イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

オーバーテイク:第3話『表彰台まで何キロメートル? Why?』感想

 表彰台までの果てなき道に、瞬く明と暗。
 上がり調子な小牧モータースと、強豪ゆえの厳しさが軋むベルソリーゾ……それぞれのレースを描くオーバーテイク第3話である。
 第2話まででW主人公それぞれの現状、共鳴、変化を掘り下げて一段落、前回やったスポンサー獲得が思わぬ成果を出したり、過去の因縁が発火したり、セカンドドライバーの鬱屈が暗く燃えたり、いろんなことが起こる回だった。
 純白の車体に初めてのスポンサーステッカーが映える弱小チームと、勝ちが当たり前の赤い常勝軍団。
 正反対な二つのチームを話の軸に据えた意味が、F4の悲喜こもごもを多角的に描くエピソードから見えてもくる。
 アットホームな雰囲気で、他人には言えない”走る理由の半分”を預けてもらえる表彰台の外側と、勝つために取れる手段を全て取る厳しいプロチームの内情。
 その両方がF4であり、チームの経済状況と雰囲気、個人の心情と因縁、偶然と必然……走りにまつわる全部、全部ひっくるめて超高速でせめぎ合うからこその面白さを、このアニメは削り出していく。
 色んなチーム、色んなキャラが走ればこそ生まれる複雑な味わいを、しっかり飲み干すことが出来る回になりました。

 

 

 

 

画像は”オーバーテイク!”第3話より引用

 というわけでポンコツ写真家が切り取った奇跡の一枚が、巡り巡って掴み取った小牧モータース初のスポンサー。
 可愛い子には仕事させんと! というわけで、慣れないCM撮影に悠くんは四苦八苦である。
 可愛いねぇ……(ネットリ)。
 第1話で見せたツンツンクールな鉄面皮と熱い涙の落差、第2話で示された熱い人情話と意外な可愛げで、ジジイはすっかり熱血F4ボーイの虜である。
 人付き合いが底まで器用じゃないところが悠くんのチャームポイントであり、そういう彼が走るために必要な資金を得るため、あるいは走らせてくれるありがたみに報いるために、色々頑張る姿を応援したくもなる。
 主役チームの疾走担当が、真剣さと可愛さを兼ね備えたいいバランスで主役張ってるのは、このアニメのとても良いところだと思う。

 前回街を連れ回されて、走るための金を稼ぐのがどんだけ大変で、そこにどういう体温後が流れているかを身近に知った悠くんは、苦手なCM撮影から逃げ出しはしない。
 感動”させてもらった”孝哉が献身的に悠くんを支えているだけに見えて、孝哉からの影響がまだまだ未熟な少年の視野を広げ、より善く走る心を作り上げていく様子が、ドライバーとしての日常に上手く滲んでいる。
 弱小チームとしても平等なギブ&テイクで結ばれたスポンサーと、気持ちのいいビジネスを展開できるのはありがたい話で、小牧モータースは全体的に前向きだ。
 コース外のこのいい空気がしっかり描けていることで、ベストレコードを更新していく快進撃もスッと見る側の胸に収まっていくのは、なかなかいい話運び。

 

 一方ベルソリーゾ……というか鬱屈のセコンドドライバー、徳丸俊軌は、どうにも重苦しい場所でもがいている。
 徹底して影を描かれないファーストドライバー、春永早月が彼を立てるのは、一切裏のない素直な感情なんだと思う。
 重荷を背負わず影に囚われず、自然と勝つべくして勝つ天性のレーサー。
 それは”自然”が難しい悠くんとも、不運と屈折に縛られて足が伸びない徳丸くんとも、全く違った生き方だ。
 勝つことに意気込まず力まない自然体は、最もスムーズに勝ちへの道を突き進める最短距離でもあり、『F4で一番早い男』がこういう軽めの造形になっているのは、新鮮でありながら納得もある。
 何かを絞り出し、振り千切って走らなきゃいけない時点で、ソイツは勝ちに向いていないのだ。

