イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

ウマ娘 プリティーダービー Season3:第7話『あたしたちの有マ記念』感想

 幼い頃から進んできた道が、晴れの舞台で交わり、散らす火花。
 星より眩しいその先に、まだ続く道をいかにして進むのか。
 思い返せば長く続いてきた、キタサンブラックサトノダイヤモンドの物語一つのピーク。
 ウマ娘三期、2016年有馬記念を下敷きとした第7話である。

 映えあるG1三勝目をほぼ画面外において、二度目の有馬にフォーカスして展開していく今回。
 故障も精神面の不調もなく、全力を尽くしてなお追いつけず敗北を喫する展開は、凄く実直にキタサンブラックの”今”を追い続ける。
 史実の実績を追いかけるように、助け舟が必要な新参者からタフな競技者へと脱皮を果たし、驕らず焦らず勝負に挑めている彼女に、憧れのテイオーからの助言は(多分まだ)炸裂しない。
 ある意味極めて順当に挑んで、順当に良い勝負をして、順当に負ける回である。

 ここら辺の落ち着き方は二期の、ジェットコースターのように燃え盛る感情と関係性を追いかけてきた話運びとはやはり違っていて、自分的には独特の味がして好きだ。
 温度が低いわけではなく、ずっと戦士の顔をして走ってきたダイヤちゃんが、”今”するべき表情で幼馴染と向き合う時のフルネーム呼びとか、ブルリと震える場面もしっかりあった。
 先週の感想でも述べたように、僕は常に張り詰めた表情で走り続けてきた三期のダイヤちゃんが凄く好きなので、今回キタサンブラックに”勝つ理由”として(キタサンブラックが”負ける理由”ではなく)、闘争への研ぎ澄まされた純粋さが強調されていたのは好きだ。
 家名を背負い、ジンクスを打ち破ってなおさらなる飛翔を目指すダイヤちゃんにあって、どこまでも明るく朗らかな正統派主人公に(まだ)無いもの。
 いい勝負から半歩踏み込んだ何かを、一足早く後ろから掴み取った年下の幼馴染に、キタサンブラックが向ける想いの手触りも良く伝わってきた。

 

 どうもキタちゃんは煮えきらない(が故に、1クールの物語を通じて徐々に完成していく)主人公として描かれている感じがあって、今回ダイヤちゃんに向ける視線からはそれを強く感じた。
 表向き心をしっかり整え、過去は過去として整理した上で憧れに追いついてプロのウマ娘になった”今”、正しい心持ちで勝負に挑めている……ように見えて、心のなかで幼馴染との関係を引きずっている。
 それはこのシリーズが二期から描き続けてきた、僕も大好きな二人の物語を大事にしてくれているからこその残響なのだが、走りだけが己を証明する現場においては余計な重荷にもなる。
 あるいは完全燃焼させて背中を押す薪にしたのならば、新たな強さにたどり着けもするのだろうけど、キタサンブラックの”今”はそういう、極限的な場所へとまだ彼女を連れて行かない。
 まだまだ語るべき物語がある以上、折返しとなる今回で極点まで突っ走られても困るし、史実のドラマもまたこのニ着を回収するように続いていっているのだから、ウィニングライブはお預けである。
 あのフラストレーションが溜まる終わり方は、キタちゃんの現在地を視聴者と共有する上で凄く良い手筋だと、僕は思った。

 今回内面を吐露する揺れや弱さは、ニ着に終わるキタちゃんに主に寄っていて、ダイヤちゃんは張り詰めたかんばせで内心の震えを抑えきって、勝つべくして勝つ。
 それがダイヤちゃんの真実なのか、キタちゃん主観の表層なのか……実はあんまり大事ではないと思う。
 幼馴染として何もかもを共有して、同じ星を目指して抜きつ抜かれつ、誰よりも大事な存在として一緒に走ってきたはずの相手が、謎めいた強さで自分を置き去りにしていった。
 今回の敗北で、キタサンブラックにとってのサトノダイヤモンドは追うべき価値がある謎となり、幼馴染というミステリに挑む中で、彼女は強くなっていく。
 それは『何もかも分かっている』という思い込みを砕き、自分の中にまだ眠っている可能性に向き合う旅路になるだろう。
 G1三勝という立派な”今”で終わらず、伝説のその先へと疾駆していく原動力が、良く知ってたはずなのに追いつけず、だからこそ追いつきたいと願った幼馴染との追いかけっこにあるのは、ずっと二人が好きな自分としては嬉しい限りだ。
 『結果も出して、何かが分かったようで、何も分かっていなかったと解った』つう今のキタちゃん、学生っていうよりは社会人っぽい変化の渦中にいて、ここら辺も三期独特の味かな、と思う。

