完結記念に”ダンジョン飯”を、頭から読み返す。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2023年12月18日
魔物にしか興味を持てない青年の珍道中として始まった物語が、過酷で愉快な冒険を経て新たな王と国の誕生で終わる。
見ていた当時は気楽で楽しいドタバタに思えたものが、終わりから見返してみると大伽藍を支える柱となっている、見事な構成。
グルメ漫画、王道ファンタジーという魅力的な要素を取っ払って考えると、ライオスが王という、人間に一番興味を持たなければ成り立たない職業につくだけの人格を育み、力を付け、そうなりたいと願う願望=欲を己のものとするまでの、成長物語という芯が太い。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2023年12月18日
迷宮には欲と業だけではなく望みや祈りが注ぎ込まれ、人間が生きたり死んだり生き返ったりする場所としてグツグツ沸騰しているわけだが、ライオスはそういう人生の現場としてのダンジョンを見れないところから、自身の物語をスタートさせる。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2023年12月18日
妹が死に、その蘇生を目指して人生の真ん中に突き進む。
その途中で魔物に勝てないが人間の殺し方が巧すぎ、迷宮災害で故郷を奪われその悲劇を繰り返したくないカブルーという、自身の鏡とも出会う。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2023年12月18日
カブルーは魔物に興味がなく、人間がどう生きるべきなのか、何が正しく世界はどうあるべきか…ライオスが興味ないところに強い願いを持っている。
正しさからすればカブルーが主役になるべきだろうが、殺して食べていき続ける人間のカルマを置い続ける物語の主人公は、そういう大げさな社会の外殻に興味を持てない、飯と魔物と身内で動くトンチキ人間である。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2023年12月18日
そういう人間が、どうすれば数多の人の入れ物となる”国”を己の欲望とすることが出来るか
このゴールに向かって、押し付けではない冒険と試練、それによって叩き出される人格の変化を描くために、14巻の物語があった…とも読める。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2023年12月18日
無論そういう大それた心を見ずとも、迷宮グルメ冒険譚として大変に面白く、当代一流のエンターテインメントであることが、何より偉いのだけども。
魔物の生態と味に興味がありすぎるライオスは、人間の機微が全く読めない、社会に馴染めないハグレモノである。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2023年12月18日
衝突を繰り返し時に殴り合いをして、仲間の過去を知り人の欲に触れ合う中で、彼は人間がやるべきことを、自分がやりたいこととして咀嚼していく。
欲望を加速させ迷走させる翼獅子が中盤以降物語の核になったのも、人とはいかなるものか、ライオスと僕らによりダイレクトに届けさせ、食事という卑近でありながら崇高で、身体的でありながら精神的でもある行為と重ねながら、”欲”というテーマ、それと隣り合う人間を描く重要な足場になった。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2023年12月18日
翼獅子がたどり着いた”彼の世界”は正しく天国であり、何も欠けたるものなく全てが充足されて、そこでは人は人ではなくなってしまう。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2023年12月18日
無限を有限に汲み出した時点で、無限のはずの願いを叶える力は摩耗し劣化していく願望に追いつけなくなり、迷宮の主は翼獅子が差し出す可能性に押しつぶされていく。
どこまで行っても人の世でしかないこの世界において、無限は無限のままではいられないし、無限の世界に引き上げられれば人は人ではいられない。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2023年12月18日
それでも人は際限なく何かを求め、満たされたと思えば儚く消えていく。
無限は有限の背中を噛み、欲と充足は計り知れない輪舞曲を踊る。
そんな世界で欲に飲まれず、オークやコボルトへの人種差別を取り払った平等な王土を生み出したライオスは、冒険を経て人が人であること、自分もその一つであることを知り、満たされぬまま満たされる地上の夢を、己の居場所と定めた。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2023年12月18日
自分の願いを助けてくれた誰かに、報いなきゃ飯もマズい。
そういう自分に、殺して食って殺され蘇る大冒険の中気づいたのだ。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2023年12月18日
自分のやりたいことと、王として求められること、人として為すべきことが重なった悪食王の治世は、迷宮に呪われた数多の王がそうだったような破滅の道ではなく、豊かで愉快な人生として終わっていく。
思えば一度目の蘇生が失敗に終わった後、ライオスが”僧侶魔法を使える戦士”になっていくのは、この見事なファンタジーの源流たるWizardry的味方をすれば、君主(Lord)への転職……その兆しだったのだろう。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2023年12月18日
他人に触れ、癒やすことを知る中で、王の資質は育まれ、獣の外套をまとって完成する。
ライオスにとっての王国は島長のように我欲を満たす餌場でも、デルガルのように妄執の檻でもなく、旅の中で見つけられた欲を腹八分目、適切に叶えて自分の望みと誰かの夢が、混ざりあって腹を満たす希望の食卓なのだろう。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2023年12月18日
終わらぬ無限に呪われるのでも、儚い有限を嘆くでもなく、その真ん中に立ち…
国民と王、他人と自分の良いバランスを保ちながら、一番の願いがもうかなわない欠乏にも苦笑い一つ、剣と鎧を置いて王であり続けられる場所。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2023年12月18日
そこで彼が食するものは、翼獅子が魅入られた甘く苦い業だけではなく、人が生きて死んでいく……もう迷宮のように蘇生することはない、人生の味だ。
魔物にしか目が行かなかった彼の周囲に、ずっと広がっていた世界に目を向け、そこに堂々立つこと、王の特権を利用して大事な仲間を守るエゴをかざす時、小さな島は1000年前の形を取り戻し、広く再生していく。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2023年12月18日
それはライオスの心が”ダンジョン飯”を通じ、どんなサイズに広がったかを、見事に示す
そういう血みどろの生存競争あり、心の奥底をえぐり出す問いかけあり、共に笑い会える食卓ありの旅の果て、一青年がどういう存在になったのか、しっかりと示してくれたことが、何より素晴らしい漫画であったなと、再読して思った。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2023年12月18日
完結おめでとうございます。
本当に、面白かった。
24/02/21追記 さらば、我が愛しき暗黒の洞よ
ダンジョン飯原作。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2024年2月21日
全ての決着が付き、大急ぎでダンジョンを駆け抜けて地上に”排出”されるとき、水とともに溢れるのはやっぱり出産のメタファーであり、迷宮は混沌として豊かなる母胎であった…つう話なんだろう。
欲と業を飲み込んで果てのない闇は死んだが、それが育んだものは地上に豊かに実るのだ
死→生の輪廻はクライマックスに至るまでの物語でも鮮烈であるが、ダンジョンが死んで国が生まれ、永遠の停滞に止められていた黄金郷の人々が人の生を取り戻し、ファリンの蘇生が為る終章において、より色濃い。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2024年2月21日
死地と思われていたマルシルの処遇を、王となったライオスが切り抜けるのも”死中に活”か
もとは愛ゆえに永遠と繁栄を求め、死生の境目を危うくした”狂気の魔術師”の根城。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2024年2月21日
世間一般の死生から遠い場所に立ち、しかし人を愛した悪魔を閉じ込めた牢獄。
そのまま世に出ればヤバい”死”を、より善き生の一助と反転するまでの旅こそが、死を乗り越え生へ繋ぐ”蘇生”であり”出産”だったのだろうね。