イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

Dr.STONE NEW WORLD:第15話『三次元の決戦』感想

 宝島最強戦略を舌戦で味方に引き入れ、決戦に向けて準備を整える千空たち。
 禁じられた武器にすら手を伸ばし、万端整えて挑む戦の行方は……。
 金色の輝きが一番槍に眩しい、遂に激突開始のドクストアニメ三期、第15話である。
 モズ相手にゲンちゃんが気合い入れてくれたおかげで、存在しない強敵を盤面において相手を操る作戦が形になっていく。
 実兵力では圧倒的に不利なまま、相手にメドゥーサを使わせての逆転勝利しか勝ち筋がない中で、なんとか勝利をもぎ取るべく最大限の準備をする回である。
 科学実験と同じく、戦争も(というか人類の営為の中で、戦争こそが最も)予測の付かないアクシデントがつきものであり、ここで準備したとおりにことは進まないわけだが、それでも打てる手を全て打たないまま挑んで負けることは、超合理主義の申し子たる千空の矜持が許さない。
 モズのインチキ戦力を抑止しうる暴力機構として、封印してた銃器に手を付けてまで数の不利を補おうとするその意思が、報われるか否か。
 運否天賦の一発勝負、やるだけやって動き出した宝島決戦がどうなるか……ドクストアニメ三期、いよいよ終盤戦である。

 

 話としては地道な準備回であり、石になった斥候二人の遺志を継いでアマリリスが欺瞞工作頑張ったり、科学の力で不利を覆すべく色々仕込みをしたり、決戦に向けて使えるユニットを石化解除したり、色々やってた。
 圧倒的な実力を持つモズが協力することで、都合のいい幻はフードを被った現実に化け、幻想に踊らされて相手の優位は消えていく。
 ここでハッタリカマしておかないと、力押しで数的不利を押し切られて順当に負けるので、心理戦・情報戦で上回っておくのは大事よね。
 宝島の一般人達が良いように踊らされ過ぎな感じもあるが、イバラが情報を独占して手放さない社会構造からは、何かを疑う人は出にくい……あるいは出ても石にされ潰される、ということかもしれない。

 科学王国のアドバンテージは実は人材発掘の柔軟性で、合理的であるがゆえに特定の社会階層を押し付けることなく、才能が活かせるポジションへの流動性が確保されている。
 これはトップである千空の我欲の薄さ、理不尽な支配への軽蔑が社会全体に波及している形だが、偽計に踊らされ数の優位を活かしきれない宝島は、イバラの人格が集団のあり方に影響している……といえるか。
 原理を理解しているわけでも探求するわけでもなく、謎めいたオーパーツを圧倒的な暴力・権力装置として使っているカセキは、自分以外に賢く強い存在を認めない。
 各々の個性や専門分野を活かして、多角的な情報分析を求める千空とは、こういうところでも真逆である。
 同時に怪物的な猜疑心と権力欲は、こと情勢を狙いあう闘いの場では強力な力になるはずで、善良であることしか許されない千空がここら辺、どうクールに乗り越えていくかが大事かな。

 

 作りたくないけど作らざるを得なかった、悪魔の武器・拳銃。
 右京は『道具の価値は使い手次第』というが、その使い手がロクでもなさすぎた結果夢の技術が地獄を生んだ実例が、世界史年表にはミッシリ詰まっている。
 科学技術の素晴らしさを物語のエンジンとするこの少年漫画、ここら辺の倫理と現実を掘り下げていくとかなりデカい矛盾に突き当たるため、触りつつツッコまないくらいの距離感で向き合っていくことになる。
 千空を筆頭とする主役サイドは、浅はかで危うい連中もいつつなんとか道を正しく定めて、人道を踏み外すことなく目的を達していく。
 しかし目的を果たすためには人道を踏み外さなければいけない、究極的な問いが世界には溢れていて、科学もそんな現実の一部でしかない。
 『科学は科学であるがゆえに尊い』というトートロジーを、けして間違えることのないタフで公正な主人公に託して綴られる、一種のおとぎ話。
 それが、”Dr.STONE”という物語なのかもしれない。

 同時に右京の箴言は真実を射抜いてもいて、イバラという怪物的エゴイストが握り込んでいるから、メドゥーサは抑圧の道具になっている。
 適切に解明すれば人類救済……どころか、致命的な傷を一瞬で直し死を超越するスーパーテクノロジーも手に入る道具は、ド下らねぇ権力の亡者に使われている間は、不幸しか産まないのだ。
 だからこそドローン使って所有権を奪い取り、”正しい”使い方ができるようにする……ってのも、この戦いの目的である。
 まー石化技術解明したらしたで、生死の定義を書き換えてしまうその超技術が社会をどう変えるのか、どこに収められてどう扱われるべきか、極めて厄介な議論が始まりそうな感じでもあるが……この話は、そこらへんにはツッコんでいかない。
 週刊少年ジャンプというメディア、正統派の少年漫画というジャンル、あくまで科学冒険活劇という物語を貫く姿勢が、『科学スゲー!』で収まらない倫理と技術の衝突へ、人類史開闢以来解けたことのない難問へ、踏み込むのをせき止める。

 ここに踏み入ると間違いなく物語は迷走し、作品の魅力である単純明快な視界がぐにゃぐにゃに歪むネタなので、触んないのは賢いと思う。
 生まれてしまった技術を、誰がどのように使うのか。
 科学に必ずつきまとう社会的制御の問題点を、このお話は無視しているわけでもなかったことにしているわけでもないと思う。
 千空という合理と科学の申し子が、科学的であるがゆえに極めて倫理的な行動を取り続け、彼を中心に広がる科学王国が平等で、平和で、豊かで……誰もが科学に夢見た理想を体現している集団になっているのは、かなり意識して作らてる夢だと思う。
 『理想の科学は、こうあるべき』なんて大上段からの説教が、メインターゲットである子どもらに素直に刺さるはずもないし、あくまでこの物語はエンターテインメントだ。
 クールでニヒルで、しかし情熱的で正しいことをする『カッコいい主人公』がキャラに偽りなく生きることで生み出される、ワクワクの冒険物語の中で自然と、伝えるべき理想を伝える。
 そういう向き合い方で、難問への答えを自分なり紙面に焼き付けてきた……こっからも焼き付けていく作品かなぁと、僕は思っている。

 

 原理を明らかにしないまま支配の道具になるのではなく、あらゆる人に開かれて幸せへの道を開く。
 宝島の石化装置をめぐる妖術VS科学の戦いは、千空が科学を用いて何をしたいのか、その理想を照らし続けているように思う。
 真逆にして最悪の”敵”だからこそ、鏡となって主役を照らしうる物語の面白さが宝島編には濃くて、そこが好きだ。
 権力に取り憑かれたエゴイストが頂点にたった一人君臨する社会と、多くはない成員全員が同じ理想を共有し、死力を尽くして未来を目指す社会。
 金狼決意の一番槍が火蓋を切る戦いは、そういうモノ同士の決戦でもあろう。

 色々準備してワリと楽勝ムードが漂ってる(士気維持のために、千空ちゃんが悲観ムードを出さないようにしてる)が、このまんま進むはずがないのが現実の常。
 アンラッキーな主役が呼び込む、様々な最悪を知恵と勇気と友情でどう乗り越え、勝利を掴むのか。
 ジャンプイズムのど真ん中を描き切る準備も整ってきて、ドクスト三期後半戦、大変いい感じです。
 次回も楽しみッ!