 んで、ベルソリーゾのセコンドはまさにそういう男で。
 春永くんが突っ走る前向きについていけず、立ち止まって足踏みしてしまう考え過ぎは、しかし勝負に挑む人間の嘘のない表情だろう。
 誰もが何も考えず軽やかに勝てるわけではなく、人間の全部を賭けて走るからこそ、暗く重たいものも湧き上がってくる。
 悠くんは父の遺志とか勝利への執念とか、運命の重たい鎖を孝哉の助けで引きちぎっていける立ち位置だが、徳丸くんはそこに縛られ身動きが取れない難しさを、キャラの主題に据えられている。
 負け役……と言い捨てるには筆致が複雑で繊細な、コースに立ってるもう一人の人間。
 重荷を振りちぎって進むでも、元々軽やかに勝利に飛んでいくでもなく、人間らしい弱さに足を取られながら、迷い道を進む男の顔だ。

 

 

 

 

 

画像は”オーバーテイク!”第3話より引用

 そんな二人の交錯が、”便所”という個人的で、隠蔽され、隠されたものが吐き出される場所で展開されるのは、とても良いセッティングだ。
 必死に噛み殺した二番手の辛さ、こんなはずじゃなかった運命への呪いを絞り出す暗所には、精神の膿がどこから出ているのか暴く鏡が、しっかり据えられている。
 レーシングウェアを腰までおろし、黒白に塗り分けられたライバルが鮮明に見えるカラーリングもいい。
 春永くんが『本当は、君はもっと早い』と正しく認識している事実を、徳丸くん本人は飲み込めず、チーム勝利のために犠牲になるセカンドな立ち位置も飲み込めず、消化不良を起こしている。
 シケイン野郎が俺の人生にぶつかってこなけりゃ、こんな実存的吐き気に苦しめられることもないものを……。
 そうやって、嫌味をぶつけることでギリギリ自分を保っている。
 ……チームには本音をぶつけられず、憎いあんちきしょうにだけ本音を叩きつけてくるって、高校生相手に相当甘えてないっすか徳丸サン……(好みの関係)。

 照魔鏡が公平に照らすのは、二人が何を見据えているか、だ。
 孝哉との出会いで重荷を半分預け、身が軽くなった悠くんは周囲を見渡し、客観的に自分がどこにいるのか、突っかかってくる相手がどんな顔をしているか見えている。
 対する徳丸くんは噛みつく相手の顔も、苛立っている自分の目とすら視線が合わず、何も言えない迷妄の中にいる。
 もし悠くんが一人きりなら、重荷を抱え拳を固く握った彼は、同じような迷いの中に囚われていたんだろう。
 しかし小牧のオジさん筆頭に支えてくれる人はたくさんいたし、ノリと勢いで突き進む変なオジサンと出会うことで、人生がいい方向に走り出した。
 だから理不尽な突っかかり方をされても気にせず、目の前のレースだけに集中できる。

 しかし徳丸くんは強豪チームで一人きり、思い出と自意識に囚われ足踏みし続けている。
 自分が所属するチームが何を目指し、何を犠牲にして走っているのか。
 頭では理解しても感情は飲み込みきれず、勝利のためにチームオーダーに従う潔さもなく、己が何者であるかを証明したいのに、己が何者であるかが分からない。
 肥大化したエゴに邪魔されて見えなくなった自己像は、迷いとなって走りに現れ、それを伐採してくれる他者との触れ合いは自分から跳ね除けて、閉じこもり傷ついていく。
 ひどく身勝手で、だからこそ世にありふれた、主役に離れない男の屈折が、便所の鏡によく照らされている。
 そういうものも、悠くんの爽やかで靭やかな顔も、両方描いていくのがこのアニメなのだろう。

 

 

 

 

 

 

画像は”オーバーテイク!”第3話より引用

 かくしてレースが始まり、風よけ人生をひっくり返せると思った徳丸くんの期待は裏切られていく。
 前回は気さくな態度で取材を受けていたベルソリーゾのオーナーが、今回はシビアな勝負師の顔で人間を使い倒し、チームが勝つために最善手を探っているのが、いいメリハリだと思った。
 レースはレース、それが全て。
 悠くんの信条をライバルもまた共有しているのだと、シビアな分析と微かなチャンスが上手く語っている。
 オーナーは20分、徳丸くんに前を走らせた。
 真実実力があるかは、その短い時間に前に出て結果を出せるかにかかっている。
 勝利を願う強い気持ちも、負けられない理由もコース上の誰もが持っていて、それでも勝つやつは一人しかいない厳しい世界で、それでも押し付けられた負け役を引っ剥がしたいのなら。
 勝つしかない。
 そして、徳丸くんは勝てない。

