イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

葬送のフリーレン:第1話から第4話(金曜ロードショー放送分)感想

 小学館の命運、この一作に全て賭ける!
 金ロー枠まるごとジャックという、前代未聞の大勝負で幕を開けた、魔王討伐後の永世者の旅路を追うファンタジー超大作、堂々のスタートである。
 『随分力こぶ作っちまってまぁ……成層圏までぶっ飛ばすつもりかねぇ……』などと冷えた笑いを浮かべてみていたが、一瞬で真顔にされて前のめり、『飛んだなぁ……空の果てまで……』という仕上がりに打ちのめされ、ええ、大変良かったです。
 金ロー枠で四話一気にやり切る意味が、初手多めに時間を使わせて『まー四話まで見ちゃったしな! 続きも見るかなッ!』というアニメオタク・コンコルド錯誤狙いではなく、原作の持つオフビートな良さと面白さをBPMが早い昨今、そのまんま勝負し切るための秘策だったと分かったのが、個人的に面白い視聴体験だった。
 物語の開始から80年、永世者の時間感覚で転がっていく落ち着いた物語をまるまる食わせてその滋味に痺れさせるためには、相応しい”箱”があった……って話よね。

 

 というわけで一気に四話、魔王を倒し勇者が天珠を全うし、なお続く最強エルフの人生がゴンロゴンロと転がって、”終わり”の名を持つ地の果てという物語のゴールを、見据えるところまで全4話である。
 人間たちとは違う足取りで時を渡っていくフリーレンが、彼女から見れば一瞬の流星のような出逢いによって生き方を変え、取り返しがつかない後悔とそれに背中を押された決断を積み重ねながら、美しい世界をゆっくりと進んでいく物語が展開した。
 兎にも角にも美術が良すぎて、二時間最高の異世界を森から海から街から村から、異世界ファンタジーの美味しい所を全身の毛穴で堪能できるところが、まずありがたかった。
 魔術書探求のために旅を続ける地理的な要素と、一月が瞬くように過ぎる独自の時間感覚、両方の意味合いで『旅のアニメ』である以上、フリーレンが出会う奇景絶景がどれだけファンタジックでワンダフルなのか、しっかり描いてくれるのは最高にいい。
 第一話から第四話、一気に走り抜けていく二時間で春夏秋冬、季節それぞれの世界の美しさがクローズアップされ、彼女と仲間たちが魔族から守り、死んでなお残る祈りを引き受けて見届ける世界が、生きるに値するほど美しいことが良く分かっていく。
 人の世は儚く姿を変えつつも、自然はフリーレンと歩調を合わせて雄大な時を刻み、長い無沙汰を経てもう一度訪れた時、少し変わった表情でもう一度あってくれるという描き方が、永世者を孤独にしていなくてよかった。

 魔王退治の十年、気ままな魔術書探索の五十年、勇者の死を見届け生臭坊主の遺言を受け取り、黒髪ロング前髪ぱっつんの天才児を弟子として育て面倒を見られながらの、再開への旅路。
 フリーレンは相手を変えながら旅を続け、そのあり方は不変……に思える。
 しかし『人は死んでしまう』という当たり前の理を、勇者ヒンメルの死によってつくづく思い知り、旅の中より深く人と触れ合うことにしてから、根無し草の旅が揺るがぬ芯を得ていく。
 たとえ瞬きのような出会いであっても、世界を救い共に生きた日々は永世者の心に種を撒き、50年置き去りにしてしまったものの意味を躯の前で悟って、遅すぎるということはない。
 フリーレン不変の旅は変わらず流れていくように思える時間が、人として生きればこそ均質ではなく、だからこそ永生者でも定命の儚さに寄り添い、大事なものを守り育む(あるいは守られお世話される)事ができると、力強く語っている。

 四話まとめて一気に語りきったことで、九歳で出会ったチビッ子が師匠の背丈を追い抜き、守り教えられる立場から朝起こして髪をとかし膝枕をするところまで育ったのを、見届けることも出来る。
 フリーレンにとっては変わらず流れていく時間は、フェルンにとっては子どもから大人へと成り代わる特別な時間であり、しかし二人はハイターから託されたものを、そこから数年ともに行きた日々を仲立ちに、同じ場所に立てている。
 師匠にして育ての親であるフリーレンが、どれだけ過去の仲間を思っているか旅の中強く思い知ったフェルンが、もしかしたら自分は彼女の特別ではないかもしれないと思い悩む辛さを、唯一生き残ったアイゼンが優しく解きほぐす時の、奇妙な暖かさ。
 死せる勇者への後悔を直接届けるべく、亡き師匠が示した”天国(Himmel)”へと進むフリーレンの新たな旅の扉を、アイゼンの穏やかな優しさが開いていく。
 天国などないと、古き合理主義に身を染めていたはずのアイゼンもまた、彼の基準からすれば瞬くように短い時の中で仲間の志を継ぎ、『それがあってくれたほうが、救われる』と思える場所を、信じるようになっていた。
 不変のはずの存在が、流れる星に願いを託して、あるいは消えていく命から何かを受け取って、己を変えていく旅。
 それは新たに出会った仲間とかけがえない冒険をくぐり抜け、終わってなお眩い思い出を取り戻しながら、新たな絆を定命のものに繋いでいく旅でもある。
 そういう連帯は、種族や寿命に関係なく人を繋いでいく。

