イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

豚のレバーは加熱しろ:第1話『オタクは美少女に豚扱いされると喜ぶ』感想

 読心能力を持つ少女と変態紳士な豚が織りなす、極めて珍妙な異世界転生物語の第1話である。
 『俺たちは過剰なモノローグで肥大化した自意識をぶん回す、欲望充足のメディアだ!』というラノベの自己定義に大変率直に、『元オタクの豚なんだから、メタ認知をゴリゴリブン回してもいいし、欲望に素直になってもいいし、あんま酷いことせず現代的倫理観でもって奴隷種族に優しくしてもいい! 豚は自由だッ!!!!!』という、濃いめの免罪符を初手からベッタリ貼っていくお話で、大変面白かった。
 こんだけ自分たちの露悪的な部分に自覚的で、なおかつそこを面白く取り回せそうな要素メインに持ってきて話を編んでいるのはなかなかに凄くて、メタ・異世界転生物語としてかなり楽しめそうな匂いがした。
 そういう飛び道具的側面だけでなく、主人公がもつ程よい豚要素と紳士要素の配合バランスであるとか、適度に恥じらいつつギャーギャー騒ぎ立てないジェスちゃんの落ち着きであるとか、キャラの味付けも程よい感じ。
 パンパンに張り詰めた自意識がぞろぞろと身を乗り出してくる、超絶モノローグべしゃり倒しっぷりも、松岡くんの芸達者に助けられ楽しく聞くことが出来た。
 アクは強いし味は濃いけども、今後の取り回し次第でなかなか面白いダシが出てくるお話じゃないかなと感じました。

 つまりはそうやって様子をうかがわざるを得ないくらい、本筋動き出さねぇスタートでもあったわけですが。
 第一話でやったこと、豚と美少女が仲良く戯れるだけだもんな……豚がお喋りオモシロ野郎であり、美少女が美少女だから面白く見れたけども。
 『豚が面白く喋り、美少女が穏やかにそれを肯定するだけで、場が持つほど面白いんじゃないの?』と気付き形にした時点で、このお話”勝ってる”わけだが、一応示された大目的……『王都に行って魔法を解いてもらう』てのが動き出すと、素材の良さが更に加速しそうな感じもする。
 宝石を使って発動するオリジナルな魔法文明とか、超ろくでもない予感しかしないイェスマという種族の設定とか、ファンタジーとして広げていくと美味しそうな要素も、結構出てたしね。
 『主役は豚』っていう尖った設定を飲み込ませるために、豚とジェスちゃんの関係性構築、奇妙な掛け合いの面白さに一話使って、しっかり下地作ってから話し動かす作りにしたのは、むしろ正解かもしれない。

 

 こういうスローな始まり方でも十分楽しめるくらい、豚のキャラが面白くて。
 何しろ考えていること全部読まれてしまうわけで、ラノベに特徴的な過剰な自意識一人称がたりは物語の必然であり、程よくスケベなことを考えつつも見てる側が引くほど欲望むき出しではなく、というか奴隷種族っぽい匂いプンプンのジェスちゃんとも対等な関係性を臨んで受け入れられてて、いい具合に紳士的な豚だ。
 変態芸も堂に入ったもので、『この豚なら……美少女とキャッキャしてても許せる。おもしれーし』と思えるラインに、しっかり第一印象を入れてきたのは良かった。
 僕は動物さんが平和に暮らしている姿が好きなので、ジェスちゃんの献身的なお世話で鶏や豚が平和に過ごしている様子も、物語のスタートとしてはありがたかった。
 今後激動のバトル展開とか待ってるのかもしれないけども、主役が豚であるがゆえのトボけた風味は大きな魅力なので、大事にしていって欲しい。

 豚は元現代人なので異世界の常識など全く気にせず、差別されるべき種族を対等に扱い、豚なりにフェアな距離感で向き合おうとする。
 読心能力を持つジェスちゃんも、豚の外見に惑わされず、また表面的な変態思考にドン引くことなく、優しい本性を感じ取って対等に向き合う。
 『豚と美少女』というエグミ強い外装に引っ張られず、実は凄くピュアな心と心の繋がりが二人にはすでに生まれており、『ファーストコンタクトでこの透明度なんだから、今後も結構純情な話が展開するだろう』という期待も強まる。
 パンツ見ようが言動がキモかろうが、相手の人格を尊重した上で対等に向き合おうとする心は何より大事であり、この得難い宝を豚が持っているのだと一発で分からせる装置として、隠し事が出来ないテレパシーが上手く効いているのも面白かった。
 オタクスラングとしての”豚”そのものの低劣を晒しつつも、豚の人格はそこで”底”なわけで、奴隷種族の献身につけ込んでいい目見ようとか、嘘でだまくらかして身勝手に利用しようとか、豚より薄汚い邪悪さとは縁遠いのだ。
 この透明感は主役が紛れもなく豚である設定と、いい具合のミスマッチを作り上げ、お話に面白さを生んでもいる。
 誰よりもピュアな豚……なかなか良いじゃない。

 

 今後薄暗い世界設定とか色んな試練とか、豚と美少女のスローライフで終わらないネタも出てくるとは思うが、しかしこの第一話でどっしり見せた主役二人の人格、関係性、かけあいの面白さは、どう広げて行っても面白くなりそうな話の土台として、なかなかいい仕上がりだった。
 松岡くんのオモシロ話芸を24分堪能できるのもありがたいし、作画や美術も程よく麗しのファンタジーしていて、アクの強い設定を上手く包んでくれている。
 ドギツい差別と肉欲が見え隠れしつつ、全体的な味付けとしてはおっとり童話調なところとかも、ほど良い塩梅でいい感じだ。
 いやぁま、世界が平和に見えるのはジェスちゃんと二人きりで過ごしているからであって、豚小屋を出てみたらドクズな差別社会が広がってるのかもしれねぇけどさ。
 でも大丈夫、俺そういうの”シュガーアップル・フェアリーテイル”で慣れてるからッ!
 ……話のメインに奴隷種族を噛ませて、主役の倫理的超越性を強調してくる作り、最近流行りなのかなぁ。

 ともあれ、なかなかに今後が楽しみになるスタートでした。
 ぶっちゃけ主役二人の自己紹介しかまだやってねぇので、どういう転がし方してくるかさっぱり分からないんですけども、先が見えないからこその面白さのほうが、現状先に立ってる感じ。
 変態を気取りつつ紳士な豚と、純情可憐な読心少女がどんな物語を繰り広げていくのか。
 次回以降も、楽しみに見たいと思います。