イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

呪術廻戦「渋谷事変」:第47話『渋谷事変 閉門』感想

 夏油の遺骸を乗っ取った何者かが、渋谷事変を通じて遂げたかった野望は成った。
 東京は呪霊渦巻く封地と化し、隠蔽を以て為すこれまでの呪術政策……それに基づく日本の形は変貌を余儀なくされる。
 世界を巻き込む大嵐を前に、未だ都合の悪い存在を圧殺して形を保とうとする呪術界の旧態依然は、虎杖悠仁と乙骨憂太……二人の青年術師をどこへ連れて行くのか。
 事変が終わってなお戦いは続くが、今は一旦の幕。
 呪術廻戦アニメ、第47話である。

 

 というわけで、偽夏油がぜーんぶ美味しいところをかっさらっていって、東京と日本がメチャクチャになって渋谷事変は閉門ッ!
 主人公サイドは封印されたり死刑宣告されたり、世界が大変なことになってるのに呪術界は腐ったまんまだったり、まーったく気持ちよくない二期終結となりました。
 ここでアニメ展開終了ではなく、場外までド派手に飛ばした勢いを借りて、無事”死滅回遊”もアニメになるので一安心……でもねぇよなぁ、このやられっぷりを見ると。
 虎杖くんの大事な人をいっぱい殺して、心底ムカつく真人はぶっ殺したけども、それも偽夏油が術式パクるためのアシストになっちゃって、結果シコシコ仕込みしておいた呪いが一気に開花して、全容定かならぬ超ろくでなし計画が前に進んじゃったし、渋谷を焼け野原に変えた宿儺は祓えてないし。
 幸せな日常を影から守る、ダークヒーロー育成期間であり青春の揺り籠でもあった高専での物語は、これで完全に終わってしまった感じもある。
 五条”先生”が封印されたことで、勢力均衡が崩れてノンビリ学生やってらんない世界になったとも言えるが、どっちにしても不可逆の変化がキャラクターと作品世界、両方にのしかかる最終話だ。

 夏油傑の末路が、あるいは死地と化した東京のスケッチに挿入される、あくまで平穏な日常を呪霊開陳後も過ごす人々の貌が示すように、このお話は呪いを認識し祓える存在に、過剰に依存した世界だ。
 無能力者がヘラヘラ日々を食いつぶす足元で、おんなじように平和に幸せになりたいと当たり前に願っている人間が、呪いと必死に戦って無惨に死ぬ。
 渋谷事変の無惨な決着は、そういうアンバランスを少し是正して、呪霊を生み出す非術師にツケを返したとも取れる。
 夏油傑が道を踏み外しなお夢見た狂った理想郷を、その遺骸を乗っ取った外道はまったく鑑みないわけだが、結果としてはある程度、彼が求めた未来が近づいた……ように見えて、やっぱ全然違うなと。
 長尺で渋谷事変が終わった後の世界を見せるBパートを飲み込みながら、そう思った。
 圧倒的なハイクオリティで描かれた”懐玉・玉折”と、アニメで再会してみると、大量虐殺を目論んだクズは泣けるほどに人間で、人間だからこそ外道になってしまって、堕ちながらも人間であり続ける手立てを、誰かに求めて間違えきった。
 そういう人たるものの哀れさが、偽夏油の壮大な計画からはなかなか感じられなくて、しかしその湿り気のなさが、あの男の物語なのかなとも思う。
 そこら辺の理解出来なさを理解する手助けを、遠くない内見れるだろう”死滅回遊”のアニメがどう描いてくれるのか、僕はとても楽しみにしている。

 

 

 

 

 

画像は”呪術廻戦・渋谷事変”第47話より引用

 というわけで、特級術師が横入りしてもも~どうにもならん! 黒幕一人勝ち東京壊滅の最悪決着である。
 かつて夏油傑が決定的に道を踏み外す時、それをせき止めるどころか後押しすらしてしまった九十九が、それでも人でなしなりになにか通じるものを感じていた青年は、形骸だけを残して遠くに行ってしまった。
 ここら辺の距離感を、偽夏油から九十九へゆーっくりカメラを回して、裏梅が生み出した氷塊に冷え切った関係を宿して見せる出だし、かなり好きだ。
 遠くてどうにもならんもんが、夏油にも夏油の形をした誰かにも広く開いていて、この場に立つ誰もそれを詰められないから、渋谷事変は呪術師側の敗北で終わっていく。

