真実という腸を秘密の奥野から引きずり出すためなら、赤ん坊にも幽霊にもなってやる!
ドッグフードで命を繋ぎ、兄弟の絆で危機を乗り越えていく愛と根性の双子復讐譚、一条家編一旦完結の第6話である。
『え、食うの?』というフェデリテの表情も大変愉快なアバンだったけど、EDに描かれるガチサバイバルを生き延びてきたダリにとって、犬の飯食うぐらいは当たり前だと思うと、結構シリアスに不憫。
笑いの奥にそういう洒落にならなさを埋め込み、あるいは重たい復讐譚をポップな笑いで彩り、独自の食感で楽しませてくれるアニメも、折り返しの第6話である。
一条家に囚われサイコサスペンスの色が強くなってきたわけだが、中学生にオムツ付けてガチ母子気取るイカれっぷり、幽霊を見つけた時のシザーCQCの手練と、とにもかくにも玲子がヤバい。
唐突な更生プログラムの終わりに、母の亡霊を装って真相を暴き立てる勝負に出た双子の狙いは功を奏し、いい具合に白黒見えてきた……と思ったら、玲二の意外な反応で真相はさらなる闇の奥へと……と、あらすじだけ拾うとかっちり、ゴシックサスペンスの本道である。
瑛との反応で爛れた血縁が見えたり、精神科医である彼の妻への応対で刃物持ち出しワケわかんねぇこと言い出すくらいは日常茶飯事だと解ったり、一見満たされたエリート面してた一条家が、歪みきった鬼の住処だということが滲んできている。
漏らすわ吐くわ、明らかに尋常ではない様子の玲二の仮面の奥、テーブルの下でガタガタ震える足も描かれたことで、悲惨な目にあってる子どもはミギダリちゃんだけじゃないというほのめかしも、ほんのり香ってきた。
あまりにイカれた状況は双子への負荷も大きく、”本拠地”(家とは言わない)に帰ってチェリーパイ食って、英気を養って新たに闇に挑む後半戦開始ッ! というエピソードであった。
あんま感動イベントやってないのに、上空からの殴り込みすら計画し暖かな家族の姿に号泣しきりな秋山くん、どう考えても吹き上がり過ぎなんだよなぁ……。
つーわけで今回も堀江&村瀬に過剰な負荷をかけ、猿芝居では突破できない秘密の奥底へ、本気の赤ん坊っぷり、蘇りし亡霊芝居で切り込んでいく回である。
養父母に真実を隠し、”良い子”を演じている双子にとって演技はお手の物……と言いたいところだが、玲子はガチ中のガチなので生半可は通用しない。
思わず思考すら喃語に落ちる、ガチに無力な赤ん坊に自分を追い込むことで、ミギは状況を切り開いていく。
玲子があそこまで”赤ん坊”にこだわる理由が、愛人との捻れた関係に深く突き刺さってそうな感じもあるが、このタイミングではあくまでほのめかし、ギリギリギャグになる柔らかさで描写されてる感じ。
でもまー瑛二への圧のかけ方、亡霊登場時の立ち回りと夫のリアクションからして、相当深い病巣が玲子には潜んでそうだ。
『不気味で底が知れない』って属性は謎めいた双子のものだったはずだが、彼らの動機や秘密が明らかになってきて、それを追って一条家に踏み込んでみると、気づけばそれは一条家の特徴になってきている。
ここら辺の軸足の移し替えがスムーズなのが、このアニメが停滞することなく謎を追いつつ、新たなサスペンスに牽引される構造を上手く回している証拠かなと思う。
ここまで見ちゃうとミギダリちゃんは僕らを笑わせてくれる優秀なコメディアンであり、マジひどい目にあって健気に生きてる子どもであり、正義の復讐に燃える名探偵でもあって、好感と信頼を預けている。
そんな彼らが追うべき謎の一部が形をなし、真相はまだまだ曖昧なこの状況で、自分たちの鏡にも似た一条家へと、双子は真面目でトボケた戦いを果敢に挑む。
