イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

好きな子がめがねを忘れた:第8話『好きな子と告白を見てしまった』感想

 梅雨から夏へ、移り変わる季節の中で君を想う。
 至近距離すれ違い系ラブコメ、加熱と加速が止まらない第8話である。
 ……と、やや煽った出だしにしてみたけどもなんか特別なことが起きるわけではなく、今日も二人はひねもすのたりのたり、ゆったりと楽しく暮らしている。
 告白を間近に見たことで、小村くんは物語を終局に導く”いつか”を夢想したりもするけども、それが現実になるのはなかなか遠そうだ。
 三重さんも相変わらずのスーパー天然獣っぷりで、無防備に靴下を脱ぎブランコを漕ぎスパッツを見せ……少しだけ赤らむ。
 どうも進級して以来、ちと二人の間合いが近づき熱が上がり、微かなエロティシズムが仄かな温かみを発しているような感じがある。
 ラブコメ結界の中で近づいては離れ、離れては近づきしている関係性にどんな変化が刻まれていって、永遠に続くように思える時間が変質しているのか否かは、なかなか観測しにくい。
 しかし話数を積み重ねるごとにじわじわ、お互いの心身と関係が煮込まれていって間合いが変わってきている雰囲気は、確かにある。
 この作品全体が”行くのか、行かないのか”の、曖昧な距離感をジットリ測ってる時間が僕は好きで、アニメも折り返しを過ぎたこのタイミング、そこら辺を噛み締めなかなか楽しい。

 小村くんが相当な変態であるのはもはや論をまたないが、その欲望の発露は魔球のように奇っ怪なコースを辿っており、直線的に滾るマグマを真夜中吐き出すようなわかりやすさとは、ちと遠いところに立っている。
 自分のみならずクラスメイトの恋の気配にもド近眼な想い人との、ズレやすれ違いですら興奮できる純情は今回も良く暴れていて、好きな子がずぶ濡れのソックスを脱いだり、好きな子がブランコをフラゴナールの絵画のように漕いだり、好きな子が間違い電話を真夜中に混線させたり、中学生らしい素朴なエピソードの中に、異形のリビドーを思い切りそびえさせている。
 その青筋浮きまくりの欲望開陳が、ここまでお話に付き合ってみるとおかしく微笑ましくもあるが、小村くんは現状三重さんと親愛の距離感で一瞬触れ合うだけで十分であり、また限界でもある。
 告白に至るダイレクトな間合いに、踏み込めるだけの足腰を小村くんが獲得してしまった時、このお話は終わる(か、大きくその位相を変える)のだろう。

 

 一方思われ人である三重さんは今日も無邪気に、己のはだえが目の前の少年にどんな化学作用を及ぼすか特に考えることもなく、愛と欲望の絨毯爆撃をしかけてくる。
 この無邪気で清潔なエロティシズムが、毎回きっちり作画され動いて芝居しているのはGo Hands頑張っている部分であるが、やはり主人公が世界の真ん中に据えるヒロインがきっちり可愛いと、ラブコメの説得力は一段回上がる。
 鈍感ド天然に見えて、肌を晒す行為に恥じらいを覚え、それを特に小村くんには色濃く滲ませるふらつき加減が、ここ最近は特に強く感じる。
 ぶっちゃけ、エロスを漂わせる場面が増えてきた感じがする。
 これがジリジリとオモシロ日常を積み重ねつつ、小村くんの純情変態アプローチが功を奏して距離が縮まった結果なのか、時が流れおとぼけ小動物にも”時”が近づいているのか、はたまた延々同じところを進み続けるお話特有のブレなのか、なかなか判別はしかねる。

 しかし僕らが8話分、アニメを見てキャラクターと彼らが生み出す物語に愛着をエた分、作中世界にも微かながらなにか変化があってくれたほうが、フィクションとリアルを重ね合わせる喜びは大きい。
 だからここ最近、この身悶え系ラブコメに頼ってきてる微かな湿り気と熱は、なーんも変わりなく同じことが繰り返されているように見えて、小村くんのピュアな気持ちがすれ違いの中確かに響いて、三重さんが変わりつつある一つの証明だと思いたくもなる。
 (特に男性向け)ラブコメは『告白をしない/告白をする』の間にある/を無限大に引き伸ばし、行ったり来たりすることで物語を展開していく傾向にある。
 言ってしまえばすぐに終わりなのにどうしても言えない、そのもどかしくも切ない足踏みをニヤニヤ笑いながら見守る中で、お約束シチュエーションに身を任せる気持ちよさとか、だんだんキャラ性を理解してきた連中が”らしく”振る舞ったりとか、作品に親しみを感じて楽しく思える場面が増えていく。
 だから変わらぬときが優しく流れていくのは嬉しいことなのだが、同時に停滞が生み出す変化なき腐敗を恐れる気持ちもどこかにあって、変わらないのに変わっていくという難しい矛盾を、スムーズに取り回してほしくもなる。

 今回描かれたいつものドキドキが、小さく小さく降り積もって二人を確かに変えているのだと、作品が大きく叫んで終わってくれると良いなと、僕は勝手に思っている。
 それは今回”いつか”と睨みつけられた、告白という一大イベントを投下して全てを更地にするわけではなく、愛しい足踏みの中それでも確かに、物語が始まったときよりもより善い自分に、より善い世界に、恋をすることで進み出せているのだという実感を、作中の彼らも見守る僕らも得たい……という気持ちだ。
 最近だと告白した後もラブコメが続く作品が増えているけども、愛を告げる行為は確かに大きく何かを変えてしまうわけで、その重たさが解るから小村くんも二の足を踏んだのだろう。
 その恋愛的ビッグバンに至らないとしても、三重さんを見つめながら脳髄独白でパンパンに満たして、血管はち切れそうなほど愛に興奮してきた時間は、優しく穏やかな少年の何かを、確かに変えていると思う。
 それはそんな彼の愛を無自覚に浴びている、三重さんも同じことだ。

 だからこのジリジリとした変化が僕の思い込み(あるいは願望)ではなくて、作品の狙い通りオフィシャルな変化であってくれると、お話が語ろうとしているものと僕が見たいものに共鳴が生まれて嬉しい。
 それを確かめる意味でも、次回もまた彼らのおかしく愛しい日常を見守ることにする。
 校外学習という一大イベントで、どんな変化が生まれて何が変わらないのか。
 来週も楽しみだ。