イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

星屑テレパス:第11話『再戦シーサイド』感想

 弱虫泣き虫いじけ虫、みんなまとめてお空に飛んでけ!
 想定を遥かに超えた負け犬野郎だった雷門瞬を理解らせるために、先輩ん所いったり勝敗を越えた場所にたどり着いたり、四人の思春期が熱く燃え上がる星屑テレパス第11話である。

 

 

 

画像は”星屑テレパス”第11話より引用

 涙と激情の潮に現れて、一つ遠いところにいた貝殻が四つにまとまる。
 ラストカットがエピソードの全てを言い表している、小物の使い方が上手い話数といえる。
 元々こういう細かい所が異常に巧いアニメではあるのだが、今回は瞬の真意を見つめ受け止められるところまで海果の人格が育ったと、作品当初から主役が進んできた道が一つの頂点に達したと示す回なので、真っ向勝負の感動演出を補うように、繊細な表現が良く冴えていた。
 ここら辺の強さと巧さのハイレベルな共存が、見ていて肌に合うし気持ちいいアニメである。
 物語はこの結末に向かって、丁寧に歩むべき道を進んで行き着くべき場所へとたどり着く。

 

 

 

 

 

画像は”星屑テレパス”第11話より引用

 海果は自分の夢が微塵に砕けた瞬間を、気圧されつつ何度も見る。
 何も言えないまま震えている自分を、瞬は最後までやれると信じて記録に残させ、それがあるから海果は敗残の先に新たに、進み直すことが出来る。
 瞬が彼女らしさの象徴だったゴーグルをゴミ箱に投げ捨て、それを遥乃が拾い上げて今回手渡すように、自分を惨めな気持ちにさせる何かを投げ捨てた瞬自身が、当人が忘れ去った辛さと頑張りを、見届け拾い上げていた。
 それを確認できるのも、海果が誰かが隣りにいてくれる場所……灰色の宇宙ではない場所に進みだした結果であり、しかし海果は携帯電話に保存された敗北に打ちのめされて、そんな場所に戻ろうとした。
 それを引き戻して、惨めに自分が何をやり遂げてきたのか思い出させてくれる全ての人に、今の海果は口づけをする。

 部活として、瞬一人が全部握り込む歪な形だったから惨めに負けた同好会は、彗の元を訪れ教えを請う。
 教えれる立場の瞬が勝利に固執し、その足場がぶっ壊されてからは暗い目してガレージに閉じこもっているので、ライバルに教えを請うしか道がない……ってのもあるが、前回海果が迷って戻って抱き合って、遥乃もまた灰色の宇宙に一人きりだった自分を吐露して、新たに進み出すためにはロケット本気でやるしかねぇ! と、思い返した結果だろう。
 これまでの部活動ではマトモに機能していなかった、経験者が失敗から学んだ知恵を的確に伝えるコミュニケーションが、今回はしっかり活きて初心者は色々学ぶ。
 ココで学んでおかなければ、あんだけこだわっていた勝ち負けを愚弄することで傷つかない場所に戻り、インチキエンジンでわざと負けようとした瞬の嘘を、見抜くことも出来なかったかもしれない。
 強がりで弱虫な友達の真意を見抜くための手がかりも、彗大先輩と仲間たちが手渡してくれたわけで、海果はマージこの人に大恩背負ってるな……。

 

 ココで勝てば、勝ち負けに拘ってる瞬は自分たちのもとに戻ってくれると信じて、海果たちは本気でロケットを仕上げて勝ちに行く。
 意気込んだ瞳の強さがフッと緩み、今の瞬がかつて張り詰めさせていた攻撃的な強さすら失って、あんなに拘っているように見えた勝ち負けすらどうでもいいと、諦めることで最後の防衛線を必死で守っている弱さに、海果は気づく。
 それは灰色の宇宙で一人、誰かを待っていたかつての……あるいは今の自分と、鏡写しに似ているからだろう。
 インチキを指摘されても開き直りもせず、わざと負けて悪しざまに嫌われて、距離を取って諦めて、自分を守ろうとする。
 望まなければ痛むこともなく、世の中そんなもんだと諦めて、ガレージの奥に閉じこもって固く、弱い自分を一人で守る。
 過剰に内側にこもる意識と、外側に尖る態度と、真逆に見えて海果と瞬は良く似ている。
 この同好会に集った、全ての少女たちがそうだったのだと、海果はもう知っている。 

