イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

ウマ娘 プリティーダービー Season3:第6話『ダイヤモンド』感想

 勇壮可憐なお姫様の未来は、ジンクスに呪われた宝石か、疾駆の果てに輝くダイヤモンドか。
 サトノの悲願を背負いダイヤちゃんが挑む菊花賞を、どっしり腰を落として描くウマ娘アニメ三期、第7話である。

 待ってましたのダイヤちゃんメイン回、ジンクスに囚われ空回り気味の前半から、マックの導きで顔を上げて本番に挑む流れが、彼女の色んな顔を見せてくれてとても良かった。
 僕は戦士の顔で走るダイヤちゃんがとても好きなのだが、それはルームメイトであり幼馴染でもあるキタちゃんや、一族の仲間に向けるおしとやかな可憐さがあってこそ、嬉しいものだ。
 デビュー以来サトノのためにと意気込み、結果が出ずなお砕けぬよう背筋を伸ばし続けているダイヤちゃんは、三期ではあんま笑わなかった印象がある。
 そんだけ張り詰めたものを内に秘めて走ってきたと、ここまでの五話積み上げてきたからこそ、空回りも含めてジンクスを飛び越え、ようやく心から泣ける……だからこそ笑える彼女が見れたのは、とても嬉しかった。
 ここで一つの勝利をもぎ取ったからといって彼女の走りが終わるわけではなく、まだまだ道は続いていくわけだが、名もなきサトノの乙女たちの哀しみと喜びを折り重ねた今回、彼女が成し遂げたモノがどれだけ大きいのかは良く伝わった。
 思いを託し屋敷を去っていくお姉さんたち(この言い回しがまず可愛い)、未来をジンクスに閉ざされて不安がる妹たち。
 ”サトノ”がどういう家なのか、キャラクターの形でしっかり見せる事にしたのが、彼女がなんのためにあれだけ強張った顔をし続けていたのか教えてくれて、とても良かった。
 誰かが押し付け、しかし否定できぬまま敗北感とともに背負ったサトノの呪いがどれだけ大きかったか、ターフの外側で妹たちの活躍を見守るかつての”サトノ”達が泣き崩れる姿が教えてもくれる。
 あえてダイヤちゃんに思いっきり焦点を絞ったことで、ああいう存在が書けたのは、”ウマ娘”が捉え描いているものの奥行きを広げる意味でも、とても良かったように思う。
 膝を折って号泣する”サトノ”に、幼い子供が手を差し伸べてくれている様子とか、『泣きじゃくりながら喜ぶ妹たちにとって、ダイヤちゃんはマックと同じ存在になったんだ』とか、特別EDがとにかく染みる回だった。

 

 前半はちょっとコミカルに、ジンクスのど真ん中にあえてツッコんで空回りするダイヤちゃんが描かれる。
 色んなウマ娘ちゃんたちがモリモリ出てきて、ファンへのウィンクを心地よく感じつつ、三期のダイヤちゃんを支配していた硬い質感は取れなかった。
 お顔立ちも立ち姿も、くるりと回ったりへにゃっとなったりするお耳もめちゃくちゃ可愛いのに、顔自体は極めて真剣に強張っているのが、またかわいい。
 可愛いのだけどもそれ一個で安心するわけにもいかない、パンパンに張り詰めた危うい脆さを感じさせられもした。
 脆さ。
 彼女が名前に背負い、自身在り方として選んだ金剛石には似つかわしくない性質だけども、しかし三期のサトノダイヤモンドから、ずっとそれを感じていた。
 この菊花賞で幸せな結果が出ると、年表をチートして解ってはいるものの、しかし先の分からない物語の”今”をどういう空気が満たしているか、アニメがちゃんと書けているから受け取った印象だと思う。

 彼女がその脆いこわばりから抜け出す切っ掛けが、キタサンブラックではなくメジロマックイーンであるのは、第2話で彼女の手を取ったのがナイスネイチャであったような、三期特有の話運びなのだと思う。
 天下無敵のアイドルホースとして既に地位を確立していたトウカイテイオーが、苦難の道を経て宿命のライバルであるメジロマックイーンの思いも背負い、あまりに近くあまりに熱い距離感でもって、栄光の高みへと駆け抜けていく物語。
 それを二期でやり切ってしまった以上、三期には別のアプローチが必要で、幾度も敗北し迷いながら自分を見つけていく、泥臭い王道スポ根をキタちゃんは歩んでいる(ように、僕には思える)
 宿命のライバルと一対一、ド濃厚な関係性で熱く火花をちらしながら進めていくより、もうちょっと横幅広く、間合いを離した間柄を三期は選んでいて、なにより今回ダイヤモンドにかけられた呪いは”家”なわけで、マックの登板は適切かつ必然だったと感じた。

 

 気高く走りきり勝利を掴み、無惨な運命に翻弄され涙し、その全てを背負って勝ってくれたライバルへの愛を受け取る、二期の物語。
 それを経たメジロマックイーンは(ナイスネイチャと同じように)悩める主体ではもはやなく、かつての自分と同じような、でも個別の苦悩と尊厳に満ちた若人の旅路に道を示せる、立派な先輩になっている。
 その気品に満ちて優しく、強く眩しい輝きがあまりに美しい夕日の中で、ダイヤちゃんに道を示す場面は、大変良かった。
 オレンジに染まった純銀のほつれげが、とても繊細に彼女の美しさを示していて、『綺麗やマック……誰よりも綺麗や……』って気持ちになったね。
 第2話でネイチャお姉さんが教えてくれたのと、今回マックが示したんは同じ星で、それはつまりどこまで行っても自分でしかない自分を、”サトノ”の重荷ごと背負い切れる強さに立ち返る、ということだ。

 走るときは、ウマ娘はいつでも一人。
 しかしその孤高は自分を思ってくれる様々な人とか、憧れ追いかけ今自分に向き直ってくれる星の輝きとか、生まれついて背負った呪いと祝福の重さとか、色んなものと繋がってもいる。
 たった一人でありながら、あまりに多くのものに支えられ繋がっている”私”を両の足に込めて、たった一回しかないレースに全力を出し切れるか。
 走りきれるか。
 それこそがウマ娘ウマ娘たる証であり、その先にこそ勝利があると、三期は(あるいは色んなウマ娘を主役に紡がれたここまでの物語は)語り続けているように思う。
 その証明として、風雲な落鉄が意気込みを裏切った場面をあえてオーバーラップさせて、最後の末脚へ踏み込むレースの演出はとても冴えて力強かった。
 勇壮で、可憐で、誰よりも強い。
 サトノダイヤモンドがどんなウマ娘であるか、しっかり描けているレースだったと思う。

 

 かくしてサトノのジンクスは打ち破られ、呪いのダイヤは祝福の宝石として己を……己の家名に連なる姉妹たちを解き放った。
 次に待つのは有馬記念、幼名馴染みでありルームメイトでもあるふたりが、遂に直接対決を果たす決戦場である。
 話的にも前半の折り返し、大きな勝負どころになると思うが、どんな仕上がりで激戦を描いてくれるのか。
 来週も、とても楽しみだ。