 拡大していく呪いと、それに飲み込まれる都市の残骸。
 僕は第37話が凄く好きなんだけど、人間が積み上げてきた生活や文化の精髄として、記号や意味に満ちた渋谷を切り取る視線、それが超常の戦いで崩壊していく様子を、この”渋谷事変”はとても鋭く切り取っていたと思う。
 人っ子一人いない東京の、喧騒の棺桶のような景色をじっくり映しながら、長く描いてきた物語が何を守れなかったのか、何が壊れていくのか、じっくり追いかけていく筆致は、”渋谷事変”の総まとめに相応しく美しい。
 人間どもが無邪気に平和に、くだらねー愚痴だの愛だの垂れ流しに出来る箱の足元には、こういうとても冷たいモノが眠っていて、それを守りたくてナナミンも野薔薇も死んだ。
 彼らの祈りを引き継いだはずの虎杖くんは、地道な努力で日本中に仕込んだ謀略を開花させる黒幕になすすべもないまま、地べたに貼り付けられて破局を見送る。
 渋谷に集った呪術師は、決定的に負けたのだ。
 美しく誰もいない東京景色は、壊れきった日常の骸なき棺である。
 それが美しいばかりではなく、怪物に食い殺される犠牲の血を容赦なく差し込むことで、敗北が具体的に何を連れてくるのか教えてくれるのは、最悪に親切でありがたい。

 

 

 

画像は”呪術廻戦・渋谷事変”第44話より引用

 東京が封地になっても、呪霊の存在が暴かれても、怪物が跋扈する百鬼夜行が平和を塗りつぶしても、生き残ってしまったからには物語は続く。
 生き残りの少女が人気のないコンビニで、金も払わず弁当を貪る場面は、偽夏油が日本中に広げた呪いが世界をどう変えたのか、よく分かるシーンで良かった。
 文明も倫理も常識も、何もかも崩壊した場所でも乙骨憂太は呪いを祓い、人を守る。
 そんな彼を死刑執行人として、呪術界は相分からずのゼーレごっこに興じ、都合の悪い存在を押しつぶすことで、自分たちの古ぼけた世界を守ろうとする。
 あんだけ血が流れて、こんだけ世界が変わってやることが、物語開始時の死刑宣告の再演ってのが、呪術界がどんだけ終わっているか……それを変えたかったけど間に合わなかった五条先生のやるせなさと合わせて、思い知らされる。

 誅殺されるべき異分子に異変全ての責を背負わせて、切り捨てれば何も変わらないままでいられると、伝統という名前の呪いを拡大していく呪術界が、これからも続く激戦の中どう成り果てるのか。
 今回の敗北とその先は、呪術界という、明らかに家父長制がブンブン唸ってる最悪な”旧家”が、極めて日本的な呪いの苗床として何もかも腐らせた結果なわけで、呪術師が祓うべき呪いを使うことでしか呪いに抗えず、家格と伝統と制度に二千年分溜め込んできた呪詛は解体できないものなのか、システムとの決着をどう書くか、見届けたいんだろうな僕は。
 色んな意味でマジ終わってる世界で、傷を増やしながら虎杖くんは払暁に立ち、魔に向き合う。
 物語は続く。
 しかし今は、一度の幕だ。

 

 

 ちうわけで、呪術廻戦アニメ二期も無事完結した。
 大変良かった。
 朴性厚から御所園翔太へ、監督が変わって描き方も代わり、ナレーションが解禁されたりアクションの組み立てが変化したり、しかしハイクオリティで陰惨で爽やかな、(僕が考える)『呪術のアニメらしさ』は、増しこそすれ薄れることはなかった。
 一期の大反響を受けて、万全の姿勢で臨んだ二期はまず、間違えきった外道と救いきれなかった神様がどんな青春を駆け抜けて滑り落ちたか、圧倒的な気合でその青さを描きぬく5話からスタートし、その残骸が進んだ先にある決戦と破局を、緩まぬ気概で駆け抜けていった。
 人外共のバトルが実在感に満ちた渋谷に暴れ狂う、問答無用の迫力と取っ組み合う日々はこちらにも相応の気合を求めたけど、2クールがっぷり組み合いながら見届けられて、とても良かったと思う。

 僕はこのお話の、暗くて湿って土っぽい所が好きだ。
 日本という社会がもつ、イヤーな部分を”呪い”に結晶化させて、それが生み出す最悪と対峙し、生きたり死んだりすることの地金を強制的に暴かれる中、ドロドロの腐泥から微かに咲く蓮のような輝きを、無惨に叩き潰されたり新たに掴んだり。
 呪い呪われ、スカッとしないイヤ~な手応えを異能力バトルにみっちり持ち込みつつ、それでもなお奇妙に爽やかな面白さを、アニメはド派手に暴れる作画にしっかり残して、ハイクオリティだからこそ作り上げられるものを、毎週毎回たっぷり届けてくれた。

 混迷を極める”渋谷事変”を終えて、夏油傑の遺骸に取り憑いた妄執が用意した、謀略の庭で物語は続く。
 それをアニメがどう描くのか、大変楽しみにしつつ、今は素晴らしい二期を作り上げてくれたことに感謝を。
 ありがとう、面白かったです!!