イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

呪術廻戦「渋谷事変」:第39話『揺蕩-弐-』感想

 思いもよらぬ魔人の闖入により、特級呪霊・陀艮と呪術師たちとの戦いは決着した。
 しかし皆殺しの巷と化した渋谷に安息の瞬間はなく、瞬炎が激しく戦士たちを焼く。
 三人を一息に打倒した漏瑚もまた、圧倒的な強者との対峙を余儀なくされ、単眼がぬらり、覚悟に光った。
 叩き潰し、焼き尽くし、斬り飛ばす。
 様々な惨殺の百花繚乱、佳境を迎えつつあるアニメ渋谷事変、第39話である。

 ここまで地理的に分断されどこかターン制の安心感みたいなのが漂っていた戦いが、いつどこで触れ合い弾けるか分からない異能バトルロイヤルへと潮目を変えて、色んな人が死んでいく。
 混迷の色を深めつつも殺戮は加速し、呪いというモノの実相が屍の上に積み上げられていく。
 生臭い血の匂い、焼け焦げた肉の香り、あっけなく立たれていく祈りと願い。
 ずっとそういう話だったし、今まさにそういう話をやっているし、この戦いがどう終わるにしても、まだまだ呪いは続くんだろうなと、激しく明滅する命のせめぎあいを見ながら、妙に静かな気持ちだった。
 とても”呪術廻戦”を見ている感じで、良かったと思う。
 人はたくさん死んだけど、まぁそれは、ずっとそういう話だ。

 

 

 

画像は”呪術廻戦・渋谷事変”第39話より引用

 伏黒甚爾大復活祭記念! 出血大サービス!! って感じで、ド派手に動きまくる暴れ作画の恩恵を受けて、陀艮がタコミンチにすり潰されていく。
 波紋を広げて水面を疾走し、波濤を生身で砕いて海そのものを凌駕する圧倒的なパワーが、手数の多い攻防と凝ったカメラワークでしっかり演出され、大変見ごたえがあった。
 この激しさと、あっけなく結界が解かれ現実の渋谷に戻ってきて、恵くんだけを屋外に連れ出す変化に対応する間もなく、漏瑚に瞬殺されるスピード感の対比がいい。
 魔人の祝宴をケレンたっぷり、タガが外れたチート野郎の気持ちよさで濃口に描いた後、五条悟に散々弄ばれたクソ雑魚……だったはずの特級呪霊が、どういうあっけなさで責務を果たすかが良く染みた。
 このレベルの怪物を『コイツくらい瞬殺してくれないと、僕の仲間にはなれないよー!』してた五条悟、やっぱ覚者であるがゆえの人間離れというか、人の領域で生きていくには目線が違いすぎるというか……。
 あっという間に味方サイドの大駒を三枚持っていく悪辣は、ナメてた奴が殺戮兵器だった意外な面白さ、ギャグキャラに貶められていた呪霊が遂に本領を発揮した爽快感が混じって、なかなか独特の味わいである。

 想定を超えた速度で流転する状況を示すにあたり、七海建人の読みと期待が常に裏切られていくのが、なかなか興味深かった。
 ムカつくクズを正義の鉄拳でボコし、作中一番頼りになる”正しい大人”なナナミンが、野薔薇に言った『こっから先は、私で最低レベル』
 それが後輩可愛さの嘘ではなかったと証明するように、結界脱出の秘策は魔人の乱入でぶち壊され、その甚爾が敵か味方か図るよりも早く漏瑚の横殴りが自分を焼く。
 あんだけ頼りになったナナミンの、一般常識からすれば確かにそれが一大事だと思える注目点が、常にスカされ上回られ裏切られ、終わってみればあっけなくケリがつく。
 このあっけなさが、常理を超えた怪物たちが跋扈し、各々の思惑と我欲のまま暴れている渋谷の現状を証明している感じがあった。

 そんなイカれたサバトのイレギュラー、伏黒甚爾は俯瞰で見ると呪術師……特に伏黒恵に都合のいい動きをしている。
 このクソ親父が子どもら見捨てて呪詛師に落ちた結果、色々厄介なことにもなったわけだが、息子の大ピンチに結界ぶち抜いて現れ、激ヤバ呪霊をフルボッコにし、火葬場と化した渋谷駅から蹴り飛ばす行いは、死に戻ってようやく”親”やってる感じすらある。(その割には、黒い瞳やら邪悪なシルエットやら、描かれ方が悪霊すぎるけど)
 死に際にしか子どものことを託せなかった生き様を思うと、死んでホトケになって、外法で現世に戻ってきてようやく、家やら業界やらのしがらみを外した、ただただ戦うだけの機械で良い純粋さを手に入れた……とも言えよう。
 まぁナレーションは『強者にのみ反応する殺戮人形』と告げているわけだが、では実力では直毘人やナナミンに劣る恵くんを、対峙の相手に選んだのか。
 ここら辺の謎解きは、次回以降のお楽しみって感じだ。
 魔人・伏黒甚爾の復活と乱入は、渋谷事変開始時には見えていなかった札であり、ここでは用意された盤面が順当に転がっていくわけではないと教える上で、いい仕事しているね、やっぱり。

