神が封じられた後に蠢き出した、人の形をした外道。
道を塞ぐ悪鬼を前に、呪術師たちの拳が唸る呪術アニメ第35話である。
久々のアクション回であり、MAPPA作画のスゲー所をシンプルにたっぷり味わえて、体内の作画袋が潤った。
どこに出しても恥ずかしい呪詛師のスタンダードが目立つ回でもあり、優しすぎ思慮深すぎた結果堕ちた夏油傑では描けない、ドブに馴染んだ生粋のクソカスが何考えて生きてるか、ようやく分かった感じもある。
現実の写し絵として、極めてロクでもない呪術世界で主役たちは、志高くヒーローやっとるわけだが、手に入れた力を我欲のために振るうクソカスは当然いて、暴力や騙し討ちが当たり前のゴミも、光の当たらぬ影には蠢いている。
そういう連中がどういう心持ちで生きているのか、覗きたくもねぇけど事実としてそこにあるものが描かれて、作品世界の分解能が細かくなった感じがした。
こういう輩を一番軽蔑していたはずの夏油が、そういうのの同類になった挙げ句親友にぶっ殺され、死体を誰かにロンダリングされて一番やりたくなかっただろう最悪やらされてる哀しみも、呪詛クズのクズっぷりが掘り下げられるほど際立ってくる。
つくづく世の中ままならないもんだが、そのままならなさを開き直って生きたまま他人の頭皮を剥いだり、娘ぶっ殺して形盗んで不意打ち成功させるような生き方するのは、あまりに醜悪だ。
呪詛師たちがぶん回す人間としての本音が、世界のスタンダードとして溢れ出さないように呪術師たちも命張っとるわけだが、その奮戦は泣けるほどに報われない。
猪野さん……いい人だったのに、最高の作画で見せ場を貰ったばっかりに最速死亡フラグ回収とは……。
というわけで、兎にも角にも作画が良い回だったッ!
いや、毎回異常なクオリティでトンデモナイものお出しして貰ってるんだけども、今回は特に作画力の効かせ方が分かりやすかったというか、シンプルに血湧き肉躍るアクションを山盛り食った感じ。
グルングルン回りまくりのワイヤーアクションも、地上に落ちてからの二体一バトルも、バキバキにキマったケレンを全身の毛穴で受け止めて、メチャクチャ気持ちが良かった。
敵も真正面からボコして後腐れない外道の中の外道だし、こういう透明度の高いバトルをたまに食べるのも、なかなか気持ちがいい。
圧倒的なアクションに支えられて、『心底クズだが、実力は侮れないし能力は厄介』という粟坂のキャラも最大限生きて、クソムカつくやつにやや苦戦し、気持ちよくぶっ飛ばして終われる一話だった。
甚爾という鬼札を速攻で引かされた猪野さんについては、ご愁傷さまとしか言いようがない。
霊亀を足にまとってのツルツル歩法アクション、最高にかっこよかったです。
あなたの勇姿は忘れない!
まぁ盤面が固定されちゃうと途端に面白くなくなる座組なので、予期もしてない(けど脅威度はよく分かる)イレギュラーが横殴りかけて、状況を引っ掻き回してくれるのは大事よね。
俺は思うがまま、弱者を蹂躙して生き続ける。
粟坂の身勝手な自分語りは五条悟が抑え込んでいたものが、どんだけろくでもなく、生々しく厄介であるかを教えてくれる。
神様が直接ぶっ潰すにも値しないゴミクズだが、他人の人生泥まみれにするには十分な外道に六眼で睨みを効かせ、悪ささせない御本尊的なお仕事を、五条先生は存在しているだけで果たしていた。
『このまま五条悟がいないと、こういうクソカスがバンバン表社会で暴れるぞ~~!』という、イヤーな未来予告としても粟坂とのバトルは機能している。
しかしまぁ、呪力という超常の力を手に入れたのなら粟坂のように手前勝手に使う輩も当然いるだろうし、そんなエゴを抑え込んでヒーローやっていくのがどんだけつらいかは、最強コンビの青い春が嫌ってほど教えてくれた。
その片割れが堕ち片割れが封じられた後で、教師たる五条悟が教え託した二人がクズの始末をつけていくのは、ちょっとだけ前向きな希望があって良かったと思う。
虎杖くんと伏黒くん、現代の最強コンビがどんだけ相性いいか、改めて示すステージでもあったかな。
あと情報を握ったものが勝つという、呪術戦の基本ルールを再度確認する意味合いも強いか。
今回のバトル、決め手は『術式を見きっている』と粟坂に悟らせなかった脱兎ちゃんなわけでね。
粟坂と甚爾って、精神性においてはそこまで差はないと思う。
どっちも誰かぶっ殺してうまい飯を食ってるクソカスで、ただチョロいトリックで無敵を装ってるか、神様を一回殺せるくらいの規格外かの違いだけだ。
心に差がなくとも力に圧倒的な差があれば、主役が今どんだけ強いのか見せるリトマス試験紙と、第三勢力として盤面全部に影響を及ぼす強敵は、立場が明瞭に分かれてしまう。
強くなければ何かを為すことは出来ないけど、強いだけではクソな世界はクソのまんまだ。
存在するだけで何かが出来ていたほど強かった五条先生は、偽夏油決死の策略で封印されてしまった。
神様ほどには強くないけど、外道を潰せる程度には強い教え子たちは、過酷さを増していく戦場でなお、強く正しく在ることが出来るのか。
物語は、まだまだ続く。
粟坂をぶっ飛ばし帳を開けたところで、渋谷事変というゲームが終わるわけではなく……しかし、局面に確かな変化はある。
それが虎杖くん達にとって前向きな変化ばっかりじゃないってことは、亜音速でフルボッコにされた猪野さんが語っているけども、さて復活の魔人は善悪相撃つ混迷の渋谷に、どんな嵐を持ち込むのか。
ただただ強いということが、どれだけ厄介で恐ろしいことかを、甚爾の暴れっぷりは教えてくれるだろう。
どんな戦いが待ち受けているか、アニメがそれをどう描いていくか。
次回も楽しみですね。