史実の競馬を元に描かれる、令和のスポ根アニメ新スタンダード……待ってましたの第三期、キタちゃん主役に堂々発進である。
二期から約二年、間にRtTPを挟みつつスタジオKAI制作、及川監督の”ウマ娘”が戻ってきた形だが、情報量の多い細やかなクスグリ、朗らかながら勝負に前のめりな姿勢、勝負事の明暗両方をしっかり見据えるコシの強さと、作品の強いところを最初からブン回してきた感じがあった。
流石に三期も積み重ね、アプリも絶好調となればある程度以上説明を省き、初手から一気に本筋が回りだす作りも可能になる。
ここらへんは二期冒頭、『皆さんご存知アイドルホース、トウカイテイオーの苦難と栄光の物語が始まります!』と滑り出したのと、結構似ている味わいかもしれない。
その二期でテイオーの背中を眼をキラキラさせながら見つめる側だったキタちゃんが、満を持してのトレセン学園入学、無傷の三連勝でデビューを飾りこのまま順当に常勝街道爆進か……? というところから、物語は動き出す。
説明を省略したところは描写でしっかり埋めていて、ウマ娘がどんだけ条理を超えた存在か、登校風景でキタちゃんの人の良さと合わせてちゃんと描いていたり、名門常勝軍団と化したスピカの雰囲気も、サラッとながらしっかり描かれていた。
アニメ一期から約五年、気づけばそれなりの付き合いになった”ウマ娘”であるけども、久々にアニメで馴染みのみんなに出会うとやっぱり可愛く、嬉しい気持ちになれた。
僕はアニメでしかウマ娘に触れないユーザーだけども、こういう気持ちで出会い直せるコンテンツなのは、なかなかありがたいことだと思う。
直近摂取したRtTPは、四話という限られた尺の中で三人のサーガを描き切る関係上、シリアスな勝負のドラマ以外の要素をかなり切り捨てていた。
今回は1クールどっしり使えるからか、及川監督の味か、真顔でボケるトボけた味わいが随所に見られ、こちらも懐かしく嬉しい気持ちになれた。
ぞろぞろ名馬の名を背負う娘たちが学園に集う場面で、メチャクチャな量の名札が画面埋めてるところとか、フツーでは言わない過剰な説明ゼリフとリアクションがワッと押し寄せたりとか、ウマ娘のアニメで食べたい味がスムーズにお出しされた感じがあった。
この朗らかな空気が、勝負を追いかける中否応なく張り付いてくる重い空気を上手く抜いてくれて、過酷な運命を最後まで見届けれる部分もあるので、初回からチャーミングで楽しいのは良かった。
僕はウマ娘が競走馬のドラマと疾走る定めを背負う”ウマ”であると同時に、華やかな衣装に身を包んで青春を謳歌する”娘”でもあるところが好きなので、そんな彼女たちの日々が明るく元気でいてくれると、嬉しい気分になるのだ。
キタちゃん主役の話として見ると、憧れの名門チームへ無事加入し順調なデビューを飾った新人が、圧倒的なオーラで勝ちきるライバルに挫折を味合わされる開幕となった。
競走馬が走るドラマに平坦な道はないわけで、開幕無傷の三連勝を飛ばして、ドゥラメンテに二度の敗北を喫するところからスタートしたのは、今後の凸凹へ覚悟を固めさせてくれて良い。
勝ったり負けたり、傷ついたりそれを乗り越えたりするからこそ面白い物語がウマ娘のスタンダードであるのなら、デザインも性格もまさに熱血純情主人公してるキタちゃんの旅路も、土つけられたところから始まるわけだ。
2つのレースでエピソードの前後を挟み込み、間間にキタちゃんの明るい学園生活、満点笑顔と彼女なりの苦悩をしっかり詰め込んで見せてくれたのは、改めて彼女がどんなウマ娘なのか、しっかり解る作りだったと思う。
”まつり”というキーワードを見つけ、ダービーに向けて入れ込みすぎた気持ちを整理した上で負けたのは、天下のサブ・キタジマから継承した祭り魂を今後、より深く掘り下げていく前フリなのだろう。