 

 魔族とはそれが為し得ない存在であり、奇妙に宿敵たるフリーレンに似通っている。
 感情の(表面的な)振り幅の少なさ、絶大な強さ、永遠の時間感覚と、フリーレン(彼女の愛娘であるフェリンも一部は)は打倒した敵に似た部分を持ち……決定的に違っている。
 これを激しいバトルの中で見せ、証明する手立てとしてクヴァールとの激戦は面白かった。
 80年前は人類の屠殺者としての特権をほしいままにしていた術は、強力すぎるがゆえに人間によって解析され、”基本”となった。
 魔族随一の魔術師はそんな変化も即座に受け止め、人類が生み出した対抗手段のからくりも見抜いて猛攻を加えてくるわけだが、フリーレンとの修行に鍛えられたフェリンは『人を殺す魔法』をしのぎ切り、80年間人に隣り合って研鑽を積み上げた『魔族を殺す魔法』は、かつて封じるしかなかった魔王を殺し切る。
 わざわざフリーレンが生きるか死ぬかの激戦に挑んだのは、かつて共に歩んだ勇者の生き方が彼女の中でまだ響いているからであり、僧侶の忘れ形見が自分を守り切ってくれると、信じたからこそだ。

 80年が一瞬と、感じられるクヴァールの時間感覚にフリーレンは同調する。
 しかし人を殺して何も感じない、そういう存在として在ってしまう人類の宿敵とは真逆の生き方をしたからこそ、フリーレンは彼に勝つ。
 隣で守り切ってくれる愛弟子が、人とともに調べ積み上げてきた知恵がフリーレンに味方をするのは、永生者である彼女が人類の天敵ではなく守護者だからだ。
 50年分の後悔と、仲間たちから託された祈りを背負って、誰かを守り埋もれ錆びつこうとしている思い出を拾い上げる旅へ、進もうとする心があるからだ。
 長く生きる、あるいは強い力があるということは、人とともに旅をする資格の有無を決めない。
 儚い命の瞬きが、たしかに生み出す輝きを尊いと認め、時に自分の生き方を変えるほど真摯に受け止め歩調を合わす心が、そこにあるかが分かれ目なのだ。

 これは変わらず時を進む永生者に、取り残されていく人間も同じことだ。
 ヒンメルは50年間、人に寄り添わない生き方を選んだかつての仲間が……もしかしたら愛しい人がもう一度、星を見に戻ってくれることを信じた。
 腰は曲がり頭は禿げ上がっても、約束を違えず彼の運命を待ち続けた。
 その永訣に時を同じく、かっこよく死ねなかったからこそ魔王殺しの聖者は絶望に死にかけた少女を拾い、その未来を仲間に託すことが出来た。
 己の命を守り、生き残るすべを教えてくれたハイターのプレゼントは、フェルンの中で永遠の輝きを放つだろう。
 時の流れが残酷に何かを削り取っても、託されたものは確かに新たな芽を出して、進むべき未来を照らしていく。
 命と定めを静かに、眩しく追いかけるこの物語が”葬送”と名付けられているのは、つくづく良いタイトルだなと思う。

 人類を救った勇者の伝説も、80年経てば錆に包まれ忘れ去られていく。
 そんな現実の残酷さ、人間の移ろいやすさもしっかり画面に入れ込みつつ、しかし忘れず継がれるものを美しく描いているのは、この物語のとても良いところだ。
 銅像には緑青が浮き、かつての名蹟も荒れ放題。
 そんな定めをフリーレンは恨まず諦めず、どっしり腰を構えて思い出を磨き上げ、蘇らせる旅を続けていく。
 それは彼女が人間の定めから置き去りにされた永生者だからこそ、自分が何を託されたかを思い出して、後悔に涙出来る人だからこそ可能な歩み……であり、ヒンメルに助けられた多くの人たちもまた、その行いを忘れてはいない。
 クソガキが老爺に、少女が年経たハーバリストになるだけ年月が流れたとしても、勇者が何を成し遂げてくれたのか覚えている人がいる。
 覚えていけるようにフリーレンはくだらない魔法を集め、かすかな祈りの残滓を華やかに咲かせ、弟子とともに道を巡る。
 そこに暖かな志があるのならば、時も死も飛び超えて、旅は続くのだ。

 

