命の選択、血を吸って輝く茸、届かぬ赤き祈り星。
描かれるもの全てが禍々しい、謎と差別と暴力に満ちた旅路の途中……豚は乙女の末期を聴く。
いよいよポップな外装でエグい中身を取り繕わなくなってきた、豚レバアニメ第8話である。
豚さんが介入したことでジェスは避け得た道を、ブレースは(この世界に埋まってる、他の百万のイェスマと同じように)進んだ。
旅立ち、犯され、臓物を引き裂かれて、美しく価値高く生まれてきたことが罪なのだと、そんなことで人が狂わない何処かを夢見ながら死んでいく。
『そらー能登麻美子をキャスティングするわな……』という陰鬱加減であるけども、摂理と諦めようとしてなお苦しい苛みの中で星に祈った願いを、ジェスが聞き遂げ男たちが果たしたのは、瞬きのような救いであったのか。
ブレースの過去と現在全てが『死にます……ッ!』という迫力に満ちすぎてて、絶対生き延びる道は見えないわけだが、せめて来世への夢を抱いたまま終われればいいな……くらいしか、もはや何かを期待できない。
珍妙なお話を商業ベースに乗っけるためのテンプレートかと、正直侮っていた部分もあった”転生”が、イェスマが生きて死んでいくことの実相が暴かれたことで別の顔見せてくるの、結構好きだな。
王都が近づくに連れ死の気配は濃くなり、豚を侮ってたノットさんもガチった話ができる同志と認め、遂にデレ期に突入。
お互い腹割った話も済まし、命の優先順位も事前に付け終わり、あとは大変つらい修羅場に全身でツッコむだけだな! という状況になった。
スケベな豚トークで時折空気抜いてはいたが、元々何もかもが終わり切っていた世界ではあるので、そういうゴリッとした質感も唐突ではない。
来るべきものが来た、って感じではある。
明日死ぬかもわかねぇ土壇場に引っ張り出され、ノットさんも自分の気持ちを整理して『俺がお前を助けるのは、かつて大事なものを助けられなかった自分を助けるためだ』と、誠実なエゴイズム前に出してきたのは良い。
ここを偽善で飾ると、生きるか死ぬかの局面で死亡率が跳ね上がるので、勝手に助けて勝手に救われるのだと認め、伝えたのは良かったと思う。
ノットさんは世界の残酷と自分の無力を思い知らされ、早見沙織に惑わされるショタではいられなくなったわけだが、豚さんはまだ目の前でジェスぶっ殺されていないので、メンタルは現代日本のオタク少年である。
ブレースの腹に開けられた”現実”を突きつけられた時の、どう飲み込んでいいのか見当すらつかないリアリティで殴られた感じは、少年が強制的に大人にされていく手応えがあって良かった。
死を約束された被差別種族のナイト気取るってことは、そういうもんに常時向き合い続けるってことで、命に値段をつけてたった一つを守るということだ。
今回で豚さんは、ノットさんとブレイス、二人に倫理的トリアージの必要性を教えられたことになる。
それがなきゃなにもかも叶わない現実を飲み込むのか、何もかもを欲張りに叶えるヒロイズムにたどり着けるかは、次回以降暴れるだろう異世界ロクでもなさの強さ次第かな……。
豚さんが向き合わなきゃいけないと腹を固め、しかし真実実感はない世界の残酷さが、どうブレースを……イェスマたちを襲ってきたのか。
セックスとバイオレンス両面から、逃げることなく突きつけてきて、ここまで間接的に示されてきたものにある種の”証言”が取れてきた感じがあった。
死と差別と暴力に満ちた人生をイェスマがどう受け取るかは人それぞれだと思うが、少なくとも一人、暴虐を運命だと諦めようとして、それでも祈ることをやめられなかった少女がいたのは事実だ。
イェスマは感謝しながらではなく(当然)恨み祈りながら死んでいく心があり、しかしこの世界はそれに報いない。
『セックス即死』と決められている法もクズカスどもには効果なく、ガッチリモツ抜かれて犯されとるわけで、外道共のやりたい放題を止める手段は現状見えない。
そういう理不尽なシステム変更にまで、異世界転生主人公が踏み込むのか……それともジェス一人の小さな幸福にたどり着いて満足するかは、お話の大きなゴールに関わるネタだろう。
ブレースの証言で”現実”の部分には目鼻がついたが、”真実”にはまだまだブラックボックスが多いので、そこが明かされてからじゃないと改変のコストが視えないからな……。
豚さんがオタクスラングとしての”豚”であり、女性の性的魅力に関してデリカシーのないことを言い、それがギリギリコミュニケーションとして成立する(してもらう)甘っちょろい夢を書いてきたからこそ、今回突きつけられた暴力的性は重たかった。
ブレースにとって豊かな乳房は暴力を誘引する邪魔者であり、人に道を謝らせる魔の誘いであり、けして誇ることが出来ない呪いだ。
セクシーさを健全なエンタメとして消費できる(と、自分たちを定義して肌色溢れせている)オタク文化に、インドにおけるガオコルみたいな質感のガチ暴力がぶつかるのはなかなかハードだが、『ネタ』として豚の豚っぷりが消費できるオタクカルチャーの軽薄さは、ブレースから見れば遠く赤い理想郷でもある。
けしてそれが現実のブレース、ブレースの現実を救いはしないが、しかしどこかにそんなふうに、美しさを呪わず、性的な己を侵されずに生きていける場所があるのだと思うことで、生まれるぼやけた救い。
それが豚の豚性に付与されていくのは、思いもよらぬ話運びで面白かった。
(ここら辺ガッチリ踏み込んでいくと、豚さんが軽妙で軽薄なコミュニケーションとしてぶん回していたものの危うい無邪気さが露出してくるので、扱い難しいネタだなとも思うけど、話の真ん中に『性とは暴力的になるうる。だからこそ適切な距離感で、手綱を握るべきだ』ってちゃんと入れてきたのは、真面目な態度だとも感じた)
絶望を隣人とすることに慣れきっている、ブレースの訥々とした”証言”は激情が乗っかってないからこそ、しみじみ『この異世界、マジ良くねぇな……』と思わされた。
イェスマを狩る金銭的なインセンティブが絶大で、死罪が機能しない抜け穴がぼっかり開いている以上、屍肉商売はなくなりゃしないだろう。
『イェスマは当たり前と受け入れてではなく、今生を呪い来世を祈りながら死んでいく』という証言が今回取れた以上、豚くんの異世界転生パワーでクソ以下のシステム全部ひっくり返し、問答無用のハッピーエンドを呼び込んでほしいもんだが……豚、豚なんだよなぁ……。
豚の短い手で世界の真実に、その変革に手が届くもんか。
そこら辺ひっくるめて、王都への旅路はさらに血生臭く、暗いものにまっていきそうです。
でもまー、断片的な描写から推測した『こういう話かな?』とはガッチリ噛み合っているので、俺的にはかなりいい感じの終盤突入です。
次回も楽しみですね。