イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

アンデッドガール・マーダーファルス:第7話『混戦遊戯』感想

 誰も死なない紳士たちの知的遊戯は、爆発とともに魔人の戮宴へと塗り替わっていく。
 ロイスにモリアーティ一味も本格参戦、複数勢力が入り乱れての超人バトルが大暴れな、アンデッドガール・マーダーファルス第7話である。

 ここに至るまでの出会いや会話に仕込んでおいた、知恵の種が各々花開いて絡み合い、ゴロゴロ転がるダイヤといっしょに勝者の資格が行ったり来たり。
 騒々しくも楽しい……まさにファルスと呼ぶのに相応しい状況である。
 人はたくさん死んでいるが、世紀末の獣や女吸血鬼が表舞台に上がった以上、情け容赦のない殺戮が顔を出さないほうがおかしい……というのも、随分イカれた価値観か。
 世紀末という時代、舞台に上がった奇人変人横並びを見ると、お行儀のいい知恵比べで終わってしまうのもなかなかに勿体なく、M一味が仕掛けた血まみれの横殴りは、高みの見物を決め込む物見客としては待ってましたである。
 『ルパンは殺しをやらない』と、プライドとスタイルを信じて化かし合いを繰り広げてきた探偵二人の流儀が、怪物殲滅と問答無用、保険屋と犯罪者のやり口と衝突する展開とも言える。
 ダイヤ争奪戦、そこに付随する殺し合い以上に、探偵と怪盗、怪物と英雄それぞれの生き様が衝突する現場として、なかなか良い温度で煮立ってきたと思う。
 この血の池地獄を名だたる英傑たちがどう切り抜け、知恵と暴力が交錯する鉄火場で己を示すか……次回の決着が楽しみだ。

 

 

 

 

 

画像は”アンデッドガール・マーダーファルス”第7話より引用

 怪盗から届いた開幕の挨拶は、大胆不敵な水攻め。
 ここからお互いの力量を測り嘘を見破り、騙し騙され丁々発止のダイヤ争奪戦が始まっていく。
 映像メディアで知恵者たちの指し手を描くのは難しいと思うけども、過去回想のカットインを的確に活用して、テンポ良く見せれていたと思う。
 鴉夜が取り違え騒動から回収された時、やや不自然に自分を覆い隠していたのは気になってた演出だけども、ルパンの認識をハッキングするための手筋をひっそり印象付けた、上手い見せ方だったね。

 怪盗がホームズを水死させない手心を見せたり、探偵余裕綽々の真相究明が仇になったり、お互いを様式が縛って状況が転がっているのは、一大ジャンルを担う大看板ゆえの不自由でなかなか面白い。
 『ルパンは”そういう”存在である』『ホームズは”そういう”存在である』という、世に膾炙した決めつけをフィクションの住人である彼らは裏切れず、期待されるスタイルに縛られたまま加熱する状況に首を突っ込んでいく。
 そういう意味では、最も新しき怪奇探偵物語である”アンデッドガール・マーダーファルス”の主役たちには”らしさ”の軛がなく、闊達自在奇想天外の一手でもって軽妙に状況を飛び越える、新参者ゆえの身軽さが強みか。
 金庫に己自身を突っ込み、『ルパンは必ずお宝を盗む』という”らしさ”を逆手に取って奇襲の機械を作る鴉夜の知恵は、この物語が彼女の流儀を語り、積み上げていくからこそ可能な自由だ。
 そういう社会的、物語的優位に甘えず、凄くフィジカルな頑張りでもって奇策を機能させているのも、師匠の可愛いところだけどね。