何しろ12話の長丁場、レースを通じて描かれる馬生を深く削り出していく余地はたっぷりとあるわけで、テイオーに憧れるだけの若々しい現状からどうやって、自分だけのウマ娘像を形にしていくか、しっかり追いかけていきたい。
そんな魂の形を削り出す刃になるのが、魅力的なライバルたち。
サプライズ登場となったドゥラメンテは、寡黙でストイックな立ち姿で圧倒的に勝ちきる姿にカリスマ性があり、彼女のことをもっと知りたくなるヒキが大変強かった。
キタちゃんが身にまとう王道主人公力を最大限引き出すためには、彼女に敗北の苦さを教えるライバルもまた真っ直ぐな造形してたほうがいい感じに思えて、第1話でのドゥラメンテの描き方は、欲しいところに速い球を真っ直ぐ投げ込んだ感じがある。
史実だと相当なオモシロ愉快ホースなので、今僕らに見えているバトルマシーンっぷりからどう切り崩し、あるいはどう硬さを保って人物を見せてくるのか、キタちゃんとの触れ合いを通じてしっかり描いてほしい。
二期から運命の相手として描かれてきたサトノダイヤモンドも、可憐に成長した姿を見せてくれた。
いやー……パジャマ可愛かったなぁ。
一切照れることなく、世界で一番お姫様なのがダイヤちゃんの素晴らしさ。
サトノの悲願を背負い、一年遅れでキタちゃんと肩を並べるドラマが熱くなりそうな燃料はすでにしっかり準備されていて、ただ綺麗なドレス着てるだけじゃない競走馬の闘魂が、言動の端々から匂うのは良かった。
ダイヤちゃんをスピカに入れず、サトノ一族限定チームであるカペラに所属させたのは、彼女がどんな今後ドラマを再現/展開させていくのか分かりやすくて、優れた一手だったと思う。
カノープスのドラマは二期でやりきっちゃてる感じもある(時代も合わないし)ので、新たなライバルチームを据えて竜虎相搏つ盛り上がりの器を、しっかり準備しているのは良いことだ。
無論、あのチャーミングな連中に新しい仲間が増えて、賑やかで楽しい姿を、泥臭く噛み付いてくる熱量を新たに描きなおしてくれるなら、大変嬉しいけどね。
ウマ娘アニメはファンが好きになってくれた部分を大事に継承しつつ、お話の形態とかそれを成立させる各要素とか、縛られすぎずかなり手を入れてるのが、シリーズ作品通しての強みかなと思う。
『これがウマ娘のアニメだ!』ってこだわりは時に、自分たちを縛り腐らせる不自由な枷にもなってしまうわけで、これまで培った財産(史実から借り受けているドラマ性含む)を生かした上で、変えるべきところを今生成されている物語に合わせて整え、お話に呼吸をさせてあげてる感じ。
トウカイテイオーとメジロマックイーン、二期を疾走した二人の主役に憧れていた少女が、今度はターフで肩を並べ走る側になるっていう、喜ばしい継承をより良く活かし切る意味でも、”らしさ”に縛られすぎず、描くべきものを描いてほしい。
同時に”らしさ”に魅入られて三期まで見ている部分もあるし、それをたっぷりと味わえる第一話でもあったので、そこらへんのバランスは上手くやってくれるかな、と思えた。
冒頭、疾走するウマ娘の力強い足音が耳を叩いたときの『あ、ウマ娘のアニメを見ているな……』って実感は、やっぱり凄く気持ちが良かったもんな。
僕は走る存在としてのウマ娘に、音響も作画も演出もこだわり続けてくれているところがとても好きだから、初めてウマ娘の足音を聞いた時、とても心が動いた。
そういうところを相変わらず大事にして、悩みながら真っ直ぐに走るキタちゃんの物語を書いていってくれるのだという、安心と期待と信頼を抱かせてくれる三期第一話でした。
大変良かったです。
熱血スポ根主人公のど真ん中を、一切のてらいなく撃ち抜いているヴィジュアルも性格は、こうして主役に据えてみると強さがよく分かる。
キタちゃんが持っているだろうキャラとドラマのポテンシャルを、史実への分厚いリスペクトで熱く燃やして進んでいく物語、大変面白そうです。
次回も楽しみですね!