イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

葬送のフリーレン:第5話『死者の幻影』感想

 北の果てを目指す長い旅、必要なのは頼れる肉壁!
 三人目のPTメンバーとなりうる、臆病な英雄候補生との出会いを描く、フリーレンアニメ第5話である。

 金ロー特別編成が終わってもクオリティの手綱は緩まず、進行を焦ることもなく、動き出したフリーレンとフェルンの旅路を、しっかりと味あわせてくれた。
 フリーレンのだらしなさを間近に受け止める所まで身の丈が伸びたフェルンが、まだまだ戦慣れせず幻影に飲まれ、龍に怯える様子。
 恩師を夢枕に眠り、体を育て親に預ける様が、水彩調のファンタジックな情景に映える。
 エルフの時間間隔に合わせて、大胆に時間をスキップするお話であるけども、大人になったようで子どもの部分を残し、鍛えられたようでいて甘さを残す成長の一瞬一瞬を、こういう形で感じ取れるのはありがたい。
 大人とも子どもともつかない複雑な魅力はフリーレンと共通で、簡単に人間の魅力を切り分けない作品の語り口、血の繋がりはなくとも人生の半分を共に過ごした縁の深さが、こういう重なり合いからも見えてくる。
 死に隔たれてなお引き継がれ、生きて残るものを描く”葬送”のお話、こういうちょっとした影響を注意深く重ねる画筆は、さり気なくも大切であろう。

 お話としては魔王を倒して数十年、未だ危険が残る作品世界のキナ臭い空気を嗅ぐエピソードである。
 記憶を蹂躙して獲物を誘うアインザームの悪辣さが、フリーレンが戦ってきたものがどんな存在だったか暗に語っている感じであり、才能はあっても経験が少ないフェルンは、幻と知りつつ恩師の再訪を打ち砕けない。
 結構なピンチをフリーレンが打ち砕けたのは、既に幾度もそんな悪辣と戦ってきた経験値のなせる技か、長い生が自分に都合の良い夢を打ち破るからか、ヒンメルとの繋がりの深さ故か。
 勝因分析を視聴者に預ける感じで話が収まるのは、馥郁とした余韻を作品独自の魅力として手渡してくれる、良い語り口だ。
 フリーレンもフェルンもあまり感情の起伏が激しくなく、分かりやすい記号で答えを出してくれないので仕草の裏読み、表情や口調の読解をすることになるんだけども、その分かりづらさが愛着を育む大事な手順として機能しているのは、強いお話だなぁと感じる。
 お話もキャラクターも、手間をかけてわかりたくなる魅力があるし、それを最大化するように細やかな表現が生きているのは、アニメ化頑張っているところだ。

 

 アインザームとの戦いをマクラに、新たな仲間候補・シュタルクと紅鏡竜の戦いをめぐるエピソードが動き出す。
 ハイターの遺児であるフェルン、アイゼンの弟子であるシュタルクと、かつての勇者パーティ第2世代がドシドシ集まってくる感じが、RPGの王道を進んでいる感じで面白い。
 ヒンメルを継ぐものが一見いないように見えるけど、PT最年長の最強おばあちゃんが誰より強く勇者から意思を受け取っているので、実質第2世代みてーなもんだわな。
 峠の悪鬼を打ち倒すおせっかいにフリーレンが乗り出したのも、『ヒンメルならそうするから』で、肉体は朽ちても生き様は胸に残り、新たな時代を生き延びていく。
 志の不朽こそが、幾度も繰り返し描かれるこのお話の柱だ。

 では臆病者の戦士は、アイゼンが全てを授けたという志を継いでいるのか。
 それが描かれるのは次回になるが、強敵を前にすくんで動けない臆病の奥には、既に図抜けた資質が見え隠れしている。
 フェルンが冷えた視線で見下した場所に、フリーレンは鍛えられた鋼を見出しているのはなかなか面白い所で、龍の追走に超ビビって(でもあんま表情は変わらず)飛び逃げる可愛い仕草と合わせて、少女の未熟を語っている。
 フェルンは態度も落ち着きおばあちゃんのお世話もしっかりしてて、基本的には大人びて頼りになるのだけども、要所要所で未熟なところを見せる。
 それは長い時を生き、魔王殺しという伝説を既に成し遂げたフリーレンでは、描けない成長物語の主役を、務めるための資質でもある。
 出来ないこと、知らないことがあればこそ、初めてそこに挑んで何かを学び取る物語が描けるし、それがあるからこそ既にそれを知っていて、スマートに乗りこなしていくお話も映える。
 似た者同士の魔術師親子だけども、こういう差異があることでキャラ性とドラマが均質になりきらず、お互いがお互いを引き立て合いながら物語に存在している、気持ちのいいバランスが成立もしている。

 ここにフェルンがどう絡んでくるか……だけども。
 ここまでほぼ全てのメンバーが、故郷と家族を魔族に焼滅された生存者であり、復讐者でもあるってのが、面白い共通点かなと思う。
 勇者が魔王ぶっ殺してから数十年経っても、理不尽な死が不幸を撒き散らす世界なのは変わりがなくて、おせっかいな誰かが人助けをする理由、かつて救えなかった自分の似姿に手を貸す理由は、山盛り存在している。
 完全にブルっちまってるくせに岩壁を砕く鍛錬を怠ったことはなく、鋼鉄の教えをたしかに継いでいる戦士も、自分を英雄と信じてくれる誰かのために、逃げずに立ち続けている。
 この強がりが真実龍を打ち破り、村に迫る脅威を跳ね除けれるなあ、それは村を見捨てて逃げたフェルンだけでなく、彼に自分を重ね全てを託したアイゼンの勝利にもなる。
 魂のあり方を継いで生き続けるということは、それを託してくれた誰かへと、距離や時間や生死を超えて贈り物が出来る、ということだ。
 永生者と若きその娘を主役に、”旅”を描いているこのお話、やっぱそういうモンが大事になるんじゃないかな、と思う。

 あとアインザームと紅鏡竜、二度のバトルが描かれたことで作品における戦いがどんな塩梅で進むのか、より強く堪能できたのも良かった。
 淡々と美しい自然の中を進む旅の静けさと、すげぇ仕上がりで描かれるアクションの激しさのメリハリが気持ちいいが、フリーレン達の戦いは戦士の性格を反映して、あんま激しい感じにはならない。
 淡々と生きるか死ぬかの窮地がやってきて、積み上げてきた修行や経験が勝敗を分けて、静かに拾った勝利……それが生み出す新たな喜びを噛みしめる。
 そういう感じの書き方である。
 しかし魔法の発露や斧の一撃はなかなかド派手に、新世代の勇者に相応しい激しさでしっかり描かれていて、ここら辺の緩急、クオリティの高さもまた気持ちがいい。
 アインザームをぶっ飛ばしたフリーレンの魔法が、いつもより苛烈に見えたのは、思い出を踏みつけにされた怒り故か……みたいな読み方も出来るのが、このアニメらしい書き方で、僕は好きだね。

 

 

 という感じで、やや熱めの火花が散る旅立ちのエピソードでした。
 臆病な戦士は真実龍殺しの英雄となり、師匠の想いを引き継げるのか。
 新たに前衛を加える前にやっておかなきゃいけない、旅立ちの儀礼としての戦いをこのアニメ、どう描くのか。
 次回後編も、とても楽しみですね。