イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

シュガーアップル・フェアリーテイル:第20話『紫の約束 』感想

 自由と力を天秤にかけて、道を選んだ男の横顔を睨みつけながら、少女は夢に向かってひた走る。
 ルカ救済とラファルの覚醒が一気に押し寄せ、ヒューとの決着もついて”仕事”も加速する中で、アンちゃんお頭が次なるキャリアの影を見る回となった。
 勝敗や面子を二の次に、まずルカを思って美しい砂糖菓子を全力で仕上げたヒューの優しさと強さが、それでも不自由な立場へ自分を追い立てた寂しさと絡み合って、なかなかコクのあるエピソードだったと思う。

 何にも囚われず、作るべきものを作り上げたなら負けていた勝負だと、成長を果たした今のアンちゃんは解るわけだが、しかし銀砂糖子爵という立場と力もヒュー・マーキュリーそのものだ。
 一職人として地面に足をつけ、王命に反してでも作るべきものを作れるアンちゃんも、無力ゆえの絶望をいつか知るのだろうか?
 そうなった時、ヒューのように不自由ゆえの力を選ぶのか、自由ゆえの無力を選ぶのか。
 現状の問題点をしっかり解決しつつ、少女が大人になっていく過程で見えてくるもの、たどり着くべき場所を暖かに見せる、とても良い回だったと思います。
 ベタベタの騎士道ロマンスをやりつつ、成長の主体としてアンちゃんが何と出会うか、何を見つけるかを毎回しっかり描いているのは、このお話の好きな所だなー。

 

 

 

 

画像は”シュガーアップル・フェアリーテイル”第20話より引用

 というわけで前半戦は、ヒューとの勝負に決着をつける!
 サクサク進む銀砂糖細工作成シーンだけども、手を冷やして砂糖細工が傷まないように作業してたり、繊細な紫を発色させるために細かく色粉を選んでいたり、砂糖菓子職人がどういう作業をしているのか、具体的で細やかな描写が多くてよかった。
 ロマンスにバトルに、色々贅沢な詰め込み方をしているお話なんだけども、”銀砂糖細工”という仮想の職能もしっかり設定作り込んで、実在感のある描き方を頑張ってくれているのは、それをテーマとしたファンタジーとして大事な土台だ。
 あとミスリル・リッド・ポッドが元気よく健気にお手伝いしてて、大変かわいくてよかった。
 俺は可愛いミスリル・リッド・ポッドが、とても好きだから……。
 優しさと祈りを形にする砂糖菓子の職人として、アンちゃんが譲れない勝負に挑む時彼がしっかり助手をしているの、哀れみや正しさだけで妖精を対等に扱ってるわけではなくて、もっと地に足の付いた実感として博愛してるのだと解って、かなり大事な描写だと思うね。

 紫は家紋の誇りを宿した紋章の色合いであり、ノアが過去から開放され救われていく……アンちゃんの作り上げた砂糖菓子がそれを成し遂げた、証の色でもある。
 これまでオレンジ色の灯火が優しさや癒やしの象徴となってきたわけだが、ここでノアの髪の色にも似た色合いが、新たな可能性として画面を輝きで満たしていくのは、ドラマと表現が見事に噛み合った印象を与えてくれる。
 工房の危機を乗り越えるため、ノアを未来に送り出すため、真実の砂糖菓子職人であるため、アンちゃんは汗を流し思い悩んでこの紋章を作り上げた。
 結果として禁忌を厭わぬ若い志が勝利することになったけど、ヒューの作り出した砂糖細工の駒は大変に美しく、またノアの思いにしっかり寄り添った、優しくて強い仕上がりだった。
 ヒューが病床のノアを上から見下ろすのではなく、下から支えるように砂糖菓子を進めるの、国王陛下の銀砂糖細工師になってもなお、それを送る一人ひとりの顔を見れる人間なのだと告げていて、とても良かったな。
 尊敬できる相手と競い合い、気持ちのいい結末で戦いが終わるっての、このお話全然なかったからさ……。(飢えた野犬をけしかけられたり、足引っ張り村の因習が襲いかかってきた過去を思い出す)

 

 アンちゃんとヒューが語らう窓辺も、暖かな夕日がシルエットを影絵のように切り取る画作りが効いてて、情緒が濃い。
 ヒューが語る敗因……力の代償としての不自由を、アンちゃんは飲み込みきれない。
 ペイジ工房職人頭として、ただ作るだけではなく部下の管理とか仕事全体の差配とかを気にするようになっても、運命や社会に翻弄される苦味は、あんちゃんにはまだ実感がない。
 既に山程理不尽には襲われているのだが、個人の才覚とガッツ……あとシャルへの愛で乗り越えてきたアンちゃんにとって、業界全体を差配してルールを書き換えれる立場に自分が立つ体験は、まだ少し遠いわけだ。
 そしてヒューは銀砂糖子爵として、そういう立場を選んだ。