 瞬を取り戻すための負けられない戦いを前にして、それを本気じゃない遊びだと愚弄されて、ようやく海果たちは一人勝つことに本気だった、かつての瞬の気持ちと並んだのかも知れない。
 一人勝手に、ようやく手に入れた望みを守り輝かせるために『勝たなきゃ』と思いこんで、周りを振り回し傷つけて突っ走って、地面に叩き落された衝撃で張り詰めていた棘すら無くなった、大事な友だち。
 それが何考えて、何が大事であんな事していたのか……針の鎧の奥に手を伸ばすためには、海果たちも『勝ちたい』と思って、瞬が一人でやっていたことを自分たちで成し遂げてみなきゃいけなかった。
 そういう追いつき方を、キャラクターにちゃんとさせているのは好きだ。

 

 

 

 

画像は”星屑テレパス”第11話より引用

 遥乃がガレージの扉をこじ開けたのではまだ足りなくて、あんだけ執着していた勝敗がついても、『そんなの下らねぇ』と見下して本気にしない。
 本気になってない、傷ついてないポーズを震えながら保つことで、一番柔らかい場所に致命傷を追わない、強者を演じる弱者のサバイバル技術。
 その奥にあるものに踏み込む場所は、光と色彩に満ちてロケットが飛ばせる拓けた場所であり、瞬と海果たちの物語が動き出した、この砂浜が良いのだろう。
 砂浜は目の前の海果に気圧されて後ずさる、瞬の心を足跡として良く刻み、そんな海果が背筋を伸ばして瞬に対峙できる強さを、彗が教えた言葉も思い出させる。

 看脚下。
 惨めな墜落と思えるものが実は穏やかな着地であり、夢のロケットは何も壊れておらず、また飛び立つために歩き直せるのだと、そう出来るだけの足跡を自分は確かに積み上げてきたのだと、足元を見つめることで海果は前に進んだ。
 瞬が自分への信愛を込めて、最後まで撮れと指示していた惨めな終わりを、泣きながら見つめられる人間になった。
 彗から手渡されたものに背中を支えられて、海果は瞬の露悪の奥にあるものを観て取り、後ろに下がらない。
 むしろ気圧されるのは瞬きの方であり、足場を固めて前に進んでくる強敵を前に、後ろに下がって自分を守ろうとする。
 目の前にそびえ立つ確かな愛と光に、怯えるのならば最初からガレージから出てこなけりゃ良かったわけだが、瞬の心は惨めな敗北と関係性の破綻を求めると同じくらい、ずっと手を差し伸べられるのを待っていた。
 矛盾する心がそれでも、瞬を光の下に押し出した後、海果はここまでの物語を背負って、もう一つの灰色宇宙へと接近していく。

 

