イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

ミギとダリ:第3話『ともだちをつくろう』感想

 幼い記憶に微かに残る、ペイズリー柄の残滓を追って、仮面の双子が動き出す。
 天国と地獄は隣り合わせ、明暗半ばするミギダリアニメ、第3話である。

 母を失った過酷な過去が明かされ、ミギダリちゃんの珍道中がシリアスな復讐劇だとわかった所で、その道具として友だちを作る流れに。
 鳥になるのを夢見る奇人・秋山くんと、バービーハットの悪童・丸太くん。
 二人と知己を得るエピソードは、相変わらずのぶっ飛んだ笑いと、じりじり不安を煽る暗さが同居していて、なかなか独特の味わいだった。
 ”表面と真相の二面性”ってのはこのアニメの重要なテーマの一つで、純真無垢な秘鳥少年が実は二人で一人であること、復讐を遂げるために色々調べていることは、誰も知らない秘密だ。
 そんな風に仮面と本音を使い分けながら、母の死というサスペンスに迫っていく中で、ダリは秋山くんが見たい虚像を嘘っぱちとして差し出し、真実を探る時間稼ぎをする。
 不屈も友情も、トリックや本意のある嘘っぱちなのだが、そうやって手に入れたお荷物がいつか、本当に大事なものになっていくかもしれない。
 そう思える……あるいは願うのは、母の死によって双子が一気に不幸になったわけではなく、最初の思い出からしてベッドの下に隠れ、真っ当な幸せを得れない人生をずっと続けていたと、静かに描かれたからかもしれない。
 ミギダリちゃんの面白い入れ替わり芸は、そもそも何かから逃げ隠れ、ひっそり生きていく事に適応した結果のサバイバル技術でもあって、傍から見てりゃ笑い事だが当人には笑えぬシリアスという、このお話の基本構造が響いている。

 今のダリにとって秋山くん・ザ・奇っ怪鳥人間との抱擁は地獄であり、友達なんて嘘っぱちで手に入れた、真実にたどり着くための便利な道具なのかもしれない。
 しっかし妙ちくりんに捻れたオレゴン村で、芝居だろうと養親に愛され一人の少年として生きていく中で、心を許せる友達の一人もイなきゃ、あまりにも辛すぎる。
 亡き母しか世界に大事なものなどなく、そのためには嘘も犠牲も構わないと突っ張ってる双子が、世間に何も教えてもらえず愛されもしなかった哀しい少年たちで、生真面目な大ボケは計算でも何でもなく”素”なのだと、三話も見りゃ解ってくる。
 だから色んな人に嘲られてきた秋山くんが欲しかった勇気と承認、絆と友情を都合よく差し出した今回の嘘が、双子に戻ってきて少しは幸せな道を拓いてくれればいいなと、大笑いした後思った。
 地獄の鳥人間と苦難の後の甘いパイ(意味深)、天国と地獄の抱擁には思いっきり笑ってけども、ひとしきり笑った後思い返すと『わ、笑えね~~』ってなる部分が沢山あって、でも笑わされちゃった以上ミギダリちゃんが復讐鬼でも不幸な子供でもなく、フツーに幸せな子どもとして生きて欲しいと願っちゃう作りなの、やっぱいいなと思う。
 その願いは養親との生活の中で、偽りでしかないと跳ね除けてももう成立してて、それを本当の家族と抱きしめるためには、ペイズリーの壁紙を追いかけて母の死の真相を暴くしかないってのが、コメディとサスペンスと人情劇が融合した、良い舞台建てだ。

 

 秋山くんとは(誤解と欺瞞が山盛りあるけど)双子の光になってくれそうな出会い方をしたが、丸太とのファーストコンタクトはザ・最悪であり、痛みを知らねぇクソガキに情け無用のスリッパ乱打、ミギ兄貴の弟への愛情がどんだけ苛烈なのか、よく見えた。
 どんだけ苦しい痛みを背負ってこの村に立っているのか、双子にとって母がどういう存在なのか。
 なんも知らねぇクソガキが好き勝手絶頂嬲ってくるが、ボーイスカウトのクズどもの反応を見るだに、これが世間のスタンダードかもしれん。
 そういう中で無限大の愛で秘鳥ボーイを包もうとしてくれる、老夫婦の存在がまたありがたいわけだが、双子は冷たい理不尽と差別に泣き寝入りするわけではなく、不気味な暗さを守って反撃を試みる強さももっている。
 丸太に力関係を理解らせた後の不気味な雰囲気は、養親や秋山くんと進んでいく光の未来だけが彼らに待ち受けるわけではなく、秘密や嘘、暴力や死の暗い影が、復讐譚に染み出している事実を思い出させてくれる。
 ミギダリちゃんがおもしろ行動で僕らを笑わせてくれる道化であるのも、復讐に呪われた冷徹な悪童であるのも、失われたものを暖かな日常に取り戻していくただの子どもであるのも、全部本当のことだ。
 多数ある真実の中から、双子が何を本当にしていくか……てのは、母の死の謎と並走するもう一つのミステリであり、ハラハラ見守りゲラゲラ笑う、このお話の強力なエンジンだと思う。

 そして友達獲得大作戦に勤しむ今回、ミギとダリは『二人で一人』ではなく、お互いを囮に立ててアリバイを作り、個別の人間として別々の道を歩む。
 嘘っぱちの友達をやりたくもねぇのに抱きしめたり、調査の役得で嬉しいハプニングに出会ったり、共有できない体験や思いが、無垢な心に個別の足跡を付けていく。
 そして二人が個別の存在で、お互い思い合っているからこそ、丸太のクソみたいな欲望に振り回されるのではなく、思い切りやり返して弟を守ることも出来る。
 バラバラでありながら通じ合い、一つでありたいのに別れている双子の道は、先に進むほどに複雑さを増していくだろう。
 不気味な二体一心に思えた双子が、結構性格も個性も違ったおバカちゃんで、それぞれに愛しく思えてくるって発見もまた、このお話特有の面白さだなー。
 見ていくうちに発見や納得が生まれて、それを拾い集めて『このアニメ、好きかもしれん……』ってなれる体験は大事で、それがスムーズに行くよう物語の筋道を整えてくれているのは、とてもありがたいね。

 

 というわけで、ミギダリちゃんが友達作りに挑む回でした。
 基本的にはおかしく微笑ましく、人生のどん底からジリジリ再起しつつある少年を見守る味わいにまとめつつ、復讐に取り憑かれた魔少年の不気味さ、底のしれなさをしっかりと残して、『あー、こういう話こういうキャラね~~』というナメた納得を許さない感じ、大変良かったです。
 眩しい天使の顔は仮面なのか本性なのか、復讐完遂だけが少年たちの救いなのか。
 複層敵サスペンスを揺らしつつ、とぼけた味わいの神戸アメリカングラフティは続きます。
 次回も楽しみですね!