イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

Dr.STONE NEW WORLD:第17話『JOKER』感想

 人を石に変える魔の武器、稲妻を放つ単筒、眩い光を天に放つ魔術。
 人知を超えた技術が錯綜する戦場に、解き放たれた氷の鬼札。
 戦況が揺れ動く宝島決戦を追う、ドクストアニメ三期第17話である。

 

 頭首は石化された傀儡でしかなく、イバラは我欲に目がくらんだ簒奪者。
 頭数と殺意で劣る科学王国はこの真実を暴くことで、政治的な勝利を成し遂げようとする。
 そのための時間稼ぎにペルセウス号に乗り込むわけだが、手持ちの札だとモズの武力を封じきれず、後退するフリして氷月という鬼札を復活させる奇策に出た。
 このお話、司帝国とやり合ってる頃から『戦争行為は常に士気の奪い合いであり、認識を揺さぶれる情報アドバンテージこそが切り札となりうる』って書き続けている。
 今回もイバラの独裁体制にぼんやり付き従ってる脳筋戦士たちを、妖術というハッタリでビビらせ数の不利を補いながら、なんとか決戦の形に持ち込んでいる。

 のだが、モズくらい頭が切れて冷徹な相手だと、科学手品で士気を飲み込むどころか、『科学を使うときは指が動く』って観察されて、冷静に攻略されてしまう。
 残ってる手段は同等の武力を叩きつけて制することなんだが、金狼すら相手にならない(ここの殺陣は切れ味がよく素晴らしかった)強敵相手に、どの手札切っても決定打にはならない。
 なのでサブタイ通りの”ジョーカー”を一か八か表にすることで、拮抗した状況を再度作るって賭けに、千空はなんとか勝利する。
 鬼札はこれだけ、と思わせておいて、最後の最後でぶっ飛ばされて退場したはずのヨウが拳銃って”ジョーカー”で状況をひっくり返す話運び、結構好きだ。

 氷月の行動理念は口癖である『ちゃんとしてる』に集約されるわけだが、驕り高ぶった選別主義は獄中生活でちったぁ平らになったようで、かつて敵だった科学王国が『ちゃんとしてる』のを認め膝を曲げる。
 適当に話を合わせ自分に都合のいい曲面を作れるモズの頭と舌が、氷月相手では仇となり、対決姿勢が決定的になるのはなかなか面白い。
 氷月はある種の思想犯であり、イバラの不正を知りつつ我欲を満たしていた、ある意味ありふれた強者の生き方とはちょっと違う、イカれた価値観で動いていたのが計算外か。
 ここはかつて敵として、真正面から信念のぶつけ合いを果たしていた科学王国の生真面目が、氷月の冷えた心に届いた形だと思う。
 一度石化して復活したことで、口元のヒビが消えて凶相が薄れているところとか、かつての強敵が仲間になる手応えがいい感じに冴えてて、とても良かった。
 いうたかて初めて本気を出すことにしたモズに圧倒はされるわけだが、ここまで見てきた通りこの宝島決戦、盤面は幾度もひっくり返るわけで、こっからアニメがどう魅せていくか、楽しみである。

 

 魅せ方といえば、キリサメの頭首回想がアニオリで追加されていて、彼女の真っ直ぐな忠誠、それを踏みにじるイバラの外道がより強調されてもいた。
 氷月復活から情報を紡いで、バラバラの石片から人間に戻す手立てが科学王国にあると読み解くイバラの頭脳も、なかなかに厄介である。
 しかしそれを我欲のためにしか使わず、欺瞞に満ちた独裁体制を誰かの犠牲で堪能しているイバラは、知恵の正しい使い方を知らない。
 ソユーズの血縁である頭首が、過剰な力を無意味に使わない(からこそ、キリサメも忠誠を尽くした)と描かれたことで、イバラの不当な支配、不誠実な知恵≒科学の濫用を止めるという、主役サイドの立脚点もより鮮明になっていた。

 千空一か八かの賭けは、彼をリーダーとする科学王国が日々テキトーに嘘ついて生きているのではなく、それぞれの特性を活かし助け合いながらやるべきことを果たすから勝てた。
 『正しい生き方をしていると、いざという時報われる』というお伽話を、堂々正面からやるところがこのお話の好きなところだが、イバラのなりふり構わない”現実主義”との面白い対比である。
 真実も優しさもクソ食らえ、自分ひとりが良ければそれで良い。
 そんな狭苦しいエゴイズムに科学王国が生きてないと、牢獄の中でじっと観察してたことが、同じく狭いエゴイズムに囚われていた氷月を溶かした……っていうと、ちとロマンチシズムに過ぎるか。
 しかしイバラとモズが体現する、卓越した個人による狭い社会よりも、成員それぞれが為すべきを為す科学王国のスタイルこそが、氷月にとっては『ちゃんとしている』のは、間違いないだろう。
 ここら辺、ワクワクな科学ガジェットと冴え渡る弁舌、切れる頭で見せ場を作りつつ、根っこには凄く古典的で正統派の倫理観で話を支えている、この話らしさがあるなと思う。
 真心は巡り巡って、大きな得を作るのだ。
 あるいは、そうでなければいけない。

 

 ってぇ理想が最後は勝つのだと、貫き通すためにはイバラに勝たなきゃならない。
 手薄になった本丸を抑えての政治的勝利が、作戦通り形になりそうな状況だけども、ヤツの手にはメドゥーサという特大の暴力装置があり、皮肉なことに立場が危うくなったことで、歯止めがなくなった。
 それは無念の涙すら石に変えられた、キリサメの末期が良く語っている。
 任意の相手だけ元に戻せる手段があると知ったことで、全島石化の引き金も更に軽くなったしなぁ……。

 当初の戦型からは大きく揺れ動きつつも、知恵と勇気と友情で勝利へと近づいていく科学王国は、果たして緑色の暴虐に立ち向かいうるのか。
 宝島決戦、まだまだ佳境である。
 次回も楽しみッ!