イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

ミギとダリ:第8話『ふたり≠ひとり』感想

 裏切りが不壊の紐帯を引き裂き、魂を分け合った双子は道を違えた。
 抑えを失った復讐心は惨劇へ至り、血塗られた最終章の幕が開く。
 笑うに笑えない大惨事、一体どうなってしまうのか!
 ミギダリアニメ第8話である。

 って言うたかて、来るべき瞬間が来たって感じではある。
 どんだけ双子の振る舞いが笑えても、悲惨な幼年期も母の死も極めてシリアスな事実であり、そこに落とし前をつけさせるべく生きてきた歪がミギちゃんを復讐から離れさせ、ダリちゃんの危うい暴走を産みもした。
 人を呪わば穴二つ、母の死を犯人の死でもって償わさせる歪んだ正義感が、危うく弟を殺しかけ少年を傷つけ、真実全てを知らぬままの決着は極めて安らぎのないものになる。
 思わず爆笑しちゃうコメディの装いがあっても、サイコサスペンスとしての本気っぷりから逃げなかったことで、生まれた展開と言えよう。
 二人で一人の異常な入れ替わりが成立するくらい、魂の距離が近かった……近すぎたからこそ、裏切りを許せないまま離れていく状況も、ここまでちゃんと書いてきたからなぁ……。
 フツーの人たちがフツーに乗り越えていく仲違いが、致命的な間違いに繋がっていくのは、フツーの人生送ってないんだから当然だろ! って話でもある。

 

 サリーちゃんという嘘が双子を引き裂き、演技担当として友情や家族愛を(一足先に)知っていたミギは復讐から降り、実務担当として当たり前の幸せを知らなかったダリは、危ういレールに一人乗っかったまま突っ走る。
 おバカでブレブレなミギちゃんこそが二人の安全装置であり、彼を窓口に輸血される平和な嘘っぱちがギリギリ、道を踏み外さずに済む理由になっていたんだと、凶器のかぼちゃがなんもかんも砕いた衝撃に教えられる展開である。
 そこで当たり前の幸せにミギを引っ張っていく仕事を、一人異様なテンションで友情に吹き上がり、救済の恩返しを異様なテンションで果たそうとする怪奇鳥人間なのは……まぁ”ミギとダリ”だしなぁ、って感じ。
 ワケも聞かずの止めてくれるし本気で向き合ってくれるし、秋山くん間違いなく超いいやつなんだけども、明らかアクセルのフカシ方がぶっ壊れてて、正直ちょっと怖いのが玉に瑕だな……。
 まぁ双子も母の死と悲惨な体験でぶっ壊れたイカレ人間なので、そのぐらいのほうが釣り合い取れるけども。

 鳥になりたい変人・秋山くんは、この村が歪で息苦しいと感じる。
 誰もがピカピカきれいな理想形を追いかけ、ヘンテコな逸脱を許そうとしないまま、笑顔の仮面を貼り付けている。
 その村で一番憧れている理想形が一条家であり、完璧な理想がどんだけ瑛二を苛み、どんだけ血なまぐさい真実を隠しているかは、既に描かれたとおりである。
 血生臭く歪な復讐が、望まぬまま実行されて思い返してみると、園山家のトンチキな気楽さはそこからはみ出す自由を双子に許して、復讐からの宿り木を用意していた感じもある。
 何かでなければいけないという強迫観念を、パパもママも”園山一人”に押し付けはしない。
 ちょっと恥ずかしい秘密も、おバカでマヌケな日常も、家族なんだから全部さらけ出して、笑って一緒に生きていく。
 村の当たり前からズレた靭やかさを、孤独な双子が引き取られた家はちゃんと持っていて、今回もま~天然ボケっぷりがマジすげぇ。
 なんだよ”蚊”って……一位取れるわけねぇだろ……。

 

