イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

呪術廻戦「渋谷事変」:第36話『鈍刀』感想

 帳が打ち払われ、有象無象が動き出す。
 ハロゥインの渋谷に現臨した地獄の中で、呪術師たちがどう戦い殺し殺されていくか……群像劇の真骨頂が動き出す、呪術アニメ第36話である。
 最初は五条悟という盤面を支配する大駒、前回は虎杖くんと伏黒くんにクローズアップして話数を使ってきた渋谷事変だが、今回からはカメラを散らして色んな場所、色んな人を追いかけていく感じ。
 夏油が街に放った腐れ外道共を潰し、あるいはそいつらに仲間を潰され、サバイバルゲームの様相を呈しながら渋谷事変は複雑にうねっていく。
 さーすがに把握が難しいと見たか、公式サイトで何がどうなってるのか、力を入れて説明されているの、呪術のアニメだなーって感じがする。
 絵も話もかなりこんがらがって、スルリと飲み込むのは難しい原作だと思うのだが、そこら辺適切に解釈と出力をし直して、食べやすく処理し直しているのは流石だと思う。
 そういう手間を感じさせず、『原作通りのアニメ化だ~』と一瞬感じさせるのは、紙の上で展開されていたドラマが脳みそに届いた感触がどんなものであるか、作品の核をちゃんと掴んだ上でメディア・コンバートを果たしている証拠なんだと思う。
 まぁ呪術はぶっこまれている気合とクオリティがトンデモなさすぎて、『アニメの方がスゲェ!』と感じる部分も多々あるけどね。
 そういう好ましい逸脱を食べれてこその”アニメ化”だって感じもする。

 

 

 

画像は”呪術廻戦・渋谷事変”第36話より引用

 というわけで、ハイクオリティな美術が渋谷に実在感を与える中、非現実的な超人バトルがそこかしこで繰り広げられるエピソードである。
 僕の肉眼で見た覚えがある景色がモニターの中、細やかに切り取られて惨劇の舞台になっていくのは、日常が非日常に塗り替えられていくおぞましさ(と、微かなカタルシスの快楽)に浸ることが出来て楽しい。
 当たり前の風景の裏に蠢く、呪霊という泥。
 それをなかったコトにして成立してきた呪術世界の平穏が、壊されるか壊されないかの瀬戸際なのだということを、素晴らしい仕上がりの美術はよく教えてくれる。
 この見慣れたものが壊れていく感覚は、作中事件に巻き込まれたモブたちが今まさに感じているものだろうし、こういう形で作品の中展開されてる嘘っぱちに視聴者を引き込むのは、クオリティの剛腕を正しく活かしている感じがあって良い。
 おしゃれでキラキラした現代のバビロンを歩く時、ふと脳裏をよぎる『この繁栄、全部ぶっ壊れたらどうなるのかなぁ……』という空想を、最高品質で叶えてくれてる薄暗い楽しさもあるわね。

 さてバトルの方は魔人・伏黒甚爾が掟破りの大復活など果たしつつ、戦闘能力に欠ける連絡要因をプチプチ潰された呪術師サイドの反撃開始……といったところ。
 クールな表情で体内に渦巻く義憤を抑え込むけども、鍛え上げた肉体が憤怒に怒張しているナナミンが初手から描かれ、そういうの大好き人間としてはマジでご褒美であった。
 高校時代あまりに辛い体験を重ねたからか、一度は呪術業界から離れ普通でつまらない生活に溺れようとして、才と業と性が誰かを守らない生き方を許さなかった男が、薄汚ぇ闇討ちに怒らないはずないんだよなぁ……。
 同じ一級術師でありながら、用益潜在力だけで他人を図る冥冥の暴れっぷりも並走して描かれることで、怒れる明王のごとく邪悪を滅し、静かに正義を為そうとする七海健人の戦いぶりも、より際立つ。
 この地上の地獄で、なんのために戦い死んでいくのか。
 三下呪詛師が答えられなかった問いかけに、ナナミンは無言のまま拳を振るい、誰かを守ることで答えとする。
 豪壮で悲壮なヒロイズムである。

 

 これを描くキャンバスとして、野薔薇と新田ちゃんがカスにひどい目に合わされるわけだが。
 アベコベ野郎の勝手な言い草から、呪詛師がどんだけ人間のカスか大体わかった。
 そんな視聴者のナメっぷりを、惨劇と軽薄で上塗りする重面のド外道加減……最後にナナミン怒りの鉄拳で制裁されること含めて、大変良かったです。
 あれで好き勝手絶頂女嬲って勝ち逃げされてたら、胸糞悪いどころの騒ぎじゃないけども、GUCCIも余波でぶっ壊れる大激怒一話中に叩き込んでくれて、溜まったストレスが気持ちよく放出された。
 重面も気持ちよくふっ飛ばされる前フリを丁寧に積み重ねてくれて、心底狂って軽薄なのかと思いきや時折冷たい視線を周囲に飛ばし、『あ、コイツ計算しながら外道やってるな……』て思わせる見せ方とか、最低で最高だった。

 重面は虎杖くんにおけるバッタ野郎と同じく、ナナミンのスペックと生き様を知らしめる前座でしかない。
 特級呪霊と最悪の呪詛師、不確かな陰謀と怪物が蠢く渋谷事件の深奥では、こんだけ逞しい彼すらも生き残れないかもしれない。
 若い野薔薇が感じられない危機感を、高校時代同級生を殺され一度は人生に迷ったナナミンはビリビリ感じ取っていて、『足手まといだから失せろ』とうそぶく。
 翻訳すると『これ以上死なれるのキツいんで、逃げてください』である。
 ここら辺、中核から辺境へ野薔薇たちを逃した真希ちゃんの心遣いと同じで、みんな誰かを思いながら生き死にの現場に立ってんだなぁ、って感じ。
 『厳しい状況下での現実的判断』ていう形を取らないと、世界の裏側から人々を守る、呪術師という生き方を志した人たちは逃げてくれないから、厳しさを装うのは優しい。
 そしてその優しさを問答無用に踏みにじり、理不尽に殺していくものが今渋谷には溢れていて、厳しくも優しい人達もまた、大事なものを奪われ失っていくのだろう。
 帳よりも強くヒーローの退路を断つのは、その志……ってところか。

 

 

 

 

 

画像は”呪術廻戦・渋谷事変”第36話より引用

 そういう状況下で、冥冥VS疱瘡神、虎杖VS脹相のバトルもパラレルに開幕!
 テロップ演出やナレーションなど、一期ではあんま使ってなかった表現が渋谷事件からは元気で、その変遷を味わうのもまた楽しかったりする。
 ギリギリ限界の強敵を相手取っているんだけども、どこか剽げて凶暴な余裕が消えない冥冥の戦いが、いったいどう描かれるのか。
 弟たちの仇討ちに燃える、呪霊らしからぬ呪霊が虎杖悠仁を相手取り、どういう戦いをするのか。
 一つの戦いが収まっても、渋谷に戦いの火種は消えじ。
 まだまだ続く渋谷事変、次回も大変楽しみです!