イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

ウマ娘 プリティーダービー Season3:第3話『夢は終わらない』感想

 征く馬去る馬、年の瀬の有馬記念に伝説が終わり神話が始まる。
 キタサンブラック初の有馬記念ゴールドシップ最後の有馬記念を描く、ウマ娘アニメ三期第3話である。

 ネイチャお姉さんの助け舟で迷妄を脱し、己を見つけたキタちゃんのお話は一段落。
 後に激闘の中歴史を紡いでいく戦友が顔見世などしつつ、15年の有馬を描くなら避けては通れない、話の真ん中で描かなければいけない一つの終わりに、どっしり向き合ったエピソードである。
 アプリも大人気、アニメもTVシリーズ三期に複数の外伝と、数多の物語が紡がれているウマ娘
 未だサービスインも遠い時代に、スターホースを集めながらスペちゃんの馬生と歩調を合わせ、有象無象から名門チームへと成り上がっていったスピカの描かれ方は、今やとても難しいものになったと思う。
 二期で熱く激しい物語を貰ったテイオー&マックイーンは横にのけるとして、頭を飛び越えられた形のウオッカ&ダスカ、最古参のコミック・リリーフたるゴルシちゃんは自分たちが主役になれる年代を舞台に選ばれず、ガッツリ本気で走っている場面をアニメの中で扱われない。
 そんな彼女たちにも、ウマ娘が複雑な物語時空の中で”史実”に触っていく以上描かれるべき物語があり、それがラストランであるのならば戯けた愛嬌でも頼れる先輩の背中でもなく、ピークを過ぎてしまった伝説最後の意地を、その先に続いていく夢を、しっかり描く必要がある。
 キタサンブラックにとっては最初の、ゴールドシップにとっては最後であり悲願の有馬記念を、駆ける当人と見守るファン、両方からしっかりと描き、未来へとバトンを渡す回として、骨太な手応えがあった。
 コンテンツとしてウマ娘を見た時、最功労馬であろうゴールドシップ栄光……その一つの終わりとして十分な誠実を、しっかり感じられるのが良かったです。
 来年、そして再来年の有馬と重なる布石を打つことで、残り数話を使って駆け抜けていくG1七勝の名馬の物語がどんなゴールに辿り着くのか、先を見据えたトス上げが的確だったのも、また素晴らしい。

 

 つーわけでさよならゴルシちゃん……と並走して、キタちゃんと愉快なライバルたちの顔見世をやる回でもあった。
 今シーズンのカノープス枠、最強の2勝馬のエキセントリックなキャラであるとか、お嬢様然とした華やぎに『G1を取ります(取りたいです、とは言わない)』と断言する芯の強さを見せるサトノダイヤモンド、そんなダイヤちゃんを気にかけるサトノクラウン姉さんに生真面目なシュヴァルグランと、なかなか面白い世代である。
 お鼻の下にずーっと子どもビールの泡が残ってるとか、かき鳴らしてたヴァイオリンまさかのスイッチオフとか、勢い良すぎるスワンボートデートとか、しれーっとボケるウマ娘コメディが、いい感じに若駒勢ぞろいの仲良しっぷりに花を添えてもいた。
 野心と情熱を秘めて自分だけの物語に挑む若駒と、伝説を成し遂げて去っていくゴルシを軸に、ともすれば重くなりそうなエピソードなんだけども、ウマ娘らしい笑いが上手く空気を逃してくれて、全体的に朗らかな雰囲気が良かった。
 細かい笑いを若い衆に担当させることで、最後の花道を走り抜けていくゴルシちゃんに道化させなくてよくなって、スピカの先輩として、六面揃えきった怪物の最後に相応しいカッコ良さで新たな道へと進み出せたのは、メリハリ効いていたと思う。

 あと前回濃厚な絆を育んだネイチャお姉さんが、今回もキタちゃんを導く存在としてかなり目立っていて、なかなか美味しい味がした。
 隣に寄り添い正しく導いて、なお嫌味がない。
 ネイチャはメンターとして相当いい位置に陣取ることが出来たと思うので、今後も要所要所で効かせてくれると良いなー、と思う。
 友達だけどライバルで、戦うけども称え合う爽やかで暖かな関係が、理想の競馬(あるいは競馬の理想)を描くウマ娘の大事な足場だと思うので、スピカの外側にキタちゃんの支えがあってくれる描写は、僕が欲しい風通しをくれるのだ。
 後に争うことになる同期たちと、子どもビール飲んで楽しい時間を過ごせている描写も、そういう期待に答えてくれてよかった。