犬の飯を食って生き延び、本気で赤ん坊を演じて懐に飛び込み、嘘が顔に出そうなところでは兄の助けで乗り越える。
起こってる状況と、それを乗り越えるための心意気は全く本気なのだけども、やってることは、全くトンチキで思わず笑ってしまう。
この振幅に気持ちよく乗せられ、ひとしきり爆笑した後『……なんなんだろうなこのアニメ、オモシロッ!』と、満足げに呟けるところが、やっぱりとても良い。
『猿芝居』とキツいジャッジを下した玲子審査員相手に一人奮起し、ガチの赤ん坊っぷりで心に滑り込むミギちゃんのブリーフ半裸とか、頼もしいんだか無様なのかマジ良く分かんねえもんな……。
第4話では甘酸っぱいトンチキ青春コメディだった”女装”って要素が、今回は母の亡霊を装って情報を引き出す大勝負になるのも、一回出した要素を角度を変えて活かす、面白い仕掛けだった。
ミギダリちゃんが観察した以上の情報が幽霊芝居には満ちてて、視聴者の観察力を試し、今後の展開の足場を作る隙の無さが大変良かった。
一見村で一番満たされた家庭に見えて、家という檻の外側には漏れない狂気と破綻が渦を巻いている、閉鎖されて息苦しいドメスティック・サスペンス。
ミギダリちゃんが祝福され得ざる非嫡出子だという、じっとり湿った血縁ネタも顕になって、なかなかいい塩梅にゴシックな味が出てきた。
こうなって見るとネタだったはずの真顔の神戸アメリカンっぷりが、フォークナー的な南部ゴシックテイストに結構本腰で取り込む姿勢と噛み合ってきて、結構真面目な顔を見せてもくる。
いやまぁやつれ過ぎな息子に、愛のチェリーパイ食わせるママンのanti-agingの発音とか、”アブサロム、アブサロム”というよりは”Oh! マイキー”なんだけどさ……。
犬の飯食って始まったエピソードが、楽しい笑い事しか存在してねぇ家族の食卓で終わっていくのは、ミギダリちゃん安住の地がどこにあるか”食”を通じて示してくれてる感じで、とても良い。
バブちゃん試験をくぐり抜け、ようやく座った一条家のディナーが、まったく心安らがない呪いの食卓であるのも、園山家のトボけた暖かさをより強調する。
ダリちゃんは兄貴に居場所を譲る弟の思いやり、無邪気で暖かな父母の愛で腹を満たすけども、瑛二はゲロゲロ吐き戻して亡霊に怯え、ションベン漏らしてても大人のふりをしている。
不気味な怪物だったはずの子どもは、仮面の奥の震えを僕らに見せてきているわけだ。
瑛二の弱さや苦しさの見せ方が、双子に僕らが親しんでいく歩みとシンクロしているのは、恵まれた檻に残ったモノと、母の復讐を誓って荒野に放り出されたモノ……宿命の兄弟が思いの外、似通っていることを上手く示している。
つーか瑛二も可愛そうだからよぉ……とっととあのイカレハウスとイカレ母親から開放してやった方が、いいってばよマジ。
……母の愛という呪いに囚われ、祝福に報いるべく復讐に身を閉じているミギダリちゃんと、ここらへんも似てるんだよなぁ瑛二。
そんな感じで中盤の山場、一条家潜入編一旦の水入りでした。
家という檻の中で発酵した狂気がどんな匂いを発するか、ガチめに描きつつも笑いと根性を忘れず、色んな要素が混ざったネタに大口開けてかぶりついてみると、なかなか美味しい味がする。
このお話の良いところが、ズズイと前に出てくるエピソードでした。
激ヤバハウスの大ピンチを、なんだかんだ熱い絆で結ばれた双子が覚悟決めて乗り越えていくのは、素直に熱いんだよなぁ……。
こういうベタ足の”善さ”をちゃんとやるところも、このアニメの良いところだと思う。
暖かなる”本拠地”に戻り、やつれた体と心を愛のチェリーパイで満たして、さてどうなっていくのか。
後半戦の展開にも期待パンパンになる、とても良い話数でした。
次回も楽しみッ!!