 M一味が襲来して、博物館が惨劇の舞台に変わる前のやり取りには、密室の中の密室がいくつか登場する。
 橋を落とされたら脱出不能になる博物館、出口を自分で潰しての水攻め、難攻不落の金庫。
 これをこじ開けるだけでなく、密室が密室でなくなるような状況(あるいは密室が成立してしまう条件)を、ボウガン連射やら爆薬やらで結構フィジカルに叩きつけてくるのが、冒険活劇とミステリが入り混じったキマイラとしての、本作独特のオモシロさかなと思う。
 謎解き話とジャンルを定義してみれば、超人たちが壁ぶっ壊して溺水密室を成立不能にしてしまうのはルール違反なんだけども、それこそホームズ以降ミステリはルールを打ち壊しタブーを書き換え、行くところまで突っ走って己のスタイルを過激化させてきた。
 ミステリが先鋭化しきった時代、ホームズがカビの生えた古典になった……けども、幾度もポップに再生し続ける時代に語られる、古くて新しい探偵伝奇において、色んな密室が生まれては力づくにぶち壊され、あるいは懐かしき知恵の鍵でこじ開けられていく様子は、様式美と新鮮味の入り混じった面白さがあった。

 

 

 

画像は”アンデッドガール・マーダーファルス”第7話より引用

 とまぁ、そういう古くも新しき探偵勝負を横合いからどやしつけ、血みどろ上等のガチ犯罪バトルに引きずり込むのが、モリアーティ率いる魔人軍団である。
 人も殺さず化けたの化かしたの、お上品にやっている探偵と怪盗を皆殺しの巷に放り込むべく、犯罪界のナポレオンがねじ込む一手が橋爆破による密室作成なのが、アンチミステリ仕草としてなかなか良かった。
 ロイスは化け物殲滅最優先で、曲りなりとも協力者の体をとっているのもあってまだ話が通じるんだが、モリアーティ一味はむしろ殺しをこそ楽しむ人格破綻者の群れであり、一般社会基準では十分イカれている探偵や怪盗より、なおのことヤバい。
 哀れなヤード諸君を生贄にして、魔人の魔人たる所以を存分に見せる後半戦はいい具合にケレンとハッタリが効いてて、大変良かった。
 大魔術師を気取るアレイスターが、その実卑劣な暗器を悪用する”手品師”だと一発で見抜くの、探偵の面目躍如であり史実の彼をリスペクトした展開でもあり、『伝奇の醍醐味ここにあり!』って感じだったな。
 俺はエドワード・アレクサンダー・クロウリーの、胡散臭くて嘘と俗欲まみれな所が好きなんだ。
 あとカーミラを相手取るなら当然女以外にはあり得ないので、静句さん登板は納得だけども相手は年季の入ったヤバ女……こっちもどうなることかね。

 ロイスの保険屋は殺る気満々なんだけども、ダイヤ争奪戦は軽業師たちの饗宴めいた爽やかさで転がっていく。
 ファントムを盗みきれずトンズラこかれる所とか、手を尽くした奇策が破られてフィジカル勝負になる所とか、若きルパンが結構隙だらけな所が、奪い合いを笑って見られる気楽さに繋がってる感じだ。
 これは冷徹なエージェントをやり切るにはどっか抜けてるレイノルドや、何もかもを嘲笑し軽やかに踊る津軽のキャラ性も活きてて、楽しみつつどこか本気になりきらない不殺のダイヤ争奪戦は、喜劇のように愉快だ。
 ここにモリアーティ一味の洒落の効かなさ、最短距離で殺しに突っ込む本気っぷりが入り交じると、さっぱり笑えない感じになりそうだけども、さて次回どうなることか。
 津軽がこっちで頑張っているので、鴉夜の持ち手がホームズになってる現状も奇妙で面白い。

 道化には道化の矜持があり、死ぬの殺すのの現場に立ったから嘲弄の軽やかさが消えるなら、それは二流の証だろう。
 怪物に成り果てて死ぬ命の使い道にしても、吸血鬼の青二才を蹂躙した手際にしても、津軽の道化っぷりには気合が入っていて、そこが彼の魅力でもある。
 歴戦の魔人が殺してでもダイヤを奪いに来る状況で、それでもなおヘラヘラ笑って何もかも嘲笑えるのか。
 地べたにべったり張り付き、欲と業に縛られた連中の頭を飛び越えて、新参無行ゆえの身軽さで舞い切れるのか。
 次回は一つの正念場かなと思う。
 ダイヤが結局誰の手に収まるのか含め、なかなかに楽しみだ。