 この安らぎがミギちゃんに、復讐捨てて自由に、当たり前の幸せに飛び込んでいく決意を固めさせた感じもある。
 生まれ落ちたときから『ふたり≠ひとり』だったけど、復讐だけを糧に泥水啜って生き延びる厳しい暮らしの中、『ふたり=ひとり』じゃなきゃ耐えられなかった。
 見てる誰もが思っただろう『復讐なんてやめなよ……』を実行に移す今回、ミギちゃんはダリちゃんを過酷過ぎる戦いにたった一人見捨てて、一人充実した青春に逃げ出した感じにもなっている。
 それはつまり、真実の探求を諦めることがこの物語の結末ではない、ということだ。
 魂の半分を失い、山盛りのチキンライスをゲーゲー吐き戻しても、ダリは今までの生き方を捨てない。
 その不屈は酷くアンバランスで、物語が始まった当初の非人間的で、不気味な印象をダリちゃんに取り戻させる。
 おバカで笑えて、家族愛や友情がちゃんとある今までの物語は一人になったダリには届かず、たった一人で決めた復讐計画は望んだ形で発現しない。

 ではダリも復讐を諦め、普通に自由で幸せな子どもになればよかったのか?
 入れ替わりの詐術で世界を騙し、”園山一人”というペルソナで社会に溶け込んだ双子に、二つ分の席はない。
 子どもの身空で真実を追うべく、選び取った(選ぶしかなかった)チートが、ここに来て仇になった感じはある。
 ミギが日常、ダリが復讐を担当する役割分担が、同じだったはずの二人に経験と価値観の差異を生み、復讐を投げ捨てても自分を保てる幸せを、ミギに信じさせた結果でもある。
 しかし何より、母の死と一条家の秘密はなかったことにして良い過ちではなく、この嘘だらけで生きにくい村で追いかけるべき真実は、確かにそこにあるからミギは復讐から降りなかった。
 彼が追うべき過去はただ血なまぐさいだけでなく、色んな真実が覆い隠された不正義でもあるのだ。

 そんな事実も、一人になったダリは見落としてしまっている感じがある。
 殺しに殺しで報いるシンプルな決着は、矛先を間違えれば一番大事な誰かを傷つける危ういもので、殺し以外の正しい答えを、復讐者は探し当てなきゃいけない。
 そんな課題を新たに浮き彫りにするために、ダリはたった一人で戦い、間違えた感じもある。
 そうさせてしまったのは苦しい復讐から逃げたミギちゃんに半分の責任があり、惨劇は『ひとり≒ふたり』で生きてきて、これからも生きていく運命から目を背けた結果なのだろう。

 

 秋山くんとのすれ違いコントを通じて、なんとか思いを伝えようとするダリの叫びを、ミギちゃんはクローゼットで入れ替わって冷たく拒絶する。
 暗室から見上げた双子の別離は、まるで産道から赤子が初めて見る世界のようで、あの瞬間初めて二人は、自分たちが同一存在ではないという当たり前の真実にたどり着いた。
 それは果たして、二人を引き裂くだけなのか?
 引き裂かれ安定を失い、目の前に広がっている幸せから、あるいは消しても消せない過去の惨劇から、目を背けてアンバランスになった結果、起こってしまった新たな悲劇。
 一人で間違えてしまうのなら、二人で支え合い進んでいくしか無い。
 殺して終わらせるより、もっと良い終わり方がどこかにあるはずで、嘘まみれで孤独なこの村でそれでも、二人は答えを探していく。

 双子が進むべき道は、なんだかんだヒューマンドラマとしても力強かったこの物語の語り口に、既に示されていると思う。
 そんな自分たち自身が紡いだ導きを、もう一度掴み取って二人で進み出すためには、過ちに向き合い引き裂かれた絆を、もう一度繋ぎ直す必要がある。
 ……フツーの兄弟なら仲違いから仲直りして、収めるべき所に収められる裏切りだったかもしれないけど、フツーの生き方なんぞ欠片もしてねぇ双子にとって、近すぎた距離が一気に引き裂かれる辛さは、受け入れ難かったのだろう。
 それが永訣の悲しさではなく、生まれ直しの痛みとなって『ふたりでひとり』な関係を取り戻すことを、僕は願っている。
 次回も楽しみだ。