 海果に抱擁された時、勝敗を記録しているレコーダーが砂浜に落ちるのが、小物を生かした演出だと思う。
 これだけが大事なんだと、必死に握りしめていたものすらどうでもいいと、諦めることで最後の防衛線を守る。
 そういう弱虫の生存術を突破して、勝ち負けの先にあるもの、元々勝とうが負けようがずっと足元に輝いてたものを、海果は抱きしめることで瞬に教える。
 中学時代すれ違い、憧れつつも並べなかった二人の宇宙が、実は同じ灰色に染まった一人きりで、だからこそ同じものを求め惹かれ合ったのだと、海果は確信に満ちて手を伸ばす。
 この瞬間、一人きりの自分を天女に見つけてもらった、受動態の小ノ星海果を今の彼女が追い抜いて、あの時のユウのように泣いてる誰かを抱きしめられる存在へと、魂が力強く飛び上がったのだろう。
 自分がしてもらったことを、誰かにしてあげれる自分になる。
 コミュニケーションとその失敗を、幾度も打ち上げ積み上げていく物語は、結局そういうシンプルで普遍的な成長を追いかけ、描いてきたのだ。
 そしてこの包容は、まだ自己評価が徹底して低い海果は気づいていないが、物語が始まった時孤独で寄る辺ない宇宙人に対して、海果自身がしてあげた奇跡でもあるのだ。
 瞬を抱きしめてあげられる海果への成長は、第1話において彼女自身が思い切って飛び込み、それが奇跡であることにすら気づかぬまま手渡した自分へと、戻ってくる旅でもある。

 真逆に見えて同種だった、瞬の在り方を海果が理解ってしまうこの決着は、海果一人で得たものではない。
 彗と出会わなければ地に足をつけ直してここにたどり着くことは出来なかっただろうし、同好会に集った星たちが皆、灰色の宇宙で奇跡を求めていたのだと共感できるのは、包容力満点のきらら菩薩に見えていた遥乃が、自分の影を暴いたからだろう。
 ここで瞬が諦めようとしていた、本当の願いを抱きしめ引き寄せていけるのは、最悪な攻撃性で周りをぶん殴りつつ、人付き合い全く分かんねぇ不良少女がそれでも、出会えた誰かのために必死に頑張ったのを、皆知っているからだ。
 足元に積み上がった出会いと触れ合いとすれ違い、一つ一つに意味があったからここで海果は手を伸ばせるし、瞬はそれを掴める。
 それは瞬が投げ捨てようとしたものを、海果が拾い上げて手渡しなおす行為であり、冒頭描かれたスピーチ映像の構図を、逆さまに手渡してもいる。
 そうして本当に手に入れたかったものに満たされたから、瞬は自分を狂わせ周りを傷つけた勝ち負けへの過剰なこだわりを、レコーダーに託して砂浜に置き去りに出来るようになる。

 

 というわけで、自分から負けて勝敗の意味を消し飛ばすことで、勝ち負けに拘って何かを手に入れようとしていた過去の自分を嘲笑い、光を遠ざけて己を守ろうとする本物の負け犬を、愛で理解らせる回でした。
 『こ、この女こんなに脆弱(よわ)かったのか……』とビビるくらいの負け犬っぷりだったが、同じくクソ弱虫の負け犬だった海果が挫折から這い上がり、『アタシらきららぶってるけども、思いの外クラいよなッ!』と再確認して進み直したことで、バクステ止めてようやく素直になりました。
 登場以来人間関係毒ガス発生装置として、現実のシビアな部分とか防衛本能の結果としての攻撃性とか、ぽわぽわ女たちが体現できないものを背負ってきた雷門瞬が、ようやく何を欲していたか見つける話であり、それを見定め差し出せるだけの強さが、クソ雑魚主人公に宿る話でした。
 海果の青春迷い道がたどり着いた一つのピークとしても良かったし、そうなるまできらら母乳を限界人間に与え続け、強くなるまで抱きしめ続けたユウのありがたみも、ガッツリ強くなった。
 俺はマジ、明内ユウが小ノ星海果にしてあげたことは偉大だと思っているので、それをブースターに青春が高く飛んでいくと、晴れがましい気持ちになるのだ。

 最大の強敵、ヘナチョコ思春期ハリネズミを抱きしめ倒したわけですが、残り一話で何を描くのか。
 ここまで海果を導いてくれた明星ユウが、たった一人異郷で彷徨ってる、抱きしめられるのを待っている同種なのだと微かにでも描いてくれる場面があると、個人的にはテーマ回収のバランスが良くていい感じですが。
 さて最終回どうなるか、次回も楽しみですッ!