イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

呪術廻戦「渋谷事変」:第46話『変身-弐-』感想

 最大の宿敵が終わり果てても、渋谷事変は終わらない。
 沢山の人が死んだ激戦を通じて五条悟を封印し、真人の術式を奪い去った超勝ち組の極悪人を、ブッちめれるかの瀬戸際に呪術師達が挑む、呪術アニメ第46話である。

 虎杖くんを主役とした物語としては、やはり前回の大激戦がクライマックスであり、偽夏油を詰ませられるかはある種のおまけというか、大人気に後押しされて連載が続く以上ンなわけねーだろというメタ読みもあり。
 日本全部巻き込んでの大敗北に向けて突っ走る展開を、アゲてくれるのは主役の兄を自称する異常人形呪物であり、殺し合いの果てに兄弟愛に目覚めた脹相お兄ちゃん頑張れ! なエピソードである。
 偽夏油の底知れない悪意と嘲弄も印象的だが、ケリが付きそうなこのタイミングでなお底を見せず、この先に続く物語を悪党として引っ張るためには必要な闇であり、真人が脆弱な赤子として新生し、即座に食われた今となっては、”呪い”の何たるかを宿儺と合わせて体現している感じもある。
 あのスナッチャー野郎が何考えて糸引いてたかは、次回アニメ二期最終回である程度形が見えるとして、渋谷は廃墟と化し日本の経済価値は大暴落、神秘の隠蔽と日常の守護を以て責務と為す呪術師の在り方は、この段階で既に大きく崩壊している。
 死んだり呪術師生命が終わったりした連中も多いし、ドブゲロ色の呪詛もたっぷり混じりつつ眩しかった、学園漫画”呪術廻戦”の集結が、激しい戦いの裏に妙に寂しかった。
 決定的に何かが終わって、それでも続いて行ってしまう異形の日々をアニメで見れるのか……まぁぶっちゃけ、三期は既定路線だと胡座かいとるけどね。

 

 

 

 

画像は”呪術廻戦・渋谷事変”第46話より引用

 エピソードの舞台となる偽夏油の眼前に至るまで、真人と虎杖くんの因縁と感情に濃くフォーカスしていたカメラをちょっと解いて、関わった人々それぞれの終局を見せる流れが好きだ。
 あるものは瓦礫の中で当事者として、身近に見届けた脅威に当然の判断を下し。
 あるものは死地から安全に逃げ帰り、荒れる資産の海を泳ぎ切る算段を付け。
 あるものは暗い母胎のような混迷から抜け出して、新たな一歩を進み出す。
 あるものは激闘の傷も癒えぬまま、また血みどろに戦い続ける。
 渋谷を地獄に変えたこの戦いで、色んな人間の運命がねじ曲がり、終わり、まだ続いていく。
 ドロドロ濃くて熱いものを混ぜ合わせて、破滅的な何かを生み出す坩堝……あるいは蠱毒としての渋谷事変をスケッチするのに、この横幅広い描写は良かった。
 まーロクでもないことばっかり起きたね、本当。

 アニメで凄みと迫力が増したせいか、日下部の死刑支持はまー当然だよなと思うし、ナナミンが夢見てたどり着けなかった南国にいけしゃーしゃーと逃げ延びてくる冥冥には、相当ピキピキも来る。
 しかし呪術を秘匿することで成立していた日本の根幹が崩れ、沈みゆく泥舟となりつつある状況では冥冥の逃散は全く正しい判断であり、そもそも徹底した現世利益主義で生きてきた彼女にとって、正義や意地と心中する義理もない。
 冥冥の賢い決断があるからこそ、理屈抜きで血を沸き立たせられ誰かに使われる”呪具”でしかなかった生き方を変えた脹相や、血みどろになってなおしがみつく虎杖くんの熱量も際立ってくる。
 大人の賢い計算をどうしても受け入れられない若者たちの、狂った闘犬のように赤い血。
 ぶっ潰れた渋谷全域が今一度俯瞰で映される中、そんなモンが何かをひっくり返すわけじゃないけども、それでも出会ってしまったなにかに、背負ってしまったなにかに、急き立てられて止まれない者たちのかんばせは、血みどろながら爽やかだ。

 

 

 

 

画像は”呪術廻戦・渋谷事変”第46話より引用

 偽夏油はナナミンや野薔薇や東堂の犠牲の果て、弱々しい赤子のナリにまで削り落とされた真人を横合いから掻っ攫う形で、術式を飲み込む。
 他人の吐き出した呪詛が凝り固まった、悪意のゲロ雑巾を飲み込むのがイヤすぎて善人廃業しちゃった夏油の形をした輩が、真人という呪いの塊を丸ごと飲み込むのは、いい塩梅のグロテスクが宿ったシーンだ。
 あまたの人が死に絶えたこの激闘を、無傷で乗り切って美味しい所だけかっ食らったこのクズカスは、誰かが人生かけるほどに大事にしているものを嘲笑うのも、踏みつけにするのも気にしない。
 真人が積極的に、楽しみながら嘲笑していたものを、特に感慨もなく、かといって情を寄せるでもなく、当たり前に無価値と投げ捨てながら静かに進む姿は、呪いを超えた真の呪いという感じがする。