 『国家に縛られないただの職人ならば、間違いなく負けていた』とアンちゃんが考えるのは、彼女の職人としての生真面目と願力が、同時に枷にもなってる現状をよく語る。
 なんでもかんでも俯瞰で理解できてしまうほど、アンちゃんが人間出来ちゃってたら物語的伸びしろも、チャーミングな未熟さもかき消えてしまう。
 そういう至らぬ部分を恋に仕事に奔走する中、経験を通じて学び取っていく過程が面白いわけで、アンちゃんがヒューのことを理解しきれない描写がここであるのは、とても良かったと思う。
 ノアの気持ちとハーバートの思いにしっかり寄り添い、死せるものも遺されるものも救う奇跡を引き寄せた優しさは、物語が始まったときからアンちゃんの武器だ。
 立場を変えつつ、そういうものが彼女に……そして強敵であり師匠でもあるヒューに生きていて、それこそが真の銀砂糖を作り上げるのだと描けたのは、この勝負最大の成果かなと思う。
 クソみて~な世界の中でも、祈りを形にすること、それを通じてよりよい未来を掴むことは出来るのだと、真っ直ぐ信じるロマンティックこそが、このお話の一番強いところだと思うからね。

 

 

 

画像は”シュガーアップル・フェアリーテイル”第20話より引用

 祈りの紫が印象的な前半からうってかわって、後半は赤毛の狂気が遂に本性を剥き出しにしてくる。
 アンちゃんやヒューが体現した”銀砂糖職人らしさ”が、まだ残っているのだと視線で告げるブリジットさんが、淫靡なる真紅の紗に迷い込み囚われていく場面には、サスペンスとエロティシズムが満ちていて大変良かった。
 視界を封じる布地をかき分け、鮮紅の中をかき分け進んでいくブリジットさんは、偽りの愛に裏切られ犠牲となる。
 前半しっかり、ヒューが作り上げた砂糖細工の美しさ、清らかさを描いてきたので、その意味をわかっているブリジットさんも、踏みにじるラファルも、キャラクターの在り方をしっかり刻めたと思う。
 コトが起こってみると『そら、まーな……』という決着ではあるのだけども、ままならない気持ちを愛玩妖精にぶつけ、歪な癒やしを得ようとしたのが間違いだったと、否応なく痛感することにはなったので、ようやくブリジットさん救済ルートが拓けた感じもある。
 裏切りと挫折だけで真実知るのはあんまりなんで、誰かが未だブリジットさんを見捨てていないのだと、抱きしめてあげてくれると嬉しいかな……。
 オラエリオットオメーが頑張るんだよッ!!

 さておき、本性を顕にしたラファルはキモさ全開でシャルに迫り、いい感じのバトル作画が大暴れだ!
 回数自体は多くないけど、このお話のアクションは切れ味もいいし描き方も鮮烈だし、メチャクチャ作画オタク的滋養満載だと思う。
 朽ちた剣にはめ込まれた貴石から生まれた兄弟として、異様な執着をシャルに押し付けるラファルだけども、シャル自身は己の出生をあんま覚えてない感じなんかな?
 『妖精大反乱だ……ッ!』みてぇな事を吹いてたし、そうなるのも当然の扱いを人間社会もブッこいとるわけだが、最高のパートナーと良い関係を築けているシャルにとって、ラファルの凶猛と悲憤はあんま、共感できないものかもしれん。

 ここら辺の距離の遠さを、アンちゃんに危害加えて近づけようとする所がキモ蔵の発想なんだけども、さてはてどう転がっていくのか。
 『障害があってこそ愛は燃え上がる!』という、古典的ロマンス仕草をきっちり活用して、隙あらばアンちゃんとベタベタイチャコラしよるのは素晴らしい。
 アンちゃんもおぼこい感じが気づけば薄まって、自分がシャルを好きなこと、シャルが自分を愛してることに生身を近づけれてる感じ出てきたなー。
 ここら辺の変化を味わえるのも、職人アン・ハルフォードの成長と合わせて、2クールしっかりお話積めてる強みだね。

 

 というわけで砂糖菓子決闘に決着が付き、ヤバ妖精が本性表して次回に続く! という回でした。
 ノアは絶対に救われて欲しいいいヒロインだったので、銀砂糖細工の可能性を感じられる爽やかな結末を迎えられて、大変良かったです。
 大人だからこそアンちゃんを助けられ、今その不自由が敗因になったヒューの横顔を、陰影深く描ききれていたのも素晴らしい。
 赤い狂気が身近に迫る中、アンちゃんとシャルは真実の愛を守りきれるのか。
 ようやく突破口が見えてきた大仕事の行方は、一体どうなるのか。
 次から次へと大波乱、目を離せぬ後半戦のこれからも、とても楽しみですね!