 

 

 

 

画像は”呪術廻戦・渋谷事変”第39話より引用

 僕は第37話の冴えた演出が好きなので、その記号論を引き継ぐように第二幕が⇒で物語的順路を示しながら進んでいくのが、とても面白かった。
 あの時人間としての逆路を突き進んだ姉妹が、宿儺の指を虎杖くんに食わせることで、最悪の呪霊が軛を解かれて渋谷に降りる。
 それは人間の小賢しい算段を、血みどろに切り飛ばす圧倒的な悪意と暴力だ。
 呪術師チームを至極あっさり葬り去った漏瑚が、気圧されまくり寸断されまくり、宿儺の凄みの引き立て役に回される構成が、上には上がいてしまう食物連鎖的現実の表現として、なかなかに面白い。
 漏瑚は容赦ない殺戮の中に100年後の荒野を夢見る大望、同志を屠られて歩みを止めない覚悟をこの渋谷事件で見せてきていて、キャラが化けた……というか、五条悟が不当にコスってた表層が剥がれ落ち、地金が出た感じがある。

 不遜なる復活の駄賃に、いかにも人間らしい湿った愛着を”夏油傑”に向け、取引を持ちかけた姉妹をぶった斬る場面の、赤い残酷。
 ゴア表現のブレーキを外した血みどろが、むしろ痛快な悲惨さを画面に濃くして、いよいよ渋谷事変も本番って感じだ。
 呪霊も呪術師も呪詛師も、みな容赦なく死んでいくこの地獄で夢見るには、あんまりにも柔らかく美しい、枷場姉妹の思い出。
 呪いの王はそんなものには欠片の興味も示さず、一切の力みもない圧倒的な斬撃でもって、何もかもを微塵に変えていく。
 そんな理不尽な呪いを前に、言葉を操る呪いはどう応じるのか。

 

 

 

画像は”呪術廻戦・渋谷事変”第39話より引用

 姉妹の無様で人間的な死に様を、ある意味踏み台にする形で、散々笑われてきた特級呪霊は静かな覚悟を魔王に示す。
 姉妹は偽夏油殺しという願いを差し出したこと……取引可能な相手として宿儺に並ぼうとしたことで、不興を買って寸断された。
 手だの頭だのぶった切られてる漏瑚も同じ立ち位置だったはずだが、姉妹の血で腹が座ったのか、恐怖を飲み干して伏せてた頭を上げる。
 百年後の荒野に、立っているのが自分である必要はない。
 宿儺に”指図”した人間がどうなったか描かれた後だからこそ、肉体の完全掌握を提案する危険は明白なのだが、その危うさが逆に、今まで何度も語ってきた言葉が口先ではないことを、静かに証明している。
 この潔さが道化のあがきに思えるほど、五条悟の存在は世界のバランスに大きな影響を与えてきて、いよいよ封印されてどうなっちゃうのよ、って感じでもある。
 漏瑚をボコられギャグ担当に出来てたチート野郎が消えた途端、このマジっぷりだもんなぁ……。

 そして戯れのように、しかし奇妙な真剣さも感じさせる態度で、宿儺は漏瑚にゲームを持ちかける。
 哀れな人間の姉妹には微塵も見せなかった、嘲弄の奥に期待を、不遜の奥に微かな熱を、漏瑚の対応は引き出した。
 宿儺のこういう顔は、虎杖くんがゲラゲラ笑われているときはまーったく見せなかったもんであり、それを引き出したって意味でも漏瑚の”格”は上がっていく。
 ここでなんもかんも嘲笑う呪いの本領に立ち戻るのか、そうはあっても心揺さぶられる何かがあるのか……宿儺というキャラクターの描写としても、なかなか大事な局面だろう。
 まー何しろ圧倒的な呪いの具現二つ、ぶつかった余波で何人死ぬか分かったもんじゃないが、社会の裏側に呪いを隠せていた時代が終わりかけている証明として、派手で悲惨な花火が上がりそうだ。

 

 という感じの、敵味方ともに犠牲者多数な回でした。
 モブだけ無惨にぶっ殺され人間やめさせられるのも不公平ってんで、名前付きがあっけなく潰されたり燃やされたりする無情には、不思議な爽快さがあった。
 無論人間なんて死なないほうが良いのだが、夏油がドブ味の雑巾啜っている間にも人知れずたくさん人は死んできたし、そういう場所こそが呪術師と呪霊の戦場であり続けた。
 それを人間社会の舞台裏に押し込められていた時代が、派手にぶっ飛ぶお膳立てが整いつつある。

 また、沢山人が死ぬ。
 それを壮大なスペクタクルとしてだけ描かない、陰湿で血なまぐさい呪いの匂いが濃く感じられるアニメの描き方が、僕はやっぱり好きだ。
 次回も楽しみです。