イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

『最果てのパラディン 鉄錆の山の王』感想

 視聴はしていたものの感想を書くタイミングを見失っていた、”最果てのパラディン”二期が無事最終回を迎えたので、全体通しての感想を書く。
 大変良かった。
 第一期がアンデッド化した英雄たちに鍛え上げられ、チート級の実力を手に入れた転生者が初手で邪神を討ち果たし、街一つの主となる変則的成り上がり物語だったのに対し、今回はしっかりパーティーを組んで腐れ果てた森だの、ドワーフの古代遺跡だの、邪龍のねぐらだの、ダンジョンを正面から踏破する超正統派RPGになっていた。
 チート武力だけでなく、政治と礼法で成り上がっていく変化球っぷりが気に入ったので正直最初はやや面食らったのだが、素直な成長はやり切ってしまった感のあるウィルから、へなちょこ従者から始めて新たなドワーフ王に相応しい存在に成り上がったルゥへと成長担当を切り替えて、冒険を通じて何かを見つけていく手応えがしっかり残っていたのが良かった。
 古めかしくも勇ましく麗しい”言葉”に凄くこだわった作品でもあり、ドワーフ王の演説、神に捧げる誓いの言葉、竜の甘言とそれを打ち払う聖騎士の気合……どれも欲しい感じの厳しさ、古めかしさをギッチリ詰め込んでいて、楽しく浸ることが出来た。
 神代の邪竜ヴァラキアカが大変いいラスボスで、瘴気だけで土地を腐らせ日常を奪う存在感のデカさ、すっかりツンデレヒロインと化したスタグネイト様の死の予言、居城にたどり着くまでの冒険の数々と、実際にブチ当たるまで乗り越えるべき障害が多く、RPGのスタンダードをしっかり踏まえて雰囲気もあり、大変良かった。
 人間社会から遠く離れ、古式ゆかしい英雄から直伝された礼法で領主にまで成り上がっていく、フロンティア再生の最前線を切り開いていく政治劇としての味わいは薄れたが、だからこそ一戦士、一聖騎士としてウィルが過酷な冒険に挑み、死を覚悟して仲間たちと突き進む、冒険のど真ん中を真っ直ぐやっている感じは、やはり良かった。
 武功を誓って旅立った祖父の元へと錦を飾り、秘蔵のレジェンダリーアイテムで戦力を整えて決戦に挑むところなど、ハック&スラッシュの美味しい所がアニメで味わえて、TRPGゲーマーとしては大変ワクワクするところだった。

 他にも狂気に犯されたフォレストジャイアントを救ったり、漂泊の日々に志折れかけたドワーフたちの奮起を後押ししたり、腐れ森に生き延びていたエルフと邂逅したり、異種族との交流が多かったのも印象的だ。
 その最たる存在が竜と神であり、傲慢も納得の実力を見せつけたヴァラキアカと、囁き導き助力する、かつてのラスボススタグネイト様の存在感は大変良かった。
 ヴァラキアカ戦はまず甘言で覚悟と知恵を試し、圧倒的力でウィル単騎の状況に追い込み、彼の根源であるグレイスフィールへの信仰に立ち返った上で、PTメンバー大復活……を超えて、古くドワーフ戦士の英霊が加勢する一大決戦へとスケールが拡大していくのが、メリハリ効いたバトルで良かった。
 英霊手づから育て上げられるチート環境に身を置き、武力と礼法で無双ぶっカマして成り上がった一期では見れなかった、対等以上の強敵に心魂を振り絞って苦戦し、仲間と信ずる神の手助けで勝機を掴み、宝刀と魔剣の全てを叩きつけて勝利する流れは、今まで描かれていなかった等身大の戦士、ウィリアム・マリーブラッド血まみれの勇姿を見届けられた感じで、強い手応えがあった。
 苦境に膝を折りかけている同志への演説、もっともらしい誘惑で心を曲げてくる悪魔達の囁きと、要所要所で言葉がもつ力がしっかり描かれ、それが誓いを立てて戦い抜く”パラディン”を主役とする物語に、最後の見せ場を準備するのもまた良かった。

 物理的にバリア張ってもらわないと超死ぬ極悪ドラゴンを相手取ったことで、神が実在しマジ加護をくれるファンタジー世界における、人間と神の向き合い方、信仰の内実がしっかり掘り下げられていたのも、独自の手応えだったと思う。
 ウィルは困った時の神だより、現世利益をちゃっかりいただく生臭ではなく、信仰という柱で己の生き様を真っ直ぐ打ち立てている聖人なわけだが、そういう生き様に神がどう報いるのか、ギリギリまで追い込まれる激竜バトルを真ん中に据えたからこそ、いい感じに描けた。
 従者であるルゥがウィルの後を追ってグレイスフィールに帰依するのではなく、祖霊が信奉していた神こそ己の道標と悟って、もうひとりのパラディンとして力を得るのも好きだ。
 神が人と隣り合い、子すら成せる世界でなんのために人は祈るのか、それがどういう力をもたらすのか。
 聖騎士主役にするのなら掘り下げなきゃいけないところを、神の助力無しでは超えられない難行に一人の戦士として挑む展開だからこそ、深く踏み込めた感じがした。
 転生者を主役としつつ、現代的価値観を異世界に引っ張ってきてそれが正しいのだと暴力的に塗り替えていく感じではなく、その場所独自のルールと生き方を尊重し膝を折って受け入れ、あるいは最も正しく体現していく進め方は、自分としては見てて飲み込みやすくもある。
 それが魔獣が跋扈し不幸も多い蛮地に屈して、弱肉強食のルールに飲み込まれる形にならないのは、普遍的な価値を信じ正しいことを為す”聖騎士”が、主役だからでもあろう。

 

 僕はこのお話をフロンティアを巡る物語だと思っていて、その前線基地となるトーチポートに長く伸びる影を打ち払うべく、ウィル達は強大なる邪竜に挑む。
 だからドワーフやエルフといった新種族との前向きな関係を作り上げ、腐り果てていた領地に新たな芽吹きが宿るエピローグは、旅立ったからこそ故郷をより良い場所に変えていける、善きフロンティアの物語だと感じられた。
 ルゥを新たな王としてドワーフたちは故郷を栄えさせ、生まれた富はウィルの領地をより善き場所にしていくだろう。
 一戦士として戦いきった冒険は、経済と政治を司る領主としてのウィルにも、大きな恵みをもたらす。
 そういう結末を描いたことで、一期と少しテイストが異なるように見えた二期が、その実一期で描いたものをより広く、強く拡大していくための物語だったのだと思えた。
 そういう広がり方、繋がり方は一期で積み上げた土台の上に、そこでやっていない物語を新たに描こうとする野心が結実した結果であろう。
 そんな風に、新たでありながら懐かしくもある物語を見事に語り切れたのは、とても素晴らしいことだと思います。
 面白かったです、ありがとう。