 追いかけるだけの強度と魅力がある、硬質で鮮烈な謎としてダイヤちゃんをしっかり書けているのもありがたい所で、全然内面が見えないキタちゃん視点のダイヤちゃんは、親しみを感じさせつつどこか遠くて、とても綺麗だ。
 その硬質で透明な……それこそダイヤモンドみたいな美しさは、キタちゃんがどれだけダイヤちゃんが好きなのか、思いの強さの反射だとも思う。
 幼馴染として、親友として、同志として、ライバルとして、ずっと一緒に走ってきたはずなのに、プロとして初の直接対決で先をいかれ、否定しようがない謎が生まれてしまった。
 それを知りたいと思う強い感情は、ダイヤちゃんが未知の新星ではなく、隣りにいるのが当たり前のはずなのに分からなくなってしまった、愛しい謎だからこそ生まれてくる。
 ここら辺の複雑で独特な繋がりと思いが、勝負に至るまでの歩みを丁寧に追いかける語り口、走った後何を感じ何を悔やんだかじっくり滲ませる描き方に、お話の今後を照らす角度で煌めいていて、折り返し点としてかなり良かったと思う。

 

 キタちゃんの”今”を描くのと同じくらい、姉妹に声と顔がついて一気に存在感が増したシュヴァルグランの、追いつけない焦りもクローズアップされてきた。
 ネイチャ先生も『言えることもうねぇ~~』と焦り気味な、既に十分結果を出しているキタちゃんの後塵を拝し、ずっとその背中を追い続けているシュヴァルグランに、しかしキタちゃんの視線はなかなか向かない。
 無論朗らかで気のいい陽性の主人公として、嫌味のない好意は向けているのだが、特別な歪みを宿した強い視線を誰の背中が独占しているかは、今回しっかり描かれた。
 ここからシュヴァルグランキタサンブラックの首根っこにかじりつき、自分の方を向かせるドラマ……優秀な姉妹に自分の方を向かせ、勝利を通じて自己を確立していくドラマが待っているからこそ、今回彼女にカメラが向いたのだろう。
 キタちゃんも姉妹も既に歪みのない瞳でシュヴァルグランの方を向いていて、劣等感は常に彼女の中から湧き上がっているのだが、他人が愛してくれるあるがままの自分を、自分として認めるためにはある種の強さがいる。
 泥臭く誰かの背中を追いかけ、ようやく掴んだ勝利こそがその証明を裏打ちしてくれるという、汗まみれのドラマを描くにはもうキタサンブラックは勝ちすぎていて、新たな主役候補としてシュヴァルグランに白羽の矢が立った感じもある。

 分かったようでいて分からない、キタサンブラックの”今”。
 これを後ろからぶち抜いて、自分ひとりでもダイヤちゃんと二人だけでも走ってないのだと思い知らせる仕事を、コンプレックスまみれのシュヴァルグランが果たすのか。
 キタちゃんがダイヤちゃんの背中に向ける視線と、グランがキタちゃんの背中に向ける視線は一方通行のまま重なっている感じがあって、そこに込められた想いを知ることで、なんかが変わりそうな気配もある。
 どんだけ偉業を成し遂げても等身大なサイズ感のまま、色々悩み新たにたどり着き、また何かを見つけて走り出すキタちゃんを、先頭に立てて進むアニメウマ娘三期。
 この折返しの”今”を超えて、後半戦は何が描かれるのか。
 次回も楽しみである。