イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

ひろがるスカイ!プリキュア:第45話『アンダーグ帝国の優しい少女』感想

 謎めいた年代記が紐解く、プリキュア最初の戦い。
 暴虐を打ち払うべく振るった力が、新たな涙を生む矛盾を描くひろプリ第45話である。

 クライマックスを走り切るべく、アンダーグ帝国がどういう存在なのか、ゴリッゴリに掘り下げていく二部作の後編。
 ツラの良い二次元美少女が地の底から湧き上がるような憎悪の叫びを叩きつけるという、”舞Hime”で目覚めて以来の好みにビシバシクリティカルヒットする、大迫力のプリキュア創世神話となった。
 誰かを守るために力を選べば、それは必ず誰かを傷つける。
 敵にだけあるはずの生々しい業も怒りも、味方なはずの人たちに宿っている。
 レギュラー陣に背負わせていては異様に生臭くなるだろう、しかしそこに踏み込むと一気に奥行きが出るネタを、300年越しの真実開陳というタイミングに合わせていい感じに発火させていて、なかなか良いコクが出ていた。
 敵と向き合うほどに暴かれていく正義の矛盾と悪の悲しみは、あんま敵さんとガップリ四ツ相撲取ってこなかったひろプリに足りなかった栄養素であり、プリキュア変身不能は状況でカイザーとノーブルがガチガチに殴り合う迫力を絵の具に、大変いい感じに注入されていた。
 己の正義を求め未来へ進み続けるソラ・ハレワタールが、どういうヒーローになりたいか問いただすという意味でも、必要かつ面白い展開になったと思う。

 

 つーわけで爆誕なったキュアノーブルは、破壊からの再生という肌触りの良い正義をまず体現し、瓦礫の中にはロクでもねぇクズがクダ巻いてもいる。
 あのオモシロすぎるヤカラ鳥、現在のスカイランドにいたら夢のファンタジー王国に良くない濁り出してるタイプのキャラなんだが、何しろ300年前の遠い国、身近な影として良い距離感の描かれ方だった。
 対話の意思を踏みにじって不意打ちぶっこいてきたカイザーに、むき出しの憎悪を叩きつけるノーブルの描写もそうなんだが、今回は今までピカピカ綺麗に描かれてきた味方サイドにも敵と同じ影があり、強さで人を傷つけ踏みにじる危うさは、糾弾すべき他人事じゃないという書き方になっていた。
 ここら辺の複雑さは便利な暴力発生装置ではなく、意志を持った人間として”敵”を描いて初めて削り出せるものだと思うので、タイムスリップ要素で巧いこと距離取りつつ、ギリギリのタイミングで陰影付けたなと思う。

 そして畑から悪党が取れる超ろくでなし国家に見えたアンダーグ帝国にも、幼きカイゼリンのように平和を求め、他人の事情を斟酌できる優しい人もいる。
 カイザーが娘を思えばこそ過剰な暴力で武装し、防衛のために先制攻撃で対話の機会叩き潰している描写もあって、当たり前ながらアンダーグ帝国も業深き人間の居場所なんだな、と解った。
 カバトンとの最終決戦とか、門田を巡る交流とか、時折いい具合に魂が触れ合う場面はあったものの、ここまでのアンダーグ帝国は基本的に戦闘ノルマ発生装置であって、悪と生まれついたから悪と生き続ける、ノッペリした顔の”敵”でしかなかったと思う。
 その代表格であるスキアヘッドが、かなりいい具合の姫-従者の関係性と感情を背負ってるとあぶり出されていたり、今まで自分たちが向き合ってきたのがどんな存在か、ここ数話は話をたたむにあたって大急ぎながら、描きに行ってる感じがある。