 予選三位から定位置へ、見事にのし上がった春永くんは、過去を思い返さない。
 徳丸くんの脳裏をよぎる、こんなはずじゃなかった思い出の鎖を引きちぎって、スマートに軽やかに勝っていく。
 本来敵を風よけに使って、虎視眈々と勝利を狙うスリップストリームを身内でやるのも、チームとして当然の戦術だと受け止め飲み込んでいる。
 強い風を受けてなお、その”当然”を跳ね除けることでしか徳丸くんは自分を証明できないわけだが、自分も周囲も見えていない今の彼には、それを果たせない。
 勝利を焦ってチャンスからはみ出し、意地でも抜かれたくなかった障害には風よけに使われ、散々な負けが『お前は”セカンド”だ』と告げてくる。
 その屈辱……湧き上がる『なんで?』

 

 

 

 

 

 

画像は”オーバーテイク!”第3話より引用

 表彰台の頂上で、当たり前に勝利の美酒に酔う男は、その影を知らない……ってわけでもない。
 春永くんが勝者の傲慢に溺れるわけではなく、凄くフラットな視線で自分を支えるもの、踏みつけにしているものの意味を考えているキャラなのは、透明度が高く見てて気持ちいいだけでなく、『勝ちを奪っていくやつには、そういう輩でいてほしい』ってセオリーを気持ちよく引きちぎる、独特の面白さがある。
 それを知ってなお、勝ったなら喜ぶのが当然であり責務でもあると、考えているのかナチュラルに分かっているのか、はしゃぐ姿がチャーミングだ。

 そんな眩さから少し遠い場所、ベストレコード四位の小牧モーターズピット。
 結果が全てと己を律する少年に、それでも君は頑張ったと寄り添うヘンテコオジさんのぬくもりに、固く張り詰めていたものがまた微かに緩んで、走る理由の半分を特別に教えてくれる。
 あの時父の隣で見た、眩い景色が焼き付いて離れない。
 美しいエゴイズムに手が届くところまで、近づいてきた悠くんを炭酸水で祝福して、弱小プライベーターのピットは家族的なぬくもりに包まれている。
 ここで小さくても明るく勝利を喜べるのは、小牧にエースが一人しかいないからこそで、とにかく恵まれていると描かれてきたベルソリーゾの影を削り出す今回、弱小だからこその長所が際立った感じ。
 まぁこの暖かさは、ヌルさとなり弱さともなってくるのが、F4の厳しさなんだろうけども。

 そして自意識のどん底、暗く狭い場所で敗者は世を呪う。
 なぜ、俺は”セカンド”に縛られているのか。
 なぜ、俺は負け続けるのか。
 問いかけても答えは出ない……少なくとも一人では出せない場所に縛り付けられて、表彰台は徳丸俊軌にあまりに遠い。
 いいタイミングでのサブタイトル入りでもって、『表彰台まで何キロメートル?』と問いかけられているのは可愛い主役の悠くんだけでなく、いけ好かないライバルの徳丸くんも同じだと……むしろサブタイトルに刻まれた『なんでだよ!』を吠えているのは、暗い場所から連れ出してくれる手が見えない彼の方だと解るのは、とても良かった。
 勝つもの、勝ちきれないもの、負けるもの。
 様々な光と影を掲げて、色んなヤツラが疾走っているからここは面白い。
 そういう作品の幅広い魅力、群像劇としての強さを、ググッと前に出してくる第3話でした。
 大変良かったです。

 

 つーわけで、ライバルも辛いよ! という回でした。
 孝哉と出会ったことで悠くんの人生と走りに、どういう影響があったかをレースの内外で描き、そこに突っかかってくるライバルの暗い現場が、前向きな主役に照らされて残酷な構図を見せていました。
 このまんま負け犬噛ませ犬で終わらせない”コク”を、三話段階でこのアニメからは感じているので、今回描かれた狭苦しい自意識の檻から、狂犬徳丸が抜け出し彼だけの走りを見つけるドラマ、期待したいと思います。
 勝ちまくりモテまくりな春永くんが、どういう人物なのかもだんだん見えてきて、美丈夫がしのぎを削るF4の面白さ、いい塩梅にグツグツいっております。
 次回も楽しみですね!