 

 そしてゴルシのラストランに、憧れだけでも統帥だけでもなくしっかり向き合うキタちゃんの姿も、そういう気持ちよさが太かった。
 前回どす黒い感情が自分の中にあることを前向きに受け止め、人間が持つ複雑さを少し肯定できたキタちゃんだからこそ、『私が勝っちゃって、栄光のラストランにならないじゃないですか!』という発言も出てくる。
 運命の不思議で同じ”チーム”になった二人のウマ娘の運命が、交錯する年の瀬有馬記念
 片やこれから伝説を生み出し、片やこれを最後に幕を閉じる……逆方向でありながら確かに同じ場所をひた走っている、不思議な構図を湿り気少なく描いたことで、挑む立場であるキタちゃんの若き覇気も、終わりに向き合ってなお背筋を伸ばすゴルシの颯爽も、より鮮明になっていた。
 幕引きを己で選び取る形になったのが、独立独歩の自由人たるゴールドシップらしい展開で、『ウマ娘の終わりとは、こういうものだ』と、年末(有馬の季節だ!)に来るであろうアニメ三期最終回に先んじて、心地よい予兆を作ってもくれた。
 ダイヤちゃんとのライバル関係、悩みつつも走り抜ける有終の美。
 これから描かれる中盤戦、終盤戦への筋道を整えるのに当たって、ファンに一瞬の夢を魅せるレース展開を引き寄せ、『ありがとう』と送り出される終わりをゴルシが見せてくれたのは、凄く大きな意味があるだろう。

 今回の有馬、いつもの『どうした急に』コンビではない知らない饒舌ファンが顔出してたの、一笑いとしても火力あったし、描かれないレースに魅入られゴルシを追いかけ続けた人がいると一発で解って、とても良かった。
 彼らが愛し見届けたウマ娘の勇姿を、『ありがとう』と見送れたのはファンにとっても幸福なことだろうし、見事走りきればああいう終わりを、キタちゃんと仲間たちの物語も迎えられる。
 頼れる先輩として若駒を導いてきたゴールドシップが、最後に競走馬の幸せな終わり……そのテストケースを手渡して去っていくのは、”スピカのゴルシ”らしい終わりで凄く良かった。
 トンチキで愉快なこともありつつ、あの世界でウマ娘は社会と文化に根付き、数多の人に夢と勇気を与えるスーパーアイドルであり、今回のようにファンの熱い視線を、暖かな感謝をちゃんと描くと、そこの手触りが気持ちよく届くなぁ、と思った。
 託されたルービックキューブと同じように、あの祝福と感謝のゴールをキタちゃんもまた、いつか物語の幕を閉じる時に手に入れられる。
 そういう贈り物をゴルシがやって、一つの幕が閉じられるのは、彼女が好きなアニメファンとして嬉しかった。
 つーか間違いなく後出しジャンケンだとは思うのだが、G1勝利数と揃った面の数を重ねて、”7”を成し遂げる後輩への最高のプレゼントに仕上げたの、詩情と粋があって好きな演出だなぁ……。
 ゴルシちゃんは、本当に時折詩人なところが好きだよ。

 

 三位に終わった悔しさを、託された夢の重さを噛み締めながら、キタちゃんの走りは始まったばかり。
 昇竜の若き勢いをしっかり燃やしつつ、それが行き着く果てに待っている颯爽と栄光をゴルシ主役でしっかり見せてくれて、大変良かったです。
 種牡馬繁殖牝馬というアフターキャリアが存在しないウマ娘世界、ドリームトロフィーリーグという場へ巣立っていくことで、永遠に終わらない夢の中を星へと駆けていく未来が待っているんだと、思い出せたのも良かったです。
 競走馬のヴァルハラとして、地上に刻まれた神話を新たな形で語りなおすウマ娘が選んだ、優しくて眩しい夢が、あの”引退”にはあると思うんだよな……。

 そこにたどり着くには、まだまだ若すぎるキタサンブラック、勝負の新年。
 一体どんなレースが、勝利と苦難が彼女を待ち受けているのか。
 次回も大変楽しみです!