 コレが通るかは個別の描写の破壊力、それが生み出す説得力にかかっているわけだが、カイザリンのヒロイン力がめっちゃ高くて、悪の中の善、善の中の悪を暴き立て対話の足場を作る仕事を、しっかり果たしてくれた。
 カイザーの目にも涙、娘が体張って変えてくれた生き様でメデタシメデタシに見えるわけだが、現在に時間を戻せばスカイランド憎しの暴力信奉者、捨て去ったはずのカイザー・マチズモの継承者となって、涙しか生まない力の執行者/犠牲者になっている。
 ここら辺の謎解きを次回以降に引き継ぎつつ、来週は笑顔でクリスマスなのがまープリキュアの凄いところだが、カイザリンが見つけた正しさを裏切るような何かが、アンダーグ帝国と親子に襲いかかったのだろう。
  それはノーブルを支配した憎しみ、それを生み出すままならない愚かさと業が、光と闇が交わる魔法の時間を経てなお、消えはしないから起こった悲劇だ。
 結局禍根を残し、お星さまになってエルちゃんに運命託すことしか出来なかったノーブルの最強必殺技が『魔法の時間の終わり』なの、ひろプリがときおり見せる蛮性が全開になってて、めっちゃ好きだ。
 今回平和に決着したように思える闇と光が交わる美しい薄明……Magic hourが、終わっちゃったからこそ今カイザリンが襲撃しとるわけで、未だ描かれない続きにおいてノーブルが”間違える”と自分の技名で予言してるの、エグい構図ね。

 

 さてプリキュア年代記の前半を見せて、カイザリン襲撃時間軸まで止まった時は進むわけだが、憎悪にかられて全てを燃やそうとした少女の指先を、歴史を識った虹ヶ丘ましろ渾身の叫びが止めるのは大変良かった。
 一年かけて虹ヶ丘ましろは、あそこで誰よりも早く、当事者として学び取った真実を叫べるようになったのだと、ヒーローの成長を実感できる場面だったと思う。
 敵の事情を知らなかった一回目は圧倒されたけど、悪の悲しみと正義の危うさを学んでからパナす最強技にはより強い祈りが乗って、力で蹂躙されるのを防ぐ≒蹂躙する悪しき自分にカイゼリンがなるのを止めれる強さを、証明する形になったのも良い。
 童話作家という夢に足を付けて、地道に着実に自分だけの夢に進みつづけたましろさんに対し、ソラちゃんのヒーロー修行はやや実がない感じもあったが、今回対話を求めて泣きながら叫び、涙を生むだけじゃない強さを探し求める姿が書かれて、いい塩梅に中身詰まってきた。
 まーヒーローガールを夢にするなら、その鏡は何より”敵”であるはずで、クライマックスに必要な真実と情念を一気に詰め込む展開になったら、ソラちゃんがグイグイ前に出るのは必然ではあるな。

 対話と理解を求め、暴力以外の解決手段に手を伸ばしたのはソラちゃんもカイゼリンも同じなのに、何故に戦う羽目になっているのか。
 ここらへんを探るのが終盤戦最後のクエストとなりそうだが、その足場はニ回続いた過去旅行で、うまく整えられたと思う。
 そういう準備だけでなく、自分と同じプリキュアが憎悪の刃で何を切り裂いたのか、それを何が癒やしたのか見届けて、握りしめた拳をどう振るうのか、問いかけながら答えを掴んでいく手応えも、しっかりあった。
 まーその旅路に、ウィングとバタフライが同行できなかったのは、ちっと痛いけどね……。
 新キャラ山盛りの過去編、大人数で押しかけると場がやかましくなって軸がブレるとは思うし、ソラましに絞ったからこそノーブルとアンダーグ親子にしっかりフォーカス出来たんだろうけども、二人だけの物語でもねぇからなぁ……。
 ここら辺、どういう当事者性を過去を体験しなかった二人に手渡すか、語る・伝える強さってのが問われる所だとは思う。
 まー時間もねぇし、そこはスルッと飲み込むポイントなんだろうけど。

 

 というわけで、主役たちが過ごす時間軸とは離れているからこそ描ける、矛盾と悲しみに満ちた人間の業の回でした。
 全体的に新キャラの存在感が強くあり、それに支えられて描くべきもの、語るべきものをしっかり書けた、いいエピソードだったと思います。
 プリキュアとその”敵”がたどり着けた美しい薄明は、お互い危うさと救いを秘めた”人間”なのだと分かり合えた到達点に見えたけども、そうならばアンダーグ帝国は力だけを信奉する地獄になってねぇし、その被害をスカイランドとソラシド市が被ってもいねぇ。

 あの笑顔の奥にどんな悲劇が荒れ狂い、少女は復讐の鬼へと己を変えたのか……めっちゃ気になるけども、俺たちァプリキュア、季節イベントノルマには勝てねぇんだッ!
 いやー、マジでこの温度感で年末イベント平和にぶっこまれたの、衝撃的な物語体験過ぎたな……すげーわプリキュア
 クライマックスへの温度がいい感じに上がっている中、差し込まれる平和な日常をどんな風に書き、どう結末に活かすのか。
 次回も楽しみです!