イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

ウマ娘 プリティーダービー Season3:第5話『自分の証明』感想

 宿願を背負いただひたすらに、勝利を目指してひた走る。
 疾駆せし修羅の視界に己をねじ込むには、同じ速度で駆け抜けるしかない。
 第1話で大きな存在感を示したドゥラメンテと主人公の運命が、ようやく交わるウマ娘アニメ三期第5話である。

 前回のド根性特訓を受けて連勝街道……とは、史実に刻まれた星取表が許してくれず、今回のキタちゃんには価値がつかない。
 ここらへんは前回金剛石の如き不屈と気高さを見せたダイヤちゃんが、8cmの差に涙をのんでサトノ悲願のG1とはならないのと、どっか似ている空気を感じる。
 『こんだけのドラマを孕んでんだから、勝ってもいいだろ!!』という思いはどの馬にもあり、そこらへんを全部飲み込んで決着がつくからこそ、競馬は平等だとも言える。
 そんなシンプルで残酷な勝負に劇的なるものを見出し、人間側に引き寄せて見てしまうからこそ、このお話は馬を美少女に擬して展開もしている。
 人間として描かれるからこそ際立つ、勝ちたいという意思、勝つために注ぎ込む願い。
 運命の女神は必ずしもそれに微笑まないが、それでもいつか笑って欲しいと願って走る姿を、あの世界のファンも、あるいはこちらの馬好きも、見守っているのだろう。
 なかなか願いが形にならないもどかしさを、しかし不思議な爽やかさで描くお話の中で、そんな視線が自分にもあることを再確認できた。
 頑張れ、キタサンブラック

 

 そんなふうに素直に思える、泥まみれ汗まみれの超王道ド根性主人公として、このアニメのキタサンブラックは造形されているように思う。
 テイオーへの憧れを追いかけて走り出し、現実に打ちのめされて道に迷い、誰かに支えられて姿勢を正し、全霊を振り絞って己を証明しようとする。
 そういう、非常に血が濃くて熱いキャラがライバル視する、圧倒的な怪物。
 ようやくカメラが近くに寄ったドゥラメンテは、古武士めいた不器用さでただただ頂点を目指す、不器用で強いウマ娘だった。
 足を止めて周りを見て、時に後ろに引きずられながら一歩ずつ進んでいるキタちゃんが、思わず気圧されるほどの強い思い。
 それに視界を塞がれて、頂点以外は目に入らない。
 そういう挑み方も当然、勝負の世界にはあるわけで、普段はたおやかな優しさを忘れず走るときには戦士の形相になる(そこが好き)ダイヤちゃんとは、また違った造形のライバルである。

 何しろ幼馴染でルームメイト、ダイヤちゃんの視界にはいつだってキタちゃんが入っているわけだが、ドゥラメンテの存在をどんだけデカく感じていても、当人はキタちゃんを認識していない。
 何もかもが通過点、勝って当然の有象無象。
 その横っ面を張り飛ばして、自分はここにいるのだと教えるためには、同じ速度で走るしかない。
 ドゥラメンテが『ちょっとどうなの……』と思うくらい無礼で一本気なのは、僕はなかなかいいな、と思った。
 挑む、戦う、勝つ。
 ウマ娘が挑んでいるモノが、そんな触れれば切り落とされるような張り詰めた鋭さも含んでいると描くには、結構いいキャラだったと思う。

 

 そのキャラ性を最大限活かし切るには、ここでキタちゃんがぶっ倒して『あたしを見ろよ!』と挑戦状を叩きつけ、少し広くなったドゥラメンテの新しい走りと競い合う……みたいなルートが、多分良いのだろう。
 しかし尺と権利の都合上メインに据えるわけにもいかない競技者が勝ちきり、世界の広さを知ったドゥラメンテの”次”を、その両足は連れてきてはくれない。
 そんな展開は、史実に既に記されている。
 ここらへんを大胆に書き換え、新たなドラマを生み出す”ウマ娘”特有の面白さは、例えば一期におけるスズカの描き方なんかで、既に僕らの知るところではある。
 ぶっちゃけ今回のぶつかり合いではまだ不完全燃焼というか、ドゥラメンテの存在感を活かし切るドラマには少し足りない感じがあるので、いい具合にかき混ぜてもう一押し、追加で欲しいところだ。

 キタちゃんの奮戦がドゥラメンテの狭い視界を広げたように、ドゥラメンテの厳しさがキタちゃんに手渡せるものは、まだあろう。
 この後繰り広げられる奇跡の大勝利に、説得力をもたせる火種としても、無骨な怪物の”次”をウマ娘というフィクションがどう料理するかは、かなり気になるところである。
 今回キタちゃんがドゥラメンテを見る視線、その存在に惹かれ弾かれする様子は、物言わぬ動物を青春真っ盛りの美少女に擬人化するコンテンツだからこその、なんか不思議な面白さに満ちていた。
 馬たちが本当のところ何を考えているのか、旗から見ているヒトはわからんわけで、その謎めいた他者性が、僕は好きだったりするのだけども。
 自分が感じていることを言葉にして語り、それを伝えて関係を作っていけるヒトとして、新たな生を受けたウマ娘が、ウマ娘だからこそ作っていく新しい絆。
 前回ブルボン&ライスとの間に生まれたそういうドラマが、一方通行だからこそ強い熱をもってキタちゃんから投げかけられ、ドゥラメンテに届いたのは、やっぱり良かった。

 だからこそ、史実では二度と戦うことのない二人がパドックの外側でどう魂を触れ合わせて、お互いに影響されていくのは、もう少ししっかり見たい。
 これまで紡いできた物語のレガシーを活かし、綺羅星の如き史実のドラマから何を描くか選ぶ難しさもあるとは思うが、このゴールの”次”をどう書いてくるかは、自分としては結構大事だ。
 次回も、とても楽しみです。