王様を見ていると、人類と絶滅戦争やってた過去が信じられなくもなるのだが、アパートで共同生活してる二人が魔族の上澄みなのか、なんらか事情が拗れに拗れてそういう事になったのか、色々ありそうな気配だ。
 アニメの範囲だと勇者三人の因縁に決着つけて終わりそうだから、魔族サイドのアレコレを掘ってる余裕はないだろうけど、大好きなマックスと平和にラブラブすることしか考えてない魔王様が、10年経ってもなお後を引く”人類の敵”やれてたの、今見せられてる材料だけだと腑に落ちないんだよな。
 その背景を暴くのは別の話として、魔王様がマックスに寄せている無限の信頼と愛情が擦り切れひねくれた”大人”が大事なもの思い出すのに、どんだけ仕事するかは楽しみである。
 魔王様おバカな可愛さ含め。ヒロイン力めっちゃ高いからなー。
 マックスが日々の暮らしの中、すっかりほだされちゃってる様子もちゃんと書かれてるし、自分ひとりでは今回みたいになんもかんもダメにしちゃうクソバカが、自分に素直になるキッカケは、魔王様が担当してほしいね。

 

 んで交渉決裂したフレッドだけども……色々めんどくさいね宮仕えッ!
 王国の秩序に寄り添う/すりよる立場である以上、どんだけ我欲と陰謀の匂いがしようが政治的決定に楯突くわけにも行かず、レオ含めて多大な被害が出る正面衝突をどうにか回避……は難しいにしても、せめてかつての親友だけは安全な場所に置こうとして、見事に大失敗。
 『お前のことが心配なんだよ!』と、素直に心の内を言葉にできたならマックスのサビつきも落ちたんだろうけど、もう引くわけに行かない立場に自分から突っ込んでるレオ含めて、オッサンたちは自縄自縛の不自由な立場だ。
 自業自得にせよ陰謀に追い出されたにせよ、王国が用意してる華やかな栄達に乗っかれなかったバカたちに比べて、フレッドは中央官庁の長に納まるくらい上手く踊れている……ように見えて、根っこには仲間と正義が一番大事な、クレリック魂が死んでないんだなぁ、と感じた。
 そういう人間だからこそ複雑怪奇な蛇の巣は居心地が悪く、しかし蛇の顔をし続けなければそこで生きられず、結果恫喝と謀略が得意な仮面が、分厚く張り付いてしまっている。
 これを引っ剥がして素直な気持ちを表に出すためには、一旦行くところまで行くしかない……かなぁ?

 対するレオも薄汚い王国の仕打ちに傷つけられ、自分を慕って辺境まで付いてきた仲間を貶められ、義侠心豊かだからこそ引けない状況に。
 レオとフレッドはマックスと違って、それぞれ社会的立場がある大人だからこそ引けないレールに乗っかちゃった、なんとも言えない寂しさを背負っている。
 投げ捨てるには重たすぎ、打ち捨てるには意味がありすぎる理想を互いに背負うからこそ、自分の気持ちと関係ない濁流に良いように押し流されてると感じつつ、立ち止まることも出来ない。
 二人を巻き込んでる薄汚れた流れは今溢れてきたわけではなく、レオ追放当時から陰日向に暴れてきたはずで、立ち向かうにはとらえどころがなさすぎるんだろうなぁ。
 この生っぽく重たい”敵”の書き方は、魔王退治のシンプルさと対比されてんだろうな、と感じるね。
 ぶっ殺せばそれで世界が救われるわけでもない、複雑怪奇な敵の長い手から魂を引っ剥がさないと、そもそも戦う土俵に乗っかれない情勢において、さて大バカ野郎たちはどう戦うのか。
 終盤戦の煮込み方が楽しみだ。

 というかレオにしてもフレッドにしてもマックスにしても、背秋の命運を左右できる圧倒的な力があったから魔王を倒せて、その後やってきた平凡な世界の中でその怪物的能力を疎んじられた結果、人生がネジ曲がった側面があり。
 『魔王を殺した勇者は、世界に馴染めない魔王として扱われる』つう、もはやある程度以上古典になったテーゼがひっそり顔出してきた感じだけども、これはマックスたち個人の問題であると同時に、過剰な力を適切に位置づけられない社会の問題でもあろう。
 フレッドは変わってくれない世界と上手く付き合う方策を見つけ、それに適応しすぎた結果ねじれちゃってる感じだけども、マックスとレオは上手く折り合いをつけれないまま、かたや腐り果てかたや王国の敵対者として10年突き進んで、この有様である。
 偽装テロをねじこんで全面対決に持っていきたい側が、何臨んでこういう状況にしてるのかがまだ分からないので、社会サイドがどんだけ人類の規格外どもに歩み寄れるかも、現段階だと不鮮明だけども。
 クソボケ三人衆が加熱していく状況の中で、自分が本当にやり遂げたいことを見つける動きと同じくらい、社会が彼らを受け入れられる変化をどっかで描くのが大事かな、と思った。
 レオと共和国を、魔王亡き後の魔王に据えたほうが都合がいい連中が色々やってる感じはあるんだよな~……とすると、勇者に戻ったマックスがダチのためにやるべきなのは、二度目の魔王退治という構図なのか。
 ここら辺の読みがどんくらいハマるか、今後の展開が楽しみである。

 

 という感じの、王国サイドの状況整理回でした。
 共和国観光とレオとの衝突であっち側の事情を書いた上で、今回フレッドとマックスの対話が失敗に終わることで、彼らを縛っているものが分かりやすくなった感じ。
 クレリックだからこそ見えてしまう悪霊に、ブルブル震えて気絶する可愛げは嘘じゃないのに、絶対反発されるようなやり方でしか旧友と向き合えないフレッドの”今”が、なかなか切なかったです。
 魔王退治から10年、あんまいい意味ではなく”大人”になってしまった三人の顔が彫り込まれてみると、コメディに陰影を出すためのペーソスがしっかりある話なのだと解っても来た。
 このままならぬ鎖を引きちぎって、黄金時代を取り戻すカタルシスが最後に用意されているとは思うので、そこに至るまでの歩みをどう描いていくか。
 終盤戦も楽しみです!