 どんだけ人間離れしていても偽夏油は呪詛師で、つまりは人間だ。
 人間の悪意をより集め、真の人間、真の呪いこそ我なりと己の真実にたどり着いた……はずの真人は、虎杖くんと東堂が体現したコンビネーション・バトルの前に敗れ去り、戦う力も嘲笑う資格も剥ぎ取られた、哀れな弱者へと成り果てた。
 そんな彼を貪る偽夏油は、救済を差し出して不意を打ち、特級呪霊との同盟関係がそもそも偽りでしかなかったのだと、人間のズルさをむき出しにする。
 そういう場所から生まれた真人は、悪意に溺れるのではなく悪意を当然と乗りこなす謀略家に踊らされ、戦いの中で成長し削り取られ、野望の餌になった。
 人間を嘲笑い踏みにじる特別な立場にいるのだと、驕り高ぶり他人の人生捻じ曲げてきたクズの末路としては、帳尻があってる惨めさで俺は結構好きだ。
 そこに全然スカッとしない、助けを求める赤ん坊を素足で踏み殺すような決まりの悪さがしっかり、あってしまうところもね。

 

 呪胎九相図長兄として、兄弟愛を存在の根本に置いている脹相は、戦いの中唐突に理解してしまった己の弟のため、自分たちの全てを嘲笑うクズを倒すため、戦いの真ん中に飛び込む。
 肉体を乗り越え術式を憎み、誰かが何より大事にしていたものを嘲笑い続けて数千年を生きた、在り方そのものが人類全てへの呪いのような存在が、この事件の……ここに至る数多不幸の元凶だと吠える。
 東堂葵といい、思い込みの激しいイカレ人間に良く好かれる虎杖くんには災難だが、自称・お兄ちゃんの思いは本気も本気であり、何もかもを嘲笑う呪いへの怒りもまた、嘘はない。
 お兄ちゃんがここに至った理由が、兄弟殺した仇と本気でぶつかって、否応なく世界の真実が理解ってしまうほどバトルに燃えた結果だってのが、スカッとしない惨劇ばかりが積み上がった渋谷事変の貴重な例外として、俺は結構好きだ。

 意志を持った呪具として造物主に反抗する脹相は、闘う被造物としての悲哀と熱量をイカれきった言動の中に確かに宿していて、濃すぎるブラコン力と合わせて好感度が高い。
 そうあるように定められた生き方を結局変えられないまま、自分以上の悪意に食われた真人の末路を見た後で、便利な道具として定められた彼が湧き上がる愛のために全力で戦ってるのを見るのは、興味深い構図でもあるな。
 最悪に向かってひた走るレールを運命によって引かれてる世界で、ちったぁマシな終着駅にたどり着きたいのなら、自分を縛る軌条自体に抗わなきゃ、なんにも始まらない。
 これは身に刻まれた宿儺という呪いに、全く抗えないまま沢山人を殺した虎杖くんが、今後立ち向かわなきゃいけない道でもあろう。
 イカれてるなりに、自称・兄弟が立ち向かうべき道は重なっているのだ。

 

 

 

 

画像は”呪術廻戦・渋谷事変”第46話より引用

 遠距離戦からステゴロまで、全距離対応の赤血操術をフル活用して、お兄ちゃんは大立ち回りを演じる。
 京都組だの裏梅だの、New Challengerの乱入が相次ぎなかなか大騒ぎであるが、怒りに燃えるお兄ちゃんのステゴロを見事にいなして見せることで、謀略ばかりが目につく偽夏油が格闘能力においても一流だと理解るのは良い。
 いつかぶっ飛ばす極悪なクズは、強いほど乗り越え甲斐があるからな……。
 っていう、シンプルなバトル漫画構文で全然話が動かず、すげータイミングであっさり重要キャラが消えたりするのがこのお話でもあんだけど。
 ここら辺の文法きっちり抑えたバチボコ加減と、唐突に顔を出して暴れるヘンテコなセンスと、情け容赦ない王道外しが奇跡的なバランスで併存しているのが、”呪術廻戦”の魅力の一つなんだろうなぁ。

 規格外の実力を持つ裏梅の氷術に抑え込まれる形で、呪術師達最後の抵抗は潰えるに見えたが、ここでまさかの九十九乱入。
 『オメーが余計なこと言ったから、夏油がああなって世界がこうなっちゃったじゃん!』と言いたい人NO1のクソアマが、どの面下げて最終決戦に降り立って、何抜かすのか。
 最後まで思惑と祈りと呪いが、グチャグチャと入り乱れる”渋谷事変”となりそうだ。
 思い返すと場所も人間も、様々に切り替わり吹き飛ばされながら突き進んだ物語も、次回遂に最終回。
 決定的に終わり果てて、手のつけようのないほどに変わり果てた残骸から、それでも何かが残って再び立ち上がるのだとしたら、それはどんな色で瞬くのか。
 次回も楽しみです。