 このように力強い人間讃歌を、衰退と死の定めを真っ直ぐ見据えればこそ描けるこのお話は、同時に落ち着いたユーモアとぶっちぎりの可愛さが随所に踊る、スーパー萌え萌え超大作でもある。
 血圧高くなる場面は全然ないんだけども、思わずあははと笑ってしまう暖かな滑稽味が随所に元気で、それが人が生きている手触りを作中に宿し、真摯な主題に暖かな血を注ぎ込んでもいる。
 志も行いも立派な現代の聖女……になってもおかしくないフリーレンは、ねぼすけの浪費家で掴みどころがなく、役にも立たねぇ魔法を集める変人でもある。
 このチャーミングな欠点の作り方が大変良くて、スゲー生真面目で真っ直ぐなテーマを説教臭くなく食えるのは、キャラ造形の妙味だなと感じる。
 ここら辺は孤児は救うは神の実在は証明するわ、行いを拾い上げるとガチ聖人であるハイターを大酒飲みにしたり、正しい行いの先頭に立ちつつナルシストで子供っぽい勇者ヒンメルだったり、勇者一行みんなそうだな、と思う。
 あるいはその人間味は、10年間近に苦楽をともにし、氏素性は知らぬとも魂の色合いは解っていた(からこそ、永訣に無明を悔いて涙もする)フリーレンが、主役の物語だから描けるものかもしれない。
 お花畑の魔法に歓喜して、花かんむりを贈り合うドワーフと僧侶とかマジ可愛すぎるし、その絆がずっと途絶えることなく文通を続けて事情を知ってたから、再開なってゆくべき場所をアイゼンが指し示せるとか、マジ最高よ。

 あとまーフェルンたんがな! 最強無敵萌え萌え生命体過ぎてなッ!!
 ぜーんぜん表情変わんないのに、内面の喜怒哀楽は結構振り幅がデカく、生き生きと日々を過ごしているのだと解るキャラクターって、作り上げるのが相当難しいと思うんだけども、このお話は見事にやり遂げてみせた。
 フリーレンから貰った愛の証を、ずーっと身につけ髪をまとめているところとか、育て親のだらしなさにぶつくさ文句はたれつつも無言の愛で太く繋がってる感じが滲んで、最高にいい。
 おまけにママ属性まで完備とくりゃ、重厚なテーマを支える柱としての資質十分、キャラ立ちでも勝負できるぜこの物語はよぉ! って話。

 あと魔法の表現が多彩で、なおかつバトルだけが話しの軸ではないので凄く文化的なのが、ファンタジーとして良いと思いました。
 サビを取り、花を咲かせ、空を駆ける。
 戦時ならば役立たずと切り捨てられていただろう、彩りにしかならない魔法の数々を拾い集める趣味人・フリーレンの世界が、どんだけ豊かなのかを描くシーンが冒険の中随所にあって、大変良かったです。
 戦闘技術としての魔法もクヴァール戦を中心にしっかり描かれ、フェルンの魔法が石を穿つまでの長い修業と合わせて、この世界の魔法戦が魔力のコントロールを基本に行われることを、しっかり示してきた。
 バトルものにも舵を切れる基本ルールを示しつつ、しかしそれだけが魔法の価値ではないとフリーレンの旅路の中で、フェルンとの語らいの中でしっかり示してたのは、夢の技芸としての魔法を大事にした話作りで、とても好きだ。
 フリーレンがくだらない魔法収集に勤しめる世界も、彼女と仲間たちが魔王ぶっ倒したからこそ生まれたわけで、しかし幼いフェルンを絶望に叩き込むような魔族の惨劇は、まだ世に残っている。
 フリーレンの新たな旅の中で、戦える力……倒して守る力を鍛え上げてきた意味も、また問われてくるだろう。
 どっしり腰を落としての人情噺も、血湧き肉躍る闘争も、どっちも掘り下げられる姿勢がこの序章で既に整えられているのは、やっぱ強いわな。

 

 つうわけで、大変素晴らしい全4話でした。
 ヒンメルの死から再開への旅立ちまで、一気に分厚くやってしまったことで、このお話の何が面白いのか、何を大事に扱っていく物語なのかがしっかり分かって、独自の静けさを保ったまま進める下地ができた。
 エヴァン・コールの強い楽曲を無意味にがなり立てるのではなく、普段の旅は静かな無音の中でゆったり流し、運命がまばゆく輝く瞬間に高らかに鳴らしていく音楽の使い方も、作品独自の味わいを支えていました。

 50年分の変化を、あるいはそこから取り残されている永遠を滲ませる声優陣の好演も素晴らしかったし、アニメを構成する全ての要素が、一つの意思のもとに最大活用されている感じ。
 原作の穏やかな雰囲気、焦りのないユーモアがそのまま……あるいはそれ以上の麗しさで動き出している、素晴らしいアニメ化だと想います。
 フリーレンの新たな旅がどこに向かっていくのか、大変楽しみですね!